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見えないところに在る愛
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『君は王太子妃となるべく生まれてきたんだからね?』
クラリスはフリードリヒから視線を外し、悲しそうに呟いた。
『私の意志ではないけれど…王女に生まれてきた定めを何度も呪ったわ。だけど、私にその定めに悲観するくらいなら、その定めを受け入れ、その中で幸福を見つけるように話してくれた人がいたの。その方は、私の王太子妃としてのお手本なの。』
黙ってクラリスの話に耳を傾けるフリードリヒ。
『その方も、私と同じような境遇で己の定めを悲観していたと言った。その方は当時まだ幼い私に対等に話してくれたの。辛いのは貴女だけじゃない、私も同じだと。だから辛い時は私も同じだからと、歯を食いしばりなさいと。』
『素敵な方との出会いだね。』
『そう、とても。その方はご自分の意志とは関係なくその立場に追われ、我が子さえもこの胸に抱くことはできないほどお忙しかったの。でも、我が子のために、他に気づかれないよう肌着やおもちゃなど、身に付けるものや側にあるものに刺繍を施していると、私に教えてくれたわ。』
フリードリヒは納得した表情で言った。
『だから君の刺繍の腕はプロ並みなんだね。』
クラリスは小さく笑う。
『私なんてまだまだよ。その方に見せればダメ出しされるわ(笑)』
『その方はどこの王太子妃なの? きちんとご挨拶しておきたいよ。』
クラリスは不思議そうにフリードリヒを見る。
『ご挨拶も何も、ランズ王国王妃様よ。』
…。
『殿下のお母様ですよ?』
…。
しばらくフリードリヒの反応を待っていたクラリスに、フリードリヒは口を開いた。
『王太子妃って言わなかった?』
『はい、私が幼い頃の話ですからね。先代国王の時代ですから、王太子も殿下ではなくお父様でしたもの。』
…。…。
『見えない所に愛がある、ですわね。私はそんな殿下に嫉妬して、ハズレ王子だと思い込んでいたのかもしれません。』
…見えない所に愛?
フリードリヒはよくわからない感情に、不思議そうにクラリスを見た。クラリスはフリードリヒが見たことのない美しい微笑みを向けた。
『母上はその時の少女がクラリスだと知っているの?』
『ご存知ないと思うわ。でもいいの。私が救われたのは事実。それとこれは別問題。私はお母様の後をたまたま歩いているだけ。そのことで王妃であるお母様に頼るつもりはないの。それが小さいけど、私の王太子妃としてのプライドかしら』
クラリスは少女のようにケラケラと笑った。その姿を見てフリードリヒは思わずクラリスを胸に抱き込んだ。
『クラリス、行ってみようか?』
『どちらへ?』
フリードリヒはクラリスを胸から離し、にやりと笑った。
『ハウスだよ。』
クラリスは驚き、窓の外を見た。
『こんな時間ですよ?』
『私は王太子だよ? 問題ある?』
そう言うとフリードリヒはクラリスの手を取り、暗がりの王太子宮の廊下を突き進んだ。
護衛をハウスの近くに待機させると、二人はランプを手に真っ暗な森の中を進む。カギはフリードリヒの持つ、先代国王から譲り受けた小さなものだ。
ゆっくりとカギ穴に差し込み回すと、ガチャリと施錠が外れる音が静かな森に響いた。
フリードリヒは慣れた様子で中に入り、小さなランプに火を灯した。
『よくこうして夜な夜な来てたんだ』
得意げに話すフリードリヒに、クラリスはくすりと笑った。
フリードリヒは手を伸ばしクラリスを引き寄せ、小さなソファに二人で沈んだ。
クラリスを後ろから抱きしめたまま、フリードリヒはしばらく目を閉じていた。
そうしているとフリードリヒは後ろからクラリスの小さな胸を揉みほぐすと、驚いたクラリスは振り返り、フリードリヒを見る。彼は首を傾げ、まるで「うん?」と言うように見つめた。
やがてフリードリヒはクラリスの唇にそっと自分の唇を重ね、次第に深いキスへと移っていく。
逃げようのない体勢でもクラリスは身体をよじるが、フリードリヒは力を緩めず、ビクともしない。
『駄目?』
…駄目ではない。婚儀からすでに一年が経っており、これまで何もなかった方が寧ろ不自然だ。
『ここで?』
『最も相応しい場所だよ?』
『その…心の準備が…』
『それは私も同じ』
『違うわ。』
『何故?』
『殿下はその…今までに…』
クラリスがモジモジと口ごもると、フリードリヒは柔らかく被せるように言った。
『私も初めてだけど?』
驚くクラリスに、フリードリヒはにやりと笑う。
『何か勘違いしてるようだけど、我妻は』
何度も瞬きしながら見つめるクラリスに、フリードリヒは小さな声で囁いた。
『そろそろいい?』
クラリスの言葉を待たず、フリードリヒはそっとクラリスのガウンを脱がせ、夜着のリボンを優しく解いていった。
…!?
