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「ココル、あなた、公爵閣下があなた達を驚かすために、こんな大掛かりなことをすると本気で思ってるの?」
「だって、そうとしか考えられないじゃない! あれでしょ? どうせ、あとで実は嘘だった、って言うんでしょ? お姉さま、そんな取り返しのつかない悪戯、さすがにもう止めた方がいいわよ? 子供じゃないんだから、いくら私だって悪戯だって、もうわかったもの」
ココルは私を気の毒そうに見つめながら言った。
お別れを言いに来てくれたのかと、もしくは今までのことを謝りに来てくれたのかもだなんて、彼女に対して、そんな甘い考えを一瞬でも抱いてしまった自分を殴りたくなった。
「言いたいことはそれだけ? それだけなら、もうココルと話すことはないから、部屋に戻って!」
睨みつけて言うと、ココルは頬を膨らませた。
「お姉さま、本当にどうしちゃったのよ!? ロバートにあんなことを言われて、ショックで頭がおかしくなっちゃったの!?」
「ココル、さっきも言ったでしょう。もう自分の部屋へ戻ってちょうだい。朝からうるさくしていることについては謝るわ。だけど、これはあなた達がやってるような悪戯なんかじゃない。私は本当にマオニール公爵閣下の元にお嫁に行くのよ!」
ココルはまだ信用していないようで、鼻で笑ってから肩をすくめる。
「お姉さま、本当に可哀想。やっぱり悪戯をされたショックで頭がおかしくなってしまったのね。さすがに今回はやりすぎてしまったと思うわ。反省すればいいんでしょ? だから、早く、正気に戻ってくれない?」
憐れむような目で、ココルが私の部屋に足を踏み入れようとした瞬間、開け放たれていた扉の横に立っていた騎士が彼女に向かって剣先を向けた。
「きゃあっ!? なんなの!?」
「アイリス様は入室の許可を出しておられません」
悲鳴を上げるココルに騎士は冷たく言い放ち、剣の切っ先を彼女の首元に当てようとした。
「ちょ、なんなの? やめてよ! 戻ればいいんでしょう、戻れば!」
吐き捨てるように言うと、ココルは私に何の挨拶もなしに逃げ去っていってしまった。
もう、ココルと会うのは最後かもしれないから、普通に別れたかった。
でも、あの子があんな態度なら、もう気にしなくても良いわよね。
「奥様、元気を出して下さい。美味しいものを食べると元気になりますよ」
私が凹んでいると心配してくれたみたいで、先程、エニスと名乗ってくれた茶色の長いストレートの髪を背中に流しているメイドが、笑顔で手拭きとサンドイッチの入ったカゴを差し出してくれた。
お言葉に甘えて、素直に手拭きと何種類かあるサンドイッチの一つを手に取る。
「ありがとうございます。あと、奥様はやめてもらえませんか? だまだ、正式な婚姻関係は結んでいませんから」
苦笑して言うと、エニスと、それを聞いていたもう一人のメイドのジェナは困ったような顔をした。
◇◆◇
元々、荷物が少なかったこともあって、荷造りは1時間も絶たないうちに終わった。
婚約破棄についての書類は閣下がひな形を用意してくださっていたので、それをお手本に書類を作り、私のサインまで終えてある。
ロバートにサインしてもらうことに関しては両親に任せることにした。
――きっと、ロバートにはココルをあてがうでしょうけど。
嘘が現実になったのだとしても、私には知ったことではない。
「お世話になりました」
ダイニングルームに行くと、両親だけでなく、ココルもいたので、3人に向かって頭を下げると、お母様だけが立ち上がって、私の元へやって来る。
「もうお別れだなんて早すぎるわ、アイリス」
「お母様、お元気で。家の管理はよろしくお願いしますね」
「その事なんだけど、たまに帰ってきて、たまっているものをまとめてやってくれないかしら? あなたへの悪戯が出来なくなるから、明日からどうすれば良いか困っているのよ。その分の迷惑料として、ね?」
「ね? と言われましても、そんなことはできませんし、絶対にしたくありません」
――信じられない。よくもまあ、そんなことを言えたものだわ。
「アイリス、お前が悪戯を拒むのが悪いんだ。母さんの言う通りにしなさい。それから、マオニール公爵閣下からは、いつ金がもらえるんだ?」
