必要ないと判断したのはそちらでしょう?

風見ゆうみ

文字の大きさ
9 / 18

7  一応、聖女ですけど……

しおりを挟む
 王城に着くと、ラン自らが謁見の間までわたしを案内してくれた。
 謁見の間で両陛下に挨拶を終え、しばらくは、セーフス国内にある実家でゆっくりしたい旨を伝えると、自分の国に聖女がいることは歓迎だと言ってくださり、各国にも伝えてくださるとのことだった。

 そして、婚約者がいなくなったことを再度、確認されたので、婚約破棄されたと伝えると、ランとの婚約を考えてほしいと言われてしまった。

 わたしとランがそれを聞いて慌てたからか、両陛下は笑って、結論は急がないと言ってくださったので、家に帰って両親に相談することに決めた。

 改めて、歓迎の宴を開くから今日のところは帰って良いと言われ、謁見の間を出ると、ランに話があると言われた。

 特に、この後の用事もないので、ランと少し話をしてから帰ることにした。

 王子と伯爵令嬢という関係性ではなく、王子と聖女だと、身分に大きな差がないため、人前以外では、ランディス殿下をランと呼び、敬語も使わなくて良いという話になった。

「そういえば、リンファがアウトン国に連れて行かれたあとの話なんだけど」
「あ、うん。何かあった?」
「俺のところに話す犬が来たんだよ」
「話す犬?」

 驚いて聞き返すと、ランが頷く。

「ああ。自称フェンリル」
「自称というのがよくわからないけれど、フェンリルって、わたし達の世界では伝説の生き物であって、実物を確認した事ってないんじゃないの?」
「ああ。だから、自称だし、見た目だけではフェンリルだとは思えない」

 フェンリルというのは、私達の世界では灰色の長い毛を持つ、普通の狼よりもひとまわり大きなオオカミのことだ。

 アウトン国で読んだ歴史書では大型犬よりもかなり大きな体をしていると記述されていて、聖なる獣や、聖獣とも言われており、多くの人々の信仰対象にもなっている。

「その、自称フェンリル? は魔物ではないのね?」
「無害だと思うんだが、それを確かめてもらいたいんだよ。すごく口調が偉そうだけど、見た目は異国の可愛らしい犬なんだ」
「異国の犬……」

――どんな犬なのかしら? フェンリルというくらいだから、大型犬よね?

 連れて行かれたのは、ランの自室だった。

 未婚の男女が部屋で二人きりというのもどうかと思われたけれど、自称フェンリルについては、両陛下とランのお兄様しか知らないらしく、城の中だということもあり、誰かに見られて言いふらされることもないだろうということで中に入った。

――子供の頃とはいえ、結婚の約束をしているわけだし、両陛下だって、私とランとの婚約を考えてくださっているくらいだから、別に良いわよね?

 人様の部屋なので、あまりキョロキョロと見回さないようにして、ランの後について部屋の奥に進んでいく。

 ウォークインクローゼットをまるまる、自称フェンリルが使っているらしく、ランが扉を開けると、甲高い声が聞こえた。

「おい! ランディス! 腹が減ったのじゃ。クッキーを持ってくるのじゃ!」

 声が聞こえてきた方向の足元を見てみると、小さな真っ白い三角耳の犬が、ランを見上げていた。

「犬種はチワワというらしい」
「チワワに似てるだけじゃ! 本当はフェンリルなのじゃーっ!」

 黒目がくりくりで、ふわふわの毛を持つ犬は、わたしの両掌くらいの大きさで、ぷるぷる体を震わせて叫んだ。

 可愛い!

 そう思ったあと、ランに聞いてみる。

「えっと、これ、フェンリル?」
「自称フェンリルのチワー」
「チワー?」

 聞き返すと、チワーはわたしの方に顔を向けて言う。

「ランティスはネーミングセンスが壊滅的じゃ! チワワに似てるから、名前はチワーだなどとぬかしよるのじゃ!」
「おい、リンファのスカートの中を覗くなよ」
「ランティス! わしは聖獣じゃぞ! そんなことをするわけがながろう! む! この感じは、お主、聖女じゃな!?」
 
 チワーはランに抗議するように、何度か左の前足で床をペシペシと叩いたあと、ハッとしたように口をあけて、わたしを見上げた。

「はい。一応、聖女ですけど……」
「やはりな! ちょっと失礼するぞ」

 チワーはそう言って、左の前足を私の右足にのせた。

 すると、突然、わたしとランの目の前に、熊くらいの大きさのふわふわした、灰色の長い毛を持つ生き物が現れた。
 大きさが規格外だけれど、それを考えなければ優しい目をした狼とも言える。

「リンファ!」

 ランがわたしを引き寄せ庇うように立ってから、大きな動物に向かって尋ねる。

「チワーなのか?」
「そうじゃ! こんにちは、のチワーじゃ!」
「チワワのチワーって言ってるだろ」

 胸を張って言うチワーに、ランが呆れた顔で言った。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

これまでは悉く妹に幸せを邪魔されていました。今後は違いますよ?

satomi
恋愛
ディラーノ侯爵家の義姉妹の姉・サマンサとユアノ。二人は同じ侯爵家のアーロン=ジェンキンスとの縁談に臨む。もともとはサマンサに来た縁談話だったのだが、姉のモノを悉く奪う義妹ユアノがお父様に「見合いの席に同席したい」と懇願し、何故かディラーノ家からは二人の娘が見合いの席に。 結果、ユアノがアーロンと婚約することになるのだが…

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

婚約者を奪われた私は、他国で新しい生活を送ります

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルクルは、エドガー王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。 聖女を好きにったようで、婚約破棄の理由を全て私のせいにしてきた。 聖女と王子が考えた嘘の言い分を家族は信じ、私に勘当を言い渡す。 平民になった私だけど、問題なく他国で新しい生活を送ることができていた。

絶縁状をお受け取りくださいませ旦那様。~離縁の果てに私を待っていたのは初恋の人に溺愛される幸せな異国ライフでした

松ノ木るな
恋愛
 アリンガム侯爵家夫人ルシールは離婚手続きが進むさなかの夜、これから世話になる留学先の知人に手紙をしたためていた。  もう書き終えるかという頃、扉をノックする音が聞こえる。その訪ね人は、薄暗い取引で長年侯爵家に出入りしていた、美しい男性であった。

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

処理中です...