少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

文字の大きさ
34 / 88

34 魔物との相性 2

しおりを挟む
 俺はメイスに、土魔法の〈分離〉をエンチャントすることにした。といっても、〈分離〉なんてスキルは獲得していない。今、この場で獲得しなければならないのだ。

 まず、手近にある壁をメイスで叩いて一部を壊す。崩れ落ちた石のかけらを手のひらの上に置いて、それが小さな鉱物の粒に分離して、サラサラの砂になるイメージを思い浮かべる。そして、魔力を流す……と、成功だ。こぶし大の石は、一気に砂になって手のひらからこぼれ落ちていった。

『お見事です。土属性魔法〈分離〉のスキルを獲得しました。これをメイスにエンチャントして、ゴーレムの関節部を集中して攻撃しましょう』

(ああ、そのつもりだ。よし、始めようか)

♢♢♢

 俺は、〈加速〉で一気にゴーレムとの距離を詰めていく。ゴーレムは巨大な腕を振り上げて、叩き潰そうと振り下ろしてきたが、その動きはあまりにも遅い。まるで、俺とゴーレムは、異なる時間経過の世界で動いているような感じだ。

 スローモーションのような動きのゴーレムの周囲を動き回りながら、俺はまず、奴の右足の足首に何度も何度もメイスを叩きこんでいった。そのたびに、ゴーレムの足首の金属が、ミスリルと鉄の砂に分離して、サラサラと地面に落ちていった。
 ところが、その落ちたはずの金属の砂が、まるで逆再生のビデオのように、削れたゴーレムの足首に少しずつ戻っていくのが、俺の目に映ったのだ。

(うわっ、そりゃあないだろう、神様よ。これが〈再生〉?いやいや、こんなの〝時間の逆戻し〟じゃねえか)
 俺は、理不尽なこの世界の創造主に文句を言いながら、怒りに任せてメイスを振り続けた。
(くそっ、これじゃあ埒(らち)があかない……それなら……)

 俺は、メイスをストレージに収納した。そして、直接自分の手のひらをゴーレムの体に押し付け始めた。

《第三者視点》

 二人の獣人騎士とポピィは、二十メートルほど離れた場所で、俺とゴーレムの戦いを固唾を飲んで見守っていた。

「なんという速さだ……これが〈加速〉のスキルか……」

「すごい……ゴーレムの攻撃がまったく当たらない、いや、当たる気がしない……だが、トーマの攻撃も、ゴーレムには通じないようだ」
 
 二人の獣人騎士は、トーマの動きに驚嘆しながらも、この戦いはやはり、敗北という結果に終わるだろう、と内心で予想していた。

 だが、ポピィは違った。キラキラした目でトーマの戦いを見ながら、感嘆の声を発した後、こうつぶやいた。
「……よく見るです。ゴーレムの体から、少しずつ金属が剥がれ落ちているです。トーマ様は、きっと倒します……」

 そんな三人の目に、突然、トーマがメイスをどこかへ隠し、素手で戦い始める場面が飛び込んできた。
 二人の獣人騎士はもちろん、ポピィも、これには驚いて、思わずあっと声を上げた。

「な、何を考えているんだ、素手でゴーレムと戦うなんて……」
 二人の騎士は、居ても立ってもいられなくなって、加勢に飛び出そうとしたが、ポピィは、二人の前に立って止めた。

「今、お二人が行っても、えっと、その、なにもならないのです。それより、よく見てくださいです。ほら、ゴーレムの体から落ちる金属が、さっきより増えたのです」

 そう言われて、二人は目を凝らして二十メートル先を見つめた。
「おお、確かに……いったい、何が起こっている?」

《トーマ視点》

 その時、ガコンッ、と音がして、ついにゴーレムの右の足首から下の部分が、その上の部位から外れた。ゴーレムはバランスを失い、膝を折るようにして右側に傾いた。だが、すぐに、足首から下の部分が、もぞもぞと動き出し、元の位置にくっつこうとしている。

「くそっ、させるかっ!〈ルーム〉っ!」
 俺は、とっさにその足首から下の金属の塊に手を触れて、ストレージ空間に収納した。

「よし、この方法でいこう」
俺のストレージは、十メートルの三乗の広さがある。こいつ一体くらいは入るだろう。

 その後は、ただの作業だった。ただ、へとへとに疲れる肉体労働だったが……。

「ハア、ハア……どうだ、この野郎、手足をもがれて転がっている気分は……?」
 俺の前には、今や、胴体と腰、両腿、両二の腕、そして頭の芋虫のようなゴーレムがいた。そいつは、まだ、二の腕で這いずりながら、俺に向かって来ようとしていた。

 俺は、再びメイスを取り出すと、ありったけの魔力で〈分離〉の魔法をエンチャントし、跳躍してゴーレムの背中に飛び乗った。そして、メイスの先端をそいつの背中の中央に突き立てた。
 魔力感知を持つゴーレムは、いよいよヤバいと思ったのか、二の腕と腿をバタバタと動かして暴れたが、すでにメイスは、金属粉を撒き散らしながら、そいつの背中にずぶずぶと食い込んでおり、俺はメイスにつかまって、必死に振り落とされないように頑張った。

 やがて、メイスの先端に、コツッ、と金属以外の何かが当たる感触があった。俺は、それが奴の心臓、つまり魔石だと確信した。

 俺は、暴れるゴーレムの上に立ち上がって、メイスに力をこめ、
「これで…終わりだアアアッ!」
 一気に突き下ろした。

 バキンッ、と割れる感触と音がして、ゴーレムは、一瞬フリーズしたまま動きを止め、そでから、ガラガラと大きな音を立てて、バラバラの金属の塊に分かれた。
 こうして、六階層での戦いはようやく終わった。

♢♢♢

(いや、気持ちは分かるけど、俺、疲れているからさぁ、もう、質問はやめてくれませんか……)
 俺たちは、六階層の隠し部屋の中でキャンプをしていた。不思議なのだが、隠し部屋の中に魔物が宝箱を守っていることはあるが、外から魔物が入ってくることはない。どういう原理なのだろう。ナビもよく分からないらしい。

 それより、さっきから、二人の獣人騎士の質問が止まらない。まあ、いろいろと、俺の魔法を見たので無理もないが、理屈を説明するのが面倒くさい。まあ、最後は、それが魔法なんです、と言ってごまかしてはいるが……。

「皆さん、できましたですよ。明日は、いよいよ最奥に行きますから、これを食べたら、早めに休みましょう」
 おいしそうな匂いの湯気を立てている鍋を持ってきたポピィが、質問攻めにあっている俺を助けるように、そう言って真ん中に鍋を下した。

「おお、うまそうだな、今夜は魚のスープか」

「ふふ……魚もお肉も両方入ってますよ」

 まだ質問を続けたがっていた二人も、おいしそうな匂いには勝てず、思わず顔をほころばせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...