37 / 45
36 信じると決めたのに…
しおりを挟む
パーティー当日。
ポピー様とクレイをパーティーが始まる前に接触させたくなかった私は、失礼に当たらない程度のぎりぎりの時間に、クレイと共にドストコ公爵家にやって来ました。
ですので、会場の受付に着いた時には、すでにたくさんの人が集まっていました。
婚約記念パーティーなのに、お姉様がいないというのはおかしいところですが、お姉様が来るのを嫌がったのだと思われます。
そんなワガママをとおせるところがすごいです。
普通は嫌だと思っていても来るか、初めから、そんなパーティーをさせたりしないですよね…。
それに、お姉様の都合が合わないなら、普通は日にちを変えるはずです。
それとも、お姉様がいなくても、このパーティーを開かなくてはならない事情があったんでしょうか?
考えられるとすれば、私とクレイの仲を引き裂く事?
「……」
無言で横に立つクレイを見つめると、その視線に気が付いたクレイが苦笑します。
「そんなに俺が信用できないのかよ?」
「そ、そういう訳では…」
「大丈夫だから」
シニヨンにした私の髪が崩れない様に、クレイはポンポンと頭を撫でてくれます。
何が大丈夫なのかはわかりません。
どうして、クレイはそんな自信があるのでしょうか?
それに、ポピー様を見たら、そんな気持ちなんて吹っ飛んでしまうのでは…?
って、駄目ですね。
クレイを信じなくては。
「クレイがポピー様にクラクラしないって、信じますからね」
「クラクラって何だよ」
クレイは吹き出すと、私を促して、パーティー会場の中へと足を踏み入れたのでした。
オッサムやドストコ公爵に、姉が本日、出席出来なかった事を侘び、婚約については、お祝いの言葉を掛けた後は、特に何事もなく時間が過ぎていき、クレイとそろそろ帰ろうかと話し始めていた時でした。
恐れていた事が起こったのです。
「クレイ殿下、リサ殿下」
今まで、存在感のなかったポピー様が現れ、私達に話し掛けてきたのです。
「先日は失礼な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」
濃いブルーのイブニングドレスを着たポピー様は妖艶で、とても美しく、同性である私まで色気でクラクラしそうです。
クレイを見てみると、とても険しい顔をしていましたが、私の視線に気付くと、すぐに笑顔を見せてくれました。
私はクレイに頷いた後、ポピー様に目を向けて言います。
「そう思われるのでしたら、もうクレイには近付かないで下さい。余計なお世話かもしれませんが、クレイに近付いても、バーキン様はあなたのものになりませんよ?」
「わかっています。ですが、バーキンが私に振り向かないのは、クレイ殿下が邪魔をしているとしか…」
「バーキン様にだって、好みがありますでしょう? あなたはとても素敵な女性かもしれませんが、バーキン様には魅力的には見えないだけなのでは?」
「それが…、それがおかしいと思うんです!」
ポピー様は大きな声を上げて続けます。
「どんな人だって、私が話しかければ、私の事を美しい、綺麗だと褒め称えてくれるのに、バーキンだけは違うんです! お世辞でだって褒めてくれません! それはクレイ殿下に遠慮しているからだと思うんです!」
「その事については、クレイは関係ないと、お話しましたでしょう?」
何度、同じ話をすればわかって下さるのでしょうか?
