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4 転生幼女は、魔法が使いたい 1
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四歳になった私は、家の近くの公園までは外出を許されるようになった。もちろん、プラムというお付きのメイド同伴でだ。
プラムは今年十八歳だ。私が生まれた年に、私専属のメイドとして雇われた。つまり十四歳で働き始めたのだ。彼女の生い立ちについて、深く尋ねたことは無い。だが、話の端々から推測すると、彼女は貧しい村の生まれで、奴隷として売られ、職業奴隷としての教育を受けたようだ。まあ、それ以上は知らなくていいけどね。私にとって母の次に身近で、とても忠実、有能なメイドだから、それでいい。
この街は〈アラクム〉という名で、この国〈ランハイム王国〉の南西にある大きな港街だ。この国で二番目に大きな交易港を持ち、商業で栄えているにぎやかな街だ。
「プラム、いつものおばちゃんの屋台で〈イチゴ飴〉買おうね」
「今日も買うのですか? あまり甘い物ばかり食べていると、虫歯になりますよ?」
「う~ん、一個だけ、お願い」
プラムは、私のいつものおねだりに、ふっと苦笑して頷いた。
「しかたないですね。分かりました。一個だけですよ?」
私は大喜びで、プラムの手を引きながら、公園の隅でイチゴやリンゴの飴を売っている屋台のお客の列に並んだ。
「あ、リーリエちゃんだ」
「こんにちは、フィーネちゃん」
列になっているのはほとんどが子どもたちだ。そのほとんどが顔見知りだが、数人先にいつも一緒に遊んでいる雑貨屋の女の子がいた。
「あそこのベンチで待っているね」
フィーネは先に飴を買って、そう言い残すと噴水の側のベンチへ駆けていった。
「こんにちは、おばちゃん。イチゴ飴、二つください」
「おや、リーリエお嬢ちゃん、いらっしゃい。はいよ、イチゴ飴二つね」
茶色の髪に白髪が混じり始めた屋台の女主人は、ニコニコしながら、干しイチゴを飴でくるんだものを二つ、紙袋に入れて手渡した。プラムが代金の銅貨四枚を払う。
「はい、プラムに一つ」
私がイチゴ飴を一つ取り出して差し出すと、いつものことなので、プラムは逆らわずそれを受け取った。
私はしばらくそのままじーっとプラムを見つめる。プラムは苦笑して小さなため息を吐くと、辺りをちらちらと見渡してから、素早く飴を口に放り込んだ。
私はそれを見て、にっこり微笑むと、友達が待つベンチへ走っていった。
♢♢♢
「もうすぐだね。楽しみだなあ」
フィーネは、二日前に遊んだ時と同じ話している。
「そうだね、あと三か月だね」
「どんな〈ジョブ〉をもらえるんだろう?」
フィーネが語っているのは、新春祭の日に同時におこなわれる「神命職受の儀」の話だ。この日、その年に五歳を迎える子どもたちが、王国全土にある神殿に集められ、この世界の主神であるパラスから神託として〈ジョブ〉が与えられる。
これは、その子どもが持って生まれたスキルや特性をもとに、将来においてもっとも適性であると神が判断した〈ジョブ=職業〉が告げられるのである。
もっとも、その子が将来、必ずその職業に就かなければならないという強制的なものではない。どんな職業を選ぶかの自由は保障されている。ただ、仮に〈ジョブ〉以外の職業を選んで、失敗した場合、かなり社会的な非難を受けることになる。「神に逆らうからそうなった」というレッテルが貼られ、その後の人生がかなり苦労を強いられることになるのだ。
だから、ほとんどの子どもたちは疑うことなく、与えられた〈ジョブ〉を自分の将来の仕事と決め、そのための努力をする。
後で聞いた話だが、実際には神託は降りていなくて、神父や司祭が、領主や権力者と相談して、その土地に必要なジョブが多くなるよう調整しながら告げているということだ。
それが真実かどうかは分からない。でも、確かにその可能性は高いと、後に思ったものだ。
「リーリエちゃんは、やっぱり魔法を使うジョブがいいの?」
「うん、そうだね。フィーネちゃんはお店の仕事がしたいのよね?」
「うん。できれば、お父さんと同じ〈商人〉がいいな」
ここまでは二日前と同じ流れだ。でも、この後フィーネちゃんが気になることを言った。
「でもね、本当はおとうさんはね、鍛冶屋さんになったほうがよかったんだって」
「ふうん、どうして?」
「えっとねぇ、お父さんのスキルが、〈きんぞくかこお?〉っていうんだって。それって、鍛冶屋さんが持ってるスキルらしいの。でも、五歳の時、神様から〈商人〉のジョブをもらったから、商人になったって、お父さんが言ってた……」
へえ、そんなことってあるんだ……って、待てよ。それっておかしくない? だって、スキルも神様がその人に与えた能力でしょう? それなのに、その能力に〝合っていない〟ジョブを神様が与えるものなの?
