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40 制裁に向けて
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※前半は少し時が戻っています。
トータムが帰ったあと、王妃陛下は私たちのいる部屋にやって来た。勝手に話を進めて悪かったと私に謝ってこられたので、首を横に振る。
「お気になさらないでください。ビレディ侯爵の考えはまったくわかりませんが、話し合いをして別れてくれると言うのであれば、もう一度だけ会ってみることにします」
「乱暴なことをするかもしれませんから、一人で会ってはいけませんわよ」
ファルナ様はそう言うと、ラフリード様に目を向けた。視線に気がついた彼は、指示を求めるように王妃陛下に視線を移す。
「ラフリード、お前も一緒に行け」
「私が一緒に行くのはかまいませんが、ビレディ侯爵がまた変な誤解をするのではないでしょうか」
「王妃命令が聞けないと言うのなら、私から陛下にお願いしようか?」
「いえ。王妃陛下の命令とおっしゃるのであれば、向こうも言いがかりをつけてこないでしょう」
「王妃陛下、ラフリード様、お気持ちはありがたいのですが、そこまでお世話になるわけにはいきません」
私が訴えると、王妃陛下は微笑する。
「私がしたいだけだよ。余計なお世話なら悪かったな」
「とんでもないことでございます。ただ、王妃陛下にそこまでしていただくわけにはいかないと思ったのです」
元々、王妃陛下と知り合いだったならまだしも、そういうわけではない。ただ、ブローチを持っているだけで、ここまでしてもらうのは申し訳ないと思った。
「そうだな。ただの私の自己満足だ。私は親友の夫を助けることができなかった。せめて親友の息子だけは守ってやりたい。そんな気持ちでこの件に関わった。だが、調べていくうちに、トータムが妻に酷いことをしているとわかった」
王妃陛下はため息をついて話を続ける。
「彼女なら息子を叱り、息子の妻を守ろうとすると思ったんだよ」
「そうだったのですね」
私が頷くと、今度はラフリード様が口を開く。
「母も王妃陛下と同じ気持ちなんだ。大事にしていたブローチを息子ではなくあなたに渡すくらいだから、良い人なのだろうと言っていた」
「……おば様たちの善業が、私への恩恵になっているのですね」
何もできていない私が多くの人に守られているのは、生前のおば様たちのおかげだ。
感動していると、ラフリード様が優しい笑みを浮かべる。
「母は先代のビレディ侯爵夫人から君の話を聞いていたらしい。息子は気が利かないが、君は自分たちのことを損得勘定なしに気にかけてくれる良い子だと褒めていたそうだ」
「……そんな」
私はただ、本当の家族よりも優しくしてくれるおば様たちが好きだっただけ。良い子なんかじゃないのに。
ブローチを握りしめて俯いたからか、ファルナ様から叱責される。
「暗い顔なんてらしくありませんわ! 私があなたと友人になったのは、先代の侯爵夫人が理由ではありません!」
「……ありがとうございます!」
そうよ、そうだわ。おじ様は困った時のために私にブローチを預けてくださったのよ。これを持っていれば、私を助けてくれる人たちに出会えると思ったんだわ。
今のトータムは話が通じる状態ではない。絶対に離婚すると言えば、私を傷つけようとするかもしれないわ。
頼らなければならないところは頼らせてもらおう。
「ビレディ侯爵と連絡を取ってみます。ラフリード様、話をすることになった時には、申し訳ございませんがお付き合いいただけますか」
「もちろんだ」
お願いすると、ラフリード様は大きく頷いてくれた。
******
私にも新しい生活がある。トータムには悪いが、自分の都合を優先させてもらうことにした。今のところ、すぐに離婚しなければならない理由はない。時間が空けば、フララさんと上手くいくかもしれない。それで離婚してくれればそれでも良い。
そう思っていたのだが、ファルナ様を経由してやり取りした手紙には『このままでは僕は殺されてしまう』など物騒なことが書かれていた。どうしようかと迷っていたところ、ラフリード様が孤児院への寄付金や生活必需品などを持って訪ねて来てくれた。
