王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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アンドラと王太子妃のひととき

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執務室もひとつにまとまり、ランズ王国王子チームは一致団結していた。

この日は国王陛下も参加する執務会議。王太子をはじめ、王子たちも揃って出席している。もちろん側近たちも同行するが、ヨハネスの側近アンドラだけはお留守番だ。

理由は簡単。アンドラは伯爵家の出身。この会議には上位貴族のみが立ち入りを許されており、ヨハネスに仕えるアンドラの代わりに、テオドールがピンチヒッターとして出向いていたのだ。

普段賑やかな執務室も、今日は久々の静寂。アンドラはひたすら書類と格闘している。



クラリスはペンを置き、穏やかに声をかけた。

「ねえアンドラ、お茶にしない?」

アンドラは、初めてクラリスと二人きりで会話するせいか、少し緊張している様子だ。

クラリスはアンドラをソファに促し、お茶と菓子が出されるのを楽しみに待つ。



アンドラは目の前の王太子妃の自然な姿に、ほんの少し笑みを漏らした。

「ところでアンドラ。貴方はフィリップスやファビウスにはあまり感じないけど、テオだけには何だか壁みたいなものを感じるのは何故?」

アンドラはクラリスの不安げな表情を和らげるように微笑む。

「それは私だけではなく、この国の貴族なら誰しも、テオドール殿を憧れて止まないからです」

クラリスは驚き、声を漏らす。

「フィリップスやファビウスではなく、テオに?」

「はい」



「それは、筆頭公爵家の嫡男だから?」

アンドラはまたも微笑む。

「それだけではありません。彼はその爵位さえ必要ないほどに優れております」



「武術はもちろん、学問も優れ、何よりあのお人柄。我が国の外交は、テオドール殿のお力で保たれているようなものです」

クラリスは怪訝そうに眉をひそめる。

「そんな大袈裟な」

「いいえ、大袈裟ではありません。信じられないのなら、他の者に聞いてみれば分かります」

アンドラはにこやかに答えた。



クラリスはつまらなさそうに窓辺を見てから、思い立ったようにアンドラに視線を向ける。

「ねえ、アンドラ。貴女には婚約者はいるの?」

「そりゃあ、一応、いますよ」

クラリスは少し考え込み、問い返す。

「居るには居るって、どういうこと?政略結婚?」

「私は伯爵家の次男坊。いつかは家を出る身ですからね。貴族令嬢から見れば、私の価値はほとんどありません。政略結婚なんて存在しませんよ」

「じゃあ、真実の愛?」

アンドラは思わずお茶を吹き出しそうになりながらも、苦笑いで答える。

「し、真実かどうかは分かりません。ただ、昔からの腐れ縁のようなものです」

クラリスは納得するように頷き、さらに質問を続けた。

「ねえ…婚約者は普段、貴方のことを何て呼んでいるの?」

アンドラは不思議そうに見つめる。

「だから、婚約者は貴方を何て呼んでいるのかって聞いているの!」

アンドラは首を傾げる。

「…アンディですかね?」



黙りこくるクラリスに、アンドラはまた首を傾げる。

…さっきまでの勢いはどこ行った?

「私はね、殿下を『殿下』と呼んでいます」

「そうですね、いつもそう呼ばれていますね」

クラリスは睨みつける。

「ねえ、貴女の婚約者はアンディと呼ぶのに、私は殿下と敬称で呼んでるのよ?おかしくない?」



アンドラは少し口角を上げて答える。

「妃殿下は殿下をお名前で呼びたいということですね?」

クラリスはムスッとしながら答えた。

「別に呼びたいとかじゃないけど…」

…いや、それ以外に何がある?

アンドラは目を細め、クラリスを見つめる。

…可愛いんだけど?

その時、執務室の扉が開き、フリードリヒが顔を出す。

「アンドラ、少しよいか?」

アンドラはすぐに立ち上がり、急いでフリードリヒの元へ走る。

「アンディ!分かってると思うけど…」

思わず呼び止めたクラリスに、アンドラは答える。

「承知しております!」

…言わないよ、こんな事。

アンドラは苦笑いを浮かべ、扉の外で待つフリードリヒと合流し、隣の広間へ向かった。

…つうか、なに?

アンドラは急に不安になり、主であるヨハネスを探すが…

…こんな時に限って、見当たらない。
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