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10 了解!
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森の周りに結界を張り、森の中に魔物を閉じ込める形にしてから、魔導具でセーフス国に戻った。
アウトン国の森の状況をセーフス国の国王陛下に報告し終えたあとは、ランに家まで送ってもらい、わたしはチワーを連れて家に帰った。
チワーが聖なる力を取り戻すのに、わたしの近くにいたほうが良いと決まったからだ。
チワーは長年、一緒にいたランと離れることになるので、黒い大きな目をウルウルさせて「一緒にリンファの家に行くのじゃ」と駄々をこねて大変だった。
「近いうちに会いに行くから」
ランにそう諭されて、チワーは渋々、我が家にやって来た。
家に帰ると、ランとわたしの婚約についての話は、すでに実家のほうに届いていて、お兄様にはニヤニヤされたし、お母様とお父様はとても喜んでいて、この話を受けるかどうか確認してきたので、受けると答えた。
婚約についての話を終えたあと、鞄の中に隠していたチワーを家族に見せると、お父様達だけでなく、お姉様やお義兄様も目を輝かせた。
チワーが聖獣だと話すと、神妙な顔つきになったけれど、チワーが「触れてもよいぞ」と言うと、みんな、チワーを愛玩動物と同じように可愛がった。
チワーも満更ではない様子で、機嫌良さげに自分を触らせていた。
チワーの存在に関しては、お義兄様も含む家族だけの秘密にし、メイド達にも知らせないことにした。
屋敷で働いている使用人達も悪い人達ではないかもしれないけれど、チワーは聖獣だし、あまり、人の目に触れさせないようにするようにとセーフス国の陛下に言われたからだ。
結界を実家の周りに張っておいたので、チワーの存在が他の人にバレたとしても、チワーを盗もうとしたり、危害を加えようとする人は、絶対に入ってこれないようにした。
「うーん」
次の日の朝、久しぶりに、部屋のベッドで本を読んでいると、足元で寝転んでいたチワーが唸った。
「どうかしたの?」
「いや、わしというのをやめて、自分のことを、われ、と呼ぶようにしようかと思っておってじゃな」
「……そうなの?」
「わしというのは、父上が自分のことを呼ぶときに言っておったのじゃ」
「……」
チワーのお父様は今、どうしているのか気になったけれど、チワーの目が潤んでいることに気が付いたので、聞くのはやめた。
「われ、でも良いと思う。チワーはオスだから、オレとかボクとかでも良いと思うけど」
「われ、のほうが偉い感じがするじゃろ?」
「うーん。まあ、特別感はあるかもしれないわね」
頷くと、チワーは満足そうに言う。
「では、われ、でいくぞ!」
「了解!」
宣言したチワーに元気良く頷いた時、部屋の扉がノックされた。
「はい」
返事を返すと、部屋にやってきたのはお父様だった。
お父様の手に封筒が握られていて、わたしがベッドから起き上がると、近くにやって来て口を開く。
「サウロン陛下から連絡が来ている。リンファが結界を張った場所以外にも魔物が怪しい動きをしていると思われる場所があるようだ。だから、戻って来いと」
「チーチルは何をしているのでしょう」
「それについては、ここには何も書かれていないな」
お父様の答えを聞いたチワーが言う。
「ふむ。さすがのわれでも、小さな動きでは魔物の動きを感じ取れぬからなあ……。でも、チーチルというのも聖女なのじゃろ?」
「そうよ。彼女は癒やしの聖女なの」
「そうか……。癒やしの聖女か……」
「……どうかしたの?」
チワーの目がまたウルウルしていたので、今度はつい聞いてしまった。
「いや、父上と母上のことを思い出してしまったのじゃ」
「そう……。ごめんね」
思い出したくないものを思い出させてしまった気がして謝ると、チワーは首を横に振る。
「気を遣わせてすまなかった。われはもう大丈夫じゃ」
「チワー様。サウロン陛下からの手紙にはリンファにすぐにアウトン国に戻ってくるようにと書かれているのですが、こちらとしては、セーフス国の国王陛下であられるセルデス陛下に相談しようと思うのですが」
「人間同士、色々とあるじゃろうから、そこは任せる。今のところ、すぐに動かなければならない場所はなさそうじゃ。ただ、セーフス国も含め、他の国は安定しておるのに、なぜ、アウトン国だけ魔物が増えておるのじゃろ」
チワーがちょこんとお座りをして、大きく首を傾げる。
「この世界での魔物は生き物の負の感情を吸収して出来上がると聞いたことがあるのですが、それは本当なのですか?」
チワーにお父様が質問を返すと、チワーは大きく首を縦に振る。
「そうじゃ。怒り、憎しみ、悲しみなどもそうじゃが、悪巧みをする人間の感情も負の感情になる。アウトン国にはその気が多く集まっているということになるのじゃが」
「そうなると、サウロン陛下もそうだけど、元老院も怪しいわ」
わたしを国から追い出すことを考えるだなんて、国の中枢を担う人間が考えることじゃない。
「もしかすると、国の乗っ取り、もしくはどこかの国に戦争を仕掛けようとしているのかもしれないのじゃ」
「セルデス陛下にそのことを報告してもよろしいでしょうか」
「かまわぬ!」
チワーの許可を得た、お父様はわたしを見る。
「今のところ、人々に被害が出る心配がないのなら、リンファは待機していなさい。陛下のところには私が行ってくるから」
「待て! 城に行くのか!?」
「……そうですが」
チワーはベッドから飛び降り、お父様の足に前足をのせる。
「われも行くぞ! ランディスに会いに行くのじゃ! リンファも行くのじゃ!」
