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18 口に出しているだけだと思います
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「バウッ」
腕の中にいるハヤテくんがロード様を見て嬉しそうに吠えた。
「遅くなって悪かった」
ロード様はハヤテくんの頭を撫でたあと、申し訳無さそうな顔をして私に謝ってきた。
「ロード様に謝ってもらうことなんてありません! 私が呑気に門の近くを散歩してしまったせいで姉に見つかってしまいました。申し訳ございませんでした」
「それは気にしなくていいよ。メルとハヤテはレニス嬢が来ているとわかっただろうから、君が嫌がっても無理矢理連れて行ったと思う」
「どういうことでしょうか」
「敵が来ているから追っ払わないといけないと思ったんだと思うよ。犬は耳や鼻が人間よりもかなり良いからね」
ロード様は苦笑したあと、私の腕の中にいるハヤテくんの頭を再度撫でる。
「ちゃんとミレニアを守ってくれたんだね。偉いよ」
「バウッ!」
ロード様の言葉に尻尾を振りながら、ハヤテくんが「守ったよ」と言わんばかりに返事をする。
感謝の気持ちを込めて、私も頭を撫でてあげると、ハヤテくんは尻尾をもっと激しく振って喜んでくれた。
「メルもありがとう」
「ワン!」
メルちゃんもロード様に返事をしてから、嬉しそうに尻尾を振る。
そんなメルちゃんの頭を撫でたあと、ロード様は私に話しかけてくる。
「さて、こう何度も気軽に邸に来られても困るから対処させてもらおうかな」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。一応、御者には話をしておきました」
ハヤテくんを抱っこしたまま、頭を下げたせいか、ハヤテくんが頬を舐めてくれた。
すると、ロード様が慌てた顔で叫ぶ。
「ハヤテ、舐めちゃ駄目だ! 散歩の途中だから鼻や口を拭いてないだろ。ミレニア、本当にごめん。ハヤテは悪気はないんだよ」
「わかっています。あとで顔を洗いますから大丈夫ですよ」
さっきまで草むらに鼻を突っ込んだり、虫を見つけて土の匂いを嗅いでいたりしたものね。
お姉様を無視して話をしていたからか、不満そうな声が聞こえてくる。
「ちょっと、そこの2人! 何をほのぼのしているのよ! というかミレニア! わたしを無視しないでよ!」
「レニス嬢、いいかげんにしてくれ。これ以上、うちの門番やミレニアに迷惑をかけるというなら、甘い対応はしていられなくなるぞ」
「ちょっと、それってどういうことですか!? も、もしかして、魔王もわたしのことを好きになっちゃったんですか!?」
「何でそんな風に思えるんだよ。そんなわけないだろう」
ロード様はお姉様の言葉を否定したけれど、ポジティブ思考のお姉様の耳に、その言葉が届くことはない。
「どうしよう! ミレニア、本当にごめんなさいね! わたし、また、あなたの婚約者を奪うようなことになっちゃうかもしれないわぁ!」
「ミレニア、それは絶対にないから安心してくれ」
「信じております」
私とロード様が白けた顔で話をしている間も、お姉様は一人で話し続ける。
「そんなことになっちゃうんだったら、皆で一緒に住んじゃいます? わたしが、こちらの邸に引っ越して来てあげても良いんですよ!」
私とロード様は無言でお姉様を見つめた。
「な、何よ、どうかしたんですか?」
「……メル」
不思議そうにしている、お姉様の問いには答えずにロード様はメルちゃんに声を掛ける。
「メルはミレニアが好きか?」
「ワンッ!」
「あの女の人がいると、ミレニアはここにいたくなくなる。だから、追いやってくれ」
メルちゃんはロード様が指差した方向を見つめ、お姉様の姿を目で捉えた。
そして、もう一声吠えたかと思うと、お姉様に向かって走り出した。
「え!? うそ!? どうしてこっちに来るのよ!?」
お姉様とメルちゃんの間には高い鉄柵の門がある。
だから、メルちゃんがお姉様に近付くことはできても襲いかかることはできない。
それなのに、お姉様はパニックになって叫ぶ。
「嫌よ! モンスターが来るわ! 助けてっ!」
メルちゃんは門の前まで行くと、門番に向かって開けてくれと言わんばかりに何度も吠える。
門番がロード様のほうを見ると、ロード様は口には出さずに手で何かのサインをした。
門番はそのサインを見て、門の鍵に手を触れた。
「ちょっと! やめて! 開けないで! 怖いっ!」
お姉様は顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら懇願した。
そんなお姉様にロード様が言う。
「帰ってくれ。それから二度とここに来ないと誓え。そうすれば、メルを門の外には出さない」
「うっ! えっ! うっ! 嫌だけどっ、命は惜しいのぉっ! わかりましたぁ!」
お姉様は嗚咽をあげ、涙を手のひらで拭いながら首を何度も縦に振った。
そして、逃げるようにして馬車の中に自分から入っていく。
「どうして、あそこまで犬が嫌いなのに、一緒に住むという発想になるんだろうな」
「たぶん、その時に思い付いたことを、ただ口に出しているだけだと思います」
「これで大人しくなってくれるといいんだが」
