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9 まだ早い!
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わたしとラン、そしてチワーは、陛下達にアウトン国で魔物の動きがあったと連絡したあと、魔道具を使って、チワーが感じたという森の近くまでやって来た。
セーフス国にいた時は気付かなかったけれど、この国に入ると気分が悪くなるくらいに、多くの魔物の気配を感じた。
元々、この森には魔物が多く存在していて、結界を張っておいた場所だったから、予想はしていたけれど、思っていた以上に魔物の気配を感じた。
森の中は昼間でも暗いので、人は入らないようにしてもらっているし、この近辺には民家はないから、今のところ、誰かが犠牲になったりはしていなさそうだった。
「……かなりの数ですね。こんなに発生してるなんて思っていませんでした」
「そうじゃな。それだけ生きづらい世の中になっておるのじゃろ」
チワーはわたしの言葉に頷いたあと、ランに尋ねる。
「援軍は来るのじゃろ?」
「魔道具を使っての入国だから、俺達がここに来ることはアウトン国の入管も知っているし、父上がアウトン国の陛下に連絡を入れてくれている。でも、すぐには来れないんじゃないか? この辺は田舎といった感じだし……」
「サウロン陛下は援軍なんか送ってこないわ」
わたしが首を横に振ると、ランと、わたしの腕に抱かれているチワーが、わたしの顔を見た。
「陛下はわたしが仕事をサボっていると思っているの。だから、一人でなんとかしろというに決まっているわ」
「リンファがサボっているとかいう言い方をするのも腹が立つけど、たとえそうだとしても、援軍を送らないのはおかしいだろ!?」
ランが声を荒げるので苦笑する。
「そういうお方なのよ」
「信じられないな」
わたしの様子を見て冷静になったのか、ランは大きく息を吐いたあと、チワーに言う。
「そういうことらしい」
「なんという奴じゃ! そんな奴の近くにいれば、リンファの聖なる力も弱まるわけじゃ!」
チワーが怒りの声を上げたので、邪気に包まれて枯れそうになっている木に触れながら聞いてみる。
「それって、どういうことなのでしょう? 性格の良くない人達の近くにいると、聖女の力は弱まるということですか?」
「そうじゃ。性格の良くない人間の近くにいると、リンファだって嫌な思いをすることがあるじゃろ?」
「そう言われてみればそうですね。聖女が考えるには良くないと思われることを考えてしまうこともあります」
頷いたと同時、触れていた木が一瞬にして生き返ったかのように青々とした葉を繁らせた。
「すごいな、これが聖女の力か……」
ランが驚いた顔をするので、微笑んでから頷く。
「そうよ。聖なる力で邪悪な力を祓ってるといった感じかしら。これはチーチルにも出来るわ。ただ、邪悪な力が強すぎる場合は、わたし達のほうが危なくなるから気を付けないといけないの」
「闇の力にのみこまれるってことか」
「そうだと思うわ」
ランの言葉に頷くと、チワーが言う。
「ランディス! リンファにはわしがついておるから心配するな」
「チワワなのに?」
「チワワではない! これは仮の姿で、わしはフェンリルだと言うておるじゃろ!」
ランに遊ばれているチワーを気の毒に思ったあとに気付く。
「ラン、もしかして、あなたのそういう態度もチワーを弱らせてしまっているのかもしれないわ」
「信仰心が薄れているというやつか……」
ランが眉根を寄せると、チワーが慌てて言う。
「やめるのじゃ。ランディスがわしを敬うような態度になったら気持ちが悪い!」
「どういう意味だよ……」
「そのままの意味じゃ!」
呆れた表情のランに向かって、チワーは前足をわたしの腕にペシペシとあてながら続ける。
「ランディス一人くらいでは、わしの力は戻らぬ!」
チワーが目をウルウルさせるので、わたしとランは顔を見合わせて苦笑する。
「わかったよ」
「変なことを言ってごめんなさい」
ランが頷き、わたしが謝ると、チワーはウルウル目をこちらに向けて言う。
「リンファも悪くはないのじゃ。わしのことを考えてくれたのじゃろ?」
「それはそうですけど……」
「敬語もいらぬ! リンファはわしの言うことが聞けぬのか?」
チワーはプルプル震えながら聞いてきた。
そんな可愛い顔をして言われたら、いくら相手が聖獣だとわかっていても頷かざるをえなかった。
「わかったわ。聖女としてこれからも頑張るから、一緒にいてくれる?」
「もちろんじゃ! あ!」
いきなり、チワーが大きく口を開いたので、わたしとランは驚きの声を上げる。
「どうかしたの!?」
「どうかしたのか!?」
「わ、わしは、どうすればいいのじゃ!?」
チワーはさっきよりも震え、わたしとランを交互に見ながら言う。
「わしの体は一つしかないんじゃ! ランディスとリンファ、どちらの部屋にいればいいのじゃ!?」
「……リンファ」
少しの間のあと、ランが話しかけてきたので返事をする。
「なに?」
「とにかく結界を張ってもらえるか?」
「わかったわ」
呆れ顔のわたしとランを不思議そうに見たあと
