価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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6  兄の悲痛な叫び

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「遅くなって悪かった。色々と手続きが手間取ったんだよ」

 そう言って、アズ…、じゃなくて、アズアルド殿下は悲しげな笑みを浮かべた。

「いいかげんにして下さい、アズアルド殿下! いくら何でも人の屋敷を歩き回るのは異常です!」

 お兄様がアズアルド殿下に向かって叫びながら、殿下の腕をつかもうとしたけれど、後ろから現れた男性に取り押さえられた。

「許可なく殿下に触れるのはおやめください。先程も殿下が仰られましたが、当主であるトニア公爵から邸内を歩く許可をいただいています」
「ノーラルは…、ノーラルはどうなっているんですか!」

 殿下達の相手をしているはずのノーラル様の姿が見えない事に気が付いたのか、お兄様は壁に押し当てられた状態で叫んだ。

「君の父から話は聞いていたが、兄上は本当に継母に夢中なんだね」

 殿下はお兄様の質問に答えず、私を独房の外に出してくれながら苦笑する。

「お父様に…? どういう事でしょうか?」

 殿下がここにいる事自体も驚きだけれど、殿下とお父様がお話をされている事にも驚いた。

「ルリ、僕はアズだから、学生時代と同じ様に話してほしいんだけど」
「アズアルド殿下とわかった以上は、そんな事は出来ません」
「…相変わらずだな…」

 殿下は苦笑すると、小首を傾げる。

「僕との話は聞いてるよね?」
「婚約の話でしたら、お聞きしております。…ルピノをご指名じゃなかったんですね」
「どうして、ルピノ嬢なんだよ…。ああ、ルリはアズアルドの事を知らなかったから、そう思ったのか」
「それはそうですね…。アズアルド殿下がアズだと思っていませんでしたし、アズアルド殿下は謎の多い人物でしたから」
「まさか他国に留学中だとは思っていなかった? でも、君と僕が仲良くなるきっかけを作ったのは、レブルンの国王陛下だよ」
「陛下が…?」

 聞き返した時だった。

「ルリ! 呑気に話をしている場合ではありません! 早く、私を自由にする様にお願いして下さい!」

 お兄様はノーラル様の様子が気になるらしく、今の自分の状況などどうでも良いようだった。

「殿下、トニア卿の事はどうされます?」

 お兄様の両腕を後ろにまわし、壁におさえつけている男性は黒い髪を揺らし、赤い瞳をこちらに向けた。

 とても整った顔立ちの男性で、どこか気怠げに見えるけれど、美形だからか、それが不快に思えない。
 あまりにも整った顔立ちだった為、ついつい、彼の顔を見ていると、殿下が眉を寄せる。

「ルリ、彼は駄目だ。彼には婚約者がいる。それに君には僕がいるだろ」
「勘違いなさらないで下さい! そういう意味で見ていたんじゃありません!」

 こんな状況で話す話ではないし、そんなつもりで見ていたわけではないので、慌てて否定すると、殿下は笑う。

「ごめんごめん、冗談だよ。ルリに久しぶりに会えて浮かれてた」

 殿下はそう答えた後、表情を引き締めてから声を掛けてきた彼に改めて言う。

「いくら妹であっても独房に閉じ込めるなんて、よっぽどの事があったんだと思う。理由を確認したい。詳しく話を聞きたいから、トニア公爵にお願いして部屋を借りてくれ。……と、その前に、トニア卿をうちの騎士に任せるか」

 殿下はそう言った後、私を促して独房がある地下から私を屋敷の1階まで連れ出してくれた…のは良かったのだけど、助けてもらった事で安堵したのと、太陽の光にこの何日か当たっていなかった事もあり、私の体が思う様に動かなかった。

「大丈夫か、ルリ? ちょっと失礼する」

 私よりも頭一つ分背の高い殿下は、悲しそうな顔で言った後、私を横抱きした。

「ちょっ!? えっ!? で、殿下!?」
「ルリの部屋は別邸だったな」
「そ、そうですが、殿下っ!」
「殿下、私が代わりに…」

 胸当てなどの防具や腰に剣を携えた騎士が慌てて何人か近寄ってきたけれど、殿下は言う。

「彼女は僕の婚約者になるんだ。他の男性に触らせたくない。それから、下でトーリが押さえつけている人間がいる…、って、もう来ちゃったか」
「何をされているんですか、殿下。彼を預けたら代わりますよ」
「トーリ、体調不良のアザレアを僕が抱き上げたらどうする?」
「………殿下でしたら…良いです」

 顔が見えないので表情はどうだかわからないけれど、そう答えた、トーリと呼ばれた男性の声は全然、良いようには聞こえなかった。

「全然、良くないだろ。そんな顔してよく言うよ」

 殿下は後ろを振り返ってそう言うと、トーリ様に顔を向けて続ける。

「さっきも言ったが、トニア卿を騎士に預けてから、トニア公爵に連絡してくれ」
「承知しました」

 トーリ様の返事が返ってくると同時に、お兄様が叫ぶ。

「アズアルド殿下! これは越権行為です! 国際問題になりますよ!」
「大丈夫だって言っているだろ。君の国の国王陛下と君の父には、逆らう場合は多少手荒な真似をしても良いという許可を得ている」
「そんな事が許されると思えません!」

 お兄様の言葉に、殿下は冷ややかな声で答える。

「婚約者が独房に閉じ込められているのに、その兄が止めるからと言って、ただ見ているだけで良いのか? その方がおかしいだろ?」
「おかしくなんかありません! 我慢する事も大切ですから!」

 お兄様が訴えると、殿下がトーリ様の名を呼ぶ。

「トーリ」
「何でしょうか、殿下」
「彼は、トニア公爵夫人をルリと同じ目にあわせないと理解できないみたいだ」
「承知いたしました。その件につきましては、トニア公爵に相談後、許可がおりましたら」
「ま、待ってください! ノーラルに罪はありません!」

 お兄様の悲痛な叫び声が聞こえたけれど、殿下はそれには答えずに歩き出し、私達の様子を遠くから見守っていたメイドに声を掛ける。

「ルリの部屋まで案内してくれないか」
「しょ、承知いたしました!」

 メイドは一礼してから殿下の先に立って、別邸に行く為か、エントランスホールに向かって歩き出したのだった。
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