必要ないと判断したのはそちらでしょう?

風見ゆうみ

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4  ただいま戻りました

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 久しぶりの実家は、王城を見慣れてしまったわたしにしてみれば、少し小さく見えてしまったけれど、懐かしくて心が和らいだ。

 門の前に立って、実家に戻ってこれた幸せを噛み締めていると、若い男性の門番が声を掛けてくる。

「おい、ここはテラエル伯爵邸前だ! 平民が近付いて良い場所ではないぞ! 今すぐここから離れろ!」
「わたし、平民ではないのですけど!」

 若い門番だからか血気盛んなようで、わたしが帰ってくることは聞かされているだろうに、そんなことを気にする様子もない。

「そんなみすぼらしい格好の貴族がいるものか!」

 指をさされて気が付く。

 わたしの服装は、現在、庶民に流行っている服装で水色のワンピースに白のショールを羽織っていた。

「みすぼらしい格好はひどくない!? あと、わたし、ここの家の人間だから!」

 偏見が酷いと感じたので、声を荒げて言い返した。
 すると、若い男性と一緒に門番をしていた中年の男性が、若い男性を注意する。

「おい、失礼な言い方をするな。この方がリンファ様だったらどうするんだ!」
「先輩、聖女様でしたら、もっと華があるはずですよ」

 若い男性が失礼なことを言った時だった。

 屋敷の方から、執事服を着た男性が走ってくる姿が見えた。

「リンファお嬢様! リンファお嬢様ですね!?」

 近寄ってくる男性を見つめてみる。
 髪の毛に白いものや顔のシワが増えてしまっているけれど、お父様の執事のルトランだとわかった。

「ルトラン! 久しぶりね!」
「ああ! お嬢様! 覚えてくださっていたのですね! ご立派になられて……!」

 ルトランは感激した様子だけれど、わたしは若い門番を見ながら答える。

「彼にさっきまで、平民だと言われていたのだけど、立派な平民に見える?」
「へ、平民ですと!?」
「わたしが平民だと言ったのならわかるのだけれど、彼の思い込みで、勝手に決めつけられてしまっているの」

 他のお客様に対して、こんな態度を取ったりしては大変だから、懲らしめるためにもルトランに話をすると、門番は顔を真っ青にして謝ってくる。

「申し訳ございませんでした! まさか、リンファお嬢様だとは思っていなかったのです!」
「怪しむことは大事だから、あなたの対応が全て間違っていたとは言えないけれど、相手が誰だかわからないのであれば、決めつけは良くないわ」
「申し訳ございません! もう二度とこのようなことは致しませんので、お許しください!」

 体を折り曲げるようにして謝ってくる門番を見てから、ルトランを見る。

 ルトランの顔が「許してやってもらえませんか」と言っているように見えたので頷く。

「いいわ。今回の件は大目に見ましょう」
「ありがとうございます! やはり、リンファ様は聖女様ですね!」

 若い門番は茶色の瞳をキラキラさせて言った。

――調子の良い門番ね。

 この世界の聖女は心が綺麗だからとか、そういう理由で決まるわけではない。

 ただ、極悪人ではないことだけは言える。

 守護の聖女はとても変わった体質を持っていて、強い悪意を持った人間がわたしに近付くと、あることが起こる。

 でも、彼は、そうならなかったから、根は良い人なのだと思う。

「リンファお嬢様、旦那様達はお嬢様のお帰りを首を長くして待っておられます。さあさあ、中へどうぞ」
「ありがとう。わたしも楽しみだわ」

 ルトランはトランクケースをわたしから受け取ると、邸に向かって歩き出した。




「リンファ! ああ! 本当に大きくなって!」

 記憶にあるよりも、やはり少し老けてしまっているけれど、お母様とお父様の顔を見た瞬間、懐かしさがこみあげてきた。
 そして、何も言えないで立ち尽くすわたしを、お母様は抱きしめてくれた。

「会いたかったわ、リンファ」
「お母様、お久しぶりです。わたしもお会いしたかったです」
「ごめんね、リンファ。私達に力があれば、もっと早くにあなたを解放してあげられたのに」

 わたしと背丈の変わらない、可愛らしい顔立ちのお母様は、紺色の瞳を揺らし、わたしの頬を撫でながら言った。

「気になさらないでください。聖女の力は善良な人達を守るためにあるのですから」
「リンファ」
 
 お父様に名を呼ばれ、お母様に抱きしめられた状態で視線だけ、お父様のほうに目を向ける。

「おかえり」
「ただいま戻りました」

 小さい頃、友人達に素敵だと褒められた、顔立ちの整った温和な見た目のお父様は、相変わらず優しい表情で頷いた。

「リンファ! 俺だよ! 兄さんだけど、覚えてるか!?」
「ええ。シルスお兄様ですわね。たくさん、お手紙をありがとうございました」

 私と同じ髪色、同じ瞳を持つ、三歳年上のお兄様は、お父様と同じく長身痩躯で、記憶にあるお父様の雰囲気とそっくりだった。

 シルスお兄様は、わたしがアウトン国に連れて行かれる際に、必死になって守ろうとしてくれていたのを覚えている。

 ランという黒髪と紅い瞳が印象に残る綺麗な女の子と一緒に抵抗してくれていた。

――そういえば、ランはどうしてるのかしら。

 そのことは後で尋ねることにして、今は家族との再会を存分に喜ぶことにした。

 私が実家で幸せをかみしめていた頃、チーチルとサウロン陛下達は、アウトン国内にある森の入口で苦労していた。




※次話はサウロン視点になります。
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