この時からだったかもしれない。私は、なんとなく教会とか偉い人たちが言うことややることに胡散臭さをかんじるようになったのは。
それから雪の季節が過ぎ去り、空が明るくなって、暖かい風が窓から入ってくるようになった。広場には賑やかな物売りの声が聞こえ、小鳥たちも元気にさえずりながら空を飛んでいく。春が来たのだ。
そして、今日は三月一日、いよいよ今年五歳を迎える子どもたちが、教会に集まって〈ジョブ〉を授かる《神命職受の儀》が行われる日だ。ちなみに、このランハイム王国で主に信仰されているのは〈天空の神パラス〉という神様らしい。
私は、もちろん〈運命の女神ラミシス〉様一筋だ。毎晩、寝る前にお祈りしてるくらいだからね。
「どお、プラム? 私の可愛い天使ちゃんは、お着替え終わったの?」
ドアの外から、お母さんのうきうきした声が聞こえてくる。
「はい、奥様、ちょうど今終わったところです」
プラムの返事と同時に、ドアが勢いよく開かれ、晴れ着に身を包んだ美男美女カップルが飛び込んできた。
「きゃあ、もう、可愛いいっ! レビー、見て、見て、うちの天使ちゃんの可愛さったらもう……」
「おおおっ! 天使だっ、まさに天使だぞ、リーリエ!」
まあ、いつもの親バカ、絶賛発動中です……。
あ、ちなみに私の容姿ですが、イケメンと美女の子どもだからね、そりゃあ、まあ、醜くなりようがないわけで、自分で言うのもアレですが、超絶美少女です、はい。
透き通るような色白の肌、健康的な薄ピンクの頬、髪は銀色に近い金髪(遠くからは薄いピンクに見えるらしい)で緩やかなウェーブがかかっている。瞳の色は、両親の血が半分ずつ出たようで、灰青色にわずかに茶色が混じった不思議な色だ。
前世の自分の顔も、愛嬌があって好きだったけど、今世の私に比べると……いいえ、決して自慢とかじゃないわよ、自慢……なんだけどね、ほら、まだ四歳だし、これからどうなるか分からないじゃない? 間延びした、鼻の長い、魔法使いのお婆さんみたいにならないとも限らないし……(みじんも思っていません)ごめんなさい。
そんなわけで、私たち浮かれ親子は、街ゆく人たちの注目を浴びながら、教会へと向かったのだった。
プラムは今年十八歳だ。私が生まれた年に、私専属のメイドとして雇われた。つまり十四歳で働き始めたのだ。彼女の生い立ちについて、深く尋ねたことは無い。だが、話の端々から推測すると、彼女は貧しい村の生まれで、奴隷として売られ、職業奴隷としての教育を受けたようだ。まあ、それ以上は知らなくていいけどね。私にとって母の次に身近で、とても忠実、有能なメイドだから、それでいい。
この街は〈アラクム〉という名で、この国〈ランハイム王国〉の南西にある大きな港街だ。この国で二番目に大きな交易港を持ち、商業で栄えているにぎやかな街だ。
「プラム、いつものおばちゃんの屋台で〈イチゴ飴〉買おうね」
「今日も買うのですか? あまり甘い物ばかり食べていると、虫歯になりますよ?」
「う~ん、一個だけ、お願い」
プラムは、私のいつものおねだりに、ふっと苦笑して頷いた。
「しかたないですね。分かりました。一個だけですよ?」
私は大喜びで、プラムの手を引きながら、公園の隅でイチゴやリンゴの飴を売っている屋台のお客の列に並んだ。
「あ、リーリエちゃんだ」
「こんにちは、フィーネちゃん」
列になっているのはほとんどが子どもたちだ。そのほとんどが顔見知りだが、数人先にいつも一緒に遊んでいる雑貨屋の女の子がいた。
「あそこのベンチで待っているね」
フィーネは先に飴を買って、そう言い残すと噴水の側のベンチへ駆けていった。
「こんにちは、おばちゃん。イチゴ飴、二つください」
「おや、リーリエお嬢ちゃん、いらっしゃい。はいよ、イチゴ飴二つね」
茶色の髪に白髪が混じり始めた屋台の女主人は、ニコニコしながら、干しイチゴを飴でくるんだものを二つ、紙袋に入れて手渡した。プラムが代金の銅貨四枚を払う。
「はい、プラムに一つ」
私がイチゴ飴を一つ取り出して差し出すと、いつものことなので、プラムは逆らわずそれを受け取った。
私はしばらくそのままじーっとプラムを見つめる。プラムは苦笑して小さなため息を吐くと、辺りをちらちらと見渡してから、素早く飴を口に放り込んだ。
私はそれを見て、にっこり微笑むと、友達が待つベンチへ走っていった。
♢♢♢
「もうすぐだね。楽しみだなあ」
フィーネは、二日前に遊んだ時と同じ話している。