お互いの近況を報告し合ったあと、子供たちにラフリード様にお礼を伝えさせると、少し照れくさそうにしていたので新鮮な反応だった。年頃の少女たちは「あの人、カッコいいね」などと耳打ちしてきたが、小さい子供たちは彼の顔を見て泣き始めたため、すぐに眼鏡モードになっていたのも、何だか和んでしまった。
私に話したいことがあると言うので、仕事が終わるまで待ってもらい、寮の食堂で話をすることにした。
「突然、押しかけて悪い」
「とんでもないことでございます。それに支援をいただきありがとうございます。ディーラス公爵からの支援もあって貧しい生活はしていませんが、孤児院に預けられる子供が増えているので、子供たちが満足な生活を送れているとも言い切れませんので」
「今日の件はディーラス公爵にも伝えてあって、どんな様子か見てきてくれとも言われていたから、そのことを伝えておく」
「そうしていただけると助かります」
頭を下げると、ラフリード様は早速本題に入る。
「前侯爵夫人が動き出した」
「もしかして、ビレディ侯爵の命を狙っているのですか?」
「そうだ。彼の父親にやったようにじわじわと弱らせていくつもりだろう。知ってしまった以上、動かないわけにはいかない。彼に会う予定なので、伝えたいことがあるなら伝えておくが」
面倒ごとは、この機会に済ませたほうが良いわよね。ラフリード様もそう思っているから、わざわざ私の所に来たんだわ。
「我儘を言ってもかまいませんか?」
「内容による」
「仕事を始めてすぐに休んだだけでなく、また休むとなると、社会人としてどうかと思います。ですので、私の休みの日に合わせて、ビレディ侯爵たちをここではないどこかに呼び出すことはできないでしょうか」
「かまわないがどうするつもりだ?」
私に関わってこないのなら、あの人たちがどうなっても良いと思っていた。だけど、放っておけば関係のない人が犠牲になる可能性もある。
「まとめて決着をつけます」
「わかった。具体的な希望はあるか?」
「できれば……」
それまでに段取りしておきたいことを、私はラフリード様に伝えたのだった。
トータムが帰ったあと、王妃陛下は私たちのいる部屋にやって来た。勝手に話を進めて悪かったと私に謝ってこられたので、首を横に振る。
「お気になさらないでください。ビレディ侯爵の考えはまったくわかりませんが、話し合いをして別れてくれると言うのであれば、もう一度だけ会ってみることにします」
「乱暴なことをするかもしれませんから、一人で会ってはいけませんわよ」
ファルナ様はそう言うと、ラフリード様に目を向けた。視線に気がついた彼は、指示を求めるように王妃陛下に視線を移す。
「ラフリード、お前も一緒に行け」
「私が一緒に行くのはかまいませんが、ビレディ侯爵がまた変な誤解をするのではないでしょうか」
「王妃命令が聞けないと言うのなら、私から陛下にお願いしようか?」
「いえ。王妃陛下の命令とおっしゃるのであれば、向こうも言いがかりをつけてこないでしょう」
「王妃陛下、ラフリード様、お気持ちはありがたいのですが、そこまでお世話になるわけにはいきません」
私が訴えると、王妃陛下は微笑する。
「私がしたいだけだよ。余計なお世話なら悪かったな」
「とんでもないことでございます。ただ、王妃陛下にそこまでしていただくわけにはいかないと思ったのです」
元々、王妃陛下と知り合いだったならまだしも、そういうわけではない。ただ、ブローチを持っているだけで、ここまでしてもらうのは申し訳ないと思った。
「そうだな。ただの私の自己満足だ。私は親友の夫を助けることができなかった。せめて親友の息子だけは守ってやりたい。そんな気持ちでこの件に関わった。だが、調べていくうちに、トータムが妻に酷いことをしているとわかった」
王妃陛下はため息をついて話を続ける。
「彼女なら息子を叱り、息子の妻を守ろうとすると思ったんだよ」
「そうだったのですね」
私が頷くと、今度はラフリード様が口を開く。
「母も王妃陛下と同じ気持ちなんだ。大事にしていたブローチを息子ではなくあなたに渡すくらいだから、良い人なのだろうと言っていた」
