王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

文字の大きさ
68 / 85

王太子チームに新たな令嬢たち

しおりを挟む
ファビウスとアンドラは、初めて足を踏み入れる王太子宮に緊張しながら、二人揃って広間へと案内された。

扉を開くと、二人は思わず固まった。

…何?
…え?

その視線の先には、王太子妃クラリスと、ファビウスの婚約者リディア、アンドラの婚約者マーガレットが、優雅にお茶を楽しんでいたのである。

瞬きを繰り返すファビウスと、声を出すことを忘れたアンドラに、クラリスは手をひらりと振りながら微笑む。

「合格ね」

クラリスは嬉しそうにリディアとマーガレットに目を向けると、二人の令嬢は見たこともない豪華なドレスに身を包み、静かに頷いた。

困惑する二人に、クラリスは丁寧に説明を始める。
ようやく現実世界に引き戻されたアンドラとファビウスは、ソファの背もたれに体を預け、大きく息を吐いた。

「全く、大袈裟なんだから。いい? アンドラ、貴方はまだ内密だけれど侯爵となる身よ? だから根回しは必要になってくるの。三ヶ月程度、マーガレットはここで生活することになるの。貴方には内緒にしておきなさいって、マーガレットには王太子妃命令を出しておいたのよ」

…王太子妃命令って(笑)

「妃殿下、恐れながら我々下級貴族ですので、王宮での正式な夜会に出たこともなく、三ヶ月程度でマーガレットをあの令嬢たちと並べるのは…」

クラリスはアンドラを睨むように見つめ、声を強める。

「貴方、失礼ね! マーガレットは…」

怒りを露わにするクラリスに、マーガレットも即座に応戦した。

「そうです、妃殿下!」

クラリスが肩を抱こうとすると、マーガレットも負けじと反論する。

「三ヶ月程度では無理と申しましたわ!」

…そっちかい!

クラリスはガクンと肩を落とす。二人は勝ち誇るように頷き合い、まるで息がぴったり合っているかのようだった。

…羨ましい…。

クラリスはため息をひとつつき、改めて強調する。

「とにかく、これは王太子命令だから、夜会まで頑張ってね?」

二人は驚いた顔で、同時に声を上げる。

「王太子命令?」
「そうよ。文句ある?」

「『ございません』」

顔色を失った二人は、お互いを見つめ合った。

その様子を静観するファビウスとリディアに、クラリスはそっと声をかけた。

「ごめんなさいね。マーガレット一人では寂しいかなと思って」

ファビウスは顔色一つ変えず、落ち着いた声で答える。

「貴重な経験、ありがとうございます」

リディアも穏やかに頷いた。

…しばしの静寂。

クラリスは微笑みながら、二人に問う。

「ねえ、貴方たちは政略結婚よね?」

「はい」

安定した返事に、クラリスはリディアに視線を向け、微笑みを返すリディアの表情にほっとする。

「貴方たち、似すぎているわ。表情から仕草まで。ねえ、少し肩の力を抜いてみたらどうかしら?」

…そして再び、クラリスはアンドラとマーガレットを見つめ、視線をファビウスとリディアに戻す。

「貴族の世界で生きている私たちにとって、爵位は絶対。でも、私たちは今、王太子チームの仲間よ。いわば家族。
ファビウスとアンドラはもちろん、その婚約者も同じ。
だから家族の前だけは、本音を隠さずに。外で仮面をつける訓練なの、この三ヶ月は。
アンドラが自分を卑下することも、ファビウスが心を殺して仕えることも、王太子チームでは許さないわ。無理なら側近を辞めなさい」

クラリスの言葉に、一同は驚愕の表情を浮かべた。

クラリスが笑顔を作る前に、マーガレットとリディアは侯爵夫人教育のため広間を後にした。

残されたアンドラとファビウスは、お互いを見つめたまま固まる。

「ファビウス、私の拉致事件の功労者は、テオはもちろんアンドラよね?」

バツの悪そうなアンドラをよそに、ファビウスは短く応える。

「はい」

「だけどね、まだ他にもいるわ」

押し黙る二人に、クラリスは微笑む。

「ファビウスとリディアよ」

ファビウスは驚き、首を振った。

「アルフレッド殿下が私に贈ってくれたお花。あれは、ファビウスが用意したのよね? なぜ町で調達せず、リディアの育てた花を選んだのかしら?」

ファビウスはゆっくり口を開く。

「殿下が、妃殿下のために花を用意せよと仰せで…その、殿下の楽しそうな様子を見て、私も手伝いたくなりました」

「優しいのね」

照れくさそうに俯くファビウス。

「この国で、私が自信をもってお勧めできる花は、リディアの育てた花しか知りませんので…」

クラリスは微笑む。

「そう。そうやって心の声を出すの。そうすれば、もっと素敵な人になれるわ。それにね、リディアのお花のおかげでアルフレッド殿下は、私が監禁されていると確信されたのよ」

アンドラは思い出したように頷く。

「だから…」

「そう、アルフレッド殿下は、リディアの花が唯一無二だとご存知だったのよ」

ファビウスは、経験したことのない温かさに心を満たされる感覚を覚えた。

…家族。

こうして、ランズ王国王太子チームには、また新たに二人の令嬢が加わったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな
恋愛
 愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。 自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。 どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。 それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。 嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。 悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!  そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

悪役令嬢は六度目の人生を平穏に送りたい

柴田はつみ
恋愛
ループ6回  いずれも死んでしまう でも今回こそ‥

処理中です...