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11 本当に良いのですか?
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一番近くの繁華街は馬車で30分程の所にあった。
城下町ほどではないけれど、とても活気があって人通りも多く、歩く人の表情も明るい。
笑顔の人が多いと、こちらの気分も明るくなってくるし良いと思う。
まずは普段着にできる動きやすいドレスを選ぼうという話になり、シャルが目星をつけてくれていたお店の前で馬車を停めてもらい、外に出た時だった。
「見つけたぞ! ロード! 貴様はどうしてレニスに嫌がらせをするんだ!」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには白シャツにブラウンのズボン姿の男性が立っていた。
一瞬、昼間から酔っ払いの人がいて、恐れ多くもロード様に絡んできたのかと思ったけれど違った。
よく見てみると、険しい顔をしてロード様を睨みつけている髭面の男性は国王陛下にそっくりだということがわかった。
「……どうして、こんなところに父上がいるんですか」
ロード様は驚愕の表情を浮かべて、国王陛下に尋ねた。
周りにいる護衛の人たちも、ロード様の言葉を聞いて困惑の表情を浮かべている。
やっぱり、国王陛下なのね。
ロード様が自分の親を間違えるわけないもの。
「うるさい! 俺だって、こんな惨めな思いなどしたくはなかった! 俺がこんなことになっているのは全部、お前たちのせいだ!」
国王陛下は表情を歪めて、私とロード様に向かって叫んだ。
意味がわからないわ。
どうして、私たちのせいになるの?
ロード様は私の横で大きくため息を吐くと、相手にしていられないと言わんばかりに口を開く。
「父上は僕たちの顔を見たくなさそうですから、ここで失礼させていただきます」
「ちょ、ちょっと待て。それはそれで困る」
ロード様に冷たくあしらわれたからか、国王陛下が焦り始めた。
本当に行っても良いのか迷っていると、ロード様が私に笑顔で話しかけてくる。
「ミレニア、あの人を相手にしていたら時間がもったいないから行こう」
「ほ、本当に良いのですか?」
「良いよ」
「ちょっと待てと言っているだろう!」
国王陛下が声を荒らげたので、通行人の人たちがチラチラと私たちに好奇の目を向けてくる。
まさか、国王陛下がこんなみすぼらしい格好でここにいるとは思われないでしょうけど、ロード様は別だわ。
だから、あまり目立つことは良くない。
ロード様もそのことは言われなくてもわかっているはずなので、少しでも早く、この場から離れようとしているのだと思われる。
考えてみれば、国王陛下は猫派なのよね。
メルちゃんを連れてきていたら、お姉様のように嫌がって逃げてくれるのかしら。
……って、メルちゃんをこき使うようなことばかり考えていちゃ駄目ね。
変な人ばかり相手にしていたらメルちゃんのストレスになってしまうわ。
「ミレニア、行こう」
「はい!」
「おい! お前たち俺の話を聞けっ!」
国王陛下が追いかけてこようとしたけれど、護衛の人が止めてくれる。
「閣下に近付かないで下さい」
「何を言ってるんだ! 俺はあいつの父親なんだぞ!」
「国王陛下がこんな所にいらっしゃる訳がありません」
普通の人なら絶対にそう思うであろうことを言われ、陛下は悔しそうに唇を噛んだあと、大きな声で叫ぶ。
「先程、あやつが俺のことを父上と言ったのは聞こえなかったのか!」
「間違いでした」
ロード様は足を止めてしれっとした顔をして、話を続ける。
「父に似ていた人でした。護衛の言う通り、父は国王陛下だ。そんな人が護衛も付けずにこんな所にいるわけがない」
「ロ、ロード! 貴様ぁ!」
「ご同行願います」
陛下は何やら叫び続けていたけれど、護衛の人たちに無理やり連行されていった。
暴れている国王陛下が遠ざかっていくのを見送りながら、ロード様に尋ねる。
「どこに連れて行かれるんでしょうか」
「さすがに警察はないと思うよ。父上はちょっと頭が残念なところがあるけど、さすがに1人でウロウロはしてないと思うし、保護者に引き渡されるんじゃないかな」
「保護者ですか」
子供にそんなことを言われる父親ってどうなのかしら。
しかも、国王陛下なのよ。
「それにしても、どうして、あんな格好だったんでしょうか」
「僕もわからない。あとで、確認させるよ。たぶん、兄上の命令だと思う」
「陛下はまだ退位されたわけではないんですよね」
「まだ先だと聞いてたんだが、兄上が怒るようなことをやらかして、退位を自分で早めた可能性はある。その連絡が邸には届いてるかもしれない」
ふう、とロード様はため息を吐いてから苦笑する。
「驚かせて悪かった。あの人のことは忘れて買い物をしよう」
「は、はい」
そうは言われたけれど、どうしてあんなことになっているのか気になって、買い物に集中できるはずがなかった。
だから、服選びはほとんどシャルに任せていると、ロード様の側近がやって来て、ロード様に報告する。
「陛下は城から追い出されたそうです」
「何があったんだろうか」
「王妃陛下に追い出され、ジーギス殿下と共に住むように言われたそうです。そして、ジーギス殿下を頼って、現在、ジーギス殿下が住んでいる仮住まいの家に身を寄せようとされたようですが、レニス様の件でジーギス様と喧嘩になり、ジーギス様から家を追い出されたそうです」
「何をやってるんだよ」
王族とは思えないくだらない親子喧嘩に、ロード様はがっくりと肩を落とした。
※
次の話はレニス視点の閑話になります。
城下町ほどではないけれど、とても活気があって人通りも多く、歩く人の表情も明るい。
笑顔の人が多いと、こちらの気分も明るくなってくるし良いと思う。
まずは普段着にできる動きやすいドレスを選ぼうという話になり、シャルが目星をつけてくれていたお店の前で馬車を停めてもらい、外に出た時だった。
「見つけたぞ! ロード! 貴様はどうしてレニスに嫌がらせをするんだ!」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには白シャツにブラウンのズボン姿の男性が立っていた。
一瞬、昼間から酔っ払いの人がいて、恐れ多くもロード様に絡んできたのかと思ったけれど違った。
よく見てみると、険しい顔をしてロード様を睨みつけている髭面の男性は国王陛下にそっくりだということがわかった。
「……どうして、こんなところに父上がいるんですか」
ロード様は驚愕の表情を浮かべて、国王陛下に尋ねた。
周りにいる護衛の人たちも、ロード様の言葉を聞いて困惑の表情を浮かべている。
やっぱり、国王陛下なのね。
ロード様が自分の親を間違えるわけないもの。
「うるさい! 俺だって、こんな惨めな思いなどしたくはなかった! 俺がこんなことになっているのは全部、お前たちのせいだ!」
国王陛下は表情を歪めて、私とロード様に向かって叫んだ。
意味がわからないわ。
どうして、私たちのせいになるの?
