襲われていた美男子を助けたら溺愛されました

茜菫

文字の大きさ
27 / 31

27

しおりを挟む
「やだ、リズったらすごい顔」

「リリー、そんな、まさか……」

 真っ青なイライザにリリーは軽く首を横に振ると、困ったように笑う。

「ちがうちがう! 私の好みじゃないから」

「そ、う……」

「大体、私は親友の男に手を出すほど、落ちぶれていないのよ」

「そんなつもりじゃ! ……いや、ごめんなさい」

 少し怒ったような口調に、イライザは頭を下げる。リリーは本気で怒っていたわけではないようで、すぐに笑って口を開いた。

「あの人、リズのことを考えて私に気を遣ってくれたんでしょう? そこが、いい男だなって思ったのよ」

 ミケルは自分の気持ちよりイライザを一番に考え、この場をゆずった。そのことがリリーの琴線に触れたようだ。

「ミケルは本当に……とても、良くしてくれる」

 イライザがほんのりと頬を赤く染めてうなずくと、リリーは目に見えてにやける。その表情にぎょっとすると、リリーが一歩詰め寄った。

「あら、のろけ?」

「ちがうっ」

「いいのいいの。むしろ、リズののろけを聞いてみたいわ!」

 リリーは打って変わってミケルへの好感を表し、イライザから話を聞き出そうと迫る。その興味津々といった眼差しにたじろぎ、一歩後ろに下がったイライザは視線をさまよわせた。

「結婚を約束したって言っていたわね。どんな風に申し込まれたの?」

「それは私からで……」

「えっ、リズからなの?!」

 リリーの驚きように、イライザの顔が赤く染まっていく。イライザもこれまで自ら望んで結婚を考えるようなこともなかったため、自分自身でも驚きだ。

「結婚を考えるくらい好きってことよね。どんなところが好きなの?」

「えっ、それは……いざというときに頼りになる、ところとか……」

「へえ、意外。ほかには?」

「……やさしいところとか」

「うん、とてもやさしそうね! ほかにも、もっとあるでしょう?」

 リリーの怒涛の質問攻めに押され、イライザはすなおに答える。リリーの猛攻は止まらず、言葉に詰まり、顔を真っ赤にして両手で覆ったイライザはか細い声でつぶやいた。

「私、なんかを……かわいいと、言って……くれるから……」

 イライザはそこまで言い終えると、耳まで赤くなってうつむく。リリーは驚きに目を見開き、すぐににやにやと口元をゆるめて何度もうなずいた。

「……彼、見る目あるじゃない! うんうん。リズはかわいいものね!」

 初々しいイライザの反応にリリーは同意した。両手で覆ったまま、顔を上げられないイライザは何度も首を横に振る。

「私がかわいいなんて、そんなこと……」

「あるのよ。少なくとも、彼や私にとってはかわいいんだから」

 リリーが力強く言い切ると、イライザは恐る恐る顔を上げる。その表情は真面目なもので、決して冗談や嘲りではないことがわかった。

 なにより、親友の言葉だ。それを疑うなど、イライザには考えられない。

「本当にいい男、連れて帰ってきたわね!」

「……うん」

 満面の笑みを浮かべるリリーに、イライザも顔を赤くしたまま小さく笑った。かわいさにおいては相変わらず自分に自信のないイライザだが、好意を持つ恋人と親友の言葉は気恥ずかしくもうれしいものだ。

「それにしても、結婚を約束した……って、随分思い切ったのね」

「ミケルは王都住まいだったから。私のわがままでこちらに来てもらうから、責任は取らなきゃ」

「真面目ねぇ。……でも、それだけじゃないんでしょう?」

 そう言ってにやりと笑うリリーは、家族の次に長い時間をともにした親友だ。隠しごとなどできるはずもなく、少しうつむいたイライザは小さな声で答える。

「……ミケルは、魅力的でしょう? 」

 見目美しく、人当たりもよく、相手をよろこばせることに長けている。老若男女問わず、とても魅力的に見えるだろう。初めは警戒していたリリーも、いまではこの通りだ。

「結婚しておけば、しっかり捕まえていられるものね」

 この国ではよほどの理由がない限り、離縁は許されていない。婚姻というつながりがあれば、少しは安心できるというものだ。

「リズにもちゃんと、独占欲があるのね!」

「……否定できない」

 片手で目元を押さえるイライザと、楽しげに笑うリリー。そのまま話し込んでいた二人だが、空の色が暗くなり始めたのが見えて慌てて話を中断した。

「ごめん、リズ。つい話し込んじゃった!」

「私も、遅くまでごめんね」

 リリーの自宅はさほど離れておらず、いまから帰路につけば暗くなりきる前には戻れるだろう。イライザは見送ろうとしたが、リリーは首を横に振って断り、勢いよく抱きつく。

「本当に……無事にかえってきてくれて、よかった」

「リリー……ありがとう」

 イライザが抱き返すと、リリーはぎゅうぎゅうと抱きついた。満足したのか、離れたリリーは小さく笑う。

「それに、リズと恋話ができて……すっごく楽しかった!」

「……恋?」

 イライザは驚いたように目を丸くし、ぽつりとつぶやいた。まるで自覚のないその様子に、リリーは腰に両手を当てて呆れたようにため息をつく。

「なに? その反応」

「言われてみれば、恋……なんだなって」

「ふふっ、リズは真面目すぎるから、責任取って結婚! って思ってばっかりだったんでしょう」

 ぐうの音も出ないほどに言い当てられ、イライザは閉口する。感謝してもしきれないほどの恩を受け、ミケルの想いに応えなければ、応えるからには責任を取らなければという気持ちばかりが先行していた。

