4 / 14
3.壊れていくもの
しおりを挟む「ーーい、おい、ユーリ」
体を揺すられ、目を覚ますと幼い顔をしたアルト様がいた。まだ髪も肩にかかるぐらいの長さだった。
目の前が滲んでアルト様の顔が見えない。
「ア、ア、ルト様……アルト様っ」
私はアルト様の頬を撫で抱きしめる。
温かい。戻って来れた。
「お前、頭打ったのか?大丈夫か?」
アルト様が私の頭を撫でてくれる。
どうやら訓練場で私と訓練場していたらしい。
優しい指先が頭を撫でる。とても心地よかった。
「おーい、大丈夫か?」
両頬を捕まれ顔を私の顔を上げる。
アルト様の瞳に入隊したばかりの頃の私が映っていた。
ああ、本当に帰って来た。
また大好きなアルト様の側にいられる。
そう思った。
しかし、そんな幸せは長くない。
目の前が赤く染まっていく。
「ああああ、いやだっ!!」
血の生温かさが手に伝わって来た。
もう何があったか分かってしまった。
「ああ……あああっ、どうしてっ、そんなっ」
視界が戻るとやはりアルト様が絶命した。
私はまた冷たくなっていくアルト様を抱き締め、首筋に迷わず刃を這わせた。
3回目も4回目も何がいけなかったのか、いつの間にか殺してしまっていた。
5回目は最初の時から6年前に戻っていた。どうやら戻れる年月が短くなっていた。
私は騎士団には入ったがなるべくアルト様には近寄らないようにした。
「おい、ユーリ。なんでお前はオレを避けるんだよ!」
しかし、それはアルト様によって壊されてしまう。
「オレ、もうすぐ20歳だぞ。団長になるんだぞ!お前は副団長になるんだろ!」
そうだ。過去に彼と約束したこと。だけれど近付いてしまえば貴方は死んでしまう。
「私は!アルト様の横には行きません!副団長にもなりません!」
傷付いた顔をしたアルト様は私の元を去っていった。
「……アルト様。ごめんなさい」
これで、アルト様を助けられる。
良かったんだ、これで。
お互いの存在は認知しつつも会話も顔を合わせず1年が経っていた。
「本日からシューベルト領騎士団、団長に 就任したアルト・シューベルトだ。まだオレは未熟者だ。間違えることもあるかもしれない。ただ、オレはお前たちを死なせない!よろしく頼む!」
アルト様は団長になった。
横には私の前任の副団長がいた。楽しそうに話していた。
「……アルト様の横は私のものだ」
嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。
しかし、これでいいんだ。
私はアルト様を思いながらその夜、眠りについた。
顔に、手に生温かいものが伝わった。
目を覚ますとアルト様が絶命していた。
「……なぜ?アルト様とは離れていたはず。どうしてっ!!」
ーーーまさか、私が嫉妬したから?
アルト様の服は乱れていた。
「だれか、たすけて」
もういやだ。でもアルト様がいない世界はいやだ。
彼の笑顔が見たい。
「どうして、どうして……何がっ」
もう心が正常に保てない。
ただ、貴方に会いに戻ってもいいですか?
貴方に会いたい。
アルト様の体を抱き締める。
「アルト様、好き、好きなんです。ごめんなさい。好きになって」
私はアルト様の冷たくなった唇にキスを落とす。
もう慣れたように首筋に刃を当てる。
「アルト様、愛しています」
私の視界は光に包まれた。
6回目は私が副団長になった頃だった。
淡々と仕事をこなす毎日だった。5年くらいは経っていた。耐えられなくなって自分の胸を貫いたはずなのにアルト様の胸を貫いていた。またダメだった。
7回目は副団長になり、2年が経った頃だった。私はもう笑えなくなっていた。
アルト様を毎日起こし、魔物を倒す。
それでも髪紐は必ずプレゼントした。
私の気持ちは心に留めたまま。しかし、またダメだった。
私は8回目の朝を迎えていた。
最初の時から3年前に戻って来ていた。
「ユーリ、ユーリってば」
アルト様の声にはっ、とする。
鏡に映るアルト様が私を見上げている。
髪に櫛を通す。さらり、とした黒くて綺麗な髪が私の手の中に集まって行く。
「どうされました?」
この時間はいつも私にとって唯一の癒しだった。
「いや、なんかぼーっとしてるなって」
「考え事をしていました。すみません」
そう、今までの流れを思い出していた。あと2回しか戻れないのだ。どうすればアルト様と長くいられるか考える。
嫉妬し過ぎてもいけない、愛を伝えてもいけない。そして、私から触れるのは問題ない。ただ、アルト様が私の肌に触られなければ平気。
それだけは分かった。
ならば離れてしまえばいいのでは?
しかし、私はアルト様から離れたくない。
どうしたらいい。
どうしたら、長く側にいられる?
側にいてはいけないのかもしれない。
アルト様の黒髪から手を離せばさらり、とすり抜けて行った。
「……ユーリ?どうしーー」
「アルト様、私、騎士団を辞めようと思います」
もう、これしかない。
0
あなたにおすすめの小説
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる