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お姉様に頼まれてやって来た使用人は、1日目は私に連絡したことで満足して帰っていった。
話を聞いただけで特に行動を起こさなかったからか、次の日にまた同じ使用人がやって来た。
お姉様が私が来るのを待っていて、私と一緒に帰って来いと言われたと言う。
身内の不幸など、よっぽどの理由がない限り、お姉様に会いに行くつもりはないので、とりあえず邸内に滞在させることにした。
すると、また次の日には違う人がやって来ただけだった。
お姉様から命令されてここまで来ているのだろうし、使いの人には気の毒だという気持ちはある。
だけど、お姉様が病気であったとしても、私にしてあげられることはないし、どうせ仮病だとわかっている。
やって来る人たちを帰らせずにルシエフ邸に留まらせていると、5日目になって人が来なくなった。
自由に使える使用人がいなくなったのだと思われる。
やって来た人たちには新たな職を見つけてあげてから家に帰した。
そして、それから10日経った今は、お姉様の存在に悩まされることなく、楽しい毎日を送っていた。
お姉様のいない生活って、こんなに素敵なものだったのねと実感していたある日の朝食時、ロード様からお誘いがあった。
「突然で悪いけど、予定がないなら、今日は僕と一緒に買い物に出かけないか?」
屋敷の敷地は広いので、運動不足になることはないし、メルちゃんにいつも散歩していただいているから、退屈だと思ったこともない。
だけど、たまには気分転換にルシエフ邸の外に出てみたいなと思い始めていたから、私にとっては嬉しい申し出だった。
でも、頷こうとしたところで大事なことを思い出して、ロード様に話しかける。
「あの、ロード様、お伝えし忘れていたのかもしれませんが」
「どうした? 何かあったのか」
「あの、私、手持ちのお金がほとんどないんです。ですから、お買い物はお付き合いするだけでもよろしいでしょうか」
うつむき加減になって尋ねると、ロード様はきょとんとした顔をしたあと苦笑する。
「ああ、ごめん。誘い方が悪かったな。君がここに来て足りないものもわかってきただろうから、それを買いに行こうって意味だったんだ」
「え、あの、ですから、お金が」
「ミレニアは僕の婚約者だろう。一緒に住んでるんだし、僕が出すに決まってるだろう」
「結婚したならまだしも、婚約段階ですのに良いんですか?」
「婚約者にプレゼントを贈ったりするのは普通だろう? だから、それと思えばいいんだ」
そんなものなのかしら。
王命で婚約者になったからといって、結婚はまだ先なのに甘えてしまっても良いのかしら。
私が貧乏そうにしていても、ロード様の世間体が良くないのかもしれない。
かといって、これ以上迷惑をかけるようなことをしても良いのか迷ってしまう。
「ミレニアは思ったことがすぐに顔に出るタイプなんだな」
ロード様は私の顔を見てくすくすと笑う。
「気をつけるようにいたします」
両頬を手で触って言うと、ロード様は笑うのをやめて口を開く。
「ここに来た以上、お金の心配はしなくてもいい。無駄遣いばかりされるのは困るけど」
「無駄遣いするつもりはありません! ここに置いていただいているだけでも有り難いのに、必要なものまで買ってもらっても良いのかと思いまして」
「さっきも言ったけど、婚約者なんだから気にしなくてもいいんだよ。といっても、君は気になるんだろうね。それなら、メルとハヤテの散歩をしてくれている給金だと思うのはどうかな」
「楽しく散歩させていただいているのに、お金をいただいても良いのか迷うのですけど」
「元々は使用人の仕事だったんだ。僕もせがまれてたまに行っていたんだけど、ミレニアが来てくれてからは誘いに来なくなった。それはそれで寂しいけど、僕も使用人も本当に助かっているんだ」
ロード様は苦笑して話を続ける。
「僕の手が空いている時なら良いんだけど、ハヤテは僕の仕事がどんなに忙しい時でも、おかまいなしでおもちゃを持ってきては遊んでくれってせがんできてたんだ。使用人が僕の代わりに相手をしようとしても嫌がるから仕事を中断することもあった。でも、今は僕のほうから遊ぶかと聞いても、ミレニアにおもちゃを持っていくんだよ」
