襲われていた美男子を助けたら溺愛されました

茜菫

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「ミケル、これからのことを話したいの」

「うん」

 ミケルはほほ笑んだまま、ただうなずくだけだ。まったく動揺する様子を見せず、静かにイライザの言葉を待っている。

「私は結婚しても、騎士を辞めるつもりはない」

 イライザはこれだけは譲れなかった。主君を尊敬して心から仕えているし、これまで築き上げてきたものを手放したくない。このことに難色を示されたらと不安を覚えていたイライザに、ミケルは小さくうなずく。

「なら、僕が騎士さまの伴侶として家庭を支えていけばいいんだね」

 ミケルの反応はイライザが不安に思っていたものとは正反対だった。騎士であり続けたいと願うイライザを当然のように受け入れ、さらには支えるとまで言ってくれる。イライザはほっと胸をなで下ろした。

「……ありがとう。じゃあ、正式に婚約をすすめましょう」

「ふふ、どきどきしちゃうね!」

 父であるラチェット伯爵に書面を送り、正式に婚姻の許可を得て、主君であるサフィール公爵に報告して許可を得る。これからの一連の流れを説明すると、ミケルはうれしそうに笑った。

「認めてもらうためにも、ご両親に御挨拶しないとね」

「両親は……まず反対しない。兄さまも口添えしてくださるだろうし、気を遣わなくていい」

 イライザが望まぬ婚姻を強いられずに済んだのも、ノアが酷い目に遭わずに済んだのも、すべてはミケルのおかげだ。さらに利息のせいでなかなか返しきれない借金の問題まで解決したのだから、反対できるような立場ではないとも言える。

「それでも、ちゃんと誠意を示さなきゃ。大切なお嬢さんとの結婚なんだもの」

「お嬢さんだなんて……」

「リズはご両親が愛情を持って育てた、大切なお嬢さんでしょう」

 イライザ自身、両親にとても大切にされている自覚があった。貴族令嬢が女の身で騎士を目指すなど、親は到底認められないだろう。

 しかし、イライザの両親は娘の意思に戸惑いながらも、それを否定することなく認めた。借金の負い目もあったのかもしれないが、それでもイライザの意思を尊重し、自由にさせてくれた。そんな両親のことを、イライザは大切に思っている。

「……両親のことまで考えてくれて、ありがとう」

 イライザは両親のことを軽視する事なく、誠実な姿勢を示すミケルに感謝した。

「こちらこそありがとう。僕との未来をしっかりと考えて、話してくれて。……ふふ、うれしいな」

 ほんのりと頬を赤く染め、とてもうれしそうに笑うミケルに目を奪われたイライザは同じように頬を赤らめる。はっとしてごまかすように咳払いをすると、二度小さくうなずいた。

「二人のことなのだから、相談して決めるのは当然でしょう」

「リズが当然だと思っていることは、できない人間の方が多いんだよ? やっぱり、僕はリズが大好き」

「えっ、あっ、そ……っ」

 突然挟まれた告白にイライザは顔を真っ赤にし、しどろもどろになる。

「ふふ、耳まで真っ赤。リズ、かわいい」

 さらに、追い討ちのようなほめ言葉に両手で顔を覆った。好き、かわいい、その言葉をもう何度も聞かされていたが未だに慣れず、耐性のないイライザは翻弄されるばかりだ。

「っ、今日はここまでにしよう! 湯を用意するから、ゆっくり旅の疲れを癒して」

「ありがとう。使わせてもらうね」

 イライザの逃げの一手を見逃し、ミケルはあっさりと引き下がった。

 ひとまず話は纏まったため、二人は食事の時間を終えて席を立つ。食堂を出る直前、ミケルはイライザの腕を引いた。

「ミケル?」

 ミケルは不思議そうな顔で立ちどまったイライザの耳元に顔を近づけると、そっとささやく。

「今夜、リズの部屋にいってもいい?」

 イライザは思考が停止して氷のように固まってしまったが、すぐに真っ赤になって視線をさまよわせた。その言葉の意味がわからないほど、うぶでもない。

「……っ、うん……」

 イライザがか細い声で応じると、ミケルは彼女の頬に軽く口づけて離れた。笑顔で小さく手を振り、その場を去るミケルの姿を、イライザは口づけられた頬に手を当てて見送る。

「……っ」

 しばらくして、イライザは我にかえると、すぐに自室へと戻った。



 部屋をひっくり返す勢いで片づけたイライザは自身も清め、ミケルの訪れを待っていた。落ち着きなく部屋の中を右往左往し、立ち止まり腕を組んで部屋を見回した後、深く息を吐く。

