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42 どうぞ他をあたってください ②
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「そ……、そんな、ミアリナと別れたら僕は終わりだって言ってるだろ!?」
「どうして終わりなの?」
「だ、だって、僕には助けてくれる人がいないんだ!」
「友人がいたのに、その人を裏切るからよ」
冷たく答えると、トータムはその場に跪き、柔らかな赤色のカーペットの上に額をつける。
「お願いします。僕を助けてください」
「だから、離婚してくれるなら助けると言っているでしょう」
冷たく答えると、トータムは顔を上げて叫ぶ。
「君は僕の両親と仲が良かっただろう? 僕を助けなかったら、死んだ両親が悲しむぞ!」
「どうしてあなたが偉そうにしているのよ」
「だ……、だって……」
「あなたは自分のことばかり考えているんだもの。私だって自分のことを考えてもいいわよね? 離婚してくれたらあなたを助けるって言ってるの。見捨てないだけマシだと思ってよ」
「ミアリナ……」
トータムが私の足に縋りつこうとした。慌てて足を引くと同時に、ラフリード様が立ち上がる。
「一人で座ることもできないようだから手伝ってやる」
ラフリード様はトータムを持ち上げるようにして立たせると、投げ捨てるようにソファに座らせた。
「座って話をしろ」
「は……、はい」
ラフリード様に睨まれたトータムは身を縮こまらせて頷いた。
精神的にかなり追い詰められているみたいね。ここは厳しく言うよりも優しく促してみよう。
「お金がなくなったらウララさんたちにとって、あなたは用済みよ。お金もちは他にもいるわ」
「わかってるよ! だから、僕を消そうとしているんだ! フララたちは僕を脅してる! 都合の悪い真実を知っている僕が邪魔なんだ!」
「あなたが私と離婚してくれるなら、ウララさんたちのことをどうにかしてあげるわ」
「ま……、まさか、殺すのか?」
どうしてそこまで物騒な方向に考えが飛ぶのかわからない。
私はため息を吐いてトータムに答える。
「違うわ。それから、何をするかはあなたに教えるつもりはない」
「……冷たい女性になってしまったね」
トータムは服の袖で涙をぬぐって言った。
こうなったのは誰のせいだと思っているのよ。
苛立ちを抑えて答える。
「そうならなければ、私の心が保てなかったから。言っておくけど、私を変えたのはあなたよ」
「……本当に助けてくれるんだね?」
「あなたの命は助けるわ。侯爵家がどうなるかは、あなたが自分で頑張って」
トータムは目を閉じて考えはじめた。私もラフリード様も黙って彼を見守る。少しの沈黙のあと彼は目を開き、覚悟を決めたのか口を開く。
「別れるよ。大事なのは自分の命だから」
「そうね。間違っていないわ」
時と場合によるけれど、今のトータムにとってはこれが最適解だと言えるはず。
離婚を承諾し、これからは私に関わらないようにすることを書いた誓約書などにサインをさせ、私の第一の課題は終わった。
トータムはペンをテーブルに置くと、私を見つめる。
「ミアリナ、最後に少しだけ話していいかな」
「……何よ」
「どうしてフララたちの本性を話してくれなかったんだ?」
「ふざけないで。彼女たちは本性を見せてたわ。それに気づかず、私の助けを求める声も無視したのはあなたよ」
「……っ!」
「ブローチを売り飛ばした件も、フララさんがブローチを欲しがったことも、普通の人間はしない行動なのよ! そして、妻の大事なブローチを義妹に譲れなんて言う人も普通じゃないわ」
強く言うと、トータムの目からまた涙が溢れ出した。
「ごめん……」
「離婚してくれたからもういいわ」
トータムは泣きながら部屋を出ていった。
どうしてだろう。人を泣かせたのに、今は良心が痛まない。それだけ、私も彼に傷つけられたからだろうか。
さあ、次はウララさんたちの番だ。
大きく息を吐くと、ラフリード様が話しかけてくる。
「大丈夫か?」
「はい。少し疲れただけです。でも、まだ終わってませんので気合いを入れます」
気を引き締めたあと、寝室で待っていた親子を呼んだ。
二人はトータムと違い、肌艶も良く豪華な服に身を包んでいた。トータムを脅して好き勝手にお金を使い、使い切ったあとは、トータムを自殺に見せかけて殺すつもりなのでしょう。
お金の管理もできず、妻に逃げられた男が絶望して死んだように見せかけるつもりかしら。
使用人のことはどうするつもりなんだろうか。もしかして、一緒に処分しようとしている?
