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46 白い結婚
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久しぶりに会った、元婚約者のロバートは、身なりは綺麗にしているものの、痩せ細り頬はこけ、目は虚ろな状態で、ゆっくりと私に近付いてくる。
「お誕生日おめでとう、アイリス」
「……近付かないで! どうしてあなたがここにいるのよ!?」
「君の家族が乗ってきた馬車の座席を開けて、中に潜り込ませてもらってんだ。君の家族が降りたあと、パーティーが終わるまで馬車は待機するだろう? その間に外へ出たんだよ」
ベンチから立ち上がり、ロバートから目をはなさないようにして、屋敷の方に向かって、ゆっくり足を進める。
本当は走りたいけれど、酔いが回っているから、いつもの様に走れるとは思えないし、たぶん、足はロバートのほうが早い。
追いつかれて捕まってしまったら、何をされるかわからない。
背中を向けるのが怖くて、じりじりと後退して彼から離れるようにするけれど、歩幅も彼のほうが大きいため、距離は縮まっていく。
彼が私に危害を加える気があるのかないのかはわからない。
私に一体、何の用なの?
誕生日を祝いたかったわけじゃないわよね?
「ひどいな、アイリス。喜んでくれると思ったのに、どうして逃げるんだ?」
「どう考えたら、私が喜ぶなんて思えるの? あなたはもう私とは関係のない人なの!」
「アイリス、僕らはボタンをかけ違えただけなんだ。まだ、やり直せるよ」
「そんな訳ないでしょう! 私はもう結婚しているの! 何より、あなたとやり直すつもりなんてない!」
「アイリス、社交場で君達がなんて言われてるか知ってる?」
彼からの質問に、私が答えてもいないのに、ロバートは笑いながら続ける。
「君たちは白い結婚なんじゃないかって言われてるんだ! まあ、そうだよな。君が好きなのは、俺なんだから!」
「ふざけないで! 私があなたを好き!? そんな事があるわけないでしょう!」
「あんなに仲良くしていたじゃないか!」
「あなたがあの時、家族から私を守ってくれていれば、また違う未来になってたでしょうけど、あなたはそうしなかったじゃない!」
あの時、ロバートが味方になってくれていたら、きっと私は今、ここにはいなかったと思う。
ロバートの選択肢が違っていれば、私はリアムのお飾りの妻ではなく、ロバートの妻になっていたはずだ。
「アイリス! 目を覚ましてくれ! あの一件があってから、俺の人生はめちゃくちゃなんだ!」
「そんなの私の知ったことじゃないわ!」
「このままじゃ、誰も俺の嫁になんて来てくれやしない」
「ココルがいるじゃない! 嘘を本当にしたらどうなの!?」
「そうだ! 大体、君の家族が元々は悪いんだぞ! どうせ白い結婚なら別れてくれよ! そして、君が俺の妻になるんだ! そうすれば、俺の悪い噂だって」
ロバートが一気に距離を詰めて、私の両肩をつかんだ時だった。
「誰と誰が白い結婚だって?」
背後からリアムの声が聞こえて振り返ると、急いで来てくれたのか、少し息を切らした彼がロバートを睨みつけていた。
彼の後ろにサマンサがいるから、きっと彼女が戻ってきた時に、ロバートに気が付いて、リアムを呼んできてくれたんだろう。
リアムは私の肩をつかんでいるロバートの手をはなさせると聞いてくる。
「大丈夫か?」
「は、はい」
首を大きく縦に振ると、リアムは、私の両頬をつかみ、ロバートには見えないように口の部分を隠して、唇ギリギリの頬にキスをした。
頬にキスをされただけなのだけど、真正面からされたことで、心臓が飛び出しそうな気持ちになった。
「リ、リアム……?」
「……アイリスは可愛いね」
リアムは顔をはなすと、ポンポンと私の頭を撫でて優しく抱きしめてくれてから、ロバートに言う。
「悪いね、デヴァイスくん。君の聞いた話は噂だよ。これ以上のことを君の前でしてやる必要はないだろう? アイリスの可愛い一面を知ってるのは、僕だけで充分だ」
「アイリス! 本当に君は彼のものになったのか!?」
「……そうよ! 私は今、リアムといれて幸せなの! あなたにかまわれても困るのよ!」
リアムの腕の中で顔だけロバートに向けて叫ぶと、ロバートは悲しそうな顔をした。
「そんな、嘘だろ? 大体、君の両親のせいでこんなことになったんだぞ!?」
「あなたが一緒になって馬鹿なことをしなければ良かっただけよ!」
「それはっ!」
私の言葉にロバートが何か言い返そうとした時だった。
「おい。デヴァイスくん。君は誰の許可をとってこの場所にいる? ここはマオニール公爵家の敷地内で、俺は君をここにいれる許可を出した覚えはない」
リアムの声がいつもより低くなり、一人称が俺に変わった。
「お誕生日おめでとう、アイリス」
「……近付かないで! どうしてあなたがここにいるのよ!?」
「君の家族が乗ってきた馬車の座席を開けて、中に潜り込ませてもらってんだ。君の家族が降りたあと、パーティーが終わるまで馬車は待機するだろう? その間に外へ出たんだよ」
ベンチから立ち上がり、ロバートから目をはなさないようにして、屋敷の方に向かって、ゆっくり足を進める。
本当は走りたいけれど、酔いが回っているから、いつもの様に走れるとは思えないし、たぶん、足はロバートのほうが早い。
追いつかれて捕まってしまったら、何をされるかわからない。
背中を向けるのが怖くて、じりじりと後退して彼から離れるようにするけれど、歩幅も彼のほうが大きいため、距離は縮まっていく。
彼が私に危害を加える気があるのかないのかはわからない。
私に一体、何の用なの?
