必要ないと判断したのはそちらでしょう?

風見ゆうみ

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2  あなたなら出来るわ

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「ああ、愛しのチーチル!」
「陛下、駄目ですっ! 陛下はまだ、リンファの婚約者なんですからっ! そんなことを言ったら、浮気になっちゃいますよっ!」
「そんなに頬を膨らませなくてもいいだろう。可愛い私のチーチル」

 陛下は鼻の下をのばして、チーチルに近寄っていく。

「陛下ったらぁっ! わたくしのお話っ、聞いてますぅっ!?」

 チーチルはショッキングピンク色のストレートの髪と海の青のように綺麗な瞳を揺らし、中肉中背のサウロン陛下に、自分の小柄な体をぐりぐりと押し付けた。

「聞いているよ、愛しいチーチル」
「んもうっ! 聞いてるようには見えませんわっ!」

 二人はここ最近、人前でこんな風にイチャついては、一部の貴族は微笑ましく思われ、一部の貴族からは陰で鬱陶しがられていた。

「あの、痴話喧嘩でしたら、外でやっていただけませんでしょうか? ここはわたしの部屋なのですが?」

 人の部屋の出入り口付近でイチャイチャされても迷惑なので、出ていくようにお願いすると、チーチルは陛下から離れて、私にしがみついてきた。

「リンファ! 行かないでっ! わたくしっ、魔物となんか戦えないわっ!」
「チーチル、あなただって結界魔法が使えるんだから、魔物と戦わなくても大丈夫よ。結界を張って、魔物が近付けないようにすればいいだけなんだから」
「だけど、わたくしはっ、結界魔法は不得意なのっ! リンファだってっ、知ってるくせにぃっ!」

 チーチルの声は甲高く、独特な話し方をする。
 この話し方が、陛下にとっては可愛くてしょうがないらしい。

 もちろん、外見の可愛さでも、陛下はチーチルにメロメロだ。

「それはわかっているわよ。でも、大丈夫。あなたなら出来るわ!」

 チーチルの手を振り払い、距離を取ってから、笑顔で彼女を励ました。

 癒やしの聖女は回復魔法、守護の聖女は、結界魔法を使って、昔から人々を守ってきた。

 結界魔法というのは、邪悪な気を持ったものに対して反応する透明な壁だった。

 その壁は視認できない。

 けれど、たしかにそれは存在していて、人々が恐れる魔物だけでなく、人間の凶悪犯に関しても反応するため、結界を張った際に、その中に凶悪犯がいれば、強制的に結界の外へ排除されることになる。

 癒やしの聖女も守護の聖女も回復魔法も結界魔法の両方ともを使うことができる。

 けれど、守護の聖女と癒やしの聖女と二人に分かれているだけあって、癒やしの聖女は結界を広範囲には張れないし、張った壁は脆く、突破されやすいし、人間には反応しない。

 逆に守護の聖女は回復魔法を使えても、癒やしの聖女のように、大人数の人を一度に治すことはできないし、大怪我の場合は、1人を治すにもかなりの魔力が必要になる。

 そして、先代の陛下を救えなかったように、病気や毒などは治せない。

 嫌な気分を振り払うように首を横に振ってから、チーチルに言う。

「チーチル、ここ最近、魔物の動きはないわ。もう、この国にはわたしの力は必要ないのよ」

 わたしがここにやって来た時は、この国のあらゆる場所に魔物が存在していた。

 そのため、眠る暇もないほど、色んなところへ移動させられ結界を張り続けた。

 睡眠や食事も移動中の馬車でとることしか出来ず、ベッドで眠ることなど、昔はほとんどなかった。

「そんなことないわっ! リンファがいるからっ、魔物は大人しくなってるのよっ!?」
「そうかもしれないけれど、アウトン国にとって、わたしはもうお役御免みたい。ですわよね、サウロン陛下?」

 陛下に視線を向けると、彼は腰に手をおいて大きく頷く。

「そうだ。聖女は二人もいらん! しかも、金を使うだけの役に立たぬ聖女だ!」
「陛下っ! わたくしもっ、たくさん、お金を使っちゃってますぅっ!」
「チーチルは良いんだ、可愛いからな。これからは、リンファに使っていた金が浮くから、もっと贅沢が出来るぞ」
「あぁんっ! 陛下っ、大好きぃっ!」
 
 チーチルが陛下に抱きついた。

 チーチルは、さっきまで自分が言っていたことを忘れてしまったようだった。

 出ていってくれそうな気配がないので、二人を無視して荷造りを開始しながら考える。

 今、魔物の動きはは驚くくらいに大人しい。

 多くの人は、この静けさを恐れ、魔物が力を貯めつつ、人間が油断するのを待っているのではないかと考えている。

 だから、いま、私をこの国から追い出すのは悪手だと思われる。

 先代の国王陛下も、そう考えていらしたから、わたしを追い出そうだなんて考えていらっしゃらなかった。

 万が一のことを考えて、家に帰る道すがら、通り道だけでも結界を張って帰ろうかしら。

 勝手な判断をしたのは陛下であって、国民は何も悪くない。
 
 陛下に思い知ってもらうために、魔物が多く出る場所から、王城までの一本道を作ってしまう?

――駄目だわ。城で働いている人に良い人はたくさんいる。逃げ遅れたら意味がないわ。

 そうか、そうよ。
 陛下の部屋までの一本道を作って差し上げたら良い?

 そこまで考えたところで、ふと我に返る。

「ああ。わたしったら馬鹿なことを考えているわ……」

 陛下の突然の婚約破棄と退去連絡で、かなり動揺してしまっているみたい。

 すると、チーチルが先程の話を思い出したのか叫んだ。
 
「陛下ぁっ! やっぱりっ、リンファがいてくれないとっ、困るんですっ! わたくしのお願いを聞いてくださぁいっ!」
「悪い、チーチル。もうこのことは元老院も許可してるんだ」

 元老院とは、この国では国家の安全など政治的なことなどの判断をする際に、大きな影響力を持っている貴族の集まりのことを言う。

 他の国では違う意味合いなのかもしれないけれど、アウトン国ではそうだった。

 先代の陛下は、この元老院に手を焼いていた。

 陛下が判断を下しても、元老院が気に食わなければ多数決で却下してしまっていたと聞いた。

 先代の王妃陛下が亡くなってからは特に元老院の力がより強くなったと聞いている。

「元老院なんて知りませんっ! 陛下はっ、わたくしのことっ、本当に好きなんですよねっ!?」
「ああ、当たり前だ」
「ならっ、愛する人のためにっ、戦ってくださいっ!」

 チーチルは陛下の両手をつかんでお願いした。
 すると、陛下はチーチルの両腕を掴む。

「わかった! 愛する女性の望みを叶えてやれない国王など、あってはならぬからな! 必ずや、リンファをこの城に残してみせよう!」

 陛下は高々と宣言すると、チーチルを連れて、やっと部屋から出て行ってくれた。

 元老院が一度決めたことを覆すとは思えない。
 だから、気にせずに荷造りを進めた。

 そして、案の定、サウロン陛下の申し出は却下され、次の日の朝、わたしはトランクケース一つを持って、城から出ることになった。


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