……どんなことを考えていても、絶対に思うようにはさせないわ。
「久しぶりね、ミアリナさん。私たちに何か用かしら」
優雅に微笑むウララさんに、私も笑顔を返す。
「お久しぶりですね。お元気そうで良かったです。今日はお礼を言いたかったんです」
「……お礼?」
「買い戻したブローチ、とてつもない金額のものだったんです」
「……は?」
ウララさんは意味が分からないといった表情だが、フララさんは反応した。
「私がほしいと言っていたブローチね?」
「ええ」
ラフリード様に目を向けると、彼は私の言葉を肯定してくれる。
「あのブローチはかなりの金額のものだ。公爵家以上の財産がある人にしか買うことは難しいだろう」
「お金に困ったから鑑定してもらったら、そう言われたんです。元々良い値段でしたので当分の生活費には困らないと思って……」
鑑定に出したことは確かだが、理由は嘘だ。
私は苦笑して続ける。
「やっぱり売るのはやめたんですけどね。でも、それだけの価値があることがわかったのは、あなたたちのおかげです。勝手に売り飛ばしたり、無理にでもほしいと言われなければ、この価値に気づけませんでした」
「あのブローチが……」
ウララさんとフララさんの表情が変わった。
お金に汚い親子に罠を仕掛けることにしたのだが、案の定引っかかってくれたようだった。
「どうして終わりなの?」
「だ、だって、僕には助けてくれる人がいないんだ!」
「友人がいたのに、その人を裏切るからよ」
冷たく答えると、トータムはその場に跪き、柔らかな赤色のカーペットの上に額をつける。
「お願いします。僕を助けてください」
「だから、離婚してくれるなら助けると言っているでしょう」
冷たく答えると、トータムは顔を上げて叫ぶ。
「君は僕の両親と仲が良かっただろう? 僕を助けなかったら、死んだ両親が悲しむぞ!」
「どうしてあなたが偉そうにしているのよ」
「だ……、だって……」
「あなたは自分のことばかり考えているんだもの。私だって自分のことを考えてもいいわよね? 離婚してくれたらあなたを助けるって言ってるの。見捨てないだけマシだと思ってよ」
「ミアリナ……」
トータムが私の足に縋りつこうとした。慌てて足を引くと同時に、ラフリード様が立ち上がる。
「一人で座ることもできないようだから手伝ってやる」
ラフリード様はトータムを持ち上げるようにして立たせると、投げ捨てるようにソファに座らせた。
「座って話をしろ」
「は……、はい」
ラフリード様に睨まれたトータムは身を縮こまらせて頷いた。
精神的にかなり追い詰められているみたいね。ここは厳しく言うよりも優しく促してみよう。
「お金がなくなったらウララさんたちにとって、あなたは用済みよ。お金もちは他にもいるわ」
「わかってるよ! だから、僕を消そうとしているんだ! フララたちは僕を脅してる! 都合の悪い真実を知っている僕が邪魔なんだ!」
「あなたが私と離婚してくれるなら、ウララさんたちのことをどうにかしてあげるわ」
「ま……、まさか、殺すのか?」
どうしてそこまで物騒な方向に考えが飛ぶのかわからない。
私はため息を吐いてトータムに答える。
「違うわ。それから、何をするかはあなたに教えるつもりはない」
「……冷たい女性になってしまったね」
トータムは服の袖で涙をぬぐって言った。
こうなったのは誰のせいだと思っているのよ。
苛立ちを抑えて答える。
「そうならなければ、私の心が保てなかったから。言っておくけど、私を変えたのはあなたよ」
「……本当に助けてくれるんだね?」
「あなたの命は助けるわ。侯爵家がどうなるかは、あなたが自分で頑張って」
トータムは目を閉じて考えはじめた。私もラフリード様も黙って彼を見守る。少しの沈黙のあと彼は目を開き、覚悟を決めたのか口を開く。
「別れるよ。大事なのは自分の命だから」
「そうね。間違っていないわ」
時と場合によるけれど、今のトータムにとってはこれが最適解だと言えるはず。
離婚を承諾し、これからは私に関わらないようにすることを書いた誓約書などにサインをさせ、私の第一の課題は終わった。
トータムはペンをテーブルに置くと、私を見つめる。
「ミアリナ、最後に少しだけ話していいかな」
「……何よ」
「どうしてフララたちの本性を話してくれなかったんだ?」
「ふざけないで。彼女たちは本性を見せてたわ。それに気づかず、私の助けを求める声も無視したのはあなたよ」
「……っ!」
「ブローチを売り飛ばした件も、フララさんがブローチを欲しがったことも、普通の人間はしない行動なのよ! そして、妻の大事なブローチを義妹に譲れなんて言う人も普通じゃないわ」
強く言うと、トータムの目からまた涙が溢れ出した。
「ごめん……」
「離婚してくれたからもういいわ」
トータムは泣きながら部屋を出ていった。
どうしてだろう。人を泣かせたのに、今は良心が痛まない。それだけ、私も彼に傷つけられたからだろうか。
さあ、次はウララさんたちの番だ。
大きく息を吐くと、ラフリード様が話しかけてくる。
「大丈夫か?」
「はい。少し疲れただけです。でも、まだ終わってませんので気合いを入れます」
気を引き締めたあと、寝室で待っていた親子を呼んだ。
二人はトータムと違い、肌艶も良く豪華な服に身を包んでいた。トータムを脅して好き勝手にお金を使い、使い切ったあとは、トータムを自殺に見せかけて殺すつもりなのでしょう。
お金の管理もできず、妻に逃げられた男が絶望して死んだように見せかけるつもりかしら。
使用人のことはどうするつもりなんだろうか。もしかして、一緒に処分しようとしている?
……どんなことを考えていても、絶対に思うようにはさせないわ。
「久しぶりね、ミアリナさん。私たちに何か用かしら」
優雅に微笑むウララさんに、私も笑顔を返す。
「お久しぶりですね。お元気そうで良かったです。今日はお礼を言いたかったんです」
「……お礼?」
「買い戻したブローチ、とてつもない金額のものだったんです」
「……は?」
ウララさんは意味が分からないといった表情だが、フララさんは反応した。
「私がほしいと言っていたブローチね?」
「ええ」
ラフリード様に目を向けると、彼は私の言葉を肯定してくれる。
「あのブローチはかなりの金額のものだ。公爵家以上の財産がある人にしか買うことは難しいだろう」
「お金に困ったから鑑定してもらったら、そう言われたんです。元々良い値段でしたので当分の生活費には困らないと思って……」
鑑定に出したことは確かだが、理由は嘘だ。
私は苦笑して続ける。
「やっぱり売るのはやめたんですけどね。でも、それだけの価値があることがわかったのは、あなたたちのおかげです。勝手に売り飛ばしたり、無理にでもほしいと言われなければ、この価値に気づけませんでした」
「あのブローチが……」
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