誕生日を祝いたかったわけじゃないわよね?
「ひどいな、アイリス。喜んでくれると思ったのに、どうして逃げるんだ?」
「どう考えたら、私が喜ぶなんて思えるの? あなたはもう私とは関係のない人なの!」
「アイリス、僕らはボタンをかけ違えただけなんだ。まだ、やり直せるよ」
「そんな訳ないでしょう! 私はもう結婚しているの! 何より、あなたとやり直すつもりなんてない!」
「アイリス、社交場で君達がなんて言われてるか知ってる?」
彼からの質問に、私が答えてもいないのに、ロバートは笑いながら続ける。
「君たちは白い結婚なんじゃないかって言われてるんだ! まあ、そうだよな。君が好きなのは、俺なんだから!」
「ふざけないで! 私があなたを好き!? そんな事があるわけないでしょう!」
「あんなに仲良くしていたじゃないか!」
「あなたがあの時、家族から私を守ってくれていれば、また違う未来になってたでしょうけど、あなたはそうしなかったじゃない!」
あの時、ロバートが味方になってくれていたら、きっと私は今、ここにはいなかったと思う。
ロバートの選択肢が違っていれば、私はリアムのお飾りの妻ではなく、ロバートの妻になっていたはずだ。
「アイリス! 目を覚ましてくれ! あの一件があってから、俺の人生はめちゃくちゃなんだ!」
「そんなの私の知ったことじゃないわ!」
「このままじゃ、誰も俺の嫁になんて来てくれやしない」
「ココルがいるじゃない! 嘘を本当にしたらどうなの!?」
「そうだ! 大体、君の家族が元々は悪いんだぞ! どうせ白い結婚なら別れてくれよ! そして、君が俺の妻になるんだ! そうすれば、俺の悪い噂だって」
ロバートが一気に距離を詰めて、私の両肩をつかんだ時だった。
「誰と誰が白い結婚だって?」
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「大丈夫か?」
「は、はい」
首を大きく縦に振ると、リアムは、私の両頬をつかみ、ロバートには見えないように口の部分を隠して、唇ギリギリの頬にキスをした。
頬にキスをされただけなのだけど、真正面からされたことで、心臓が飛び出しそうな気持ちになった。
「リ、リアム……?」
「……アイリスは可愛いね」
リアムは顔をはなすと、ポンポンと私の頭を撫でて優しく抱きしめてくれてから、ロバートに言う。
「悪いね、デヴァイスくん。君の聞いた話は噂だよ。これ以上のことを君の前でしてやる必要はないだろう? アイリスの可愛い一面を知ってるのは、僕だけで充分だ」
「アイリス! 本当に君は彼のものになったのか!?」
「……そうよ! 私は今、リアムといれて幸せなの! あなたにかまわれても困るのよ!」
リアムの腕の中で顔だけロバートに向けて叫ぶと、ロバートは悲しそうな顔をした。
「そんな、嘘だろ? 大体、君の両親のせいでこんなことになったんだぞ!?」
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「それはっ!」
私の言葉にロバートが何か言い返そうとした時だった。
「おい。デヴァイスくん。君は誰の許可をとってこの場所にいる? ここはマオニール公爵家の敷地内で、俺は君をここにいれる許可を出した覚えはない」
リアムの声がいつもより低くなり、一人称が俺に変わった。
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