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65 勇者の仲間選び 2
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セドル邸に到着した三人の候補者たちは、まず、執事から簡単な説明を受けた。
「皆様には、それぞれ個室をご用意させていただきましたので、まず、そちらでしばらくお寛(くつろ)ぎください。その後、私がご案内いたしますので、戦闘用の装備を着用して訓練場の方へ移動していただきます。よろしいでしょうか?」
「うむ、承知した」と、ブレンダ・ボーグ。
「はい、分かりました」と、イリア・ガーランド。
「ふん、まどろっこしいな。実力、出自とも、私以外が選ばれるとは思えんが」と、ハンク・バーネットは執事にそう言いながら、部屋の中に入っていった。
♢♢♢
しばらくして、再び執事に呼ばれた三人は、屋敷の一角に作られた屋根付きの鍛錬場に案内された。
すでにそこには、朝の鍛錬を終えて汗を拭いているリオンとロナンの姿があった。二人は三人の候補者たちが現れると、近づいてきて挨拶をした。
「ようこそ我が国へ。遠い所からわざわざおいでいただき、感謝いたします。私がリオン・セドルで、隣がロナン・ポーデットです」
「初めまして。ガーランド王国から参りました、イリス・ガーランドです。どうぞ、よしなにお願いします」
「お初にお目にかかる。ボーゼス王国の冒険者ブレンダ・ボーグだ。よろしく頼む」
「ブレイドン王国第二騎士団所属ハンク・バーネットだ。ときに、勇者殿は何歳になられる?」
挨拶もそこそこに質問するバーネットに、他の二人はひんしゅく気味の視線を向けた。しかし、リオンは微笑みながら快く応じた。
「十五歳です」
「ほお、お若いな。それで、そこの少年は勇者殿の世話係か小間使いですかな?」
「いいえ。共に魔王を討つ仲間であり、私の無二の親友です」
「うははは……勇者殿は、魔王討伐を遊びか何かと間違ってはおられませぬかな?」
「おい、失礼だぞ」
たまりかねたブレンダが、ガーネットを諫めたが、ガーネットはさげすむような笑みを口元に浮かべてブレンダを睨んだ。
「ふん…奴隷上りが偉そうな口を叩くな」
ブレンダが殺気をみなぎらせて腰の剣に手を伸ばそうとしたとき、リオンがすかさずこう言った。
「遊びかどうか、さっそく試してもらいましょう。私たちは盾役の仲間を探しています。そこで、今からガーネット殿とボーグ殿のお二人の実力を見せていただきたいと思います。まずは、ガーネット殿から、よろしいですか?」
「よかろう。それで、何を見せればいいのだ?」
ガーネットの問いに、リオンは涼しい顔でこう言った。
「ロナンの攻撃をできるだけ防いでください。もちろん、ロナンは練習用の木製の剣を使います。ガーネット殿も練習用の武器を何でも使って良いですし、盾や武器でロナンを攻撃しても構いません。どちらかが、急所に攻撃を受けた時点で勝負あり、とします。よろしいですか?」
「ほお、本当にそれで良いのですかな? その少年がケガをするかもしれませんぞ」
ガーネットの言葉に、今度はロナンが楽し気な顔で答えた。
「大丈夫です。思いきりやってください」
ガーネットは、憎々し気な表情で、背負っていた自慢の大盾を下ろし、壁際に置いてある練習用の武器から剣を取って、鍛錬場の中央に大股で出ていった。
♢♢♢
「では、私が審判をします。双方、礼……始めっ!」
「でやあああああっ!」
礼もそこそこに、ガーネットは盾を構えたまま、いきなりロナンに向かって突進した。
「ふんっ」
そして、ロナンに向かって盾を思いきり突き出し、得意のシールドバッシュを放った。これまで彼が戦った人間や魔物は、これで後ろに下がるはずだった。そこへ、剣の追撃を掛ければ、たいていは勝負がついたのだ。
だが、彼が剣を突き出そうとしたとき、そこにはすでにロナンの姿はなかった。慌てて辺りを見回したが、完全に姿を見失ってしまった、と思った瞬間、頭上から背後に落ちてくるものの気配を感じて振り返ろうとした。
「僕の勝ちですね」
そんな声が聞こえてきて、首元にトンッと剣が置かれた。
「ま、待て……今のは油断した…まさか、そんな目くらましの技を使うとは……もう一度、やらせてくれ」
「ええっ? 目くらましって……ていうか、勇者の仲間なら油断なんて……」
ガーネットの言葉に、ロナンが唇を尖らせて文句を言い始めた時、リオンがたしなめるように言った。
「ロナン、これも鍛錬だ。もう一度だけお相手してさしあげろ」
「……分かった」
ロナンは心の中で(何回やっても同じだけどな)と思いながら、頷いた。
両者は、再び中央で向かい合った。
「では、双方、構えて……始めっ!」
リオンの合図とともに、二人はゆっくりと動き始めた。今回は、さすがにガーネットも慎重に盾を構えて、ロナンの動きを見極めようとしていた。
そして、数秒後、最初に動き出したのはロナンだった。彼は、相手が出てこないと見るや、わずかに微笑みを浮かべて、さっと低い姿勢になり、剣を体の近くで左水平に構えた。
(ふん、また走りがかりにジャンプするつもりだな。二回も同じ手が通用すると思うなよ)
ガーネットは心の中でつぶやき、ニヤリと笑った。相手がジャンプしたら、下から剣で思いきり腹を突いてやろうと思っていた。
ロナンが動き出した。
「は、速い」
真剣に見守っていたブレンダが、思わず小さく叫んで身を乗り出した。それほど、ロナンの動きは目に残像が残るほどのスピードだった。
ガーネットはロナンの姿を見失った瞬間、反射的に上を見た。ロナンがジャンプしたと思ったからだ。
「僕の勝ちです」
しかし、声が聞こえてきたのは、またもや背後からだった。
ガーネットは、信じられない気持ちで後ろを振り返り、わなわなと口を震わせた。
「う、嘘だ……こ、これは、インチキだ、何かの罠だ、認めぬ、認めぬぞ……」
「見苦しいぞ、ガーネット。騎士なら潔く負けを認めよ」
ブレンダが歩み寄って来ながらそう言った。
「な、なにい、貴様、奴隷上りがこの私に……」
「勝負はつきました。試験は終わりです。ガーネット殿、残念ながら、あなたを勇者パーティに迎えることはできません。どうぞ、お引き取りを」
リオンが頭を下げて、丁寧に、しかしきっぱりとそう告げた。
「ぬうう、私を侮辱したのは、私を選んでくださったブレイドン国王陛下を侮辱したのと同罪、この罪を必ず償わせて……」
ガーネットが、矢継ぎ早にそう叫んだ直後、鍛錬場の入り口の方から厳しい叱咤の声が聞こえてきた。
「やめよっ、ガーネット! それ以上、我が国に恥をかかせるなら、この私が容赦はせぬ」
「あっ……ラ、ラミール皇太子殿下…な、なぜ、ここに……」
現れたのは、セドル伯爵と三人の人物だった。
「オ、オルセン侯爵様……」
「まあ、トーラス兄さま……」
あとの二人も、伯爵とともに現れた人物を見て驚いた。
セドル伯爵が、三人の代わりに代表して言った。
「勇者の一行に選ばれるというのは、大変な名誉だ。だが、その選抜となれば必ず合否の結果が生(しょう)じるのは必定(ひつじょう)……惜しくも選ばれなかった者の落胆は察するに余りある。そこで、前もって、そなたたち三人の国から密かに後ろ盾になる方々に来ていただき、もし、選に漏れたときには大いに慰めていただこうと考えていたのだ」
いかにも策略家らしい伯爵の配慮だったが、当然、その心の裏には、勇者である息子が若輩(じゃくはい)であるがゆえに、今回のガーネットのように、判定に不満を抱き不遜(ふそん)な態度に出る者がいるかもしれない、という計算もあった。
「……伯爵殿の御深慮に感激して来てみれば、己の力不足を恥じるどころか、怒りの矛先をこともあろうに勇者殿、ひいてはプロリア公国に向けるとは何たることか……ハンク・ガーネット、そなたの日頃の尊大さは力ある者の特性だと、周囲は許してきたが、これで心根まで腐っていることが分かった。さあ、すぐに、用意して私とともに帰国しろ。国王である父の前で、今回のこと、洗いざらい懺悔するのだ」
ブレイドン王国第一王子の厳しい言葉に、ガーネットはがっくりと膝をついてうなだれた。王子は、警護の兵士に無言で合図し、ガーネットを引き立てて連れて行かせた。
「伯爵殿、それから、勇者リオン殿、このたびは我が近衛兵がまことに不愉快な思いをさせてしまい、お詫びのしようもない、この通りだ、許してほしい」
そう言って頭を深く下げる王子に、伯爵もリオンも駆け寄って頭を上げさせ、気にしないように言葉を掛けた。
傷心の王子は、その心遣いに感謝しながら、寂し気に鍛錬場から去っていった。
「皆様には、それぞれ個室をご用意させていただきましたので、まず、そちらでしばらくお寛(くつろ)ぎください。その後、私がご案内いたしますので、戦闘用の装備を着用して訓練場の方へ移動していただきます。よろしいでしょうか?」
「うむ、承知した」と、ブレンダ・ボーグ。
「はい、分かりました」と、イリア・ガーランド。
「ふん、まどろっこしいな。実力、出自とも、私以外が選ばれるとは思えんが」と、ハンク・バーネットは執事にそう言いながら、部屋の中に入っていった。
♢♢♢
しばらくして、再び執事に呼ばれた三人は、屋敷の一角に作られた屋根付きの鍛錬場に案内された。
すでにそこには、朝の鍛錬を終えて汗を拭いているリオンとロナンの姿があった。二人は三人の候補者たちが現れると、近づいてきて挨拶をした。
「ようこそ我が国へ。遠い所からわざわざおいでいただき、感謝いたします。私がリオン・セドルで、隣がロナン・ポーデットです」
「初めまして。ガーランド王国から参りました、イリス・ガーランドです。どうぞ、よしなにお願いします」
「お初にお目にかかる。ボーゼス王国の冒険者ブレンダ・ボーグだ。よろしく頼む」
「ブレイドン王国第二騎士団所属ハンク・バーネットだ。ときに、勇者殿は何歳になられる?」
挨拶もそこそこに質問するバーネットに、他の二人はひんしゅく気味の視線を向けた。しかし、リオンは微笑みながら快く応じた。
「十五歳です」
「ほお、お若いな。それで、そこの少年は勇者殿の世話係か小間使いですかな?」
「いいえ。共に魔王を討つ仲間であり、私の無二の親友です」
「うははは……勇者殿は、魔王討伐を遊びか何かと間違ってはおられませぬかな?」
「おい、失礼だぞ」
たまりかねたブレンダが、ガーネットを諫めたが、ガーネットはさげすむような笑みを口元に浮かべてブレンダを睨んだ。
「ふん…奴隷上りが偉そうな口を叩くな」
ブレンダが殺気をみなぎらせて腰の剣に手を伸ばそうとしたとき、リオンがすかさずこう言った。
「遊びかどうか、さっそく試してもらいましょう。私たちは盾役の仲間を探しています。そこで、今からガーネット殿とボーグ殿のお二人の実力を見せていただきたいと思います。まずは、ガーネット殿から、よろしいですか?」
「よかろう。それで、何を見せればいいのだ?」
ガーネットの問いに、リオンは涼しい顔でこう言った。
「ロナンの攻撃をできるだけ防いでください。もちろん、ロナンは練習用の木製の剣を使います。ガーネット殿も練習用の武器を何でも使って良いですし、盾や武器でロナンを攻撃しても構いません。どちらかが、急所に攻撃を受けた時点で勝負あり、とします。よろしいですか?」
「ほお、本当にそれで良いのですかな? その少年がケガをするかもしれませんぞ」
ガーネットの言葉に、今度はロナンが楽し気な顔で答えた。
「大丈夫です。思いきりやってください」
ガーネットは、憎々し気な表情で、背負っていた自慢の大盾を下ろし、壁際に置いてある練習用の武器から剣を取って、鍛錬場の中央に大股で出ていった。
♢♢♢
「では、私が審判をします。双方、礼……始めっ!」
「でやあああああっ!」
礼もそこそこに、ガーネットは盾を構えたまま、いきなりロナンに向かって突進した。
「ふんっ」
そして、ロナンに向かって盾を思いきり突き出し、得意のシールドバッシュを放った。これまで彼が戦った人間や魔物は、これで後ろに下がるはずだった。そこへ、剣の追撃を掛ければ、たいていは勝負がついたのだ。
だが、彼が剣を突き出そうとしたとき、そこにはすでにロナンの姿はなかった。慌てて辺りを見回したが、完全に姿を見失ってしまった、と思った瞬間、頭上から背後に落ちてくるものの気配を感じて振り返ろうとした。
「僕の勝ちですね」
そんな声が聞こえてきて、首元にトンッと剣が置かれた。
「ま、待て……今のは油断した…まさか、そんな目くらましの技を使うとは……もう一度、やらせてくれ」
「ええっ? 目くらましって……ていうか、勇者の仲間なら油断なんて……」
ガーネットの言葉に、ロナンが唇を尖らせて文句を言い始めた時、リオンがたしなめるように言った。
