あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ

文字の大きさ
41 / 52
第7章 それぞれの執着心

しおりを挟む
 ロビースト様については、ランシード様も手を打つと言ってくれていたので、お任せすることにした。
 少し気がかりなのはお姉様のことだ。
 ロビースト様からの手紙の内容に、自分のことは書かれていなかったと知って、少しがっかりした様子だったからだ。

 そのことで談話室でお姉様とお茶をしながら話をすることにした。

「お姉様はまだロビースト様に未練があるのですか?」
「……未練なんてないわ」

 少し間があったけれど、お姉様は首を横に振った。

「それを信じますが、お姉様はロビースト様のどこが良かったんですか?」

 今なら冷静に話してもらえるかと思って聞いてみた。
 すると、お姉様は苦笑して答える。

「私のことを好きになってくれる唯一の人だと思い込んでいたの」
「今でもそう思っているんですか?」
「それがね」

 お姉様は頬を両手で押さえる。

「どうかされたんですか?」
「私のことを可愛いと言ってくれている人がいると、お父様が教えてくれたの」
「そ、そうだったんですか!」

 それならそうと、もっと早くに教えてくれていたら良かったのでは?

 そう思った時に、お姉様が話を捕捉する。

「お父様からは前々から言われていたの。でも、私が聞く耳を持たなかったの。そんな人いるわけないって決めつけていたのよ。だけど、ここに帰ってきてから、お父様に改めて言われたの。会う気があるなら話をつけてくれるって」
「会ってみるんですか?」
「ええ。傷つくのは怖いけど、ロビースト様以外に私を大事にしてくれる人がいるなら、その人のために生きていこうと思うのよ」
「別に自分のためだけに生きても良いと思いますけど」

 この国の貴族の女性は嫁に行くことが当たり前だ。
 だけど、自分で道を切り開く人がいても良いと思う。

「そうね。もし、今度会う人がロビースト様ほどではなくても、私のことを軽んじるような人なら、一生、独身で生きていくつもりよ。最初はお父様やテックに支えてもらわないといけないかもしれないけど、いつかは一人で生きていけるように頑張るわ」

 お姉様はそこまで言ったあと、自嘲気味に笑う。

「食べたくても食べるものがなければ、自然に痩せるでしょうしね」
「無理はなさらないでください」
「私なんかに心配なんてされたくないでしょうけど、今はセフィリアのほうが心配だわ。お父様から聞いたけど、あなた、王女殿下に目を付けられているんでしょう?」
「そうみたいです。だけど、どうしてかわかりません。デスタのことでかもしれませんね」

 わたしが目を付けられている本当の理由を、お姉様は知らない。
 せっかく前向きになっているのだから、下手に不安材料を与えて、精神を不安定にさせることは良くないと思った。

 お姉様と話し終えた後は、執務室で仕事をしていたお父様の所へ向かった。
 執務室に入ると、お父様から話しかけてくる。

「ランシード殿下から聞いたが、四日後にはここを出るつもりか?」
「はい。今日はランシード殿下としての滞在二日目です。残りは三日間。その次の日には帰られるそうですから、その時に一緒に行くつもりです」
「だから、フィーナを簡単に許したのか」

 お父様は持っていたペンをペン差しに戻して、わたしを見つめる。

「お姉様のことは断ち切ったつもりでしたが、目を覚ましてくれたのであれば、関係修復しても良いと思ったんです」

 微笑んでみせると、お父様は目を伏せて頷く。

「そのほうが彼女も喜ぶだろう」

 彼女というのは、お母様のことだと思った。

「お父様はお母様のことを大事にしていたんですね」
「……そんなことはない」
「いいえ。考えてみたら、仲が良いからこそ、子供が三人もいるんですよね」
「跡継ぎが欲しかっただけだ」
「無理して作らなくても良かったはずです」