(……あまりにも、殺風景)

 きれいに片づいてはいるが、装飾と呼べるようなものはほとんどない。花でも飾っておけばよかったと後悔するイライザであった。

 扉が控えめにノックされる音が響く。イライザはその音に反応してびくりと肩を震わせ、早足で扉に向かいった。そっと開いた扉の隙間から見えたのは、にこりと笑んだミケルの姿だ。

「ふふ、来ちゃった」

 まるでいたずらが成功したような言い方に、イライザは小さく笑った。ミケルを中に招き入れ、扉を閉じて鍵をかける。

「リズ、会いたかった!」

 ミケルはイライザを抱きしめると、甘い声を上げた。食堂で別れてからいままで、さほど時間は経っていない。イライザは目を細め、小さく首をかしげる。

「さっきまで一緒だったじゃない」

「もう。リズと離れていた時間がすごく長く感じたくらい、会いたかったんだよ!」

 その言葉にイライザは胸がときめいた。両手を背に伸ばし、ミケルをそっと抱き返す。

「……私も、いつ来るのかって……会いたかった」

「リズ……そんなかわいいこと言われたら、がまんできなくなっちゃうじゃない」

 ミケルはくすくすと笑いながら、イライザを抱きしめる。密着した体から伝わる熱を感じたイライザは、驚きに目を丸くした。

「あ……」

 それがなにか気づいたイライザは顔を赤くし、視線をさまよわせる。ミケルは彼女のうぶな反応を楽しんでいたようだ、が。

「がまんしなくても、私は……」

 笑顔のまま、ミケルはイライザの唇を奪った。イライザが受け入れるように目を閉じると、するりと舌が口内へ入り込む。

「ん……っ」

 ミケルの舌が口内を這い、舌を絡めとられる。イライザはそのまま深く口づけ合いながら、気持ちが昂ぶっていくのを感じていた。

「……っ……あ、……っ」

 ミケルの手が背を這い、下腹部に熱がすりつけられる。イライザは口づけに夢中になりながらも、その熱を感じて下腹部を甘く疼かせた。

「……っ」

 脚が震えたイライザはミケルのに背に回した腕の力を強くする。ミケルはイライザの腰に腕をまわし、しっかりと支えながら唇を離した。

「は、ぁ……」

 熱い息を吐いたイライザの唇に、ミケルの指が触れる。イライザがとろけた表情で見上げると、ミケルは妖艶な笑みを浮かべながら口を開いた。

「今夜はがまんはなしだよ。たっぷり愛し合おうね」

 イライザはその言葉にぞくぞくとしながらうなずいた。

 身に纏うものを脱ぎ捨て、下着のみとなってベッドの上に横たわる。目に映るのは見慣れた自室の天井、そしてまだ見慣れない、とても美しい整った顔立ちの男だ。

「リズ、なにを考えているの?」

 形のよい桃色の唇が弧を描き、薄く開かれて言葉を紡ぐ。それを近くで眺めながら、イライザは不思議な気分であった。

「天井が……」

「天井? ……シミを数えていても、終わらないからね」

「そっ、そうじゃなくて!」

 冗談めかして笑うミケルにイライザは首を横に振った。せっかくの二人の時間を、関係のないことで終わらせるつもりなどない。

「ただ、この天井と……ミケルの組み合わせが見慣れなくて」

 イライザは寝室に人を招き入れたことなどない。ましてや、こうしてベッドに横たわってだれかを見上げるなど、あるわけがなかった。
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