幸せなお飾りの妻になります!

風見ゆうみ

文字の大きさ
34 / 69

34 公爵令嬢の嫌がらせ②

しおりを挟む
「何か、驚くようなことでもございましたか?」

 何もなかったようなふりをして、プリステッド公爵令嬢に話しかけると、彼女は笑みを引きつらせて首を横に振る。

「いいえ。中々、いらっしゃらないので、ここにいるみなさんと心配しておりましたのよ」

 プリステッド公爵令嬢の今日のドレスは、お茶会というよりも夜会といった感じの赤色のドレスだった。

 好きなものを着れば良いし、私に対する好戦的な意味合いが含まれているのだと思うけれど、周りが落ち着いた色合いの服装が多いだけに、彼女がどこか浮いて見えた。

「ティールームらしきお部屋に案内してもらったのですが、どうやら、案内してくれたメイドが場所を勘違いしておられたようですわね」
「そ、そうだったのですか……。それは申し訳ございませんでした」

 プリステッド公爵令嬢は引きつった笑みのまま、私に頭を下げた。

 中庭のガゼボの中にはすでに、他の招待客は集まっていて、まだ約束の時間にもなっていないのに、先にお茶会を楽しんでいたようだった。

「あら、もう始めておられましたのね? 時刻を間違えてしまったのかしら」
「そ、そうですわね! 本当は三十分前が開始時刻でしたのよ?」
「……そうですか。それは申し訳ございませんでした。ご迷惑でなければ、今から、参加してもよろしいでしょうか?」

 申し訳なさげに尋ねると、私とプリステッド公爵令嬢が話をしているのを見つめていた令嬢の一人が、丸テーブルを囲んでいる他三人の令嬢に向かって、コソコソと話をする。

「まさか、マオニール公爵夫人が時間を間違われるだなんて思ってもいませんでした」

 それを合図に、他の令嬢達も顔を寄せて小声で話し始める。

「お忙しい方なのですからしょうがないですわ。私達とのお茶会なんてどうでも良いのでしょう」
「しかも、これだけ遅れてきておいて、今から一緒にお茶をするつもりだなんて、図太い神経をお持ちですわね」
「元男爵令嬢ということですし、マナーを知らないのではなくって?」

 小声ではあるけれど、彼女達は私に聞こえるように話をしているようだった。

 こんな陰口も家族のせいで慣れたものだわ。

 それに、家族のことで陰口を叩かれていた時は、悲しい気持ちだけじゃなく、迷惑をかけたのだからしょうがないという申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど、今回に関しては違う。

 時間は手紙に書いてある時間を何度も確認したし、早すぎない時間にやって来ている。
 彼女達の中では三十分遅れなのかもしれないけれど、元々は、違う場所に案内されていたということもあるし、悪いのは私ではないわ。

「ビティング伯爵令嬢」

 元男爵令嬢だからマナーを知らないと話した令嬢の名前を呼ぶと、彼女はツインテールにした茶色の髪を大きく揺らせて、こちらのほうを見た。

「私は元男爵令嬢ではありますが、今は、公爵夫人です。マオニール家の名に恥じないように努力を重ねておりますが、至らないところもまだたくさんあるとはございますので、ぜひ、教えていただきたいのですが」
「な……、何でしょうか」

 まさか、私から何か質問されるとは思っていなかったのか、ビティング伯爵令嬢の表情は強張り、体は震えていた。

「時間が間違っていたかどうかに関しては、招待状を確認すればわかることですから今は置いておきます。私の聞きたいことですが、約束の時間に遅れた場合、お詫びしたあと、そのまま帰ることが遅れた時のマナーなのでしょうか? それがマナーだと仰るのでしたら、私は今すぐに帰らせていただきます」

 別に私は、このお茶会に呼ばれたかったわけではないし、条件を達成するために来ただけで、ここまで来ただけで条件は達成している。

 このまま帰られて困るのはプリステッド公爵令嬢のはず。

 それに、私が時間を間違えていただなんて、つかなくてもいい嘘をついていらっしゃるけれど、お茶会についての日時が書かれた手紙を彼女に見せたら、どんな言い訳をするつもりなのかしら。

 プリステッド公爵令嬢のほうを見ると、悔しそうな顔で私を見つめていた。

 
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

【完結】ご期待に、お応えいたします

楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。 ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。 小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。 そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。 けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

処理中です...