少し不服そうな顔をしているロード様を可愛く思いながら応える。
「ハヤテくんには私が遊んでもらっています。きっと、わたしの面倒をみないといけないと思ってくれているんでしょうね」
「ハヤテが寂しい思いをしていないから、すごく助かってるよ。本当にありがとう」
お礼を言ってもらえて、何だか心が温かくなった。
当たり前のことをしていただけなのに、感謝されるなんて嬉しい。
私はいつもこれといった用事があるわけではないので、お出かけには「よろこんで」と返事をさせてもらい、浮かれた気持ちで朝食を終えた。
私の準備ができたら出かけるということになったので、早速、部屋に戻って出かける準備をした。
女性のものを買いに行くので、ロード様と二人だけではなく、シャルが別の馬車で同行してくれることになって安心した。
やっぱり、同性の意見を聞いたり、金額のことで相談したかったりするものね。
身支度を終えて、シャルと一緒にエントランスホールに向かうと、メルちゃんとハヤテくんがなぜか準備万端といった感じで、扉の前で座っていた。
何も言っていないのに、私たちが出かけるということに気が付いたみたい。
「メルちゃんとハヤテくんはお留守番よ」
苦笑して言うと「キューン」と悲痛な声を上げた。
「お留守番は嫌だ、連れて行って」と言わんばかりに悲しそうな声を上げる2匹を見て胸が痛くなる。
どうしたら良いのか困っていると、扉の正面にある階段から黒の外套を着たロード様が下りて来て、メルちゃんたちに声をかける。
「どうした? 病院に行きたいのか?」
その言葉を聞いた途端、ハヤテくんはすごい勢いで階段の横にあるスロープを駆け上がっていった。
よっぽど病院が嫌いみたい。
メルちゃんは逃げたいけれど、私を置いていけないし、どうしようと言わんばかりに、私の顔とロード様の顔を見てウロウロしている。
「ありがとう、メルちゃん。なるべく早く帰ってくるから、お留守番をよろしくね。お土産を買って帰るから」
キュンキュン鳴く、メルちゃんに後ろ髪を引かれながらも、私たちは繁華街に向かうことにしたのだった。
話を聞いただけで特に行動を起こさなかったからか、次の日にまた同じ使用人がやって来た。
お姉様が私が来るのを待っていて、私と一緒に帰って来いと言われたと言う。
身内の不幸など、よっぽどの理由がない限り、お姉様に会いに行くつもりはないので、とりあえず邸内に滞在させることにした。
すると、また次の日には違う人がやって来ただけだった。
お姉様から命令されてここまで来ているのだろうし、使いの人には気の毒だという気持ちはある。
だけど、お姉様が病気であったとしても、私にしてあげられることはないし、どうせ仮病だとわかっている。
やって来る人たちを帰らせずにルシエフ邸に留まらせていると、5日目になって人が来なくなった。
自由に使える使用人がいなくなったのだと思われる。
やって来た人たちには新たな職を見つけてあげてから家に帰した。
そして、それから10日経った今は、お姉様の存在に悩まされることなく、楽しい毎日を送っていた。
お姉様のいない生活って、こんなに素敵なものだったのねと実感していたある日の朝食時、ロード様からお誘いがあった。
「突然で悪いけど、予定がないなら、今日は僕と一緒に買い物に出かけないか?」
屋敷の敷地は広いので、運動不足になることはないし、メルちゃんにいつも散歩していただいているから、退屈だと思ったこともない。
だけど、たまには気分転換にルシエフ邸の外に出てみたいなと思い始めていたから、私にとっては嬉しい申し出だった。
でも、頷こうとしたところで大事なことを思い出して、ロード様に話しかける。
「あの、ロード様、お伝えし忘れていたのかもしれませんが」
「どうした? 何かあったのか」
「あの、私、手持ちのお金がほとんどないんです。ですから、お買い物はお付き合いするだけでもよろしいでしょうか」
うつむき加減になって尋ねると、ロード様はきょとんとした顔をしたあと苦笑する。
「ああ、ごめん。誘い方が悪かったな。君がここに来て足りないものもわかってきただろうから、それを買いに行こうって意味だったんだ」