お姉様を乗せた馬車が遠ざかっていくのを見ながら、私もそうなることを願った。
※
次の話はレニス視点になります。
腕の中にいるハヤテくんがロード様を見て嬉しそうに吠えた。
「遅くなって悪かった」
ロード様はハヤテくんの頭を撫でたあと、申し訳無さそうな顔をして私に謝ってきた。
「ロード様に謝ってもらうことなんてありません! 私が呑気に門の近くを散歩してしまったせいで姉に見つかってしまいました。申し訳ございませんでした」
「それは気にしなくていいよ。メルとハヤテはレニス嬢が来ているとわかっただろうから、君が嫌がっても無理矢理連れて行ったと思う」
「どういうことでしょうか」
「敵が来ているから追っ払わないといけないと思ったんだと思うよ。犬は耳や鼻が人間よりもかなり良いからね」
ロード様は苦笑したあと、私の腕の中にいるハヤテくんの頭を再度撫でる。
「ちゃんとミレニアを守ってくれたんだね。偉いよ」
「バウッ!」
ロード様の言葉に尻尾を振りながら、ハヤテくんが「守ったよ」と言わんばかりに返事をする。
感謝の気持ちを込めて、私も頭を撫でてあげると、ハヤテくんは尻尾をもっと激しく振って喜んでくれた。
「メルもありがとう」
「ワン!」
メルちゃんもロード様に返事をしてから、嬉しそうに尻尾を振る。
そんなメルちゃんの頭を撫でたあと、ロード様は私に話しかけてくる。
「さて、こう何度も気軽に邸に来られても困るから対処させてもらおうかな」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。一応、御者には話をしておきました」
ハヤテくんを抱っこしたまま、頭を下げたせいか、ハヤテくんが頬を舐めてくれた。
すると、ロード様が慌てた顔で叫ぶ。
「ハヤテ、舐めちゃ駄目だ! 散歩の途中だから鼻や口を拭いてないだろ。ミレニア、本当にごめん。ハヤテは悪気はないんだよ」
「わかっています。あとで顔を洗いますから大丈夫ですよ」
さっきまで草むらに鼻を突っ込んだり、虫を見つけて土の匂いを嗅いでいたりしたものね。
お姉様を無視して話をしていたからか、不満そうな声が聞こえてくる。
「ちょっと、そこの2人! 何をほのぼのしているのよ! というかミレニア! わたしを無視しないでよ!」
「レニス嬢、いいかげんにしてくれ。これ以上、うちの門番やミレニアに迷惑をかけるというなら、甘い対応はしていられなくなるぞ」
「ちょっと、それってどういうことですか!? も、もしかして、魔王もわたしのことを好きになっちゃったんですか!?」
「何でそんな風に思えるんだよ。そんなわけないだろう」
ロード様はお姉様の言葉を否定したけれど、ポジティブ思考のお姉様の耳に、その言葉が届くことはない。
「どうしよう! ミレニア、本当にごめんなさいね! わたし、また、あなたの婚約者を奪うようなことになっちゃうかもしれないわぁ!」
「ミレニア、それは絶対にないから安心してくれ」
「信じております」
私とロード様が白けた顔で話をしている間も、お姉様は一人で話し続ける。
「そんなことになっちゃうんだったら、皆で一緒に住んじゃいます? わたしが、こちらの邸に引っ越して来てあげても良いんですよ!」
私とロード様は無言でお姉様を見つめた。
「な、何よ、どうかしたんですか?」
「……メル」
不思議そうにしている、お姉様の問いには答えずにロード様はメルちゃんに声を掛ける。
「メルはミレニアが好きか?」
「ワンッ!」
「あの女の人がいると、ミレニアはここにいたくなくなる。だから、追いやってくれ」
メルちゃんはロード様が指差した方向を見つめ、お姉様の姿を目で捉えた。
そして、もう一声吠えたかと思うと、お姉様に向かって走り出した。
「え!? うそ!? どうしてこっちに来るのよ!?」
お姉様とメルちゃんの間には高い鉄柵の門がある。
だから、メルちゃんがお姉様に近付くことはできても襲いかかることはできない。
それなのに、お姉様はパニックになって叫ぶ。
「嫌よ! モンスターが来るわ! 助けてっ!」
メルちゃんは門の前まで行くと、門番に向かって開けてくれと言わんばかりに何度も吠える。
門番がロード様のほうを見ると、ロード様は口には出さずに手で何かのサインをした。
門番はそのサインを見て、門の鍵に手を触れた。
「ちょっと! やめて! 開けないで! 怖いっ!」
お姉様は顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら懇願した。
そんなお姉様にロード様が言う。
「帰ってくれ。それから二度とここに来ないと誓え。そうすれば、メルを門の外には出さない」
「うっ! えっ! うっ! 嫌だけどっ、命は惜しいのぉっ! わかりましたぁ!」
お姉様は嗚咽をあげ、涙を手のひらで拭いながら首を何度も縦に振った。
そして、逃げるようにして馬車の中に自分から入っていく。
「どうして、あそこまで犬が嫌いなのに、一緒に住むという発想になるんだろうな」
「たぶん、その時に思い付いたことを、ただ口に出しているだけだと思います」
「これで大人しくなってくれるといいんだが」
お姉様を乗せた馬車が遠ざかっていくのを見ながら、私もそうなることを願った。
※
次の話はレニス視点になります。
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