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しおりを挟む「あ……。元に戻ったわ。」
私は自分の手を凝視しながら呆然と呟く。
猫になったのも突然だったけれど、元に戻れたのも突然だった。
「な、ななな……。マリアだったのかっ!うわぁ。はずっ……。」
私が元に戻れたと安堵していると、横でシルキー殿下が顔を押さえて蹲った。手の隙間から僅かに除く耳が真っ赤に染まっている。
そういえば、シルキー殿下にさっき抱っこされたんだっけ?それも、なんだかすっごく優しく囁かれた気がする。
「あぅ……。」
シルキー殿下に釣られて私も顔を真っ赤にしてその場に蹲ってしまった。
まさか、シルキー殿下があんなにも優しかっただなんて思わなかったのだ。しかも、シルキー殿下があの部屋に乗り込んで来てくれたのは私が心配だったからでしょ?ブチ様の姿で部屋に乗り込んでくるなんて、もうビックリ……。ん……?ビックリ……?
「ああっ……。ブチ様っ。」
そ、そうだ。元に戻れた衝撃で忘れていたけれど、シルキー殿下がブチ様だと知って私は驚いて元の姿に戻ったんだった。
ブチ様はシルキー様で。シルキー様はブチ様で。
私の脳裏に保護猫施設でのブチ様との日々が思い出される。
私はブチ様に何をした?
近寄って頬ずりしようとしたり、抱きしめようとしたり、その度にスルッとブチ様は逃げて行ってしまったけど……。
え……?あ、あれ……?
そ、そういえば、私、ブチ様の前で裸にならなかったっけ……?
外に出てしまって手足が汚れてしまったブチ様を私がシャワーで洗い流そうとしたよね?どうせ私もシャワーを浴びるところだったから、ドレスを脱いでブチ様を……。ブチ様は白目を剥いて倒れてしまったけど。
ブチ様がシルキー殿下だったとしたら、私はシルキー殿下の前で……。
「そ、そんなぁ……。忘れてくださいっ!シルキー殿下。お願いでございますっ!」
真っ赤になった私は、シルキー殿下の前から隠れようとユリアさんの背中に隠れる。
「うふふ。マリアちゃんったら恥ずかしがっちゃって、もう。」
ユリアさんは面白そうに笑う。
「ユリアさんっ!ユリアさんは知ってたんですね!知ってて私にブチ様を洗えと……。」
あの時のことを思い出す。
確かユリアさんに言われてブチ様を洗う流れになったのだ。
この分だとユリアさんはシルキー殿下がブチ様だということを前から知っているように思える。つまり、あの時、ユリアさんは私にわざと……。
「うふふ。シルキー殿下ってば可愛いわよね。白目剥いて倒れちゃうんだもの。あのあと、しばらくシルキー殿下はのぼせ上がってたわよ。」
やっぱり確信犯かっ!!
「ゆ、ユリアさんっ!!」
「うわぁあああああ。ユリア、もうそれ以上言うな。何も言うなっ!!」
シルキー殿下もその時のことを思い出したのか顔を更に真っ赤に染め上げた。
「わかったわ。では、一緒に王妃殿下の元に参りましょう。これ以上、時間を無駄にするわけにはいかないわ。」
ユリアさんが突然真顔になった。
ユリアさんの態度180度変わりすぎなんですけれど。なぜ、そんなに切り替えが早いのだろうか。
ユリアさんの態度に、私もシルキー殿下も口をわなわなとさせる。
「ほら、行くわよ。二人とも。」
ユリアさんに促されて私たちは顔を真っ赤に染めながらユリアさんの後ろを黙ってついていく。
シルキー殿下には言いたいことも聞きたいこともいっぱいある。
ユフェライラ様の件が落ち着いたら絶対にシルキー殿下を問い詰めようと決めたのだった。
☆☆☆☆☆
「あら、誰かと思ったらユフェライラじゃない。どうしたのかしら?」
ナーガは夫である国王陛下と一緒にソファーに座っていた。
これからシルキー殿下とユリアが来ることになっていたので部屋で待機していたのである。
そこに、ユフェライラが先触れもなくやってきた。
ユフェライラの顔は狂気に彩られているように見えた。
「……アマリアをどこにやったの!返しなさいっ!アマリアを返しなさい!!あの子はユースフェルトが王位に就くのに必要なのよ!」
ユフェライラの目は正気ではない。
自分が産んだ息子であるユースフェルトが王位につけない可能性が高くなって焦っているのだ。十年以上かけて用意した計画がアンナライラによって破綻したのもある。
思い通りに進まないことに、ユフェライラは焦っていたのだ。
焦っていたばかりに、今まで一度も尻尾を見せることがなかったのに、この瞬間盛大に尻尾を見せてしまった。
「あらぁ。私はなにもしていないわ。アマリア嬢が自分で逃げ出したのよ。」
「返してっ!」
「ここにはいないわ。」
「返してっ!」
「ユフェライラ、控えろ。衛兵よ。なにをぼうっとしておる。ユフェライラがこれ以上王妃に近寄らぬように押さえろ。」
ユフェライラが取り乱してナーガに近寄る。今にも殴りかかりそうな勢いに、国王陛下が衛兵に命令をした。
衛兵は国王陛下の言葉を聞いて、ユフェライラを取り押さえ……ることはなかった。
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