死に戻り騎士は愛のために願う 〜10回だけの奇跡〜

湯川岳

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11.長い道のりの終わり

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 アルト様は私が泣き止むまで優しくずっと側にいてくれた。

「落ち着いたか?」

 はい、と答えた。すでに真っ暗になった森の中で私たちは魔物避けの結界を施し、焚き火をつけてから傷だらけのアルト様に回復魔法を施した。
 傷を大体治し終えるとアルト様は私の横に腰を下ろし、ネックレスを返してくれた。
 錆びたチェーンは変わらないのに魔法石も黒いままなのに何か違った。そこにあったはずのものがないような感覚だった。

「その魔法石、お前のことすごく助けたがってたよ」

 アルト様は優しい顔で魔法石を見つめていた。

「そう、なんですか」

 やはりまだ何かがいてくれたんだ。魔法石を優しく抱き締めた。
 ため息が聞こえた。顔を上げれば辛そうな泣きそうな顔をしているアルト様がいた。

「何回も戻るなんて、お前も馬鹿だよ」

「私は自分の死より、貴方を失う方が怖かったです」

 だからこそ、自分の死を厭わず戻る事ができた。戻れば貴方がいると分かっていたから。
 もしかしたらそれも私にとって暗い道のりの中で縋った道標かもしれない。
 
「……その、呪いはどんな魔物から?」

「ヘルハウンドです」

 黒い毛並みに赤い瞳で離れてしまった番を心から愛していた優しい魔物だった。

 私は彼との出会いから話をした。

「そのヘルハウンド、番がいたんです。離れ離れになってしまってとても悲しそうでした。……おかしいですよね。魔物に対して情が湧くなんて」

 悲しそうな表情をしたアルト様が首を振った。

「そんなことないよ」

 アルト様は焚き火の炎を見た。

「……その呪い、解き方知ってるか?」

 私はアルト様を殺して解く方法しか知らなかった。それ以外ないと思っている。
 今もこうして話しているだけで呪いが発動し、アルト様を殺してしまうのではと不安に怯えるくらい。

「いえ、知りません。貴方を殺してしまう以外……」

 それを聞いたアルト様が声を上げて笑った。そんなにおかしかっただろうか。
 無理もない。殺す以外の選択肢はないのだから。
 笑った後は、体の表面は治せても折れた骨は治っていないのか小さい呻き声を上げていた。

「お前、調べろよ。解き方、もう1つあるんだよ」

「……え?」

 アルト様は肋を抑えながら笑う。

「顔……、顔、もっと近付けて」

 ほんの少しだけ近付いてみる。しかし、 もっと、と言われ唇が触れない所で止まる。
  アルト様は何がしたいのだろう。
 このままキスをしてしまえばまた、と最初のアルト様とのやり取りを思い出し震えている自分がいた。
 離れようとするとアルト様の腕が逃がさないように肩に回され、引き寄せられた。

 唇に久しぶりにアルト様の柔らかい唇を感じた。目の前でアルト様が黒いモヤに覆われ、視界も赤くなった。
 しかし、視界は戻っていく。

「ユーリ、愛してる」

 夜が明けたのか太陽の光がアルト様を包み込んでいた。それは暗くて長い道のりの終着地のようだった。
 とても美しかった。

「顔、真っ赤だな」

 アルト様がそう笑って私の頬に手を添える。腰に弾ける様な痛みが走った。それはまるで昔友からシッポで叩かれたような痛みだった。

《悪かった》

 頭の中に友の声が響く。手の中にあった魔法石が砂のように指の隙間から落ちていった。

 全てが終わった。
 やっと解放された。

「私、やっと……」

目の前が熱くなった。滲んで何も見えない。それを隠すかのようにアルト様の腕が私の頭を抱き締めた。
 私はアルト様の背中に腕を回して声を上げてないた。



 馬が私たちを乗せて走っていた。
 アルト様は私が支えながら前に乗ってもらった。離れたくない、という気持ちが大きかったがアルト様の怪我を考慮したのもあった。
 やはり、私の回復魔法では骨折までは治せないようだった。ポーションがあれば違ったかもしれない。

「アルト様、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。オレたち怒られるなぁ、きっと」

「そうですね」

 私は笑った。
 きっとすごく怒られるだろう。もしかしたら重い罰も考えられる。
 だけど、心は晴れやかだ。

「副団長でなくなっても貴方の側にいます」

「何言ってるんだ。お前は一生オレの側にいるんだろ?副団長は辞めさせない、絶対に」

 私の手をアルト様が握る。
 それだけで嬉しかった。私はアルト様の頭にキスを落とした。

「ありがとうございます」

 アルト様の耳は赤くなっていた。

「だけど、オレが団長首になったらごめんな」

「そしたらアッシュフォード村に一緒に帰りましょう」

「……そうだな」

 アルト様は小さく笑った。
 私は初めて未来の話ができた。それもアルト様がいる未来だ。嬉しかった。

始めて私の本当の願いが叶った瞬間だった。
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