辺境伯令息の婚約者に任命されました

風見ゆうみ

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7  ぶん殴るわよ

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 今日は先日、イーサンから頼まれた夜会に出席していた。

  デビュタントの前に、ムートー子爵夫妻がなくなってしまったから、夜会に出席するのは初めてで、ある程度のマナーはジュード家の女性陣に教えてもらった。

 主催者であるイーサンの友人への挨拶を終えたあと、イーサンから他の友人を紹介すると言われて、紹介された相手が、リアム・マオニール公爵閣下だった。

 長身痩躯で黒髪の短髪に透き通るような白い肌を持つ彼は、社交界では有名な美男子で、初めて見たけれど噂通り、ルックスが良すぎて直視しにくい。

 直視したら目がやられそう。

「クレア、紹介するよ、マオニール公爵だ。リアムと呼んだらいい」
「あのね、人にどう呼んでもらうかは、あなたが決めることじゃないの」

 イーサンに注意をしてから、マオニール公爵閣下にカーテシーをする。

「はじめまして、マオニール公爵閣下。クレア・レッドバーンズと申します。閣下にお会いできて光栄です」
「リアム・マオニールだ。よろしくね。閣下とかそういう堅苦しいの言い方はしなくていいよ。イーサンが言ったように、リアムと呼んでくれたらいい」

 男爵令嬢の私にしてみれば、公爵閣下なんて雲の上の存在に近い。

 この申し出に断れるわけもなく、素直に頷く。

「では、リアム様とお呼びさせていただきます。わたくしのことは、クレアで結構です」
「ありがとう。クレア嬢はイーサンの婚約者で一緒に住んでるって聞いたけど、イーサンに迷惑かけられてるんじゃない?」
「そうですね……。あ、いえ、そんな事ないです」

 迷惑とまでは思っていない。
 たまに、面倒だと思うことはあっても……。

 すると、イーサンが目をキラキラさせて言う。

「クレアはすごく怖いんだよ。だけど、言いたいことを言ってくれるし、勉強にもなるから助かってるんだ」
「そうか。でも、イーサン、あまり迷惑をかけるなよ?」
「わかってるよ。だけど、女性の心というのは難しいよな? クレアは、こうすれば女性が喜ぶという本に書いてある行動をやっても全然喜ばないんだ。もしかして、普通の女性じゃないのかな?」
「なんですって?」

 聞き返したのは私だ。
 なのに、その声が聞こえていなかったのか、イーサンはリアム様に言う。

「考えてみたら、リアム、すごいよな! クレアって普通の女性じゃないんだよ!」
「ぶん殴るわよ」
「ほら、リアム! すごいだろ! クレアは何もしてないのに、俺のことをぶん殴ろうとするんだぞ!」
「いや、そんないい笑顔で言うセリフじゃないだろ」

 リアム様が呆れた顔で、はしゃいでいるイーサンにツッコんだ。
 
「クレア嬢、イーサンの扱いに苦労するかもしれないけど、彼は良い奴なんだ。幸せになってほしいから、よろしく頼むね」
「わけのわからないことを言ったら、ぶん殴りますけどね」
「いいんじゃないかな、本人は喜んでるし」

 リアム様と私が話をしていると、イーサン笑顔で私達を見て言う。

「2人が仲良くなってくれて嬉しいよ。友人と婚約者が仲良いって良いことだよな。ぜひ、俺もリアムの奥さんとも仲良くなりたいし、クレアはリアムの奥さんと仲良くなってほしいなぁ」
「そうだね。クレア嬢、良かったら、今度、僕の妻の話し相手になってくれないかな? あと、なんだろう、イーサンには彼女を会わせたくない」
「どうしてだよ!?」
「僕の妻が良い子だからだよ」
「独り占めしたいのか? リアムのものなのに?」

 きょとんとした顔で言うイーサンの腕をつかんで、私に意識を向けさせてから言う。

「たとえば、私とリアム様がイーサンを無視して、ずっと仲良くしてたら寂しくない?」
「……なんか、嫌かもしれない。クレアは俺には全然笑ってくれないのに、リアムにはさっきは笑ってたし……」

 真剣に目を閉じて考えたイーサンは、目を開けたあと、しゅんとした顔で私に答える。

「元々、私が笑わないのはイーサンもわかってることでしょう! それに初めて会う人に、仏頂面を続けてるほうが失礼じゃないの。というか、あなたは人との距離感が近すぎるの。グイグイくることが嫌だと思っていても、リアム様の奥様は、それが嫌だと言えない性格かもしれないじゃない」
「そうか。そうだよな。本に書いてあった気がする。謝ろう」
「誰に謝るつもりよ」
「リアムの奥さんのアイリス様に」
「何でよ!?」
「まだ、何もしてないから謝る必要ないよ」

 リアム様が苦笑した時だった。

「そこにいるのって、ブサイク令嬢じゃなぁい?」

 どこかで聞いたことのあるような気がして振り返る。

 そこには、見たことのある女性がいた。
 
 誰だっけ?
 そうだわ!
 うだつの上がらない子爵の結婚相手の女性。
 私が家を追い出される原因を作った人だわ。

 ……名前が思い出せない。
 でも、まあ、いいわ。なんとか乗り切ろう。

 そんなことを考えている内に、スリットの入ったピンク色のイブニングドレスを着た女は、笑顔で私に近付いてきたのだった。
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