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57 街の秘密 1
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そこは大きな円形の広場で、なぜか周囲に何台もの荷馬車が、円周状に一列に並んでいた。中央には、低く広い台座のようなものがあり、荷物箱のような四角い箱がいくつか置いてあった。
俺たちがそこを通り過ぎて、その先にある施政管理署と思われる大きな建物の方へ歩いていると、近くの路地から何人かの男たちが箱を抱えて出てきた。そして、例の台座にその箱を置いて戻ってきた。
俺は思わず、そのうちの一人の男に声を掛けた。
「ねえ、おじさん、あの荷物、どこへ運ぶの?」
男は怪訝そうに俺を見ながら、投げやりな声で言った。
「はあ、どこへだって?そんなの決まってるじゃねえか、〝あのお方〟の所だよ」
男はそう言うと、路地の方へ去っていった。
〝あのお方〟……誰だろう?やはり、魔族なのか?
俺たちは、施政管理署の大きなドアを開いて中に入っていった。そこは吹き抜けの大きなホールだった。正面に上の階に上がる階段があり、右手が受付のカウンター、左手は掲示板が並び、その先が飲食用のラウンジになっていた。冒険者ギルドのような懐かしさを感じる造りだったが、薄暗く、人はまばらで、ギルドの賑やかさとは対照的だった。
俺たちは、受付のカウンターに向かった。いくつか受付はあったが、一番右端のカウンターの前に進んだ。
「あの、すみません」
「はい何でしょう?」
受付の女性は、やはり無表情で答えた。
「門番の人に、ここで出入許可証を発行してもらうように言われたのですが……」
「出入許可証…ということは、あなたたちはこの街の人間ではないと?」
「はい」
女性は怪訝な顔で俺たちを見ながら、下の引き出しから一枚の書類を取り出した。
「ここに名前と、出身地を記入してください。一番下にはこの街に来た理由を書いてください」
俺は名前の欄にトーマとポピィと記入し、出身地はノームの村、理由は商売のため、と書き込んだ。
出身地を書いた時、女性は一瞬息を飲み、慌ててバックヤードの誰かを呼んだ。
「ノームの村だって?お前たち、本当にあの島から来たのか?」
バックヤードから出てきた中年の男が、まるで尋問するように言った。
「そうですが……」
「どうやって、海を渡った?」
「船です」
「ウソをつくな。島と島の間は、空を飛ぶ骸骨の魔物が監視していて、どちらからも渡ることはできないはずだ」
男は異常なほど興奮していて、横の女性が彼をたしなめたほどだった。
「あ、ああ、すまない。だが、ノームの村からこの島には、十八年前から渡航できなくなっている。だから船で来れるはずはないんだ」
「ああ、実は、ある人に魔物が近づけない宝石を借りたんです」
俺はそう言って、リュック(ストレージ)から、ケイドス王のブローチを取り出して見せた。
男は顔を近づけて、まじまじとそれを見ていたが、どうやらケイドス王の装飾品だとは分からなかったようだ。
「確かに、ただならぬ魔力は感じるが……本当にこれで、魔物が近づかなかったのか?」
「はい」
「それを渡した人物とは……」
「ああ、それは言えません。その人との約束ですから」
本当はそんな約束などしていなかったが、ここでケイドス王の名前は出さない方がいいに決まっている。
「ううむ……」
男はうなってしばらく悩んでいたが、やがてこう言った。
「出入許可証は出そう。だが、仮のものだ。明日もう一度ここに来てくれ、正式な許可証はそのとき出そう」
「分かりました。あの、手続きにはお金が必要だと聞きました。今、手持ちのお金がないので、魔物の素材とかを換金したいのですが……」
「ああ、それなら、一番奥のカウンターに行けば買い取ってくれるよ」
男はそう言うと、バックヤードに戻っていった。俺たちは、女性から仮の許可証をもらってから、カウンターを移動した。
すでに静かなホールの中で、ちょっとした騒ぎになっていたので、そこの受付の女性は、俺たちの望みを理解していた。
「素材の売却をご希望ですね。見せていただけますか?」
俺はリュックに手を入れて、ストレージの中から魔石を数個と金貨を二枚取り出して、カウンターの上に置いた。
「鑑定をいたしますので、しばらくお待ちください」
