42 / 69
42 誕生日当日の朝
しおりを挟む
1日が過ぎるのはゆっくりというような気がしていたけれど、この十数日はあっという間に過ぎた。
誕生日パーティーの準備が忙しすぎたということもある。
リアムから話があった時には、すでに招待状は作られていて、呼びたくない人がいたら、その人をはじくという作業からはじまり、ドレスを仕立てたりと大変だった。
本来ならばパーティーは相手の都合もあるので、かなり早くに招待状を送っておくのが当たり前なのだけれど、今回は、主要な貴族しか呼んでいないということと、その様な人達は私の誕生日なども頭にいれてくれていた上に、リアムが話だけは先にしてくれていたこともあり、急なお誘いであったにも関わらず、多くの人から出席の返事が返ってきた。
そして、誕生日前日の昨日の晩、私の誕生日パーティーが開かれた。
といっても、基本は社交場なので、一通りの挨拶を終えたあとは、リアムから後は任せてくれたらいいから、気にしないで眠って良いと言われた。
疲れていたので、招待客の人には無礼をお詫びすると頭を下げてから、自分の部屋に行き、楽な服に着替えた。
でも、興奮しているのか眠れなくて、彼が部屋に戻ったら教えてほしいとトーイにお願いして、部屋で待っていた。
すると、彼が部屋に帰ってきた時刻が、日付けが変わる少し前だったので、一緒に誕生日を迎えることが出来た。
「お誕生日おめでとう、アイリス」
「ありがとうございます」
「この年がアイリスにとって良い年になるといいけど」
「なんだか新年を迎えたみたいですね」
「アイリスの人生にとっては新年だろう?」
リアムの部屋で向かい合ってお茶を飲みながら話していると、とても幸せな気持ちで、最高の誕生日を迎えることができた。
家族でさえも日付けが変わった時に一緒にいることはなかったから、私にとって、一生忘れられない思い出になる気がした。
お飾りの妻じゃなかったら、一緒の部屋で眠って、もしかしたら、私が経験したことのない世界に足を踏み入れていたのかもしれないけど……って、こんな、ありえない想像をしちゃ駄目ね。
リアムに失礼だわ!
こんな妄想をしてしまったことは、今日が誕生日ということで大目に見てほしい。
「アイリス様、お誕生日おめでとうございます」
朝食をとるため、ダイニングルームに向かう途中で、顔を合わせた使用人から誕生日を祝われて、幸せな気持ちでいっぱいになる。
家族にお祝いしてもらうよりも嬉しいなんて、おかしいかしら?
何より誕生日祝いの悪戯を心配しなくていい朝なんて、素敵すぎる。
いつもはケーキは自分で買いに行っていたのだけど、ある年の誕生日に珍しくケーキを用意してくれたので喜んでいたら、ケーキの中にプレゼントを入れられていたり、プレゼントの箱かと思ったらびっくり箱だった、などなど、毎年、誕生日がくるのが憂鬱に思えていたくらいだった。
今年に関しては独り立ちできると思って、待ち遠しい誕生日ではあったけれど。
昨日のパーティーは無事に終えられて良かったけれど、問題は今日の身内だけのこじんまりとしたパーティーだった。
今日のパーティーの招待客は、サマンサと私の家族とお義父様とお義母様。
ただ、私が出席していない、他の方が開かれたパーティーで、お二人は私の家族と顔を合わせてしまったらしく、その時にとても不快な思いをされたようで、私の両親とは、もう二度と会いたくないと言われてしまった。
だから、お義母様達は、私の家族が帰ったあとに、こちらまで足を運んでくださるらしい。
今日が正念場だわ!
気合を入れるために、パチン、と自分の両頬を叩いたと同時、ダイニングルームの扉が開いて、リアムが中に入ってきた。
「おはよう、アイリス。まだ眠いなら眠ってきたら?」
どうやら頬を叩いているところを見られていたようで、リアムが心配げに私の座っている席に近寄ってくる。
「お、おはようございます! 大丈夫ですっ!」
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ」
リアムはそう言って笑うと、私の頬に触れて続ける。
「叩くから赤くなってるよ」
「……気を付けます」
「何に気を付けるのかわからないけど」
リアムはくすりと笑ったあと、笑顔を消して心配そうな顔をして聞いてくる。
「本当に家族に会うんだね?」
「はい。新しい私に生まれ変わる為に、誕生日は良いきっかけになるかと思いまして」
「最悪な誕生日になったらどうするの?」
「その時は、リアムが慰めて下さい」
冗談っぽく言って笑うと、リアムは私の頬を親指で優しく撫でてから頷く。
「わかった。だけど、無理はしないように。僕もなるべく一緒にいるようにするから」
「なるべく?」
「君のお友達も来るだろ? さすがに邪魔はできないし。女性同士の会話に僕がまじっていくわけにはいかないだろ」
「そうですね。サマンサとは二人で話したい事もいっぱいありますから! お気遣いいただき、ありがとうございます」
「君が喜んでくれるなら嬉しい」
最近のリアムは勘違いしてしまいそうなくらいに優しい。
契約条件の変更のことで後ろめたさがあるのかもしれない。
だから、期待しても意味がないのはわかってるのに、自分の心がコントロール出来ない。
それで、さっきみたいな変な事を考えてしまったんだわ。
邪念を払おうとしていると、リアムに顔を覗き込まれる。
「アイリス、本当に大丈夫?」
「大丈夫です!」
「……あまり大丈夫そうには見えないけど」
「緊張してるんだと思います」
これは嘘じゃない。
今日こそは家族との縁を切る。
元々、実家を出た時点で縁を切ったはずなのに、向こうはそんなことを忘れてしまっている。
だから、もう終わりにしなくっちゃ。
リアムに守られてばかりの私はもう嫌。
私の手で、家族に痛い目を見てもらおうと決めた。
誕生日パーティーの準備が忙しすぎたということもある。
リアムから話があった時には、すでに招待状は作られていて、呼びたくない人がいたら、その人をはじくという作業からはじまり、ドレスを仕立てたりと大変だった。
本来ならばパーティーは相手の都合もあるので、かなり早くに招待状を送っておくのが当たり前なのだけれど、今回は、主要な貴族しか呼んでいないということと、その様な人達は私の誕生日なども頭にいれてくれていた上に、リアムが話だけは先にしてくれていたこともあり、急なお誘いであったにも関わらず、多くの人から出席の返事が返ってきた。
そして、誕生日前日の昨日の晩、私の誕生日パーティーが開かれた。
といっても、基本は社交場なので、一通りの挨拶を終えたあとは、リアムから後は任せてくれたらいいから、気にしないで眠って良いと言われた。
疲れていたので、招待客の人には無礼をお詫びすると頭を下げてから、自分の部屋に行き、楽な服に着替えた。
でも、興奮しているのか眠れなくて、彼が部屋に戻ったら教えてほしいとトーイにお願いして、部屋で待っていた。
すると、彼が部屋に帰ってきた時刻が、日付けが変わる少し前だったので、一緒に誕生日を迎えることが出来た。
「お誕生日おめでとう、アイリス」
「ありがとうございます」
「この年がアイリスにとって良い年になるといいけど」
「なんだか新年を迎えたみたいですね」
「アイリスの人生にとっては新年だろう?」
リアムの部屋で向かい合ってお茶を飲みながら話していると、とても幸せな気持ちで、最高の誕生日を迎えることができた。
家族でさえも日付けが変わった時に一緒にいることはなかったから、私にとって、一生忘れられない思い出になる気がした。
お飾りの妻じゃなかったら、一緒の部屋で眠って、もしかしたら、私が経験したことのない世界に足を踏み入れていたのかもしれないけど……って、こんな、ありえない想像をしちゃ駄目ね。
リアムに失礼だわ!