「そんな事はどうでもいいわ! 大事なのはアイリスがやっていた仕事をどうするかよ! やってくれるわよね!?」
お父様の言葉をのあと、縋り付くように私の腕をつかんだ、お母様の手を振り払って叫ぶ。
「嫁にいってしまえば、ノマド家の管理は、もう私の仕事ではありません! それに元々、その仕事はお母様の仕事です! 自分のことは自分でやってください! では、皆さん、お元気で!」
感情的に叫ぶと、踵を返してダイニングルームを出る。
そして、部屋の前で待ってくれていたトーイ様に、挨拶は終えたので、いつでも出発できる事を伝えた。
予定よりも早く出発する事になったけれど、数少ない使用人達は見送りに来てくれて、別れを惜しんでくれた。
両親とココルは騎士の人が止めてくれたのか、姿を見せなかったので、気持ちが楽だった。
用意された馬車の外装は真っ黒で、ちょっと悪趣味にも感じてしまうけれど、マオニール公爵家の家紋が施されている。
内装は黒以外の色も使われていて、ノマド家の馬車とは全然違った。
家に帰ってくる時にも思ったけれど、とても快適で、長旅の疲れを軽減させてくれるものだった。
私とメイド達、トーイ様が乗り込むと、馬車がゆっくりと動き出す。
「行かないでくれ、アイリス!」
どこからか、ロバートの声が聞こえた様な気がしたけれど、聞こえなかった事にする。
「アイリス、迎えに行くから!」
せっかく良い気分だったのに、ロバートのせいで台無しになってしまった。
わざわざ相手にしたくもないので無視していると、馬車を追いかけてくる気はないのか、声は聞こえなくなった。
ため息を吐いてから、ふと向かいに座っているトーイ様を見ると、窓の外を見て眉根を寄せていた。
そして、ロバートの叫びを聞いたからなのか、声には出さないけれど「バカだな」と口を動かして、憐れんだような笑みを浮かべた。
それを見た私やメイド達が苦笑すると、トーイ様が苦笑して、軽く頭を下げた。
「申し訳ございません、つい」
「いえ。婚約破棄の手続きは完了するでしょうし、今更、迎えに来ると言われても、それこそ公爵家を敵に回すだけですよね」
「閣下も次は優しくするつもりはありませんよ」
トーイ様はそう言って微笑んだのだった。
「だって、そうとしか考えられないじゃない! あれでしょ? どうせ、あとで実は嘘だった、って言うんでしょ? お姉さま、そんな取り返しのつかない悪戯、さすがにもう止めた方がいいわよ? 子供じゃないんだから、いくら私だって悪戯だって、もうわかったもの」
ココルは私を気の毒そうに見つめながら言った。
お別れを言いに来てくれたのかと、もしくは今までのことを謝りに来てくれたのかもだなんて、彼女に対して、そんな甘い考えを一瞬でも抱いてしまった自分を殴りたくなった。
「言いたいことはそれだけ? それだけなら、もうココルと話すことはないから、部屋に戻って!」
睨みつけて言うと、ココルは頬を膨らませた。
「お姉さま、本当にどうしちゃったのよ!? ロバートにあんなことを言われて、ショックで頭がおかしくなっちゃったの!?」
「ココル、さっきも言ったでしょう。もう自分の部屋へ戻ってちょうだい。朝からうるさくしていることについては謝るわ。だけど、これはあなた達がやってるような悪戯なんかじゃない。私は本当にマオニール公爵閣下の元にお嫁に行くのよ!」
ココルはまだ信用していないようで、鼻で笑ってから肩をすくめる。
「お姉さま、本当に可哀想。やっぱり悪戯をされたショックで頭がおかしくなってしまったのね。さすがに今回はやりすぎてしまったと思うわ。反省すればいいんでしょ? だから、早く、正気に戻ってくれない?」
憐れむような目で、ココルが私の部屋に足を踏み入れようとした瞬間、開け放たれていた扉の横に立っていた騎士が彼女に向かって剣先を向けた。
「きゃあっ!? なんなの!?」
「アイリス様は入室の許可を出しておられません」
悲鳴を上げるココルに騎士は冷たく言い放ち、剣の切っ先を彼女の首元に当てようとした。
「ちょ、なんなの? やめてよ! 戻ればいいんでしょう、戻れば!」
吐き捨てるように言うと、ココルは私に何の挨拶もなしに逃げ去っていってしまった。
もう、ココルと会うのは最後かもしれないから、普通に別れたかった。
でも、あの子があんな態度なら、もう気にしなくても良いわよね。