その受付の女性も、機械的な口調と表情で淡々と仕事をこなしていた。だが、何かの機械に魔石と金貨を交互に載せて、画面を見ている途中で、少し驚くような表情の変化を見せた。
「か、鑑定が終わりました。ワイバーンの魔石とクリムゾンエイプの魔石が一個ずつで、合わせて十八万グラン、金貨は純度九十八で一枚八グラム、二枚で六万グランになります。合計二十四万グランですが、よろしいですか?」
「はい、それでいいです。あの、この街は初めてでよく分からないのですが、宿屋は一泊どのくらいの値段ですか?」
「この街には宿屋はありません。旅人は基本的にいませんから。もし、宿をお探しでしたら、貸し部屋を借りることになります。多分、いろいろな空き部屋があると思いますので、二階の住民課でご相談ください。平均的な部屋で、月に五百グランくらいです」
なるほど、確かに外の世界から隔離されたこの島に、旅人は訪れないだろう。貸し部屋というのはアパートのようなものか。月に五百グランとはかなり安い、というか、一グランの価値がやたら高いのか。仮に五百グランが五万円だとすると、二十四万グランは二千四百万円に相当する。そりゃあ、驚くだろうな。
「分かりました。いろいろとありがとうございました」
俺たちは金貨の入った重い袋を二つ受け取ると、礼を言ってその場を離れた。
「部屋を借りますか?」
「うん、そうだな。思ったより高く売れたし、借りようか」
二階への階段を上ってみると、ホールを見下ろすように廊下が続き、○○課と書かれた表札と窓口がぐるりと円周状に並んでいる。中央に中を突き抜ける通路が一本通っていた。なかなかモダンな造りだ。階段は、四階まで続いているので、この上も同じような造りになっているのだろう。
俺たちは表札を見ながら歩いていき、住民課と書かれた窓口の前に立ち止まった。
「あの、すみません、部屋を借りたいのですが……」
窓口から、中に座っていた男の人に声を掛けた。
四十代くらいの金髪の男性は、俺たちをちらりと見ると、立ち上がって近づいてきた。
「ええっと、君たちだけで部屋を借りるのかい?それとも、親御さんと一緒かな?」
「俺たちだけです。親はいないので」
俺の答えに、男性は少しばつが悪そうな表情で小さく頷いた。
「そうか。部屋はかなりの数空いているんだが、その、予算はどのくらいを考えているかね?」
「そうですね…下の人に部屋代の平均は五百グランくらいだと聞きました。そのくらいなら出せます」
男性は一瞬意外だという表情をしたが、すぐに下の棚から分厚いファイルを取り出して、カウンターの上に置いた。そして、ぱらぱらとページをめくり、一枚の紙をファイルから外した。
「二人で住むなら、ここがおすすめだよ。リビングと台所、トイレとシャワー室、二つの部屋と物置が一つ、これで月四百五十グランだ」
ちらりとポピィを見ると、小さく頷いた。
「はい、そこでいいです」
男性はわずかに微笑むと、二枚の紙を取り出して、それぞれにサインをさせた。そして、そのうちの一枚と小さな簡易地図を渡し、手数料として八グランを請求した。
俺たちは施政管理署を出ると、彼にもらった地図を見ながら貸し部屋のある場所へ向かった。
そこは、広場から六方向に延びる道のうち、北東に延びた道の一角にあった。階段横の一階が管理人の部屋で、俺たちが借りた部屋は二階の階段を挟んで向かい合った二つの部屋の一つだった。管理人に契約書を見せて、鍵を受け取り、部屋に入った。
「きれい、とは言えないが、まあ、短い間過ごすには十分かな」
「シャワーとトイレがあるのは、ありがたいですね」
部屋を見て回りながら、ポピィが言った。確かに、どこの人間の街の宿屋でも、シャワーとトイレが個室に付いている部屋は珍しい。貴族が利用するような高級な宿屋には、風呂付きの部屋もあると聞いたことはあるが。
「ポピィ、さっそくシャワーを浴びたらどうだ?何日も体を拭くだけだったからな」
「トーマ様が先にどうぞ。その間に、お茶を入れるようにします」
お言葉に甘えて、俺は先にシャワー室に入っていった。当然水が出るのだろうと思っていたら、なんと、温水を出すレバーがあった。レバーの近くの壁にある表示を見たときは、何かの間違いではないかと思ったが、レバーを倒すとちゃんとお湯が出た。
(この街は、人間も含めて、何もかもがおかしい……どうなっているんだ?)