、チワーが言う。
「そうじゃ! お主ら、一緒に住むが良い! そうすれば問題解決じゃ!」
「まだ早い!」
ランとわたしの叫ぶ声が重なった。
セーフス国にいた時は気付かなかったけれど、この国に入ると気分が悪くなるくらいに、多くの魔物の気配を感じた。
元々、この森には魔物が多く存在していて、結界を張っておいた場所だったから、予想はしていたけれど、思っていた以上に魔物の気配を感じた。
森の中は昼間でも暗いので、人は入らないようにしてもらっているし、この近辺には民家はないから、今のところ、誰かが犠牲になったりはしていなさそうだった。
「……かなりの数ですね。こんなに発生してるなんて思っていませんでした」
「そうじゃな。それだけ生きづらい世の中になっておるのじゃろ」
チワーはわたしの言葉に頷いたあと、ランに尋ねる。
「援軍は来るのじゃろ?」
「魔道具を使っての入国だから、俺達がここに来ることはアウトン国の入管も知っているし、父上がアウトン国の陛下に連絡を入れてくれている。でも、すぐには来れないんじゃないか? この辺は田舎といった感じだし……」
「サウロン陛下は援軍なんか送ってこないわ」
わたしが首を横に振ると、ランと、わたしの腕に抱かれているチワーが、わたしの顔を見た。
「陛下はわたしが仕事をサボっていると思っているの。だから、一人でなんとかしろというに決まっているわ」
「リンファがサボっているとかいう言い方をするのも腹が立つけど、たとえそうだとしても、援軍を送らないのはおかしいだろ!?」
ランが声を荒げるので苦笑する。
「そういうお方なのよ」
「信じられないな」
わたしの様子を見て冷静になったのか、ランは大きく息を吐いたあと、チワーに言う。
「そういうことらしい」
「なんという奴じゃ! そんな奴の近くにいれば、リンファの聖なる力も弱まるわけじゃ!」
チワーが怒りの声を上げたので、邪気に包まれて枯れそうになっている木に触れながら聞いてみる。
「それって、どういうことなのでしょう? 性格の良くない人達の近くにいると、聖女の力は弱まるということですか?」
「そうじゃ。性格の良くない人間の近くにいると、リンファだって嫌な思いをすることがあるじゃろ?」
「そう言われてみればそうですね。聖女が考えるには良くないと思われることを考えてしまうこともあります」
頷いたと同時、触れていた木が一瞬にして生き返ったかのように青々とした葉を繁らせた。
「すごいな、これが聖女の力か……」
ランが驚いた顔をするので、微笑んでから頷く。
「そうよ。聖なる力で邪悪な力を祓ってるといった感じかしら。これはチーチルにも出来るわ。ただ、邪悪な力が強すぎる場合は、わたし達のほうが危なくなるから気を付けないといけないの」
「闇の力にのみこまれるってことか」
「そうだと思うわ」
ランの言葉に頷くと、チワーが言う。
「ランディス! リンファにはわしがついておるから心配するな」
「チワワなのに?」
「チワワではない! これは仮の姿で、わしはフェンリルだと言うておるじゃろ!」
ランに遊ばれているチワーを気の毒に思ったあとに気付く。
「ラン、もしかして、あなたのそういう態度もチワーを弱らせてしまっているのかもしれないわ」
「信仰心が薄れているというやつか……」
ランが眉根を寄せると、チワーが慌てて言う。
「やめるのじゃ。ランディスがわしを敬うような態度になったら気持ちが悪い!」
「どういう意味だよ……」
「そのままの意味じゃ!」
呆れた表情のランに向かって、チワーは前足をわたしの腕にペシペシとあてながら続ける。
「ランディス一人くらいでは、わしの力は戻らぬ!」
チワーが目をウルウルさせるので、わたしとランは顔を見合わせて苦笑する。
「わかったよ」
「変なことを言ってごめんなさい」
ランが頷き、わたしが謝ると、チワーはウルウル目をこちらに向けて言う。
「リンファも悪くはないのじゃ。わしのことを考えてくれたのじゃろ?」
「それはそうですけど……」
「敬語もいらぬ! リンファはわしの言うことが聞けぬのか?」
チワーはプルプル震えながら聞いてきた。
そんな可愛い顔をして言われたら、いくら相手が聖獣だとわかっていても頷かざるをえなかった。
「わかったわ。聖女としてこれからも頑張るから、一緒にいてくれる?」
「もちろんじゃ! あ!」
いきなり、チワーが大きく口を開いたので、わたしとランは驚きの声を上げる。
「どうかしたの!?」
「どうかしたのか!?」
「わ、わしは、どうすればいいのじゃ!?」
チワーはさっきよりも震え、わたしとランを交互に見ながら言う。
「わしの体は一つしかないんじゃ! ランディスとリンファ、どちらの部屋にいればいいのじゃ!?」
「……リンファ」
少しの間のあと、ランが話しかけてきたので返事をする。
「なに?」
「とにかく結界を張ってもらえるか?」
「わかったわ」
呆れ顔のわたしとランを不思議そうに見たあと
、チワーが言う。
「そうじゃ! お主ら、一緒に住むが良い! そうすれば問題解決じゃ!」
「まだ早い!」
ランとわたしの叫ぶ声が重なった。
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