「責任とか先のこととか、しっかり考えるのはリズのいいところだけど……恋人同士の時間も、楽しみなさいね」

 そう言い残し、大きく手を振ったリリーは急ぎ足で帰路についた。イライザはその場にとどまってリリーを見送る。その背が見えなくなると、イライザはゆっくりと邸宅の中に戻った。

「イライザさま」

 戻ってすぐに、メイドがイライザに声をかける。イライザが屋敷を構えた時から世話になっているメイド、マーガレットだ。

「マーガレット、客人……ミケルは?」

「お部屋で休まれています。食事はイライザさまをお待ちするとのことでしたので、まだされておられません」

「では、食事の用意を。すぐに二人で向かいます」

「かしこまりました」

 イライザは足早で客室に向かう。すぐに部屋の前までたどりつき、扉を軽くノックすると、返事よりも先に扉が開かれた。

「リズ、きてくれたんだね」

 ミケルが笑みを浮かべて出迎える。その目が自分だけを映し、その笑みが自分だけに向けられていることに、イライザはうれしさと満足感を得ていた。

「ミケル。いきなり扉を開けるのは、無用心だと思う」

「ふふ、ちゃんとリズだってわかっていたから」

 ミケルはそのまま部屋から出ると、イライザを抱き寄せて頬に軽く口づけた。

「待たせてごめんなさい」

「ううん。少し疲れていたから、休ませてくれてありがとう」

 ミケルはおだやかな笑みを浮かべている。恩着せがましくすることもなく、あの場で身を引き、リリーとの時間を譲ってくれたミケルの心遣いに、イライザはとても感謝していた。

「休めたのならよかった。これから一緒に食事しましょう」

「よろこんで」

 ミケルはほほ笑み、イライザの隣に立つ。そのまま腕を組むと、二人は並んで食堂へと向かった。

 食事は終始和やかな雰囲気で進んでいった。王都を出てからの旅路、公爵領に入ってからの景色など、見て感じたことを楽しげに語るミケルにイライザもつられて笑い、楽しみを共有する。そうして食事を終えたところで、イライザは少し緊張した面持ちで切り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

洞窟ダンジョン体験ツアー案内人役のイケメン冒険者に、ラッキースケベを連発してしまった私が患う恋の病。

待鳥園子
恋愛
人気のダンジョン冒険ツアーに参加してきたけど、案内人のイケメン冒険者にラッキースケベを連発してしまった。けど、もう一度彼に会いたいと冒険者ギルド前で待ち伏せしたら、思いもよらぬことになった話。

美醜逆転の世界で騎士団長の娘はウサギ公爵様に恋をする

ゆな
恋愛
糸のような目、小さな鼻と口をした、なんとも地味な顔が美しいとされる美醜逆転の世界。ベルリナ・クラレンスはこの世界では絶世の美少女だが、美の感覚が他の人とズレていた。 結婚適齢期にも関わらず、どの令嬢からも忌避される容姿の公爵様が美形にしか見えず、歳の差を乗り越え、二人が幸せになるまでのお話。 🔳男女両視点でかいています。 場面が重複する場合があります。 🔳"美醜逆転の世界で純情騎士団長を愛でる"のスピンオフとなります。本作を読んでいなくてもお楽しみいただける内容となっています。 🔳R18は後半 ※を付けますので、苦手な方はご注意ください

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

ドルイデスは忌み子将軍に溺愛される

毒島醜女
恋愛
母の死後引き取られた叔父一家から召使として搾取され、手込めにされそうになった少女、羽村愛梨。 馴染みの場所であった神社に逃げると、異世界にいた。「神樹により導かれたのね」とドルイデスと呼ばれる魔女が愛梨を拾った。異世界に救われ、ドルイデスから魔法を教わりながら田舎で過ごしていく。現世では味わえなかった温かな人の温もりに、もう何も望むまいと思っていた。 先代のドルイデス=先生が亡くなり、村の外れで静かに暮らすアイリ。 そんな彼女の元に、魔獣討伐で負傷した将軍、ウルリクが訪ねてくる。 離れで彼を看病していくうちに、不器用で、それでいて真っすぐな彼に惹かれていくアイリ。 こんな想いを抱く事はないと、思っていたのに。 自分の想いに嘘がつけず、アイリはウルリクに縋りつく。 だがそれは、ウルリクにとって願ってもない頼みであり、もう決して逃れる事の出来ない溺愛の始まりであった…

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

処理中です...