俺は、頭から心地よいお湯を浴びながらも体は全く温まらなかった。
俺たちがそこを通り過ぎて、その先にある施政管理署と思われる大きな建物の方へ歩いていると、近くの路地から何人かの男たちが箱を抱えて出てきた。そして、例の台座にその箱を置いて戻ってきた。
俺は思わず、そのうちの一人の男に声を掛けた。
「ねえ、おじさん、あの荷物、どこへ運ぶの?」
男は怪訝そうに俺を見ながら、投げやりな声で言った。
「はあ、どこへだって?そんなの決まってるじゃねえか、〝あのお方〟の所だよ」
男はそう言うと、路地の方へ去っていった。
〝あのお方〟……誰だろう?やはり、魔族なのか?
俺たちは、施政管理署の大きなドアを開いて中に入っていった。そこは吹き抜けの大きなホールだった。正面に上の階に上がる階段があり、右手が受付のカウンター、左手は掲示板が並び、その先が飲食用のラウンジになっていた。冒険者ギルドのような懐かしさを感じる造りだったが、薄暗く、人はまばらで、ギルドの賑やかさとは対照的だった。
俺たちは、受付のカウンターに向かった。いくつか受付はあったが、一番右端のカウンターの前に進んだ。
「あの、すみません」
「はい何でしょう?」
受付の女性は、やはり無表情で答えた。
「門番の人に、ここで出入許可証を発行してもらうように言われたのですが……」
「出入許可証…ということは、あなたたちはこの街の人間ではないと?」
「はい」
女性は怪訝な顔で俺たちを見ながら、下の引き出しから一枚の書類を取り出した。
「ここに名前と、出身地を記入してください。一番下にはこの街に来た理由を書いてください」
俺は名前の欄にトーマとポピィと記入し、出身地はノームの村、理由は商売のため、と書き込んだ。
出身地を書いた時、女性は一瞬息を飲み、慌ててバックヤードの誰かを呼んだ。
「ノームの村だって?お前たち、本当にあの島から来たのか?」
バックヤードから出てきた中年の男が、まるで尋問するように言った。
「そうですが……」
「どうやって、海を渡った?」
「船です」
「ウソをつくな。島と島の間は、空を飛ぶ骸骨の魔物が監視していて、どちらからも渡ることはできないはずだ」
男は異常なほど興奮していて、横の女性が彼をたしなめたほどだった。
「あ、ああ、すまない。だが、ノームの村からこの島には、十八年前から渡航できなくなっている。だから船で来れるはずはないんだ」
「ああ、実は、ある人に魔物が近づけない宝石を借りたんです」
俺はそう言って、リュック(ストレージ)から、ケイドス王のブローチを取り出して見せた。
男は顔を近づけて、まじまじとそれを見ていたが、どうやらケイドス王の装飾品だとは分からなかったようだ。
「確かに、ただならぬ魔力は感じるが……本当にこれで、魔物が近づかなかったのか?」
「はい」
「それを渡した人物とは……」
「ああ、それは言えません。その人との約束ですから」
本当はそんな約束などしていなかったが、ここでケイドス王の名前は出さない方がいいに決まっている。
「ううむ……」
男はうなってしばらく悩んでいたが、やがてこう言った。
「出入許可証は出そう。だが、仮のものだ。明日もう一度ここに来てくれ、正式な許可証はそのとき出そう」
「分かりました。あの、手続きにはお金が必要だと聞きました。今、手持ちのお金がないので、魔物の素材とかを換金したいのですが……」
「ああ、それなら、一番奥のカウンターに行けば買い取ってくれるよ」
男はそう言うと、バックヤードに戻っていった。俺たちは、女性から仮の許可証をもらってから、カウンターを移動した。
すでに静かなホールの中で、ちょっとした騒ぎになっていたので、そこの受付の女性は、俺たちの望みを理解していた。
「素材の売却をご希望ですね。見せていただけますか?」
俺はリュックに手を入れて、ストレージの中から魔石を数個と金貨を二枚取り出して、カウンターの上に置いた。
「鑑定をいたしますので、しばらくお待ちください」
その受付の女性も、機械的な口調と表情で淡々と仕事をこなしていた。だが、何かの機械に魔石と金貨を交互に載せて、画面を見ている途中で、少し驚くような表情の変化を見せた。
