王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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王太子宮へ向かう日

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この日もまた、クラリスは執務を終えると、足早に王太子宮へ向かった。

「では、ファビウス、アンドラ、また後でね」

ヨハネスはうんざりしたようにデスクに伏せていた顔を上げ、アンドラを見た。

「アンドラ、まさかまた王太子宮か?」

アンドラは首を傾げて応える。

「何かありました?」

ヨハネスは、テオドールとフィリップス――かつて王太子派と呼ばれていた二人――をチラリと見やり、静かに呟いた。

「アンドラ、お前、本当によくやってくれているな…」

その細やかな呟きに、テオドールが即座に反応する。

「アンドラの留守中は、我々が側近としてピンチヒッターを務めておりますが?」

…お前は本当地獄耳だな。

ヨハネスは大きくため息をつき、眉を寄せる。

「お前が後ろに控えているとな…圧を感じるんだよ。圧を!」

テオドールは微動だにせず、涼しげに返す。

「それは致し方ありませんよ。半端ないオーラを纏っております故(笑)」

…お前が言うと、笑えない。

アンドラも苦笑しながら身支度を整えていると、反対側でアルフレッドが口を開いた。

「ファビウス、お前たちのダンスは私から見ても素晴らしいぞ。だが、何もお前たちまでダンス練習に付き合う必要はないのでは?」

ファビウスは口角を少し上げ、穏やかに答える。

「せっかく妃殿下からのお誘いですし。それに、リディアも貴重な経験ができると喜んでおります」

アルフレッドは訝しげにファビウスを見つめる。

「おや、こちらの殿下も側近がお留守だと寂しそうですね?」

後ろから顔を出したのは、やはりテオドール。

アルフレッドは苦虫を噛み潰したような表情で答える。

「そんなことはないが、お前はいちいち煩いな。よくもまぁ、フリードは平気でいられるな」

「アル兄、テオドールは今や義姉上の側近ですから! 犬猿の仲ですし、やかましくてしょうがないですよ!」

テオドールが振り返った瞬間、ヨハネスは慌ててアンドラに告げた。

「アンドラ、今日は天気もいいし、私も王太子宮まで行くよ」

…は?何しに?

アンドラは瞬きを二度繰り返した。

「それは良い! 私も行くぞ!」

まさかのアルフレッドまで立ち上がり、二人は側近を連れて王太子宮へ向かうことになった。

残されたテオドールとフィリップスは顔を見合わせ、苦笑する。

「『逃げよった…』」

そこへ戻ってきたフリードリヒが、頭を抱える二人を見て微笑んだ。

「おやおや、私の自慢の側近たちは、何かお困りのようかな?」

フィリップスは苦笑しつつ答える。

「お前はいいよ。来週からはフリードと視察だろ?」

「まぁね。でもね、遊びに行くわけじゃないから(笑)」

フリードリヒは楽しげに笑い、二人をソファに促す。

「来週からは頼んだよ。夜会までには戻るから」

テオドールは驚きの声を上げる。

「は?そんなに? 取潰しになる侯爵家の領地を視察するだけじゃねえの?」

フィリップスはなだめるように言った。

「せっかくあそこまで行くんだ。途中を素通りはまずいだろ?」

「…そんなんね。わざわざフリードが領地に寄ろうもんなら、返って気を使わせるだけだし。正直、面倒だろ? 実際」

フリードリヒは顔を顰めると、微笑みを浮かべてテオドールに語る。

「テオ、本人目の前にしてよくもそんな正直に言えるね(笑)」

「本当のことだろ? ってか俺はその間、大変だからね。側近仲間は妃殿下と王太子宮で淑女教育に付き合わされているし、その間俺は王子二人の…全く似ても似つかない二人の王子の側で…はぁ」

言葉にならない感情を露わにするテオドールに、フリードリヒは穏やかに話しかけた。

「テオ、何故私がお前たちを兄上やヨハネスに付かせるかわかるか?」

「…人手不足は否めないだろ?」

フリードリヒは首を横に振る。

「もし私に何かあった時でも、お前たちは主流で活躍する身だ。決して反主流になってはいけない。だから、私以外の兄上やヨハネス、いろんなタイプの者に仕えることは、必ず大きな財産になるはずだ」

テオドールは顔を上げ、警戒を解かぬまま問いかける。

「何かって何だよ。不吉なことを言うな」

フリードリヒは笑顔で頷く。

「不吉なことではない。想定できる範囲のことさ。周到な準備は、いくらあっても無駄にはならない」

テオドールとフィリップスは、親友であるフリードリヒが生まれながらの王太子であることを改めて実感した、穏やかで充実したひとときであった。
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