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それであなたは、どうするの?
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「で、あなたはどうなさるのかしら?」
皇女に声をかけられて、当事者なのに今まで蚊帳の外に置かれていたリリアンは皇女たちに一歩近づきました。
「私…は…」
彼女の身体は震えています。
突然の状況についていけないのでしょうか。無理もない話です。
リリアンはチラリと王子を見ました。
王子は気まずげに目を逸らしました。
でっち上げを信じて婚約者を糾弾したのだから当然でしょう。しかも婚約破棄まで宣言してしまいましたから。
その態度に、リリアンは何かを決意したように頷いて皇女をしっかりと見つめました。
「私はお父様にこの件をご報告して、今後のことを話し合いたいと思います」
皇女は鷹揚に頷きました。
「そうね。それがいいでしょう」
そこに王子が躊躇いがちに割って入りました。
「待ってくれ、リリアン。今回のことは私が悪かった。しかしーー」
今回のことを侯爵に報告されては困るのです。それはそのまま王の耳に入ることを意味しますから。
これがリリアンが悪でメアリが被害者。という単純な構図なら別に良かったのです。
王子は身分にこだわらず虐げられていた少女を守った、という美談になりましたから。
けれど今や王子は、女の嘘にコロッと騙されて婚約破棄まで宣言した大マヌケです。
ギャラリーは結構いるので完全に押さえ込むことはできませんが、口止めすれば噂程度で済みます。
けれどリリアンの口から侯爵に報告されてしまうとーー
「殿下の言うことは、聞かなくていいわよ?」
皇女が艶やかに笑いました。
「あなたのことは前から気に入っていたの。この国に居づらくなるようなら、私の国へいらっしゃい。守って差し上げるわ。それに私の従兄弟辺りが、きっとあなたのことを気に入ると思うのよ」
クスクスと笑う皇女は、とても楽しげです。
「婚約者であるあなたの弁解一つまともに聞かずに婚約を破棄した相手に、未練などないでしょう?」
皇女がリリアンに向かって、そのほっそりとした手を差し伸べます。
リリアンは躊躇いがちにその手を取ろうとしました。
そこに王子が手を伸ばしてリリアンの腕をつかもうとしましたが、皇女の護衛が身体を割り込ませて阻止しました。
「何の真似だ!?」
王子が怒気も露わに立ち塞がる護衛を睨みつけます。
「いい判断だわ。ラーク」
けれど皇女の言葉に後押しされた護衛は、その場を動きません。
「参考までにお伺いするけれど、いったいリリアンにどうしろと言うつもりなのかしら?」
「それは…あなたには関係のないことだ」
王子は気まずげに言いよどみました。
「関係ありますわ。それとも人前では言えないような要求なのかしら?」
「っ!婚約者と関係のやり直しを図って何が悪い!」
「リリアン、あなた彼との関係を続けるつもりはあるの?」
リリアンは静かに、しかしきっぱりと首を横に振りました。
「いいえ。今回のことで、私は殿下に全く信用されていないことがわかりましたから。もし殿下と結婚して、殿下の側妃や妾となった女性がメアリさんと同じことをした場合、やはり殿下はその方を無条件に信じるのでしょう」
そこで辛そうにため息を吐き
「もしその方が懐妊されていた場合、殿下のお子に危害を加えようとしたとの冤罪で処刑されてもおかしくありません」
そして王子を真っ直ぐに見ました。
「そこまでの危険を冒してまで、愛しても信頼してもいただけない方と婚姻を結ぶ気にはなれません」
王子は言葉をなくして黙り込みました。
反論の余地がありません。
いえ。皇女さえこの場にいなければ、王子という立場を利用して強引にリリアンを従えることが出来たかもしれません。
しかしここには皇女とその護衛がいます。無理を通そうとすれば自分の護衛を動かさねばならず、そうなったら皇女への加害行為と見なされ皇国との戦争待ったなしです。