チワーったら、もうホームシックみたいになってるのね……。
アウトン国の森の状況をセーフス国の国王陛下に報告し終えたあとは、ランに家まで送ってもらい、わたしはチワーを連れて家に帰った。
チワーが聖なる力を取り戻すのに、わたしの近くにいたほうが良いと決まったからだ。
チワーは長年、一緒にいたランと離れることになるので、黒い大きな目をウルウルさせて「一緒にリンファの家に行くのじゃ」と駄々をこねて大変だった。
「近いうちに会いに行くから」
ランにそう諭されて、チワーは渋々、我が家にやって来た。
家に帰ると、ランとわたしの婚約についての話は、すでに実家のほうに届いていて、お兄様にはニヤニヤされたし、お母様とお父様はとても喜んでいて、この話を受けるかどうか確認してきたので、受けると答えた。
婚約についての話を終えたあと、鞄の中に隠していたチワーを家族に見せると、お父様達だけでなく、お姉様やお義兄様も目を輝かせた。
チワーが聖獣だと話すと、神妙な顔つきになったけれど、チワーが「触れてもよいぞ」と言うと、みんな、チワーを愛玩動物と同じように可愛がった。
チワーも満更ではない様子で、機嫌良さげに自分を触らせていた。
チワーの存在に関しては、お義兄様も含む家族だけの秘密にし、メイド達にも知らせないことにした。
屋敷で働いている使用人達も悪い人達ではないかもしれないけれど、チワーは聖獣だし、あまり、人の目に触れさせないようにするようにとセーフス国の陛下に言われたからだ。
結界を実家の周りに張っておいたので、チワーの存在が他の人にバレたとしても、チワーを盗もうとしたり、危害を加えようとする人は、絶対に入ってこれないようにした。
「うーん」
次の日の朝、久しぶりに、部屋のベッドで本を読んでいると、足元で寝転んでいたチワーが唸った。
「どうかしたの?」
「いや、わしというのをやめて、自分のことを、われ、と呼ぶようにしようかと思っておってじゃな」
「……そうなの?」
「わしというのは、父上が自分のことを呼ぶときに言っておったのじゃ」
「……」
チワーのお父様は今、どうしているのか気になったけれど、チワーの目が潤んでいることに気が付いたので、聞くのはやめた。
「われ、でも良いと思う。チワーはオスだから、オレとかボクとかでも良いと思うけど」
「われ、のほうが偉い感じがするじゃろ?」
「うーん。まあ、特別感はあるかもしれないわね」
頷くと、チワーは満足そうに言う。
「では、われ、でいくぞ!」
「了解!」
宣言したチワーに元気良く頷いた時、部屋の扉がノックされた。
「はい」
返事を返すと、部屋にやってきたのはお父様だった。
お父様の手に封筒が握られていて、わたしがベッドから起き上がると、近くにやって来て口を開く。
「サウロン陛下から連絡が来ている。リンファが結界を張った場所以外にも魔物が怪しい動きをしていると思われる場所があるようだ。だから、戻って来いと」
「チーチルは何をしているのでしょう」
「それについては、ここには何も書かれていないな」
お父様の答えを聞いたチワーが言う。
「ふむ。さすがのわれでも、小さな動きでは魔物の動きを感じ取れぬからなあ……。でも、チーチルというのも聖女なのじゃろ?」
「そうよ。彼女は癒やしの聖女なの」
「そうか……。癒やしの聖女か……」
「……どうかしたの?」
チワーの目がまたウルウルしていたので、今度はつい聞いてしまった。
「いや、父上と母上のことを思い出してしまったのじゃ」
「そう……。ごめんね」
思い出したくないものを思い出させてしまった気がして謝ると、チワーは首を横に振る。
「気を遣わせてすまなかった。われはもう大丈夫じゃ」
「チワー様。サウロン陛下からの手紙にはリンファにすぐにアウトン国に戻ってくるようにと書かれているのですが、こちらとしては、セーフス国の国王陛下であられるセルデス陛下に相談しようと思うのですが」
「人間同士、色々とあるじゃろうから、そこは任せる。今のところ、すぐに動かなければならない場所はなさそうじゃ。ただ、セーフス国も含め、他の国は安定しておるのに、なぜ、アウトン国だけ魔物が増えておるのじゃろ」
チワーがちょこんとお座りをして、大きく首を傾げる。
「この世界での魔物は生き物の負の感情を吸収して出来上がると聞いたことがあるのですが、それは本当なのですか?」
チワーにお父様が質問を返すと、チワーは大きく首を縦に振る。
「そうじゃ。怒り、憎しみ、悲しみなどもそうじゃが、悪巧みをする人間の感情も負の感情になる。アウトン国にはその気が多く集まっているということになるのじゃが」
「そうなると、サウロン陛下もそうだけど、元老院も怪しいわ」
わたしを国から追い出すことを考えるだなんて、国の中枢を担う人間が考えることじゃない。
「もしかすると、国の乗っ取り、もしくはどこかの国に戦争を仕掛けようとしているのかもしれないのじゃ」
「セルデス陛下にそのことを報告してもよろしいでしょうか」
「かまわぬ!」
チワーの許可を得た、お父様はわたしを見る。
「今のところ、人々に被害が出る心配がないのなら、リンファは待機していなさい。陛下のところには私が行ってくるから」
「待て! 城に行くのか!?」
「……そうですが」
チワーはベッドから飛び降り、お父様の足に前足をのせる。
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チワーったら、もうホームシックみたいになってるのね……。
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