こんな妄想をしてしまったことは、今日が誕生日ということで大目に見てほしい。
「アイリス様、お誕生日おめでとうございます」
朝食をとるため、ダイニングルームに向かう途中で、顔を合わせた使用人から誕生日を祝われて、幸せな気持ちでいっぱいになる。
家族にお祝いしてもらうよりも嬉しいなんて、おかしいかしら?
何より誕生日祝いの悪戯を心配しなくていい朝なんて、素敵すぎる。
いつもはケーキは自分で買いに行っていたのだけど、ある年の誕生日に珍しくケーキを用意してくれたので喜んでいたら、ケーキの中にプレゼントを入れられていたり、プレゼントの箱かと思ったらびっくり箱だった、などなど、毎年、誕生日がくるのが憂鬱に思えていたくらいだった。
今年に関しては独り立ちできると思って、待ち遠しい誕生日ではあったけれど。
昨日のパーティーは無事に終えられて良かったけれど、問題は今日の身内だけのこじんまりとしたパーティーだった。
今日のパーティーの招待客は、サマンサと私の家族とお義父様とお義母様。
ただ、私が出席していない、他の方が開かれたパーティーで、お二人は私の家族と顔を合わせてしまったらしく、その時にとても不快な思いをされたようで、私の両親とは、もう二度と会いたくないと言われてしまった。
だから、お義母様達は、私の家族が帰ったあとに、こちらまで足を運んでくださるらしい。
今日が正念場だわ!
気合を入れるために、パチン、と自分の両頬を叩いたと同時、ダイニングルームの扉が開いて、リアムが中に入ってきた。
「おはよう、アイリス。まだ眠いなら眠ってきたら?」
どうやら頬を叩いているところを見られていたようで、リアムが心配げに私の座っている席に近寄ってくる。
「お、おはようございます! 大丈夫ですっ!」
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ」
リアムはそう言って笑うと、私の頬に触れて続ける。
「叩くから赤くなってるよ」
「……気を付けます」
「何に気を付けるのかわからないけど」
リアムはくすりと笑ったあと、笑顔を消して心配そうな顔をして聞いてくる。
「本当に家族に会うんだね?」
「はい。新しい私に生まれ変わる為に、誕生日は良いきっかけになるかと思いまして」
「最悪な誕生日になったらどうするの?」
「その時は、リアムが慰めて下さい」
冗談っぽく言って笑うと、リアムは私の頬を親指で優しく撫でてから頷く。
「わかった。だけど、無理はしないように。僕もなるべく一緒にいるようにするから」
「なるべく?」
「君のお友達も来るだろ? さすがに邪魔はできないし。女性同士の会話に僕がまじっていくわけにはいかないだろ」
「そうですね。サマンサとは二人で話したい事もいっぱいありますから! お気遣いいただき、ありがとうございます」
「君が喜んでくれるなら嬉しい」
最近のリアムは勘違いしてしまいそうなくらいに優しい。
契約条件の変更のことで後ろめたさがあるのかもしれない。
だから、期待しても意味がないのはわかってるのに、自分の心がコントロール出来ない。
それで、さっきみたいな変な事を考えてしまったんだわ。
邪念を払おうとしていると、リアムに顔を覗き込まれる。
「アイリス、本当に大丈夫?」
「大丈夫です!」
「……あまり大丈夫そうには見えないけど」
「緊張してるんだと思います」
これは嘘じゃない。
今日こそは家族との縁を切る。
元々、実家を出た時点で縁を切ったはずなのに、向こうはそんなことを忘れてしまっている。
だから、もう終わりにしなくっちゃ。
リアムに守られてばかりの私はもう嫌。
私の手で、家族に痛い目を見てもらおうと決めた。
131
あなたにおすすめの小説
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる