少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

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58 街の秘密 2

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 どうにも気持ちの悪い違和感、頭でいろいろ考えてみても根拠のない想像ばかりだ。

 この島は外の世界から隔離されている。前世でも、外の世界から隔離された島はあった。例えばイースター島とかだ。それらの島々には、独自の文化があり、進化していた。だが、それらの島の人々の生活レベルは、外の世界に比べると原始的だった。ただ、精神文明は、詳しくないからはっきりとは言えないが、外の世界の人間たちより豊かだったのではないか。

 この島は、逆なのだ。生活レベルは外の世界より明らかに高い。しかし、精神は、まるで活気を失い、ただ生きているだけのように見える。原因は、やはり〝魔族との関係〟にあるのではないか、と予想はしているが、確証はない。
 こんなときはナビが頼りなのだが、そもそも違和感の最初の原因はナビだったので、どうも相談しにくかった。

 そんなわけで、次の日、とにかく街の様子をもう少し探ってみようと思い、ポピィと一緒に街の中へ出かけた。まずは、何か朝食をとって、食料品の買い出しをしようということになった。

 広場に出て、放射状に延びている通りを順番に覗いてみる。すると、南東の通りを覗いたとき、ポピィが鼻を少し上に向けて、何度か空気を吸い込んだ。
「なにか、おいしそうな匂いがします。きっと、この通りに食事の店がありますよ」

 彼女の鼻を信じて通りに入ってみると、驚くことに、そこは何軒も連なる飲食店街だった。かなりの人数の人たちが通りを歩きながら、お気に入りの店に入っていく。酒場もあれば、カフェのような店もあった。

(なるほど、もしかすると、商店も種類によって区画が決められているのかな?後で調べてみよう)

『マスターの推察は正しいと思います……』

(うわ、びっくりした……どうしたんだ、急に?)

『申し訳ありません、ご心配をおかけしました。私の機能に障害が発生していましたが、もう修復しましたので、大丈夫です。原因については、もうしばらくしたらお話しますので、それまでどうかお待ちください』

(そうか…分かった。それで、店の種類によって区画が決められているってことか?)

『はい。おおざっぱに観測したところでは、東から南が飲食店や生鮮食料品店が並び、西から北には雑貨店や鍛冶屋、工房などが並んでいます。それらの店の間に住民の住む高層建築が建っているといった感じですね』

 やはり、こういう街の作りも非常に機能的で、近代的だ。いや、封建的と言った方が正しいのかもしれない。封建時代と違うのは、この街に支配者の姿が見えないことだ。

 俺とポピィは小さな食堂のような店に入った。いくつかある定食メニューから、俺は魚のムニエルと肉入りスープを、ポピィはチキンソテーと野菜スープを注文した。なかなかおいしかった、というか、懐かしい味だった。前世のどこかの店で食べたような味だった。

「ちょっと、魔道具が売っているかどうか見に行かないか?」

「はい、見たいです。温かいお湯が出る道具があれば、欲しいのです」

 朝食に満足した俺たちは、そんなことを話しながら、広場を抜けて西に向かおうとした。だが、広場に出たとたん、そこはちょっとした騒ぎになっていた。

 大勢の男たちが、広場の台座に集められた木箱を、馬車に積み込む作業をしていたのだ。しかも、木箱は、あちこちの通路からまだ運ばれてきていた。軽いものも重いものもあるようだ。

 俺たちはしばらくその光景を眺めていた。
荷台がいっぱいになった馬車は、次々に出発していった。たぶん、〝あのお方〟のもとへ運ばれていくのだろう。

「ポピィ、頼みがある……」

「はいです」

「あの馬車の行き先を探ってきてくれないか?」
 俺は、仮の出入許可証を渡しながら言った。
「俺はその間に、街で聞き込みをしてみる」

「分かりました。任せてください」
 ポピィは目を輝かせて頷いた。彼女にとって、一番得意な仕事だ。

「頼む。でも、無理はするなよ。危険そうなら、すぐに戻ってくるんだ。部屋で落ち合おう」

「了解です」
 ポピィはそう言うと、馬車の後を追ってゆっくりと街の出口の方へ歩き出した。

 俺は彼女を見送ると、予定通り西に向かう通路に入っていった。

♢♢♢

「これは……すごいな……まるで秋葉原のジャンク街のようだ」
 通りを歩きながら、俺は思わずつぶやいた。

 通りには、衣料から生活雑貨まで、ありとあらゆる商品を売る小さな店が、びっしっりと軒を並べていた。中でも、俺の目を引いたのが、何かよく分からない部品や機械を売っているいくつかの店だった。前世が技術屋だった俺にとっては、たまらない品々だ。

 近づいて、目に付いた商品札を見ていくと、〈取り換え用温水製造器 1200₢〉、〈歩行サポーター ブーツ用 160₢〉、〈強火力魔石コンロ 380₢〉等などがあった。

「何か必要かい?」
 俺が熱心に商品を見ていると、その店の主人らしい五十代半ばくらいの男が声をかけてきた。

「ええっと、この〈歩行サポーター〉って、どうやって使うんですか?」
 俺は、平たい金属の板のようなものを指さして尋ねた。

「おや、知らないのか?今では誰でも使っているぞ。靴底の内側に入れるだけだ。上から、この靴底インソールを被せれば気にならないからな。この板には、風魔法が付与されているから、常に下向きの風が出て、歩く時の補助をしてくれるのさ。ただし、アウトソールは、魔石の粉末を混ぜた合成皮の奴じゃないとだめだがな」
 主人は、楽し気にそう説明してくれた。

(なるほど、風魔法にはそういう使い方もあるのか。面白いな……)

『マスター、あの右奥の機械を見てください』
 ナビに言われて奥に入ってみると、そこには、〈代金計算収納機 2380₢〉と表札に書かれた、大人が二人がかりでやっと持ち上げられるくらいの金属製の機械が、でんと置かれていた。

(えっ、名前からすると、これってレジスターじゃないか?……いや、やっぱりそうだよ)

「あはは……坊主、それ、すごいだろう?うちも使っている最新の魔道具だ。お客がどんなにたくさんの買い物をしても、数字を押していくだけで、すぐ合計の金額がわかるんだ。しかも、金庫代わりにもなる優れものだぞ」

 デザイン自体は、俺がよく知っているレジとは違って、角ばっていかにもごついという感じだが、機能は前世のものとほとんど同じだ。こんなことってあるのか?

「すごいね。こんな機械、いったい誰が考えたの?」

 俺の問いに、主人は笑顔のまま、固まったようにしばらく無言だった。
「……そんなことは、聞かなくても分かっているだろう?さあ、何も買わないなら、帰ってくれ」

 主人は急に不機嫌になってそう言うと、手で追い払うようなしぐさをした。

「ああ、すみません。じゃあ、〈歩行サポーター〉を二つください」

「ありがとうよ。二つで百二十グランだ」

 俺は、まだ貨幣の交換率が分からなかったので、とりあえず食堂でお釣りにもらった銀貨を二枚差し出した。
「おいおい、まだ計算もできないのか?銀貨なら一枚で足りるぞ。銅貨は無いのか?」

 俺はちょっと考えてから、大小二種類の銅貨のうち、大きな方を三枚枚差し出した。
 
 主人はそれを受け取ると、例のレジスターを使って、数字を打ち込み、小さな銅貨を三枚手渡した。

 なるほど、金貨一枚は千グラン、銀貨は五百グラン、大きな銅貨は五十グラン、小さな銅貨は十グランのようだ。一グランは十六円くらいの価値に相当するかもしれない。そう考えると、部屋代は一万円足らずで、ずいぶん安いものだ。
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