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6.残された印
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私はアルト様に違和感を感じつつも、いつも通りの毎日を過ごしていた。
団員から「ゴブリンが出た」と報告が来た。
「そういえば、そろそろか」
私はまたきっと背中に怪我を負うだろう。何度回避してもどうしてもそれだけは必ず起こる。理由は分からない。
森近くでやや数が多めなゴブリン達と交戦になる。シューベルト領は強い魔物は出ない分、弱くてやっないな魔物が頻繁に出る。
ただ、本当に弱いとすぐ殺されてしまう。私はアルト様が髪を伸ばしている願掛けを守る為、日々騎士団の新人等に教育を行っていた。
その成果があってかアルト様が団長になってからは誰1人死んではいない。
「ユーリ!」
アルト様が私とゴブリンの間に割って入って来た。
私の心臓は飛び跳ねた。まさか飛び込んでくると思わなかった。腕を怪我したようだった。下手したらまたキラーラビットの時のようになりかねない。
ふらり、とよろけたアルト様の肩を抱く。とても具合が悪そうだった。
私は守りながらゴブリンを倒していく。
「アルト様、しっかり!」
アルト様を狙って来たゴブリンの攻撃を背で受け止める。
「ぐっ……っ」
剣でそのゴブリンの首を刎ねる。
「アルト様、しっかりして下さいっ!」
私の声に目が覚めたアルト様が腕の中からいなくなり、どんどんとゴブリン達を倒して行った。
その姿はやはり美しかった。
ゴブリンを倒し終えると背中の傷から血が結構流れてしまっていたのか、寒気がしてくる。
「ユーリ副団長、回復魔法掛けますね。あと、こちらを」
回復魔法を受けつつ、ポーションを飲むと一気に背中の傷が治っていく。
しかし、血が失われてしまったためか少し目眩がする。
「ユーリ、ちょっと休め」
アルト様に声を掛けられるが首を振った。騎士団に戻るまでは私が彼の側にいたかった。
「いい加減にしろ!おい、眠らせろ」
「ま、待って下さい」
私の視界は暗くなった。
次に目を覚ましたのは自室だった。体に何かが触れる感触があった。アルト様が触れていた。私はその手を掴む。
しかし、遅かった。視界が真っ赤になった。ああ、終わった。
こんな呆気なく幸せが崩壊してしまうなんて。
口の中に鉄の味が広がった。
ああ、いやだ。いやだ。
私の幸せを取らないでくれ。
視界が元に戻ると日が昇っていた。アルト様の亡骸はなかったが温もりはあった。
掛けられた布団を取ればシーツが汚れていた。何があったのかすぐに分かった。
「アルト様はまだ生きている?」
呪いが完全に発動しなかった。
何かが変わっている。
何度も戻っているせいで呪い自体も歪みを来たしているのだろうか。
それか最後に願った幸せになりたい、という願いが呪いを抑制しているのだろうか。
早くアルト様のところに行きたかった。
入浴を済ませ、身支度をし、足早に彼の安否をしに部屋に向かった。
ノックをしても声が聞こえなかったので入って見ると寝息を立てて静かに眠っていた。私がいつも見てきたアルト様だった。
「アルト様。アルト様。朝ですよ」
嬉しかった。手に伝わる体温が温かい。アルト様は生きている、という実感が持てた。
まだ眠たそうな顔をして朝の挨拶をしてくれた。
「おはようございます」
体を起こしたアルト様の胸元にいくつもの赤い花が咲いていた。
まるで自分のものだと誇示しているよつまった。
「……それ、なんですか?」
「え?」
覚えていないのか、と言いたげな顔をしていた。やはり私だった。
「これは……なんだろうな。オレもそういう年だから」
「その方は……とても独占欲が強いのですね」
私は嬉しかった。どこかで意思が働いたのだろうか。印がアルト様の体に刻まれていた。
そんな喜びも束の間、ボタンを外すと隠れていた噛み跡が痛々しく残っていた。まるで呪いが発動し、剣がないのなら歯で噛み切ろうとしたような勢いの跡だった。
私が残した印とは別の印。憎たらしかった。
「この噛み跡、痛くないですか?回復魔法かけますね」
呪いが腹立たしい。いつでも簡単に殺せる、と言われているようだ。
「怒っているのか?」
顔を覗き込まれる。
「……そう、見えますか?」
「うん」
傷を治しているとアルト様と目が合う。
「なんですか?」
「いや、いつも笑わないなって」
それはきっと貴方を何度も何度も手に掛けてきたから。
「……壊れてしまったんでしょうね」
私のあの気持ちはきっと誰にも分からない。
「お前は壊れてなんかいないよ。オレの大事な家族だろ。ユーリ・アッシュフォード」
広大な海のような深いサファイヤの瞳が私を見つめる。
貴方は団員を家族という。
私はそれ以上の存在になりたい。
「ユーリ、1回服脱いでくれるか?」
急にアルト様の表情が険しくなった。
「え、なんでですか」
「いいから、早く」
言われた通り脱ぐとアルト様は腰にある友に刻まれた魔法陣を見ているようだった。この印は誰にも見えないはず。祖母は見えていたようだが、母は見えていなかった。
「ユーリ、この魔法陣はなんだ」
「……見えるんですか、それが」
やはり、今回は何かが違うのだろう。
私が幸せを願ったことで、色々変わって来ている。
「黒いモヤとか模様とかも見える」
私はこれ以上、アルト様に深入りして欲しくなかった。
「アルト様には関係ないことですよ。気にされなくて大丈夫です」
隠すように服を着た。
「髪結ますね」
さらり、とした髪をまとめる。
