婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ

文字の大きさ
36 / 52

30 何を考えているんでしょうか

しおりを挟む
 この話は外出中のロード様にも伝えられ、ロード様は予定をキャンセルして屋敷に帰ってきてくれた。

「大丈夫か!?」

 屋敷に入ってくるなり、ロード様はエントランスホールで出迎えていた私たちのところへ駆け寄ってきた。

「ワン!」

 ハヤテくんが「おかえりなさい!」といった感じで元気に吠える。

「ハヤテ、ごめんな。怖かっただろう?」
「うぅ~」

 ハヤテくんはロード様の言葉に応えるように鳴いて、ロード様の手や服に自分の顔を押し付けた。

 さっきまではおやつをもらって元気そうにしていたけれど、ロード様の顔を見て恐怖を思い出したのか「あんなに怖い思いをしたのに、どうしてもっと早くに帰ってきてくれなかったの?」と言っているようにも見えた。

 私にはこんな姿を見せてくれなかったから、やっぱり、ハヤテくんにとってのご主人はロード様なのね。
 それって当たり前のことなんだけれど、ちょっと寂しく感じてしまう気持ちと、やっぱりそうよね、と納得してしまう気持ちとがあって両方だ。

 そんな複雑な私の思いを感じ取ってくれたのか、メルちゃんが私の足に顔を寄せてくれた。

「ありがとう。メルちゃんは本当に優しいわね」

 頭を撫でると、メルちゃんはふさふさと尻尾を振った。





*****





 ロード様と側近の手によって、今回の詳しい話を調べた結果、ハヤテくんを捕まえようとした男性たちが全員、腕のある庭師であることは確認できた。
 そんな彼らの一人にルシエフ邸での仕事が決まってから、ある男性が近づいてきて、こう話しかけてきたのだと言う。

『ルシエフ邸に飼われている犬を連れてこれたら高い値段を払う』

 高い値段はいくらかと尋ねると、かなりの金額だった。
 その金額を聞いた庭師は、協力してもらうために知り合いの仲間たちに連絡した。
 犬がいなくなっても放し飼いにされているのであれば、勝手に外へ出ていってしまったと思ってくれるかもしれないという甘い考えが浮かんでしまったのだそうだ。

 庭師たちはとても反省しているということで、今回の処分は保留にしたけれど、今回の庭の手入れについては無報酬とした。
 このこともいけないことではあったけれど、ロード様たちが一番の問題視としたのは、騎士の警備体制だった。

 庭師として庭園内に入っているので、敷地内に入らせたことは許されても、簡単に邸内に入りこまれた上に、好き勝手させていたことが問題だった。
 この中に本当の賊が紛れ込んでいたら、ハヤテくんだけじゃなく、私や使用人たちにも危険があった。

 しかも、調整すれば騎士の人数を増やせたにもかかわらず、毎日が平穏なため、人数が少なくても何とかなるだろうという、今日のチームリーダの甘い考えが原因だった。

 そのチームリーダーは変更されたけれど、騎士団長たちには二度目はないとの警告だけで済んだ。
 何でもかんでも連帯責任で処分すべきものではないと考えたみたい。

「気になるのがハヤテをさらうように言ったという男性なんだが、風体を聞いてみると、ジーギスに似ているんだよな」
「行方不明になっていると聞きましたけど、もし、そうだったとしたら、一体、何を考えているんでしょうか」

 ジーギス様の考えていることは本当にわからない。
 だけど、引き続き、気を引き締めていかなければならないと思った。
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。  レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。  知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。  私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。  そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

処理中です...