「そうだね、あと三か月だね」
「どんな〈ジョブ〉をもらえるんだろう?」
フィーネが語っているのは、新春祭の日に同時におこなわれる「神命職受の儀」の話だ。この日、その年に五歳を迎える子どもたちが、王国全土にある神殿に集められ、この世界の主神であるパラスから神託として〈ジョブ〉が与えられる。
これは、その子どもが持って生まれたスキルや特性をもとに、将来においてもっとも適性であると神が判断した〈ジョブ=職業〉が告げられるのである。
もっとも、その子が将来、必ずその職業に就かなければならないという強制的なものではない。どんな職業を選ぶかの自由は保障されている。ただ、仮に〈ジョブ〉以外の職業を選んで、失敗した場合、かなり社会的な非難を受けることになる。「神に逆らうからそうなった」というレッテルが貼られ、その後の人生がかなり苦労を強いられることになるのだ。
だから、ほとんどの子どもたちは疑うことなく、与えられた〈ジョブ〉を自分の将来の仕事と決め、そのための努力をする。
後で聞いた話だが、実際には神託は降りていなくて、神父や司祭が、領主や権力者と相談して、その土地に必要なジョブが多くなるよう調整しながら告げているということだ。
それが真実かどうかは分からない。でも、確かにその可能性は高いと、後に思ったものだ。
「リーリエちゃんは、やっぱり魔法を使うジョブがいいの?」
「うん、そうだね。フィーネちゃんはお店の仕事がしたいのよね?」
「うん。できれば、お父さんと同じ〈商人〉がいいな」
ここまでは二日前と同じ流れだ。でも、この後フィーネちゃんが気になることを言った。
「でもね、本当はおとうさんはね、鍛冶屋さんになったほうがよかったんだって」
「ふうん、どうして?」
「えっとねぇ、お父さんのスキルが、〈きんぞくかこお?〉っていうんだって。それって、鍛冶屋さんが持ってるスキルらしいの。でも、五歳の時、神様から〈商人〉のジョブをもらったから、商人になったって、お父さんが言ってた……」
へえ、そんなことってあるんだ……って、待てよ。それっておかしくない? だって、スキルも神様がその人に与えた能力でしょう? それなのに、その能力に〝合っていない〟ジョブを神様が与えるものなの?
この時からだったかもしれない。私は、なんとなく教会とか偉い人たちが言うことややることに胡散臭さをかんじるようになったのは。
それから雪の季節が過ぎ去り、空が明るくなって、暖かい風が窓から入ってくるようになった。広場には賑やかな物売りの声が聞こえ、小鳥たちも元気にさえずりながら空を飛んでいく。春が来たのだ。
そして、今日は三月一日、いよいよ今年五歳を迎える子どもたちが、教会に集まって〈ジョブ〉を授かる《神命職受の儀》が行われる日だ。ちなみに、このランハイム王国で主に信仰されているのは〈天空の神パラス〉という神様らしい。
私は、もちろん〈運命の女神ラミシス〉様一筋だ。毎晩、寝る前にお祈りしてるくらいだからね。
「どお、プラム? 私の可愛い天使ちゃんは、お着替え終わったの?」
ドアの外から、お母さんのうきうきした声が聞こえてくる。
「はい、奥様、ちょうど今終わったところです」
プラムの返事と同時に、ドアが勢いよく開かれ、晴れ着に身を包んだ美男美女カップルが飛び込んできた。
「きゃあ、もう、可愛いいっ! レビー、見て、見て、うちの天使ちゃんの可愛さったらもう……」
「おおおっ! 天使だっ、まさに天使だぞ、リーリエ!」
まあ、いつもの親バカ、絶賛発動中です……。
あ、ちなみに私の容姿ですが、イケメンと美女の子どもだからね、そりゃあ、まあ、醜くなりようがないわけで、自分で言うのもアレですが、超絶美少女です、はい。
透き通るような色白の肌、健康的な薄ピンクの頬、髪は銀色に近い金髪(遠くからは薄いピンクに見えるらしい)で緩やかなウェーブがかかっている。瞳の色は、両親の血が半分ずつ出たようで、灰青色にわずかに茶色が混じった不思議な色だ。
前世の自分の顔も、愛嬌があって好きだったけど、今世の私に比べると……いいえ、決して自慢とかじゃないわよ、自慢……なんだけどね、ほら、まだ四歳だし、これからどうなるか分からないじゃない? 間延びした、鼻の長い、魔法使いのお婆さんみたいにならないとも限らないし……(みじんも思っていません)ごめんなさい。
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