ロード様は私の横で大きくため息を吐くと、相手にしていられないと言わんばかりに口を開く。
「父上は僕たちの顔を見たくなさそうですから、ここで失礼させていただきます」
「ちょ、ちょっと待て。それはそれで困る」
ロード様に冷たくあしらわれたからか、国王陛下が焦り始めた。
本当に行っても良いのか迷っていると、ロード様が私に笑顔で話しかけてくる。
「ミレニア、あの人を相手にしていたら時間がもったいないから行こう」
「ほ、本当に良いのですか?」
「良いよ」
「ちょっと待てと言っているだろう!」
国王陛下が声を荒らげたので、通行人の人たちがチラチラと私たちに好奇の目を向けてくる。
まさか、国王陛下がこんなみすぼらしい格好でここにいるとは思われないでしょうけど、ロード様は別だわ。
だから、あまり目立つことは良くない。
ロード様もそのことは言われなくてもわかっているはずなので、少しでも早く、この場から離れようとしているのだと思われる。
考えてみれば、国王陛下は猫派なのよね。
メルちゃんを連れてきていたら、お姉様のように嫌がって逃げてくれるのかしら。
……って、メルちゃんをこき使うようなことばかり考えていちゃ駄目ね。
変な人ばかり相手にしていたらメルちゃんのストレスになってしまうわ。
「ミレニア、行こう」
「はい!」
「おい! お前たち俺の話を聞けっ!」
国王陛下が追いかけてこようとしたけれど、護衛の人が止めてくれる。
「閣下に近付かないで下さい」
「何を言ってるんだ! 俺はあいつの父親なんだぞ!」
「国王陛下がこんな所にいらっしゃる訳がありません」
普通の人なら絶対にそう思うであろうことを言われ、陛下は悔しそうに唇を噛んだあと、大きな声で叫ぶ。
「先程、あやつが俺のことを父上と言ったのは聞こえなかったのか!」
「間違いでした」
ロード様は足を止めてしれっとした顔をして、話を続ける。
「父に似ていた人でした。護衛の言う通り、父は国王陛下だ。そんな人が護衛も付けずにこんな所にいるわけがない」
「ロ、ロード! 貴様ぁ!」
「ご同行願います」
陛下は何やら叫び続けていたけれど、護衛の人たちに無理やり連行されていった。
暴れている国王陛下が遠ざかっていくのを見送りながら、ロード様に尋ねる。
「どこに連れて行かれるんでしょうか」
「さすがに警察はないと思うよ。父上はちょっと頭が残念なところがあるけど、さすがに1人でウロウロはしてないと思うし、保護者に引き渡されるんじゃないかな」
「保護者ですか」
子供にそんなことを言われる父親ってどうなのかしら。
しかも、国王陛下なのよ。
「それにしても、どうして、あんな格好だったんでしょうか」
「僕もわからない。あとで、確認させるよ。たぶん、兄上の命令だと思う」
「陛下はまだ退位されたわけではないんですよね」
「まだ先だと聞いてたんだが、兄上が怒るようなことをやらかして、退位を自分で早めた可能性はある。その連絡が邸には届いてるかもしれない」
ふう、とロード様はため息を吐いてから苦笑する。
「驚かせて悪かった。あの人のことは忘れて買い物をしよう」
「は、はい」
そうは言われたけれど、どうしてあんなことになっているのか気になって、買い物に集中できるはずがなかった。
だから、服選びはほとんどシャルに任せていると、ロード様の側近がやって来て、ロード様に報告する。
「陛下は城から追い出されたそうです」
「何があったんだろうか」
「王妃陛下に追い出され、ジーギス殿下と共に住むように言われたそうです。そして、ジーギス殿下を頼って、現在、ジーギス殿下が住んでいる仮住まいの家に身を寄せようとされたようですが、レニス様の件でジーギス様と喧嘩になり、ジーギス様から家を追い出されたそうです」
「何をやってるんだよ」
王族とは思えないくだらない親子喧嘩に、ロード様はがっくりと肩を落とした。
※
次の話はレニス視点の閑話になります。
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