「え、あの、ですから、お金が」
「ミレニアは僕の婚約者だろう。一緒に住んでるんだし、僕が出すに決まってるだろう」
「結婚したならまだしも、婚約段階ですのに良いんですか?」
「婚約者にプレゼントを贈ったりするのは普通だろう? だから、それと思えばいいんだ」
そんなものなのかしら。
王命で婚約者になったからといって、結婚はまだ先なのに甘えてしまっても良いのかしら。
私が貧乏そうにしていても、ロード様の世間体が良くないのかもしれない。
かといって、これ以上迷惑をかけるようなことをしても良いのか迷ってしまう。
「ミレニアは思ったことがすぐに顔に出るタイプなんだな」
ロード様は私の顔を見てくすくすと笑う。
「気をつけるようにいたします」
両頬を手で触って言うと、ロード様は笑うのをやめて口を開く。
「ここに来た以上、お金の心配はしなくてもいい。無駄遣いばかりされるのは困るけど」
「無駄遣いするつもりはありません! ここに置いていただいているだけでも有り難いのに、必要なものまで買ってもらっても良いのかと思いまして」
「さっきも言ったけど、婚約者なんだから気にしなくてもいいんだよ。といっても、君は気になるんだろうね。それなら、メルとハヤテの散歩をしてくれている給金だと思うのはどうかな」
「楽しく散歩させていただいているのに、お金をいただいても良いのか迷うのですけど」
「元々は使用人の仕事だったんだ。僕もせがまれてたまに行っていたんだけど、ミレニアが来てくれてからは誘いに来なくなった。それはそれで寂しいけど、僕も使用人も本当に助かっているんだ」
ロード様は苦笑して話を続ける。
「僕の手が空いている時なら良いんだけど、ハヤテは僕の仕事がどんなに忙しい時でも、おかまいなしでおもちゃを持ってきては遊んでくれってせがんできてたんだ。使用人が僕の代わりに相手をしようとしても嫌がるから仕事を中断することもあった。でも、今は僕のほうから遊ぶかと聞いても、ミレニアにおもちゃを持っていくんだよ」
少し不服そうな顔をしているロード様を可愛く思いながら応える。
「ハヤテくんには私が遊んでもらっています。きっと、わたしの面倒をみないといけないと思ってくれているんでしょうね」
「ハヤテが寂しい思いをしていないから、すごく助かってるよ。本当にありがとう」
お礼を言ってもらえて、何だか心が温かくなった。
当たり前のことをしていただけなのに、感謝されるなんて嬉しい。
私はいつもこれといった用事があるわけではないので、お出かけには「よろこんで」と返事をさせてもらい、浮かれた気持ちで朝食を終えた。
私の準備ができたら出かけるということになったので、早速、部屋に戻って出かける準備をした。
女性のものを買いに行くので、ロード様と二人だけではなく、シャルが別の馬車で同行してくれることになって安心した。
やっぱり、同性の意見を聞いたり、金額のことで相談したかったりするものね。
身支度を終えて、シャルと一緒にエントランスホールに向かうと、メルちゃんとハヤテくんがなぜか準備万端といった感じで、扉の前で座っていた。
何も言っていないのに、私たちが出かけるということに気が付いたみたい。
「メルちゃんとハヤテくんはお留守番よ」
苦笑して言うと「キューン」と悲痛な声を上げた。
「お留守番は嫌だ、連れて行って」と言わんばかりに悲しそうな声を上げる2匹を見て胸が痛くなる。
どうしたら良いのか困っていると、扉の正面にある階段から黒の外套を着たロード様が下りて来て、メルちゃんたちに声をかける。
「どうした? 病院に行きたいのか?」
その言葉を聞いた途端、ハヤテくんはすごい勢いで階段の横にあるスロープを駆け上がっていった。
よっぽど病院が嫌いみたい。
メルちゃんは逃げたいけれど、私を置いていけないし、どうしようと言わんばかりに、私の顔とロード様の顔を見てウロウロしている。
「ありがとう、メルちゃん。なるべく早く帰ってくるから、お留守番をよろしくね。お土産を買って帰るから」
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