「か、鑑定が終わりました。ワイバーンの魔石とクリムゾンエイプの魔石が一個ずつで、合わせて十八万グラン、金貨は純度九十八で一枚八グラム、二枚で六万グランになります。合計二十四万グランですが、よろしいですか?」
「はい、それでいいです。あの、この街は初めてでよく分からないのですが、宿屋は一泊どのくらいの値段ですか?」
「この街には宿屋はありません。旅人は基本的にいませんから。もし、宿をお探しでしたら、貸し部屋を借りることになります。多分、いろいろな空き部屋があると思いますので、二階の住民課でご相談ください。平均的な部屋で、月に五百グランくらいです」
なるほど、確かに外の世界から隔離されたこの島に、旅人は訪れないだろう。貸し部屋というのはアパートのようなものか。月に五百グランとはかなり安い、というか、一グランの価値がやたら高いのか。仮に五百グランが五万円だとすると、二十四万グランは二千四百万円に相当する。そりゃあ、驚くだろうな。
「分かりました。いろいろとありがとうございました」
俺たちは金貨の入った重い袋を二つ受け取ると、礼を言ってその場を離れた。
「部屋を借りますか?」
「うん、そうだな。思ったより高く売れたし、借りようか」
二階への階段を上ってみると、ホールを見下ろすように廊下が続き、○○課と書かれた表札と窓口がぐるりと円周状に並んでいる。中央に中を突き抜ける通路が一本通っていた。なかなかモダンな造りだ。階段は、四階まで続いているので、この上も同じような造りになっているのだろう。
俺たちは表札を見ながら歩いていき、住民課と書かれた窓口の前に立ち止まった。
「あの、すみません、部屋を借りたいのですが……」
窓口から、中に座っていた男の人に声を掛けた。
四十代くらいの金髪の男性は、俺たちをちらりと見ると、立ち上がって近づいてきた。
「ええっと、君たちだけで部屋を借りるのかい?それとも、親御さんと一緒かな?」
「俺たちだけです。親はいないので」
俺の答えに、男性は少しばつが悪そうな表情で小さく頷いた。
「そうか。部屋はかなりの数空いているんだが、その、予算はどのくらいを考えているかね?」
「そうですね…下の人に部屋代の平均は五百グランくらいだと聞きました。そのくらいなら出せます」
男性は一瞬意外だという表情をしたが、すぐに下の棚から分厚いファイルを取り出して、カウンターの上に置いた。そして、ぱらぱらとページをめくり、一枚の紙をファイルから外した。
「二人で住むなら、ここがおすすめだよ。リビングと台所、トイレとシャワー室、二つの部屋と物置が一つ、これで月四百五十グランだ」
ちらりとポピィを見ると、小さく頷いた。
「はい、そこでいいです」
男性はわずかに微笑むと、二枚の紙を取り出して、それぞれにサインをさせた。そして、そのうちの一枚と小さな簡易地図を渡し、手数料として八グランを請求した。
俺たちは施政管理署を出ると、彼にもらった地図を見ながら貸し部屋のある場所へ向かった。
そこは、広場から六方向に延びる道のうち、北東に延びた道の一角にあった。階段横の一階が管理人の部屋で、俺たちが借りた部屋は二階の階段を挟んで向かい合った二つの部屋の一つだった。管理人に契約書を見せて、鍵を受け取り、部屋に入った。
「きれい、とは言えないが、まあ、短い間過ごすには十分かな」
「シャワーとトイレがあるのは、ありがたいですね」
部屋を見て回りながら、ポピィが言った。確かに、どこの人間の街の宿屋でも、シャワーとトイレが個室に付いている部屋は珍しい。貴族が利用するような高級な宿屋には、風呂付きの部屋もあると聞いたことはあるが。
「ポピィ、さっそくシャワーを浴びたらどうだ?何日も体を拭くだけだったからな」
「トーマ様が先にどうぞ。その間に、お茶を入れるようにします」
お言葉に甘えて、俺は先にシャワー室に入っていった。当然水が出るのだろうと思っていたら、なんと、温水を出すレバーがあった。レバーの近くの壁にある表示を見たときは、何かの間違いではないかと思ったが、レバーを倒すとちゃんとお湯が出た。
(この街は、人間も含めて、何もかもがおかしい……どうなっているんだ?)
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