「……おば様たちの善業が、私への恩恵になっているのですね」
何もできていない私が多くの人に守られているのは、生前のおば様たちのおかげだ。
感動していると、ラフリード様が優しい笑みを浮かべる。
「母は先代のビレディ侯爵夫人から君の話を聞いていたらしい。息子は気が利かないが、君は自分たちのことを損得勘定なしに気にかけてくれる良い子だと褒めていたそうだ」
「……そんな」
私はただ、本当の家族よりも優しくしてくれるおば様たちが好きだっただけ。良い子なんかじゃないのに。
ブローチを握りしめて俯いたからか、ファルナ様から叱責される。
「暗い顔なんてらしくありませんわ! 私があなたと友人になったのは、先代の侯爵夫人が理由ではありません!」
「……ありがとうございます!」
そうよ、そうだわ。おじ様は困った時のために私にブローチを預けてくださったのよ。これを持っていれば、私を助けてくれる人たちに出会えると思ったんだわ。
今のトータムは話が通じる状態ではない。絶対に離婚すると言えば、私を傷つけようとするかもしれないわ。
頼らなければならないところは頼らせてもらおう。
「ビレディ侯爵と連絡を取ってみます。ラフリード様、話をすることになった時には、申し訳ございませんがお付き合いいただけますか」
「もちろんだ」
お願いすると、ラフリード様は大きく頷いてくれた。
******
私にも新しい生活がある。トータムには悪いが、自分の都合を優先させてもらうことにした。今のところ、すぐに離婚しなければならない理由はない。時間が空けば、フララさんと上手くいくかもしれない。それで離婚してくれればそれでも良い。
そう思っていたのだが、ファルナ様を経由してやり取りした手紙には『このままでは僕は殺されてしまう』など物騒なことが書かれていた。どうしようかと迷っていたところ、ラフリード様が孤児院への寄付金や生活必需品などを持って訪ねて来てくれた。
お互いの近況を報告し合ったあと、子供たちにラフリード様にお礼を伝えさせると、少し照れくさそうにしていたので新鮮な反応だった。年頃の少女たちは「あの人、カッコいいね」などと耳打ちしてきたが、小さい子供たちは彼の顔を見て泣き始めたため、すぐに眼鏡モードになっていたのも、何だか和んでしまった。
私に話したいことがあると言うので、仕事が終わるまで待ってもらい、寮の食堂で話をすることにした。
「突然、押しかけて悪い」
「とんでもないことでございます。それに支援をいただきありがとうございます。ディーラス公爵からの支援もあって貧しい生活はしていませんが、孤児院に預けられる子供が増えているので、子供たちが満足な生活を送れているとも言い切れませんので」
「今日の件はディーラス公爵にも伝えてあって、どんな様子か見てきてくれとも言われていたから、そのことを伝えておく」
「そうしていただけると助かります」
頭を下げると、ラフリード様は早速本題に入る。
「前侯爵夫人が動き出した」
「もしかして、ビレディ侯爵の命を狙っているのですか?」
「そうだ。彼の父親にやったようにじわじわと弱らせていくつもりだろう。知ってしまった以上、動かないわけにはいかない。彼に会う予定なので、伝えたいことがあるなら伝えておくが」
面倒ごとは、この機会に済ませたほうが良いわよね。ラフリード様もそう思っているから、わざわざ私の所に来たんだわ。
「我儘を言ってもかまいませんか?」
「内容による」
「仕事を始めてすぐに休んだだけでなく、また休むとなると、社会人としてどうかと思います。ですので、私の休みの日に合わせて、ビレディ侯爵たちをここではないどこかに呼び出すことはできないでしょうか」
「かまわないがどうするつもりだ?」
私に関わってこないのなら、あの人たちがどうなっても良いと思っていた。だけど、放っておけば関係のない人が犠牲になる可能性もある。
「まとめて決着をつけます」
「わかった。具体的な希望はあるか?」
「できれば……」
それまでに段取りしておきたいことを、私はラフリード様に伝えたのだった。
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