両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚

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「お母さまっ!もうこれ以上エレノアお姉さまを追い詰めないでくださいませっ!」

 食事の席にお母様がいらっしゃったのを見て、オフィーリアが声を上げた。
 お母様は私にチラッと視線を向けて苦々しい表情をする。
 
「オフィーリアあなたはとても優しい子に育ったわね。私の自慢の娘よ。でもね、エレノアはまだまだ足りないの。皇太子妃になろうというのに、エレノアにはその自覚がないみたいなのよ。もっとエレノアには頑張ってもらわなければならないわ。」

「そうだ。母さんを責めるのは間違っているよ、オフィーリア。優しいオフィーリアはエレノアのことが心配なのかもしれないが、これはエレノアにとって必要なことなんだ。心配いらないんだよ、オフィーリア。」

 お母様とお父様からの過剰なまでの期待が私に重くのしかかる。どうして、私ばかりという気持ちが膨らんでいく。
 オフィーリアはお父様とお母様からの深い愛情をもらって自由に過ごしているのに。
 どうして、私のことはお父様もお母様も心配してくださらないんだろう。
 どうして、私は自由に生きることができないのだろう。

「どうして!どうしてエレノアお姉さまが皇太子妃にならなければならないのですかっ!エレノアお姉さまの顔を見てくださいませっ!頬は痩せこけ、目の下にはクマが出来ております。目に生気だってありませんっ!このままでは、エレノアお姉さまは……エレノアお姉さまはっ!!」

 オフィーリアは淑女にあるまじく声を荒げてお父様とお母様に感情をぶつけています。
 それは、私には許されていないこと。
 私が声を荒げて抗議したところで、教育がなっていないとお叱りを受けて罰を受けるだけ。
 けれど、オフィーリアが声を荒げて感情を全面に出しても、お父様とお母様は困ったように微笑むだけ。
 どうして、オフィーリアと私はこんなにも違うのだろうか。
 同じお父様とお母様から産まれた子だというのに。

「エレノアは大丈夫だと私たちは信じている。オフィーリアが言うようなことにはならないから安心しなさい。エレノアはオフィーリアが思うより強い。」

 お父様はオフィーリアを優しく宥める。

「どうして、大丈夫だと言えるのっ!?ちゃんとにお父さまとお母さまはエレノアお姉さまのことを見ているの?エレノアお姉さまはお父さまとお母さまの人形じゃないのよっ!!」

「オフィーリア、聞き分けのないことを言うのはやめてちょうだい。お母さまとても困ってしまうわ。」

 お母様は困ったようにオフィーリアのことを見つめている。
 この人たちに何を言っても、皇太子妃になるエレノアと、可愛い可愛い娘のオフィーリアでしかないのかもしれない。お父様もお母さまもオフィーリアと私のことを見ていないのかもしれない。
 そう気づかされた。
 もしかしたら、お父様とお母様はオフィーリアのことを可愛がって表面上愛しているように見えるが、実際は娘を可愛がっている親を演じているのではないかと勘ぐってしまう。

「お父さまもお母さまも、ちゃんとにエレノアお姉さまを見てちょうだいっ!」

「エレノアのことは、ちゃんとに見ている。エレノアは皇太子妃として問題ない。ジュドー殿下もエレノアの仕上がりにきっと満足なされるであろう。」

「私もエレノアのことは見ているわ。エレノアだったら皇太子妃として教育を受けれていれば問題ないわ。」

「エレノアお姉さまは今にも倒れそうだわっ!ほんとに見ているというのっ!!ちゃんとにエレノアお姉さまのことを見ていらしたら、これ以上エレノアお姉さまに勉強しろだなんて言えないはずだわっ!」

「……オフィーリア。ありがとう。大丈夫よ、私が頑張ってお父様とお母様の期待に応えれば良いだけだから。」

 オフィーリアが私のことでお父様とお母様にくってかかってくれているのはとても嬉しい。
 お父様もお母様も私のことを表面上しか見てくれていなかったけど、オフィーリアだけが私のことをちゃんと見ていてくれたような気がしたから。
 でも、これ以上オフィーリアがお父様とお母様に反論をしても無駄だと感じた。
 お父様とお母様は可愛くて天真爛漫なオフィーリアの偶像を愛でているだけのようだから。
 きっと、オフィーリアがお父様とお母様の意にそわないことを何度訴えても、二人は困ったように笑うだけで取り合ってはくれないだろう。それは、きっと私も同じ。
 お父様とお母様は理想の家族を演じているだけなのかもしれない。
 
「でもっ!エレノアお姉さまっ!!」

「オフィーリア、まずは食事にしましょう。それからゆっくりあなたと話したいわ。」

 大きな目に薄っすらと涙を浮かべながらオフィーリア淑女らしくなく訴える。けれど、そんなオフィーリアの姿が私にはとても魅力的に見えた。
 お父様とお母様に聞かれたらきっとオフィーリアと話している時間があるなら勉強しなさいと言われることだろう。だから、オフィーリアにだけ聞こえるようにオフィーリアの耳元で囁いた。
 オフィーリアはこくりと小さく頷いて答えた。


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