辺境伯令息の婚約者に任命されました

風見ゆうみ

文字の大きさ
6 / 33

6  骨は大事よ

しおりを挟む
 イーサンにドレスを買ってもらうという話をした、約20日後には辺境伯の家での生活にも慣れて、私は居候の身でありながらも、彼に好き放題言えるようになっていた。

 その間に戦況が少し落ち着いたということで、イーサンと交代で家に帰ってきたジュード辺境伯やイライジャ様からは、特に反対されるどころか、イーサンの面倒くささを知っても、婚約者になってくれる人がいるなんて、と、感謝されてしまった。
 
 まあ、彼が変わっている事はわかっていたけれど、ここまでとは思ってもいなかったから、居候を決めてしまったんだけど、クソがつくほど真面目だけど、人が嫌がることはしない人だから、私も後悔はしていない。

 現在、私とイーサンは屋敷のエントランスホールにいた。
 ジュード辺境伯達がこちらに戻ってきている間は、イーサンが前線にいて、今日はまた入れ替わりで戻ってきたのだ。
 イーサンがエントランスホールに姿を現すと犬や猫に挨拶されまくり、しばらくは私と会話することも出来なかった。
 動物達が落ち着くのを待ってから、戦地から帰ってきた彼に、おかえりなさいの言葉よりも先に説教することにした。
 なぜなら、彼の周りに私の知らない犬や猫が混じっていたからだ。

「イーサン! どうしてそんなに捨て猫や捨て犬を拾って来るのよ!」
「捨て猫や捨て犬じゃない! 戦争で飼い主を失った子達だ!」
「……」

 そう言われると、何も言えなくなってしまう。
 一時、戦火が広がり、住宅地まで攻め込まれていて、着の身着のままで逃げる人が多かった。
 ジュード家が取り戻した領地の家に残されていた、犬や猫を、イーサンが保護して連れ帰ってくるせいで、かなり増えた。
 ジュード家に動物が多いのはそのせいだった。

 みんな、イーサンに保護された動物達だった。

 いや、犬や猫だけじゃなく、彼の人柄の良さが動物にも伝わるのか、野良になってしまった鶏やら牛やら馬やら、他の動物も一緒に連れて帰ってくるもんだから、ここ最近、家畜小屋を増築したらしい。
 イーサンが言うには、自分が飼い主だという人間が現れたら、その動物が嫌がらなければ渡してあげるつもりらしい。

 無事に本当の飼い主に会えるまで保護してあげているんだそう。

 悪いことではない。
 しかも、イーサンが家の中にいる動物に関しては、粗相をしないように躾までしているのだから。

「いいじゃないか。最初は君に懐かなかった動物も、君がボスだとわかって、今ではおとなしいだろ?」
「そりゃあ、そうでしょうね。というか、ボスとか言うのやめてくれない?」

 私は犬、猫のご飯係なので、私に可愛がられた方が得だと、動物達もわかってきているのか、最初は触らせようとしなかった子も、最近では「にゃーん」と鳴いて私にまとわりついてくる様になった。

「だって、君はボスじゃないか。それよりも、留守中に何も変わりはなかったか?」
「そうね。あなたの元婚約者から、あなた宛に手紙は送られてきていたけど」
「なんて?」
「あなた宛だし読んでないわ」
「まあ、読む必要もないだろうな」

 イーサンは大きく息を吐いてから、なぜか私を凝視するので、首を傾げて聞く。

「どうしたの?」
「こ、ここは抱擁すべきなのか?」
「抱擁はしなくて結構よ。そうだわ。おかえりなさい、イーサン。私に会えて嬉しい?」
「ただいま。すごく嬉しい」

 深い意味がないとはわかっているけど、迷うことなく頷かれると照れてしまう。

 こういうことに免疫がないものだから、しょうがない。

「でも、抱擁はお断りするわ」
「……なんでだ?」
「骨は大事よ」
「それはそうだな。骨折したら安静にしたらいい」
「は? なんで、骨折させる前提になってるのよ! それに内臓にささったら大変よ! というか、どうして近付いてくるの?」

 なぜか、イーサンがじりじりと近寄ってくるので、後退りしながら聞くと、彼はきっぱりと答える。

「抱擁する!」
「だから、断るって言ってんでしょうが!」
「健全でお互いに大事に思い合ってる婚約者同士なら、抱擁しないといけないと聞いたんだ!」

 イーサンは大真面目な顔をしてそう言うと、手を広げてくる。

 誰よ、このピュアな子にそんなことを教えたのは!

「今なら、誰も見ていない!」
「犬や猫に見られてるでしょう! 何より、風呂に入って! どうせ、何日も風呂に入れてないんでしょ!?」
「早く帰ったら喜んでくれると思って、ほとんど寝ずに、馬を乗り継いで帰ってきたのに……」

 しゅんと、イーサンは大きな肩を落とし、とぼとぼと自分の部屋のほうに向かって歩いていく。
 
 私は大きくため息を吐いてから、そんな彼の背中に向かって声を掛ける。

「イーサン。綺麗になったらいらっしゃい。抱きしめてあげるから」
「本当か!? 力いっぱい!?」
「なんで、力いっぱいなのよ……。でも、まあ、いいわ。力いっぱい抱きしめてあげるから、そのかわり、あなたは絶対に抱きしめ返さないでね?」

 腰に手を当てて呆れながら言うと、なぜか、イーサンは笑みを消して、一瞬、しょんぼりしたけれど、すぐに明るい笑顔になって頷いた。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪
恋愛
リラジェンマは第一王女。王位継承権一位の王太女であったが、停戦の証として隣国へ連行された。名目は『花嫁として』。 だが実際は、実父に疎まれたうえに異母妹がリラジェンマの許婚(いいなずけ)と恋仲になったからだ。 要するに、リラジェンマは厄介払いに隣国へ行くはめになったのだ。 ところで隣国の王太子って、何者だろう? 初対面のはずなのに『良かった。間に合ったね』とは? 彼は母国の事情を、承知していたのだろうか。明るい笑顔に惹かれ始めるリラジェンマであったが、彼はなにか裏がありそうで信じきれない。 しかも『弟みたいな女の子を生んで欲しい』とはどういうこと⁈¿? 言葉の違い、習慣の違いに戸惑いつつも距離を縮めていくふたり。 一方、王太女を失った母国ではじわじわと異変が起こり始め、ついに異母妹がリラジェンマと立場を交換してくれと押しかける。 ※設定はゆるんゆるん ※R15は保険 ※現実世界に似たような状況がありますが、拙作の中では忠実な再現はしていません。なんちゃって異世界だとご了承ください。 ※拙作『王子殿下がその婚約破棄を裁定しますが、ご自分の恋模様には四苦八苦しているようです』と同じ世界観です。 ※このお話は小説家になろうにも投稿してます。 ※このお話のスピンオフ『結婚さえすれば問題解決!…って思った過去がわたしにもあって』もよろしくお願いします。  ベリンダ王女がグランデヌエベ滞在中にしでかしたアレコレに振り回された侍女(ルチア)のお話です。 <(_ _)>

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...