「奥様、元気を出して下さい。美味しいものを食べると元気になりますよ」
私が凹んでいると心配してくれたみたいで、先程、エニスと名乗ってくれた茶色の長いストレートの髪を背中に流しているメイドが、笑顔で手拭きとサンドイッチの入ったカゴを差し出してくれた。
お言葉に甘えて、素直に手拭きと何種類かあるサンドイッチの一つを手に取る。
「ありがとうございます。あと、奥様はやめてもらえませんか? だまだ、正式な婚姻関係は結んでいませんから」
苦笑して言うと、エニスと、それを聞いていたもう一人のメイドのジェナは困ったような顔をした。
◇◆◇
元々、荷物が少なかったこともあって、荷造りは1時間も絶たないうちに終わった。
婚約破棄についての書類は閣下がひな形を用意してくださっていたので、それをお手本に書類を作り、私のサインまで終えてある。
ロバートにサインしてもらうことに関しては両親に任せることにした。
――きっと、ロバートにはココルをあてがうでしょうけど。
嘘が現実になったのだとしても、私には知ったことではない。
「お世話になりました」
ダイニングルームに行くと、両親だけでなく、ココルもいたので、3人に向かって頭を下げると、お母様だけが立ち上がって、私の元へやって来る。
「もうお別れだなんて早すぎるわ、アイリス」
「お母様、お元気で。家の管理はよろしくお願いしますね」
「その事なんだけど、たまに帰ってきて、たまっているものをまとめてやってくれないかしら? あなたへの悪戯が出来なくなるから、明日からどうすれば良いか困っているのよ。その分の迷惑料として、ね?」
「ね? と言われましても、そんなことはできませんし、絶対にしたくありません」
――信じられない。よくもまあ、そんなことを言えたものだわ。
「アイリス、お前が悪戯を拒むのが悪いんだ。母さんの言う通りにしなさい。それから、マオニール公爵閣下からは、いつ金がもらえるんだ?」
「そんな事はどうでもいいわ! 大事なのはアイリスがやっていた仕事をどうするかよ! やってくれるわよね!?」
お父様の言葉をのあと、縋り付くように私の腕をつかんだ、お母様の手を振り払って叫ぶ。
「嫁にいってしまえば、ノマド家の管理は、もう私の仕事ではありません! それに元々、その仕事はお母様の仕事です! 自分のことは自分でやってください! では、皆さん、お元気で!」
感情的に叫ぶと、踵を返してダイニングルームを出る。
そして、部屋の前で待ってくれていたトーイ様に、挨拶は終えたので、いつでも出発できる事を伝えた。
予定よりも早く出発する事になったけれど、数少ない使用人達は見送りに来てくれて、別れを惜しんでくれた。
両親とココルは騎士の人が止めてくれたのか、姿を見せなかったので、気持ちが楽だった。
用意された馬車の外装は真っ黒で、ちょっと悪趣味にも感じてしまうけれど、マオニール公爵家の家紋が施されている。
内装は黒以外の色も使われていて、ノマド家の馬車とは全然違った。
家に帰ってくる時にも思ったけれど、とても快適で、長旅の疲れを軽減させてくれるものだった。
私とメイド達、トーイ様が乗り込むと、馬車がゆっくりと動き出す。
「行かないでくれ、アイリス!」
どこからか、ロバートの声が聞こえた様な気がしたけれど、聞こえなかった事にする。
「アイリス、迎えに行くから!」
せっかく良い気分だったのに、ロバートのせいで台無しになってしまった。
わざわざ相手にしたくもないので無視していると、馬車を追いかけてくる気はないのか、声は聞こえなくなった。
ため息を吐いてから、ふと向かいに座っているトーイ様を見ると、窓の外を見て眉根を寄せていた。
そして、ロバートの叫びを聞いたからなのか、声には出さないけれど「バカだな」と口を動かして、憐れんだような笑みを浮かべた。
それを見た私やメイド達が苦笑すると、トーイ様が苦笑して、軽く頭を下げた。
「申し訳ございません、つい」
「いえ。婚約破棄の手続きは完了するでしょうし、今更、迎えに来ると言われても、それこそ公爵家を敵に回すだけですよね」
「閣下も次は優しくするつもりはありませんよ」
トーイ様はそう言って微笑んだのだった。
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