あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ

文字の大きさ
26 / 52
第5章 シードの正体

しおりを挟む
 シード様の付き人のディエル様が「もうやめてください!」と懇願してきたけれど、わたしが泣き止むまで、シード様は歌い続けた。
 だから、もう泣いてないと伝えると、シード様は歌うのをやめた。

「とにかく、エルテ公爵家に送り届けるから、婚約破棄ができたか確認しといてくれねぇか?」

 泣き止んだにも関わらず、シード様はわたしを抱きしめたまま言った。

「わたしはやはり、今の段階では、デスタと婚約してることになっているんでしょうか」
「だろうな」
「シード様と婚約したいと言えば、破棄してもらえますか?」
「俺のほうから正式に依頼はしてる。ただ、俺のほうも色々とやらないことがあるんだ。だから、少し時間をくれ。必ず迎えに行くから」
「……迎えに行く、というのは?」
「今も言ったが、やらないといけないことが山積みでな。悪いけど、少しの間、連絡が取れなくなる」

 シード様はそう言って、わたしを抱きしめる腕の力を強くした。

「何か、お手伝いできることはありませんか?」
「そうだな。近い内に贈り物をするから受け取ってくれ。ただ、意味を知って逃げられたら困るから、贈り物の意味は調べるな」
「ど、どういうことですか?」
「いいから」
「気になるじゃありませんか!」
「待っててくれたら良い」

 シード様はどうしても話すつもりはなさそう。
 諦めて、話題を変えてみる。

「では、シード様の正体はいつ教えていただけるんです?」
「そうだな。近い内に王都でパレードがあるだろ? その時に待ち合わせよう。どうせなら派手にやって、皆にセフィリアが俺のもんだって知らしめたいし」
「パレードの時なんて人が多すぎて待ち合わせなんて無理です! それに知らしめるって言っても、人はパレードのほうを見ているじゃないですか」

 シード様がわたしを騙すとは思いたくない。
 でも、彼のことを、わたしは何も知らない。
 確実な約束がないと不安になる。

「じゃあ、近い内に手紙を送るから、その時に待ち合わせ場所を書いておく。心配すんな。絶対に見つけるから」
「……わかりました」
「不満そうだな」
「不安になっているだけです」
「しょうがねぇ奴だな」

 そう言って、シード様はわたしの顔を両手で上げると、顔を近づけてきた。

「な! 何を考えているんですか!」
 
 シード様の口を両手で押さえると、眉根を寄せて答える。

「証拠が欲しそうだったから」
「それとこれとは別です!」
「責任取らないといけねぇだろ」
「わたしはまだデスタと婚約中です!」
「そうだった。悪い。じゃあ、証拠は何がいいんだ?」
「わかりません」

 そうこうしている内に、エルテ公爵家にたどり着いた。
 お父様が家にいなかったため、シード様はテックと話をしただけで、すぐに帰っていってしまった。

 しばらくして、屋敷に帰ってきたお父様は、わたしが出迎えると「おかえり」とだけ言って、それ以上は何も言わずに部屋に戻ろうとしたので抗議する。

「お父様、わたしの意見を無視して婚約を破棄したり結んだりするのはやめてください! わたしはデスタと結婚なんて絶対にしたくありません!」
「うるさい。躾のなっていない犬のように吠えるのはやめろ。お前とロイアン卿の婚約は王女殿下の望みだ。それなのに婚約破棄できる条件を取り付けだのただから有り難く思え」

 お父様はそう言うと、扉のほうに視線を移す。

「お前にお客様だ。婚約破棄するなら婚約破棄しろ」

 お父様に言われて、扉のほうを振り返ると、ゆっくりと扉が開かれた。
 重い足取りで屋敷の中に入ってきたのはデスタだった。

 久しぶりに会った彼は、以前よりも身なりの良い服装だけれど、生気のない顔をしていた。
 そして、挨拶もなくわたしに向かって叫ぶ。
 
「セフィリア! 助けてくれ! 僕は王女と結婚したくないんだ!」
「そんなの知らないわ! どうしてわたしがあなたを助けなくちゃいけないのよ!」

 お父様はどういうつもりで、デスタをここに連れてきたのかしら。
 シード様から連絡がいっているから、わたしとシード様が婚約しようとしていることは知っているはず。
 
 ということは、お父様もシード様とわたしの婚約を望んでいるということ?

 お父様の手のひらの上で転がされていることには腹が立つ。
 でも、婚約破棄しなければならないことは間違いない。

「デスタ様、今回の婚約は父がわたしの意思を確認せずに勝手に結んだものです。申し訳ございませんが、婚約を破棄させていただきます」

 わたしの言葉を聞いたデスタは絶望したような表情になった。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ
恋愛
 セラフィナは、実の親と、妹によって、家から追い出されることとなった。セラフィナがまだ幼い頃、両親は病弱なカタリナのため設備環境が良い王都に移り住んだ。姉のセラフィナは元々両親とともに住んでいた田舎に使用人のマーサの二人きりで暮らすこととなった。お金のない子爵家な上にカタリナのためお金を稼がなくてはならないため、子供二人を王都で暮らすには無理があるとセラフィナだけ残されたのだ。そしてセラフィナが19歳の時、3人が家へ戻ってきた。その理由はカタリナの婚約が上手くいかず王宮にいずらくなったためだ。やっと家族で暮らせると心待ちにしていたセラフィナは帰宅した父に思いがけないことを告げられる。 「お前はジェラール・モンフォール伯爵と結婚することになった。すぐに荷物をまとめるんだ。一週間後には結婚式だ」  困惑するセラフィナに対して、冷酷にも時間は進み続け、結婚生活が始まる。

【完結】婚約破棄に感謝します。貴方のおかげで今私は幸せです

コトミ
恋愛
 もうほとんど結婚は決まっているようなものだった。これほど唐突な婚約破棄は中々ない。そのためアンナはその瞬間酷く困惑していた。婚約者であったエリックは優秀な人間であった。公爵家の次男で眉目秀麗。おまけに騎士団の次期団長を言い渡されるほど強い。そんな彼の隣には自分よりも胸が大きく、顔が整っている女性が座っている。一つ一つに品があり、瞬きをする瞬間に長い睫毛が揺れ動いた。勝てる気がしない上に、張り合う気も失せていた。エリックに何とここぞとばかりに罵られた。今まで募っていた鬱憤を晴らすように。そしてアンナは婚約者の取り合いという女の闘いから速やかにその場を退いた。その後エリックは意中の相手と結婚し侯爵となった。しかしながら次期騎士団団長という命は解かれた。アンナと婚約破棄をした途端に負け知らずだった剣の腕は衰え、誰にも勝てなくなった。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・フォンテーヌ公爵令嬢は、エドガー・オルレアン伯爵令息と婚約している。セリーヌの父であるバラック公爵は後妻イザベルと再婚し、その娘であるローザを迎え入れた。セリーヌにとって、その義妹であるローザは、婚約者であり幼馴染のエドガーを奪おうと画策する存在となっている。 さらに、バラック公爵は病に倒れ寝たきりとなり、セリーヌは一人で公爵家の重責を担うことになった。だが、イザベルとローザは浪費癖があり、次第に公爵家の財政を危うくし、家を自分たちのものにしようと企んでいる。 セリーヌは、一族が代々つないできた誇りと領地を守るため、戦わなければならない状況に立たされていた。異世界ファンタジー魔法の要素もあるかも?

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

処理中です...