三ヶ月だけの恋人

perari

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仁野はプールから上がり、濡れた顔を手でぬぐった。両手で縁を支えると、そのまま軽く跳ね上がって岸に立ち、タオルで顔を拭きながら水をがぶ飲みする。
監督がストップウォッチを手にやって来て、声をかけた。
「1分56秒。悪くない。入水のタイミングをもう少し速くな。今は伸び悩む時期だから焦るな。」
「はい。」
仁野は素直にうなずき、分析を聞き終えると更衣室に向かった。
その途中で、前に立ちはだかる影に眉をひそめる。松田だった。
シャワーを浴びてきたのか、すでに私服に着替えている。ゆるいベージュのルームウェア、胸元は大きく開き、白い首筋と繊細な鎖骨がのぞいていた。手にはコンビニの袋を下げている。
「……何しに来た?」
仁野の問いに、松田は一瞬言葉に詰まらせた。
本当は言いたい――恋人なら理由なんて要らない。ただ会いたくて来ただけだ、と。
だが、自分たちは“本物の恋人”じゃない。仁野は男に興味がないし、自分を好きでもない。そう思うと、心臓が締めつけられる。
「……夜、腹が減るかと思って。差し入れ。」
「ふうん。」
仁野はそっけなく返事をし、そのまま更衣室へと歩き出す。
夜練は全員参加。隊員たちもその場にいた。
仁野に声をかける男が現れると、周りは面白がるようにざわめく。
「おい坊や、仁野はホモが大嫌いだぞ。今なら逃げられるぜ?」
四角形の顔をした隊員が、わざと大声でからかう。
どっと笑いが起きた。
白い肌の男がまじまじと松田を見つめ、首をかしげる。
「ん? お前、医大の……松なんとかだろ?」
松田は軽く視線を向けただけで、何も答えない。無表情。
だがその態度が、体育会系の男たちには癇に障る。まるで「頭の悪い筋肉馬鹿」と見下されているように感じるのだ。
四角形の男は苛立ち、肩を押した。
「何だその目は。舐めてんのか?」
北川も松田が嫌いだ。だが、松田の冷たい顔は誰にでも向けられるものだと知っていた。武田が勝手に深読みしているだけだ、と。
「武田、やめとけ。」
だが武田に押され、松田の身体は数歩よろめいて後退する。
それでも彼は背筋を伸ばし、北川を見つめて静かに言った。
「……仁野さんに伝えてくれませんか。私は東門で待っていますと。」
武田は完全に無視された気分になり、顔を真っ赤にする。
悔しさと怒りに火がつき、苛烈な言葉とともに松田のすねを蹴りつけた。
「クソオカマ!」

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