リントン王女のピンチである。クラリスはまだ知らない世界の幕開けに目を白黒させながら、二人は晴れて本物の夫婦となった。
…殿下の嘘つき! 何が初めてなのよ。
クラリスは果て、汗だくになったフリードリヒを睨みつけながら瞼を閉じた。
***
朝。
ハウスから差し込む朝日で目を覚ましたクラリスは、フリードリヒの腕枕を解き、慌てて声を上げた。
『殿下! 朝です! 大変です!』
眠そうに目を擦るフリードリヒ。
『そんなに慌てなくて大丈夫だよ』
『いやいや、大丈夫なわけあるかい! こんな格好で王太子宮まで戻れないわ!』
フリードリヒはケラケラ笑いながらクラリスの露わになっているささやかな胸にイタズラするとクラリスは己の格好を認識し、慌ててタオルケットをかぶった。
『どうしましょう…』
『大丈夫だから』
…何が?
怪訝そうにフリードリヒを見やると、彼はガウンを羽織り、ハウスの扉を開けて手招きした。
…え?
焦るクラリスにフリードリヒは言った。
『私はこのままで大丈夫だから、先に行くね』
そう言うと、二人の愛の巣を後にした。
…信じられないわ! 私だけ見捨てるなんて(泣)
その時、声がかかった。
『妃殿下、失礼します』
王太子宮チームのクラリス付き侍女、マリーだ。
…マリー! 地獄に仏様だわ。
クラリスは泣きそうな顔でマリーを迎える。マリーも涙ぐみながらハウスに入り、声を震わせて言った。
『妃殿下、おめでとうございます』
マリーは嬉しそうにクラリスの手を取り、二人で喜びを分かち合った。
クラリスはフリードリヒから視線を外し、悲しそうに呟いた。
『私の意志ではないけれど…王女に生まれてきた定めを何度も呪ったわ。だけど、私にその定めに悲観するくらいなら、その定めを受け入れ、その中で幸福を見つけるように話してくれた人がいたの。その方は、私の王太子妃としてのお手本なの。』
黙ってクラリスの話に耳を傾けるフリードリヒ。
『その方も、私と同じような境遇で己の定めを悲観していたと言った。その方は当時まだ幼い私に対等に話してくれたの。辛いのは貴女だけじゃない、私も同じだと。だから辛い時は私も同じだからと、歯を食いしばりなさいと。』
『素敵な方との出会いだね。』
『そう、とても。その方はご自分の意志とは関係なくその立場に追われ、我が子さえもこの胸に抱くことはできないほどお忙しかったの。でも、我が子のために、他に気づかれないよう肌着やおもちゃなど、身に付けるものや側にあるものに刺繍を施していると、私に教えてくれたわ。』
フリードリヒは納得した表情で言った。
『だから君の刺繍の腕はプロ並みなんだね。』
クラリスは小さく笑う。
『私なんてまだまだよ。その方に見せればダメ出しされるわ(笑)』
『その方はどこの王太子妃なの? きちんとご挨拶しておきたいよ。』
クラリスは不思議そうにフリードリヒを見る。
『ご挨拶も何も、ランズ王国王妃様よ。』
…。
『殿下のお母様ですよ?』
…。
しばらくフリードリヒの反応を待っていたクラリスに、フリードリヒは口を開いた。
『王太子妃って言わなかった?』
『はい、私が幼い頃の話ですからね。先代国王の時代ですから、王太子も殿下ではなくお父様でしたもの。』
…。…。
『見えない所に愛がある、ですわね。私はそんな殿下に嫉妬して、ハズレ王子だと思い込んでいたのかもしれません。』
…見えない所に愛?
フリードリヒはよくわからない感情に、不思議そうにクラリスを見た。クラリスはフリードリヒが見たことのない美しい微笑みを向けた。
『母上はその時の少女がクラリスだと知っているの?』
『ご存知ないと思うわ。でもいいの。私が救われたのは事実。それとこれは別問題。私はお母様の後をたまたま歩いているだけ。そのことで王妃であるお母様に頼るつもりはないの。それが小さいけど、私の王太子妃としてのプライドかしら』
クラリスは少女のようにケラケラと笑った。その姿を見てフリードリヒは思わずクラリスを胸に抱き込んだ。
『クラリス、行ってみようか?』
『どちらへ?』
フリードリヒはクラリスを胸から離し、にやりと笑った。
『ハウスだよ。』
クラリスは驚き、窓の外を見た。
『こんな時間ですよ?』
『私は王太子だよ? 問題ある?』
そう言うとフリードリヒはクラリスの手を取り、暗がりの王太子宮の廊下を突き進んだ。
護衛をハウスの近くに待機させると、二人はランプを手に真っ暗な森の中を進む。カギはフリードリヒの持つ、先代国王から譲り受けた小さなものだ。
ゆっくりとカギ穴に差し込み回すと、ガチャリと施錠が外れる音が静かな森に響いた。
フリードリヒは慣れた様子で中に入り、小さなランプに火を灯した。
『よくこうして夜な夜な来てたんだ』
得意げに話すフリードリヒに、クラリスはくすりと笑った。
フリードリヒは手を伸ばしクラリスを引き寄せ、小さなソファに二人で沈んだ。
クラリスを後ろから抱きしめたまま、フリードリヒはしばらく目を閉じていた。
そうしているとフリードリヒは後ろからクラリスの小さな胸を揉みほぐすと、驚いたクラリスは振り返り、フリードリヒを見る。彼は首を傾げ、まるで「うん?」と言うように見つめた。
やがてフリードリヒはクラリスの唇にそっと自分の唇を重ね、次第に深いキスへと移っていく。
逃げようのない体勢でもクラリスは身体をよじるが、フリードリヒは力を緩めず、ビクともしない。
『駄目?』
…駄目ではない。婚儀からすでに一年が経っており、これまで何もなかった方が寧ろ不自然だ。
『ここで?』
『最も相応しい場所だよ?』
『その…心の準備が…』
『それは私も同じ』
『違うわ。』
『何故?』
『殿下はその…今までに…』
クラリスがモジモジと口ごもると、フリードリヒは柔らかく被せるように言った。
『私も初めてだけど?』
驚くクラリスに、フリードリヒはにやりと笑う。
『何か勘違いしてるようだけど、我妻は』
何度も瞬きしながら見つめるクラリスに、フリードリヒは小さな声で囁いた。
『そろそろいい?』
クラリスの言葉を待たず、フリードリヒはそっとクラリスのガウンを脱がせ、夜着のリボンを優しく解いていった。
…!?
リントン王女のピンチである。クラリスはまだ知らない世界の幕開けに目を白黒させながら、二人は晴れて本物の夫婦となった。
…殿下の嘘つき! 何が初めてなのよ。
クラリスは果て、汗だくになったフリードリヒを睨みつけながら瞼を閉じた。
***
朝。
ハウスから差し込む朝日で目を覚ましたクラリスは、フリードリヒの腕枕を解き、慌てて声を上げた。
『殿下! 朝です! 大変です!』
眠そうに目を擦るフリードリヒ。
『そんなに慌てなくて大丈夫だよ』
『いやいや、大丈夫なわけあるかい! こんな格好で王太子宮まで戻れないわ!』
フリードリヒはケラケラ笑いながらクラリスの露わになっているささやかな胸にイタズラするとクラリスは己の格好を認識し、慌ててタオルケットをかぶった。
『どうしましょう…』
『大丈夫だから』
…何が?
怪訝そうにフリードリヒを見やると、彼はガウンを羽織り、ハウスの扉を開けて手招きした。
…え?
焦るクラリスにフリードリヒは言った。
『私はこのままで大丈夫だから、先に行くね』
そう言うと、二人の愛の巣を後にした。
…信じられないわ! 私だけ見捨てるなんて(泣)
その時、声がかかった。
『妃殿下、失礼します』
王太子宮チームのクラリス付き侍女、マリーだ。
…マリー! 地獄に仏様だわ。
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