 跡継ぎ候補は親戚から探せば良いだけだ。
 夫婦仲が悪いなら無理して作ることはない。

「お父様」
「なんだ」
「お父様は王妃陛下が憎いですか?」
「どうしてそんなことを聞く?」
「真実を知ったからです」

 お父様が珍しく動揺したような表情を見せた。

「お母様は死に追いやられたのですか」
「何の話だ」
「テイルス王国の公爵令嬢から聞いたんです。お母様は王妃陛下に嫌がらせをされていたのですね?」

 睨みつけるようにしてお父様を見つめると、お父様の眉間の皺がより深くなった。
 そして、大きく息を吐いてから立ち上がる。

「ここで待っていなさい」

 そう言うと執務室から出ていき、封筒を手に戻ってきた。
 お父様は封筒の中から二つ折りにされた手紙を取り出して、何も言わずにわたしに差し出した。

 渡された手紙はしわくちゃで、水滴が落ちたあとが見受けられた。

「拝見します」

 一言告げてから、手紙を開く。

 手紙はお母様からお父様へ宛てた遺書だった。

 お母様が王妃陛下や取り巻きからいじめられていたことが書かれてあり、嫌われている自分を知られたくなくて、お父様に相談できなかったことが書かれていた。

『こんなわたしが生きていてごめんなさい。

 わたしのせいで、わたしの可愛いフィーナやセフィリア、テックが嫌な目に遭うかもしれません。

 生きている価値のないわたしは死を選びます』

 涙が止まらなかった。
 悲しいだけじゃない。
 悔しかった。
 ここまでお母様が追い詰められていたのに、わたしは何も気づいてあげられなかった。

「セフィリア、お前は悪くない。お前はまだ子供だった」

 お父様はわたしにハンカチを渡してくれてから、言葉を続ける。

「取り巻きに関しては、もう悩む必要はない」
「……どういうことですか?」
「この世にいないからだ」
「……まさか」
「私が殺したんじゃない。間接的に関わってはいるがな」

 お父様はわたしの手から手紙を受け取ると、窓際に立ち、わたしに背を向けて話す。

「お前たちの母には、子供たちには自分の好きな道を歩ませてくれと頼まれていた」
「お父様」

 今まで一人で悪人になってきてくれたことには感謝している。
 でも、もう、わたしも子供じゃない。

「わたしはお母様ではありません。お母様とお父様の子供です」
「それがどうした」
「王妃陛下と王女殿下については、わたしに任せていただけませんか」

 お母様の優しさや心を色濃く受け継いだのは、お姉様とテックだ。
 そして、わたしはお母様よりもどちらかというと、お父様の寄りの精神の強さだと思われる。

 お父様が動くよりもわたしが動くほうが安全だ。

 そう思って、わたしはお父様を見つめた。

しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ
恋愛
 セラフィナは、実の親と、妹によって、家から追い出されることとなった。セラフィナがまだ幼い頃、両親は病弱なカタリナのため設備環境が良い王都に移り住んだ。姉のセラフィナは元々両親とともに住んでいた田舎に使用人のマーサの二人きりで暮らすこととなった。お金のない子爵家な上にカタリナのためお金を稼がなくてはならないため、子供二人を王都で暮らすには無理があるとセラフィナだけ残されたのだ。そしてセラフィナが19歳の時、3人が家へ戻ってきた。その理由はカタリナの婚約が上手くいかず王宮にいずらくなったためだ。やっと家族で暮らせると心待ちにしていたセラフィナは帰宅した父に思いがけないことを告げられる。 「お前はジェラール・モンフォール伯爵と結婚することになった。すぐに荷物をまとめるんだ。一週間後には結婚式だ」  困惑するセラフィナに対して、冷酷にも時間は進み続け、結婚生活が始まる。

【完結】婚約破棄に感謝します。貴方のおかげで今私は幸せです

コトミ
恋愛
 もうほとんど結婚は決まっているようなものだった。これほど唐突な婚約破棄は中々ない。そのためアンナはその瞬間酷く困惑していた。婚約者であったエリックは優秀な人間であった。公爵家の次男で眉目秀麗。おまけに騎士団の次期団長を言い渡されるほど強い。そんな彼の隣には自分よりも胸が大きく、顔が整っている女性が座っている。一つ一つに品があり、瞬きをする瞬間に長い睫毛が揺れ動いた。勝てる気がしない上に、張り合う気も失せていた。エリックに何とここぞとばかりに罵られた。今まで募っていた鬱憤を晴らすように。そしてアンナは婚約者の取り合いという女の闘いから速やかにその場を退いた。その後エリックは意中の相手と結婚し侯爵となった。しかしながら次期騎士団団長という命は解かれた。アンナと婚約破棄をした途端に負け知らずだった剣の腕は衰え、誰にも勝てなくなった。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・フォンテーヌ公爵令嬢は、エドガー・オルレアン伯爵令息と婚約している。セリーヌの父であるバラック公爵は後妻イザベルと再婚し、その娘であるローザを迎え入れた。セリーヌにとって、その義妹であるローザは、婚約者であり幼馴染のエドガーを奪おうと画策する存在となっている。 さらに、バラック公爵は病に倒れ寝たきりとなり、セリーヌは一人で公爵家の重責を担うことになった。だが、イザベルとローザは浪費癖があり、次第に公爵家の財政を危うくし、家を自分たちのものにしようと企んでいる。 セリーヌは、一族が代々つないできた誇りと領地を守るため、戦わなければならない状況に立たされていた。異世界ファンタジー魔法の要素もあるかも?

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

処理中です...