必要ないと判断したのはそちらでしょう?

風見ゆうみ

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1  おめでとうございます

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「おい役立たずの聖女。一日だけ待ってやるから、明日、この城を出ていけ」
「……出ていけ、ですか?」

 退去連絡は突然だった。

 伯爵令嬢であり、聖女の一人であるわたし、リンファ・テラエルは目の前にいるアウトン国の国王陛下であり、わたしの婚約者でもある、サウロン陛下に聞き返した。

 ビッグ大陸には、現在、十の国が存在しており、アウトン国もその一つだ。

 昔から大陸内に二人の聖女が存在し、一人が癒やしの聖女、もう一人が守護の聖女と呼ばれている。

 今から十年前である、わたしが七歳の時に守護の聖女の力が発動した。
 それからは、故郷であるセーフス国から無理やり、アウトン国へ連れてこられ、聖女の仕事をしながら、この王城内にある一室で暮らしていた。
 王城にあるといっても、部屋が広いだけで装飾品は一切なく、使用人の部屋と間違えられるほどに殺風景な部屋だ。

 それでも、わたしにとっては、この王城内で唯一安らげる場所だった。 

「聞こえなかったのか? 可哀想に。人としても無能になってしまったのだな?」
「ひ……、人として無能ですか!?」

 あまりの酷い言われように、わたしは窓際に置かれている安楽椅子から立ち上がって聞き返した。

「ああ、そうだ。先日、父上が亡くなった時も、お前は何も出来なかった!」
「その点につきましては、わたしの力不足なのは確かでございます」

 わたしは聖女ではあるけれど、回復魔法は不得手であるし、怪我は治せても、病気を治すことはできない。
  それが出来るのは、もう一人の聖女であり、わたしの友人でもある、チーチルだけだ。
 そして、それについては歴代の守護の聖女がそうであるから、仕方のないことでもあった。

 元々、先代の国王陛下には持病があった。
 けれど、最近は症状も落ち着いていて、まさか、急激に病状が悪化するとは誰も思っていなかった。
 毒を盛られたのではと、医師までもが疑っていた。
 病気や毒に関しての回復魔法が使えないわたしは、そばにいることしか出来ず、癒やしの聖女であるチーチルが城をあけている間に、先代の陛下はお亡くなりになった。

 陛下は息を引き取る間際に、息子であるサウロン様ではなく、わたしを呼ぶと「守ってやれなくてすまない」と謝られた。

 その時は、先代の陛下がどうして謝られたのかわからなかった。

 それよりも、わたしを可愛がってくれていた陛下が、突然、お亡くなりになってしまったことにショックを受けて、その意味を深く考える余裕もなかった。

 喪が明けてすぐの今日。
 新しい国王となったサウロン様がシルバーブロンドのショートボブの髪を揺らして、部屋に入ってこられ、彼の口から、先程の発言を聞いた時、陛下が謝られていた意味に気が付いた。

――わたしを追い出そうとしている動きがあったんだわ。

「おい! 聞いているのか!?」

 先代の国王陛下のことを考えていたせいで無言になっていたわたしに、 サウロン陛下は叫ぶ。

「1日だけ猶予をやろう! それから、父上を助けられない無能な聖女なんていらぬ! 婚約破棄案件だ! 私はお前と婚約破棄をし、チーチルと結婚する!」
「それはおめでとうございます」

 わたしという婚約者がいながらも、あとから現れた聖女、チーチルに、サウロン陛下が夢中になっているのは知っていた。

――こんな日が、いつかくるかもしれないとは思ってはいたわ。

 婚約破棄については、対して驚くことでもなかったので冷静に話す。

「婚約破棄の件や、二人のご結婚について、わたしから何も申し上げるつもりはございません。ですが、守護の聖女であるわたしに出ていけという理由がわかりません」
「ふん。何が守護の聖女だ。本当に力が使えているのかどうかわからないじゃないか!」
「最近は、魔物が出なくなりましたので、わたしの力が必要なくなっていることは確かかもしれませんわ」

 冷静に答えると、サウロン陛下は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「そうだろう! なら、お前はもう必要ない! 守護の聖女など、このアウトン国には必要はないのだ! 父上がお前の力も必要だと言い続けてきていたから、ここに置いてやっていただけだ!」
「……承知いたしました。明日の朝には荷物をまとめて、ここを出ていきます」
「ああ、そうしてくれ! お前の予算が浮いたら、チーチルに贅沢をさせてやれるからな!」
「ええ。存分に贅沢をさせてあげてくださいませ」

 わたしは頷いてから立ち上がり、ダークブラウンの緩やかなウェーブのかかった長い髪を揺らして微笑む。

「準備がありますので、部屋から出て行っていただけますでしょうか」
「当たり前だ! 最後の最後に聞き分けが良いことを評価して、今まで、お前にかかった費用については請求しないでおいてやろう!」
「それはありがたく存じます」
「物分りが良くて助かる」

 サウロン陛下は、大きな目を細めて満足そうに笑い、白のシャツの上に羽織っていた赤いマントを大きく翻し、部屋から出ていこうとした。

「あのっ、サウロン陛下っ、わたくしっ、怖いですっ! リンファには近くにいてほしいですっ!」

 そう言って、わたしの部屋に許可なく入ってきたのは、癒やしの聖女、チーチル・フェスタンだった。
 
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