鏡の中に映るアルト様の顔は何かを考えているようだった。
深入りして欲しくないと言っても、もう遅いようだった。
「さぁ、出来上がりましたよ」
どうか、死なないでと髪紐に願いを込める。
団員から「ゴブリンが出た」と報告が来た。
「そういえば、そろそろか」
私はまたきっと背中に怪我を負うだろう。何度回避してもどうしてもそれだけは必ず起こる。理由は分からない。
森近くでやや数が多めなゴブリン達と交戦になる。シューベルト領は強い魔物は出ない分、弱くてやっないな魔物が頻繁に出る。
ただ、本当に弱いとすぐ殺されてしまう。私はアルト様が髪を伸ばしている願掛けを守る為、日々騎士団の新人等に教育を行っていた。
その成果があってかアルト様が団長になってからは誰1人死んではいない。
「ユーリ!」
アルト様が私とゴブリンの間に割って入って来た。
私の心臓は飛び跳ねた。まさか飛び込んでくると思わなかった。腕を怪我したようだった。下手したらまたキラーラビットの時のようになりかねない。
ふらり、とよろけたアルト様の肩を抱く。とても具合が悪そうだった。
私は守りながらゴブリンを倒していく。
「アルト様、しっかり!」
アルト様を狙って来たゴブリンの攻撃を背で受け止める。
「ぐっ……っ」
剣でそのゴブリンの首を刎ねる。
「アルト様、しっかりして下さいっ!」
私の声に目が覚めたアルト様が腕の中からいなくなり、どんどんとゴブリン達を倒して行った。
その姿はやはり美しかった。
ゴブリンを倒し終えると背中の傷から血が結構流れてしまっていたのか、寒気がしてくる。
「ユーリ副団長、回復魔法掛けますね。あと、こちらを」
回復魔法を受けつつ、ポーションを飲むと一気に背中の傷が治っていく。
しかし、血が失われてしまったためか少し目眩がする。
「ユーリ、ちょっと休め」
アルト様に声を掛けられるが首を振った。騎士団に戻るまでは私が彼の側にいたかった。
「いい加減にしろ!おい、眠らせろ」
「ま、待って下さい」
私の視界は暗くなった。
次に目を覚ましたのは自室だった。体に何かが触れる感触があった。アルト様が触れていた。私はその手を掴む。
しかし、遅かった。視界が真っ赤になった。ああ、終わった。
こんな呆気なく幸せが崩壊してしまうなんて。
口の中に鉄の味が広がった。
ああ、いやだ。いやだ。
私の幸せを取らないでくれ。
視界が元に戻ると日が昇っていた。アルト様の亡骸はなかったが温もりはあった。
掛けられた布団を取ればシーツが汚れていた。何があったのかすぐに分かった。
「アルト様はまだ生きている?」
呪いが完全に発動しなかった。
何かが変わっている。
何度も戻っているせいで呪い自体も歪みを来たしているのだろうか。
それか最後に願った幸せになりたい、という願いが呪いを抑制しているのだろうか。
早くアルト様のところに行きたかった。
入浴を済ませ、身支度をし、足早に彼の安否をしに部屋に向かった。
ノックをしても声が聞こえなかったので入って見ると寝息を立てて静かに眠っていた。私がいつも見てきたアルト様だった。
「アルト様。アルト様。朝ですよ」
嬉しかった。手に伝わる体温が温かい。アルト様は生きている、という実感が持てた。
まだ眠たそうな顔をして朝の挨拶をしてくれた。
「おはようございます」
体を起こしたアルト様の胸元にいくつもの赤い花が咲いていた。
まるで自分のものだと誇示しているよつまった。
「……それ、なんですか?」
「え?」
覚えていないのか、と言いたげな顔をしていた。やはり私だった。
「これは……なんだろうな。オレもそういう年だから」
「その方は……とても独占欲が強いのですね」
私は嬉しかった。どこかで意思が働いたのだろうか。印がアルト様の体に刻まれていた。
そんな喜びも束の間、ボタンを外すと隠れていた噛み跡が痛々しく残っていた。まるで呪いが発動し、剣がないのなら歯で噛み切ろうとしたような勢いの跡だった。
私が残した印とは別の印。憎たらしかった。
「この噛み跡、痛くないですか?回復魔法かけますね」
呪いが腹立たしい。いつでも簡単に殺せる、と言われているようだ。
「怒っているのか?」
顔を覗き込まれる。
「……そう、見えますか?」
「うん」
傷を治しているとアルト様と目が合う。
「なんですか?」
「いや、いつも笑わないなって」
それはきっと貴方を何度も何度も手に掛けてきたから。
「……壊れてしまったんでしょうね」
私のあの気持ちはきっと誰にも分からない。
「お前は壊れてなんかいないよ。オレの大事な家族だろ。ユーリ・アッシュフォード」
広大な海のような深いサファイヤの瞳が私を見つめる。
貴方は団員を家族という。
私はそれ以上の存在になりたい。
「ユーリ、1回服脱いでくれるか?」
急にアルト様の表情が険しくなった。
「え、なんでですか」
「いいから、早く」
言われた通り脱ぐとアルト様は腰にある友に刻まれた魔法陣を見ているようだった。この印は誰にも見えないはず。祖母は見えていたようだが、母は見えていなかった。
「ユーリ、この魔法陣はなんだ」
「……見えるんですか、それが」
やはり、今回は何かが違うのだろう。
私が幸せを願ったことで、色々変わって来ている。
「黒いモヤとか模様とかも見える」
私はこれ以上、アルト様に深入りして欲しくなかった。
「アルト様には関係ないことですよ。気にされなくて大丈夫です」
隠すように服を着た。
「髪結ますね」
さらり、とした髪をまとめる。
鏡の中に映るアルト様の顔は何かを考えているようだった。
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