それだけ、自分に自信があるという事なのかもしれませんが、ここまでくると、さすがにイライラしてしまいます。
「リサ」
「はい?」
クレイに名を呼ばれ、彼の方を見上げると、苦笑して言います。
「ちょっと、話をしてきてもいいか? 二人きりにはならないから」
「……はい」
そういう話でしたものね。
クレイを信じてはいるのですが、やっぱり心配です。
「大丈夫だから。ポピーとの話が終わったら、もう帰ろう」
「わかりました」
首を縦に振ると、クレイはまた私の頭を優しく撫でた後、ポピー様を促します。
「少し、話したい事がある」
「わかって下さったのですね! ありがとうございます、クレイ殿下」
二人がパーティー会場の外へ向かって歩いていくのを見送ってから、私はクレイが戻るまで、大人しく目立たないようにして待っていようと思ったのですが、なぜか、アール様が近寄ってきたのです。
「フラれたのか?」
「違います」
「じゃあ何で、二人で出て行ったんだ?」
「込み入った話をするからでしょう。それに、見える位置にはいるじゃないですか」
先程、クレイが二人きりにならないと言っていた通り、クレイは人の邪魔にはならないけれど、人の通りがある所で、ポピー様と話をしています。
二人きりになっていると、変な噂を立てられても困るからでしょう。
「でも、本当にパーカー公爵令嬢は綺麗だよな。しかも、クレイ殿下は彼女の事が好きだったんだろう?」
「そんな事、あなたには関係ありません。もう、放っておいて下さい」
「彼と別れて、僕にしておいた方が良いと思うぞ? 君と結婚すれば王族になれるのだから、離婚したりしないから」
「あなた、何を言ってるんですか…」
「僕とブランカの仲を引き裂いたのはお前達だろう!」
「自業自得でしょう!」
言い返した時、クレイがポピー様と話し終えたのか、こちらに向かって歩いて来るのが見えましたが、今の私の顔は、アール様のせいで泣き出しそうになっているに違いありません。
だから、クレイに見られたくないです。
だって、アール様の言う事に動揺して不安になった時点で、クレイを信用していなかった事になるでしょう?
早く、いつもの表情に戻さなければ!
そう思って、私は慌ててアール様から離れようと足を動かしたのでした。
ポピー様とクレイをパーティーが始まる前に接触させたくなかった私は、失礼に当たらない程度のぎりぎりの時間に、クレイと共にドストコ公爵家にやって来ました。
ですので、会場の受付に着いた時には、すでにたくさんの人が集まっていました。
婚約記念パーティーなのに、お姉様がいないというのはおかしいところですが、お姉様が来るのを嫌がったのだと思われます。
そんなワガママをとおせるところがすごいです。
普通は嫌だと思っていても来るか、初めから、そんなパーティーをさせたりしないですよね…。
それに、お姉様の都合が合わないなら、普通は日にちを変えるはずです。
それとも、お姉様がいなくても、このパーティーを開かなくてはならない事情があったんでしょうか?
考えられるとすれば、私とクレイの仲を引き裂く事?
「……」
無言で横に立つクレイを見つめると、その視線に気が付いたクレイが苦笑します。
「そんなに俺が信用できないのかよ?」
「そ、そういう訳では…」
「大丈夫だから」
シニヨンにした私の髪が崩れない様に、クレイはポンポンと頭を撫でてくれます。
何が大丈夫なのかはわかりません。
どうして、クレイはそんな自信があるのでしょうか?
それに、ポピー様を見たら、そんな気持ちなんて吹っ飛んでしまうのでは…?
って、駄目ですね。
クレイを信じなくては。
「クレイがポピー様にクラクラしないって、信じますからね」
「クラクラって何だよ」
クレイは吹き出すと、私を促して、パーティー会場の中へと足を踏み入れたのでした。
オッサムやドストコ公爵に、姉が本日、出席出来なかった事を侘び、婚約については、お祝いの言葉を掛けた後は、特に何事もなく時間が過ぎていき、クレイとそろそろ帰ろうかと話し始めていた時でした。
恐れていた事が起こったのです。
「クレイ殿下、リサ殿下」
今まで、存在感のなかったポピー様が現れ、私達に話し掛けてきたのです。
「先日は失礼な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」
濃いブルーのイブニングドレスを着たポピー様は妖艶で、とても美しく、同性である私まで色気でクラクラしそうです。
クレイを見てみると、とても険しい顔をしていましたが、私の視線に気付くと、すぐに笑顔を見せてくれました。
私はクレイに頷いた後、ポピー様に目を向けて言います。
「そう思われるのでしたら、もうクレイには近付かないで下さい。余計なお世話かもしれませんが、クレイに近付いても、バーキン様はあなたのものになりませんよ?」
「わかっています。ですが、バーキンが私に振り向かないのは、クレイ殿下が邪魔をしているとしか…」
「バーキン様にだって、好みがありますでしょう? あなたはとても素敵な女性かもしれませんが、バーキン様には魅力的には見えないだけなのでは?」
「それが…、それがおかしいと思うんです!」
ポピー様は大きな声を上げて続けます。
「どんな人だって、私が話しかければ、私の事を美しい、綺麗だと褒め称えてくれるのに、バーキンだけは違うんです! お世辞でだって褒めてくれません! それはクレイ殿下に遠慮しているからだと思うんです!」
「その事については、クレイは関係ないと、お話しましたでしょう?」
何度、同じ話をすればわかって下さるのでしょうか?
それだけ、自分に自信があるという事なのかもしれませんが、ここまでくると、さすがにイライラしてしまいます。
「リサ」
「はい?」
クレイに名を呼ばれ、彼の方を見上げると、苦笑して言います。
「ちょっと、話をしてきてもいいか? 二人きりにはならないから」
「……はい」
そういう話でしたものね。
クレイを信じてはいるのですが、やっぱり心配です。
「大丈夫だから。ポピーとの話が終わったら、もう帰ろう」
「わかりました」
首を縦に振ると、クレイはまた私の頭を優しく撫でた後、ポピー様を促します。
「少し、話したい事がある」
「わかって下さったのですね! ありがとうございます、クレイ殿下」
二人がパーティー会場の外へ向かって歩いていくのを見送ってから、私はクレイが戻るまで、大人しく目立たないようにして待っていようと思ったのですが、なぜか、アール様が近寄ってきたのです。
「フラれたのか?」
「違います」
「じゃあ何で、二人で出て行ったんだ?」
「込み入った話をするからでしょう。それに、見える位置にはいるじゃないですか」
先程、クレイが二人きりにならないと言っていた通り、クレイは人の邪魔にはならないけれど、人の通りがある所で、ポピー様と話をしています。
二人きりになっていると、変な噂を立てられても困るからでしょう。
「でも、本当にパーカー公爵令嬢は綺麗だよな。しかも、クレイ殿下は彼女の事が好きだったんだろう?」
「そんな事、あなたには関係ありません。もう、放っておいて下さい」
「彼と別れて、僕にしておいた方が良いと思うぞ? 君と結婚すれば王族になれるのだから、離婚したりしないから」
「あなた、何を言ってるんですか…」
「僕とブランカの仲を引き裂いたのはお前達だろう!」
「自業自得でしょう!」
言い返した時、クレイがポピー様と話し終えたのか、こちらに向かって歩いて来るのが見えましたが、今の私の顔は、アール様のせいで泣き出しそうになっているに違いありません。
だから、クレイに見られたくないです。
だって、アール様の言う事に動揺して不安になった時点で、クレイを信用していなかった事になるでしょう?
早く、いつもの表情に戻さなければ!
そう思って、私は慌ててアール様から離れようと足を動かしたのでした。
48
あなたにおすすめの小説
私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる
迷い人
恋愛
お爺様は何時も私に言っていた。
「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」
そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。
祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。
シラキス公爵家の三男カール。
外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。
シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。
そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。
でも、私に愛を語る彼は私を知らない。
でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。
だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。
なのに気が付けば、婚約を??
婚約者なのだからと屋敷に入り込み。
婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。
そして……私を脅した。
私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!
【完結】優雅に踊ってくださいまし
きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。
この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。
完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。
が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。
-ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。
#よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。
#鬱展開が無いため、過激さはありません。
#ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ついで姫の本気
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。
一方は王太子と王女の婚約。
もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。
綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。
ハッピーな終わり方ではありません(多分)。
※4/7 完結しました。
ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。
救いのあるラストになっております。
短いです。全三話くらいの予定です。
↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。
4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。
婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる