18 / 29
第十八話 抱き枕
しおりを挟む
ちなみに、ルーカスは僕を抱きしめた状態で寝ていた。意味が分からない。寝入ったときは、距離を一応保っていたはずだ。なのに、なんで朝になったらこんな密着しているんだよ。
ルーカスの腕から抜け出そうとしてみたけれど無理だった。僕は抱き枕じゃないぞ。
「ルーカス。おはよう」
声をかけてみるけれど、ルーカスは起きる気配がない。困った。僕はいつまでルーカスと一緒に寝ていたらいいんだ。
ああでも、ルーカスが添い寝してくれたおかげか、あれ以降悪夢は見なかったな。ぐっすり眠ることが出来て嬉しい。
ルーカスをじっと見てみる。目を閉じていると顔が少し幼く見える気もする。よく見てみると、銀髪に寝癖がついているな。跳ねた毛をなでたい気持ちはあるけれど我慢だ。寝ている人間に許可なくベタベタ触れるのも悪いだろう。
「アルロ」
ルーカスが低い声で呟いた。びっくりした。
「ルーカス、起きたのか。僕の身体を離してほしい」
用件を伝えてみた。でも、ルーカスは僕をより一層抱きしめてきた。寝ぼけているのか。ルーカスの胸板に僕の顔が埋もれる。ちょっと苦しい。助けてくれ。
「アルロは面白い本みたいな存在だから、ずっとそばにいてくれ」
ルーカスが訳分からないことを言い出した。僕が面白い本ってなんだよ。僕はハーフエルフだぞ。
「ルーカス。ちゃんと目覚めてほしい」
そう伝えてみたけれど、ルーカスは二度寝してしまった。
困る。ルーカスの温度に包まれて、僕もまた眠くなってきた。まあいいか。今日は休日だし、身体をゆっくり休めることも大切だろう。
次に僕が覚醒したとき、ルーカスはベッドから抜け出していた。なんかパンケーキを作っている。おいしそうだ。
「アルロ。ぐっすり眠れたようで何よりだ。少々眠りすぎにも見えるが」
ルーカスの発言に対して、誰のせいだと言いそうになった僕は悪くない。いや、安眠出来たのもルーカスのおかげだから文句は言えない。
その後、ルーカスと一緒にパンケーキを食べた。どのジャムを塗るか、それともハチミツやバターを選ぶのかで無駄に議論したけれど、そんな雑談すらも楽しいと思ってしまった。
「ルーカス」
つい何気なく名前を呼んでしまう。ああ、駄目だ。恋愛関係でもないのに、こんな甘い声を出す自分は変だ。でも、仕方がないじゃないか。なんだかんだ優しくされて、一緒に寝て。ルーカスに抱きしめられて体温を感じて、ルーカスの香りも強制的に嗅がされて、そんなことをされたら身体が勝手に勘違いしてしまう。
いや、おかしい。ルーカスと僕は男同士だ。いくらこの国で同性同士の恋愛が一般的でも、僕には受け入れることが出来ない。そもそも、ルーカスは優秀な生徒だ。ルーカスが魔法学園を卒業すれば、素敵な人間の女性とすぐ結婚するに違いないし、子どもだって産まれるだろう。だから、僕なんかがルーカスに恋心を抱くべきじゃない。そんなの絶対許されない。
「アルロ、大丈夫か。不安そうな顔をしているぞ。やはり昨日僕が裏庭から帰った後、何かあっただろう。出来れば伝えてくれ。場合によっては魔法決闘にも影響が出る」
ルーカスの発言はもっともだった。断ることは出来ない。
「大したことじゃないんだけど、僕はケネス先輩と会ったんだ。挨拶くらいしかしなくて、本当に何もなかったんだけど。ほら、ケネス先輩はエルフ嫌いで有名じゃないか。だから、なんかちょっと怖くなって。ただそれだけなんだ。大丈夫だよ」
そう言って笑ってみるものの、手が少し震えてしまう。ケネスの紫色の瞳を思い出すと本当にゾッとする。恐らくケネスは僕に殺意を持っているのだろう。いやでも、殺したいと思った人間が実行に移すかは別問題だ。うん。平気だ。怖くないと思い込まないと。
ルーカスは真面目に聞いてくれた。青い瞳がこちらをじっと見つめてくる。優しくて温かいまなざしだった。駄目だ。好きになりそう。
「そうだな。ケネス先輩は損得利益を優先して動くが、感情的な一面も強いと言われている。それに、ロドニーみたいな器用貧乏戦闘スタイルとも違うから、ケネス先輩については魔法決闘の対策を特別に立てないといけないだろう」
ルーカスがそう言って渋い表情を浮かべる。ケネスってどんな戦い方をするんだろう。なんだか怖くなってきた。
ルーカスの腕から抜け出そうとしてみたけれど無理だった。僕は抱き枕じゃないぞ。
「ルーカス。おはよう」
声をかけてみるけれど、ルーカスは起きる気配がない。困った。僕はいつまでルーカスと一緒に寝ていたらいいんだ。
ああでも、ルーカスが添い寝してくれたおかげか、あれ以降悪夢は見なかったな。ぐっすり眠ることが出来て嬉しい。
ルーカスをじっと見てみる。目を閉じていると顔が少し幼く見える気もする。よく見てみると、銀髪に寝癖がついているな。跳ねた毛をなでたい気持ちはあるけれど我慢だ。寝ている人間に許可なくベタベタ触れるのも悪いだろう。
「アルロ」
ルーカスが低い声で呟いた。びっくりした。
「ルーカス、起きたのか。僕の身体を離してほしい」
用件を伝えてみた。でも、ルーカスは僕をより一層抱きしめてきた。寝ぼけているのか。ルーカスの胸板に僕の顔が埋もれる。ちょっと苦しい。助けてくれ。
「アルロは面白い本みたいな存在だから、ずっとそばにいてくれ」
ルーカスが訳分からないことを言い出した。僕が面白い本ってなんだよ。僕はハーフエルフだぞ。
「ルーカス。ちゃんと目覚めてほしい」
そう伝えてみたけれど、ルーカスは二度寝してしまった。
困る。ルーカスの温度に包まれて、僕もまた眠くなってきた。まあいいか。今日は休日だし、身体をゆっくり休めることも大切だろう。
次に僕が覚醒したとき、ルーカスはベッドから抜け出していた。なんかパンケーキを作っている。おいしそうだ。
「アルロ。ぐっすり眠れたようで何よりだ。少々眠りすぎにも見えるが」
ルーカスの発言に対して、誰のせいだと言いそうになった僕は悪くない。いや、安眠出来たのもルーカスのおかげだから文句は言えない。
その後、ルーカスと一緒にパンケーキを食べた。どのジャムを塗るか、それともハチミツやバターを選ぶのかで無駄に議論したけれど、そんな雑談すらも楽しいと思ってしまった。
「ルーカス」
つい何気なく名前を呼んでしまう。ああ、駄目だ。恋愛関係でもないのに、こんな甘い声を出す自分は変だ。でも、仕方がないじゃないか。なんだかんだ優しくされて、一緒に寝て。ルーカスに抱きしめられて体温を感じて、ルーカスの香りも強制的に嗅がされて、そんなことをされたら身体が勝手に勘違いしてしまう。
いや、おかしい。ルーカスと僕は男同士だ。いくらこの国で同性同士の恋愛が一般的でも、僕には受け入れることが出来ない。そもそも、ルーカスは優秀な生徒だ。ルーカスが魔法学園を卒業すれば、素敵な人間の女性とすぐ結婚するに違いないし、子どもだって産まれるだろう。だから、僕なんかがルーカスに恋心を抱くべきじゃない。そんなの絶対許されない。
「アルロ、大丈夫か。不安そうな顔をしているぞ。やはり昨日僕が裏庭から帰った後、何かあっただろう。出来れば伝えてくれ。場合によっては魔法決闘にも影響が出る」
ルーカスの発言はもっともだった。断ることは出来ない。
「大したことじゃないんだけど、僕はケネス先輩と会ったんだ。挨拶くらいしかしなくて、本当に何もなかったんだけど。ほら、ケネス先輩はエルフ嫌いで有名じゃないか。だから、なんかちょっと怖くなって。ただそれだけなんだ。大丈夫だよ」
そう言って笑ってみるものの、手が少し震えてしまう。ケネスの紫色の瞳を思い出すと本当にゾッとする。恐らくケネスは僕に殺意を持っているのだろう。いやでも、殺したいと思った人間が実行に移すかは別問題だ。うん。平気だ。怖くないと思い込まないと。
ルーカスは真面目に聞いてくれた。青い瞳がこちらをじっと見つめてくる。優しくて温かいまなざしだった。駄目だ。好きになりそう。
「そうだな。ケネス先輩は損得利益を優先して動くが、感情的な一面も強いと言われている。それに、ロドニーみたいな器用貧乏戦闘スタイルとも違うから、ケネス先輩については魔法決闘の対策を特別に立てないといけないだろう」
ルーカスがそう言って渋い表情を浮かべる。ケネスってどんな戦い方をするんだろう。なんだか怖くなってきた。
4
あなたにおすすめの小説
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
【完結済】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜
キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。
そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。
近づきたいのに近づけない。
すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。
秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。
プロローグ+全8話+エピローグ
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?
あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。
婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!
山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?
春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。
「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。
「理由を、うかがっても?」
「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」
隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。
「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」
その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。
「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」
彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。
『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』
「……は?」「……え?」
凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。
『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。
アーノルド「モルデ、お前を愛している」
モルデ「ボクもお慕いしています」』
「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」
空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。
『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』
ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。
「……モルデ、お前を……愛している」
「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」
顔を寄せた瞬間――ピコンッ!
『ミッション達成♡ おめでとうございます!』
テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。
「……なんか負けた気がする」「……同感です」
モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。
『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』
王子は頭を抱えて叫ぶ。
「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」
天井スピーカーから甘い声が響いた。
『次のミッション、準備中です♡』
こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる