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5 転生幼女は、魔法が使いたい 2
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本日、連投二話目です。
応援よろしくお願いいたします。
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教会には、すでにたくさんの親子連れが長い列を作っていた。やがて、教会の塔の鐘が鳴り響き、入り口のドアが開かれ、人々が教会の中へなだれ込んでいく。私たちも中に入り、後ろから五番目の列の中央通路の側に並んで座った。
私はきょきょろと辺りを見回して知っている顔を探したが、ようやく前から三列目の壁側にフィーネちゃん親子の姿を見つけた。他にもちらほら、公園でよく見かける子たちの姿があった。
「では、これより、《神命職受の儀》を開始します。名前を呼ばれたら、子どもだけで、祭壇の奥の部屋に入ってください。教会内ではくれぐれも静粛にお願いします。なお……」
青と白の法衣を纏った神父が祭壇の横に立って儀式の開始を告げ、いくつかの注意事項を説明した。
そして、最初の子どもの名前が呼ばれると、室内の空気は一気に張り詰めたものになった。どの子も親も緊張した表情で自分の番を待っていた。
それから二十分近くが過ぎたとき、ついに私の名前が呼ばれた。フィーネちゃんより私の方が早かった。
「次は、リーリエ・ポーデットさん」
「あ、ひゃい」
私は緊張して、つい返事を噛んでしまった。少し赤くなりながら、立ち上がって祭壇の方へ歩いていく。父さんと母さんのため息が後ろで聞こえた。
フィーネちゃんが振り返って、私に微笑みかけ、小さく手を振ったので、私も小さく手を振り返した。
「おほん……では、奥の部屋へ」
中年の神父さんが咳払いをして、私を祭壇の後ろのドアへ促す。私はごくりと唾液を飲み込みながら、小さなドアの取っ手を押して中に入っていった。
そこは五メートル四方ほどの四角い部屋で、左手の壁の天井に近い所に窓があり、そこから明るい光が差し込んで部屋の中を柔らかく照らしていた。そして、中央に人の大きさほどの男神像が置かれ、その横に、地位が高い聖職者なのだろう、法衣の上に白に金の刺繍が施されたローブをゆったりと纏った老人が立っていた。
「ふむ、ええっと、そなたは……リーリエ・ポーデットだな?」
「はい」
「よろしい。ではまず、パラス様に祈りを捧げなさい」
老神父(実は司祭様でした)の言葉に、私は一瞬ためらった。儀式とはいえ、女神ラクシス様以外の神様に祈って良いものか、迷ったからだ。しかし、これはあくまで、儀式を進めるためだ、逆らってもしようがない。私はそう自分に言い聞かせて、像の前に跪き、両手を組んだ。ラクシス様、ごめんなさい。
「全能なる天空の神ラパスよ、汝が幼子に、ふさわしきジョブを下し給え」
老人はそう唱えながら両手を広げ、私の頭の上でゆっくりと左右に動かした。
「おお、ラパス様より、そなたに神命が下された。そなたのジョブは〈織(しょく)布工(ふこう)〉だ。さあ、この聖符を持って帰って、大事に飾りなさい。きっと、神のご加護があるだろう」
老人はそう言うと、まるであらかじめ用意されていたように、〈織布工〉と中央に書かれた青い模様の縁取りがある紙を私に手渡した。
(はあ?〈織布工〉って、機織り職人のこと? 私に織姫様になれっていうの? 冗談はやめて。年に一回しか恋人に会えない不幸な働きづめの女なんて、嫌よ、前世の二の舞じゃない。絶対、嫌だからね、私は魔法を使う仕事をするんだから)
私が〈聖符〉と呼ばれる〝紙切れ〟を手に、不機嫌に黙り込んでいると、老人は早く次の子どもと入れ替えたいように、少し強めの口調で言った。
「さあ、早く行って、家の者にありがたいご神託を教えてやりなさい」
私は少しふくれっ面で立ち上がると、最後に老人をひと睨みしてから、部屋を出ていった。
♢♢♢
「リ、リーリエ、どうしたの?」
「何かあったのかい?」
「……何でもない。帰ろう、パパ、ママ」
私の不機嫌な顔を見て、両親はおろおろしながらも、そそくさと席を立って、すでに出口に向かって歩き出した私を追いかけた。
「な、なあ、リーリエ、せっかくだから、何かおいしいものでも食べていかないか?」
お父さんは、何とか私のご機嫌を取ろうと考えたのだろう。
(何ですと、オイシイモノ?)
私はピタリと足を止めて、にんまりした顔で振り返った。
「ケーキが食べたいっ!」
「お、おお、じゃあ〈エルポワール〉に行こう、なあ、レーニエ」
「え、ええ、そうね、それがいいわ」
食べ物に釣られた単細胞、と笑うことなかれ。どこの世界でも、女の子は甘いものに目がないのだ。決して私が食い意地が張っているからではない。これは、そう、前世の記憶、あの素晴らしい日本のスイーツの記憶が残っているせいだ、きっとそうだ。
〈エルポワール〉は、このアラクムの街で有名なカフェで、白壁の外観と内部の落ち着いた木造りの内装がおしゃれな店だ。結婚前に、父さんが母さんをデートに誘うのによく利用していたらしい。
この店はケーキとクッキーがおいしいと評判である。この店以外にも、ケーキやクッキーを売る店は二軒あり、それなりに賑わっている。
ちなみに、この世界のケーキとかクッキーはどうかというと、正直お話にならないレベルである。どうしても前世と比べてしまうから仕方がないのだが……まあ、クッキーはまだいい、我慢できる。しかし、ケーキはだめだ。父さんが、誕生日とか何かの記念日などに、ときどき買って来てくれたり、母さんとプラムが新年祭に焼いてくれたりするが、甘いものに目がない私でも、一切れ食べればもういい、という感じだ。
まず、スポンジが固い。これは、メレンゲと牛乳が生地に混ざっていないからだろう。例えるなら、ドイツのシュトーレンのもっと粉っぽいバージョンだ。
一般的なやつは、この生地に乾燥果実やナッツ類が練りこまれていたり、ジャムははさんであったりする。どうやら、バタークリームや生クリームはまだ発見されていないようだ。
ただ、この〈エルポワール〉の『季節のフルーツのチーズタルト』は、マジでおいしかった。
(チーズはあるのに、なぜクリームがないの? これに生クリームあったら完璧だったのに……んん、でもおいし~、しあわせ~~)
私が口の周りにタルトのクズをくっつけながら、幸せな笑顔でかぶりついている様子を見て、両親はほっと胸を撫で下ろしていた。
♢♢♢
家に帰ってから、私は教会であったこと、感じたことを正直に両親に話した。両親も、私が授かったジョブが〈織布工〉だったことにショックを受け、私の考えに賛同してくれた。
「ママは、リーリエの味方よ。あなたがやりたいと思うことをやればいいの」
「ああ、パパもそう思う。ただ、一つ訊いていいかい? どうして、魔法を使った仕事をしたいと思ったんだい?」
父さんの問いに、私は一つの決断をしなければいけないことを悟った。だが、その前に確認しておきたいことがある。
「あのね、フィーネちゃんに聞いたの。フィーネちゃんのパパは、〈金属加工〉っていうスキルを持っていて、本当は〈鍛冶屋〉の仕事の方が向いていたんだって。でも、五歳の時に〈商人〉のジョブをもらったから、商人になるためにとても苦労したって……これって、おかしいよね? だって、スキルもジョブも神様がくれるものでしょう? それなのに、どうしてスキルに合わないジョブをくれるの?」
おそらく、私の言葉は、とうてい四歳の子どもが口にするような内容ではなかっただろう。だが、両親はその検証をする前に、娘が指摘した明らかな矛盾点に思わず顔を見合わせていた。誰もが同じ疑問を持ち、そして、誰もがあえて口にしなかったことだったからだ。
「ねえ、パパは自分のスキルを知っているの? ママはどう?」
私が確認したかったのは、このことだ。誰もが、自分のステータス画面を確認できるのだろうか?
もしそうなら、自分のスキルと与えられたジョブがちぐはぐなことに、なぜ、誰も疑問を抱かないのだろうか?
応援よろしくお願いいたします。
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教会には、すでにたくさんの親子連れが長い列を作っていた。やがて、教会の塔の鐘が鳴り響き、入り口のドアが開かれ、人々が教会の中へなだれ込んでいく。私たちも中に入り、後ろから五番目の列の中央通路の側に並んで座った。
私はきょきょろと辺りを見回して知っている顔を探したが、ようやく前から三列目の壁側にフィーネちゃん親子の姿を見つけた。他にもちらほら、公園でよく見かける子たちの姿があった。
「では、これより、《神命職受の儀》を開始します。名前を呼ばれたら、子どもだけで、祭壇の奥の部屋に入ってください。教会内ではくれぐれも静粛にお願いします。なお……」
青と白の法衣を纏った神父が祭壇の横に立って儀式の開始を告げ、いくつかの注意事項を説明した。
そして、最初の子どもの名前が呼ばれると、室内の空気は一気に張り詰めたものになった。どの子も親も緊張した表情で自分の番を待っていた。
それから二十分近くが過ぎたとき、ついに私の名前が呼ばれた。フィーネちゃんより私の方が早かった。
「次は、リーリエ・ポーデットさん」
「あ、ひゃい」
私は緊張して、つい返事を噛んでしまった。少し赤くなりながら、立ち上がって祭壇の方へ歩いていく。父さんと母さんのため息が後ろで聞こえた。
フィーネちゃんが振り返って、私に微笑みかけ、小さく手を振ったので、私も小さく手を振り返した。
「おほん……では、奥の部屋へ」
中年の神父さんが咳払いをして、私を祭壇の後ろのドアへ促す。私はごくりと唾液を飲み込みながら、小さなドアの取っ手を押して中に入っていった。
そこは五メートル四方ほどの四角い部屋で、左手の壁の天井に近い所に窓があり、そこから明るい光が差し込んで部屋の中を柔らかく照らしていた。そして、中央に人の大きさほどの男神像が置かれ、その横に、地位が高い聖職者なのだろう、法衣の上に白に金の刺繍が施されたローブをゆったりと纏った老人が立っていた。
「ふむ、ええっと、そなたは……リーリエ・ポーデットだな?」
「はい」
「よろしい。ではまず、パラス様に祈りを捧げなさい」
老神父(実は司祭様でした)の言葉に、私は一瞬ためらった。儀式とはいえ、女神ラクシス様以外の神様に祈って良いものか、迷ったからだ。しかし、これはあくまで、儀式を進めるためだ、逆らってもしようがない。私はそう自分に言い聞かせて、像の前に跪き、両手を組んだ。ラクシス様、ごめんなさい。
「全能なる天空の神ラパスよ、汝が幼子に、ふさわしきジョブを下し給え」
老人はそう唱えながら両手を広げ、私の頭の上でゆっくりと左右に動かした。
「おお、ラパス様より、そなたに神命が下された。そなたのジョブは〈織(しょく)布工(ふこう)〉だ。さあ、この聖符を持って帰って、大事に飾りなさい。きっと、神のご加護があるだろう」
老人はそう言うと、まるであらかじめ用意されていたように、〈織布工〉と中央に書かれた青い模様の縁取りがある紙を私に手渡した。
(はあ?〈織布工〉って、機織り職人のこと? 私に織姫様になれっていうの? 冗談はやめて。年に一回しか恋人に会えない不幸な働きづめの女なんて、嫌よ、前世の二の舞じゃない。絶対、嫌だからね、私は魔法を使う仕事をするんだから)
私が〈聖符〉と呼ばれる〝紙切れ〟を手に、不機嫌に黙り込んでいると、老人は早く次の子どもと入れ替えたいように、少し強めの口調で言った。
「さあ、早く行って、家の者にありがたいご神託を教えてやりなさい」
私は少しふくれっ面で立ち上がると、最後に老人をひと睨みしてから、部屋を出ていった。
♢♢♢
「リ、リーリエ、どうしたの?」
「何かあったのかい?」
「……何でもない。帰ろう、パパ、ママ」
私の不機嫌な顔を見て、両親はおろおろしながらも、そそくさと席を立って、すでに出口に向かって歩き出した私を追いかけた。
「な、なあ、リーリエ、せっかくだから、何かおいしいものでも食べていかないか?」
お父さんは、何とか私のご機嫌を取ろうと考えたのだろう。
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私はピタリと足を止めて、にんまりした顔で振り返った。
「ケーキが食べたいっ!」
「お、おお、じゃあ〈エルポワール〉に行こう、なあ、レーニエ」
「え、ええ、そうね、それがいいわ」
食べ物に釣られた単細胞、と笑うことなかれ。どこの世界でも、女の子は甘いものに目がないのだ。決して私が食い意地が張っているからではない。これは、そう、前世の記憶、あの素晴らしい日本のスイーツの記憶が残っているせいだ、きっとそうだ。
〈エルポワール〉は、このアラクムの街で有名なカフェで、白壁の外観と内部の落ち着いた木造りの内装がおしゃれな店だ。結婚前に、父さんが母さんをデートに誘うのによく利用していたらしい。
この店はケーキとクッキーがおいしいと評判である。この店以外にも、ケーキやクッキーを売る店は二軒あり、それなりに賑わっている。
ちなみに、この世界のケーキとかクッキーはどうかというと、正直お話にならないレベルである。どうしても前世と比べてしまうから仕方がないのだが……まあ、クッキーはまだいい、我慢できる。しかし、ケーキはだめだ。父さんが、誕生日とか何かの記念日などに、ときどき買って来てくれたり、母さんとプラムが新年祭に焼いてくれたりするが、甘いものに目がない私でも、一切れ食べればもういい、という感じだ。
まず、スポンジが固い。これは、メレンゲと牛乳が生地に混ざっていないからだろう。例えるなら、ドイツのシュトーレンのもっと粉っぽいバージョンだ。
一般的なやつは、この生地に乾燥果実やナッツ類が練りこまれていたり、ジャムははさんであったりする。どうやら、バタークリームや生クリームはまだ発見されていないようだ。
ただ、この〈エルポワール〉の『季節のフルーツのチーズタルト』は、マジでおいしかった。
(チーズはあるのに、なぜクリームがないの? これに生クリームあったら完璧だったのに……んん、でもおいし~、しあわせ~~)
私が口の周りにタルトのクズをくっつけながら、幸せな笑顔でかぶりついている様子を見て、両親はほっと胸を撫で下ろしていた。
♢♢♢
家に帰ってから、私は教会であったこと、感じたことを正直に両親に話した。両親も、私が授かったジョブが〈織布工〉だったことにショックを受け、私の考えに賛同してくれた。
「ママは、リーリエの味方よ。あなたがやりたいと思うことをやればいいの」
「ああ、パパもそう思う。ただ、一つ訊いていいかい? どうして、魔法を使った仕事をしたいと思ったんだい?」
父さんの問いに、私は一つの決断をしなければいけないことを悟った。だが、その前に確認しておきたいことがある。
「あのね、フィーネちゃんに聞いたの。フィーネちゃんのパパは、〈金属加工〉っていうスキルを持っていて、本当は〈鍛冶屋〉の仕事の方が向いていたんだって。でも、五歳の時に〈商人〉のジョブをもらったから、商人になるためにとても苦労したって……これって、おかしいよね? だって、スキルもジョブも神様がくれるものでしょう? それなのに、どうしてスキルに合わないジョブをくれるの?」
おそらく、私の言葉は、とうてい四歳の子どもが口にするような内容ではなかっただろう。だが、両親はその検証をする前に、娘が指摘した明らかな矛盾点に思わず顔を見合わせていた。誰もが同じ疑問を持ち、そして、誰もがあえて口にしなかったことだったからだ。
「ねえ、パパは自分のスキルを知っているの? ママはどう?」
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