「ロナン、これも鍛錬だ。もう一度だけお相手してさしあげろ」
「……分かった」
ロナンは心の中で(何回やっても同じだけどな)と思いながら、頷いた。
両者は、再び中央で向かい合った。
「では、双方、構えて……始めっ!」
リオンの合図とともに、二人はゆっくりと動き始めた。今回は、さすがにガーネットも慎重に盾を構えて、ロナンの動きを見極めようとしていた。
そして、数秒後、最初に動き出したのはロナンだった。彼は、相手が出てこないと見るや、わずかに微笑みを浮かべて、さっと低い姿勢になり、剣を体の近くで左水平に構えた。
(ふん、また走りがかりにジャンプするつもりだな。二回も同じ手が通用すると思うなよ)
ガーネットは心の中でつぶやき、ニヤリと笑った。相手がジャンプしたら、下から剣で思いきり腹を突いてやろうと思っていた。
ロナンが動き出した。
「は、速い」
真剣に見守っていたブレンダが、思わず小さく叫んで身を乗り出した。それほど、ロナンの動きは目に残像が残るほどのスピードだった。
ガーネットはロナンの姿を見失った瞬間、反射的に上を見た。ロナンがジャンプしたと思ったからだ。
「僕の勝ちです」
しかし、声が聞こえてきたのは、またもや背後からだった。
ガーネットは、信じられない気持ちで後ろを振り返り、わなわなと口を震わせた。
「う、嘘だ……こ、これは、インチキだ、何かの罠だ、認めぬ、認めぬぞ……」
「見苦しいぞ、ガーネット。騎士なら潔く負けを認めよ」
ブレンダが歩み寄って来ながらそう言った。
「な、なにい、貴様、奴隷上りがこの私に……」
「勝負はつきました。試験は終わりです。ガーネット殿、残念ながら、あなたを勇者パーティに迎えることはできません。どうぞ、お引き取りを」
リオンが頭を下げて、丁寧に、しかしきっぱりとそう告げた。
「ぬうう、私を侮辱したのは、私を選んでくださったブレイドン国王陛下を侮辱したのと同罪、この罪を必ず償わせて……」
ガーネットが、矢継ぎ早にそう叫んだ直後、鍛錬場の入り口の方から厳しい叱咤の声が聞こえてきた。
「やめよっ、ガーネット! それ以上、我が国に恥をかかせるなら、この私が容赦はせぬ」
「あっ……ラ、ラミール皇太子殿下…な、なぜ、ここに……」
現れたのは、セドル伯爵と三人の人物だった。
「オ、オルセン侯爵様……」
「まあ、トーラス兄さま……」
あとの二人も、伯爵とともに現れた人物を見て驚いた。
セドル伯爵が、三人の代わりに代表して言った。
「勇者の一行に選ばれるというのは、大変な名誉だ。だが、その選抜となれば必ず合否の結果が生(しょう)じるのは必定(ひつじょう)……惜しくも選ばれなかった者の落胆は察するに余りある。そこで、前もって、そなたたち三人の国から密かに後ろ盾になる方々に来ていただき、もし、選に漏れたときには大いに慰めていただこうと考えていたのだ」
いかにも策略家らしい伯爵の配慮だったが、当然、その心の裏には、勇者である息子が若輩(じゃくはい)であるがゆえに、今回のガーネットのように、判定に不満を抱き不遜(ふそん)な態度に出る者がいるかもしれない、という計算もあった。
「……伯爵殿の御深慮に感激して来てみれば、己の力不足を恥じるどころか、怒りの矛先をこともあろうに勇者殿、ひいてはプロリア公国に向けるとは何たることか……ハンク・ガーネット、そなたの日頃の尊大さは力ある者の特性だと、周囲は許してきたが、これで心根まで腐っていることが分かった。さあ、すぐに、用意して私とともに帰国しろ。国王である父の前で、今回のこと、洗いざらい懺悔するのだ」
ブレイドン王国第一王子の厳しい言葉に、ガーネットはがっくりと膝をついてうなだれた。王子は、警護の兵士に無言で合図し、ガーネットを引き立てて連れて行かせた。
「伯爵殿、それから、勇者リオン殿、このたびは我が近衛兵がまことに不愉快な思いをさせてしまい、お詫びのしようもない、この通りだ、許してほしい」
そう言って頭を深く下げる王子に、伯爵もリオンも駆け寄って頭を上げさせ、気にしないように言葉を掛けた。
傷心の王子は、その心遣いに感謝しながら、寂し気に鍛錬場から去っていった。
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