こんな理由でそんなことが出来る訳もありません。
重い空気の中、皇女だけが朗らかに微笑みました。
「では決まりね。リリアン、私の屋敷へいらっしゃい。今後のことを話し合いましょう」
皇女はリリアンと護衛を連れて、颯爽とその場を去っていきました。
皇女に声をかけられて、当事者なのに今まで蚊帳の外に置かれていたリリアンは皇女たちに一歩近づきました。
「私…は…」
彼女の身体は震えています。
突然の状況についていけないのでしょうか。無理もない話です。
リリアンはチラリと王子を見ました。
王子は気まずげに目を逸らしました。
でっち上げを信じて婚約者を糾弾したのだから当然でしょう。しかも婚約破棄まで宣言してしまいましたから。
その態度に、リリアンは何かを決意したように頷いて皇女をしっかりと見つめました。
「私はお父様にこの件をご報告して、今後のことを話し合いたいと思います」
皇女は鷹揚に頷きました。
「そうね。それがいいでしょう」
そこに王子が躊躇いがちに割って入りました。
「待ってくれ、リリアン。今回のことは私が悪かった。しかしーー」
今回のことを侯爵に報告されては困るのです。それはそのまま王の耳に入ることを意味しますから。
これがリリアンが悪でメアリが被害者。という単純な構図なら別に良かったのです。
王子は身分にこだわらず虐げられていた少女を守った、という美談になりましたから。
けれど今や王子は、女の嘘にコロッと騙されて婚約破棄まで宣言した大マヌケです。
ギャラリーは結構いるので完全に押さえ込むことはできませんが、口止めすれば噂程度で済みます。
けれどリリアンの口から侯爵に報告されてしまうとーー
「殿下の言うことは、聞かなくていいわよ?」
皇女が艶やかに笑いました。
「あなたのことは前から気に入っていたの。この国に居づらくなるようなら、私の国へいらっしゃい。守って差し上げるわ。それに私の従兄弟辺りが、きっとあなたのことを気に入ると思うのよ」
クスクスと笑う皇女は、とても楽しげです。
「婚約者であるあなたの弁解一つまともに聞かずに婚約を破棄した相手に、未練などないでしょう?」
皇女がリリアンに向かって、そのほっそりとした手を差し伸べます。
リリアンは躊躇いがちにその手を取ろうとしました。
そこに王子が手を伸ばしてリリアンの腕をつかもうとしましたが、皇女の護衛が身体を割り込ませて阻止しました。
「何の真似だ!?」
王子が怒気も露わに立ち塞がる護衛を睨みつけます。
「いい判断だわ。ラーク」
けれど皇女の言葉に後押しされた護衛は、その場を動きません。
「参考までにお伺いするけれど、いったいリリアンにどうしろと言うつもりなのかしら?」
「それは…あなたには関係のないことだ」
王子は気まずげに言いよどみました。
「関係ありますわ。それとも人前では言えないような要求なのかしら?」
「っ!婚約者と関係のやり直しを図って何が悪い!」
「リリアン、あなた彼との関係を続けるつもりはあるの?」
リリアンは静かに、しかしきっぱりと首を横に振りました。
「いいえ。今回のことで、私は殿下に全く信用されていないことがわかりましたから。もし殿下と結婚して、殿下の側妃や妾となった女性がメアリさんと同じことをした場合、やはり殿下はその方を無条件に信じるのでしょう」
そこで辛そうにため息を吐き
「もしその方が懐妊されていた場合、殿下のお子に危害を加えようとしたとの冤罪で処刑されてもおかしくありません」
そして王子を真っ直ぐに見ました。
「そこまでの危険を冒してまで、愛しても信頼してもいただけない方と婚姻を結ぶ気にはなれません」
王子は言葉をなくして黙り込みました。
反論の余地がありません。
いえ。皇女さえこの場にいなければ、王子という立場を利用して強引にリリアンを従えることが出来たかもしれません。
しかしここには皇女とその護衛がいます。無理を通そうとすれば自分の護衛を動かさねばならず、そうなったら皇女への加害行為と見なされ皇国との戦争待ったなしです。
こんな理由でそんなことが出来る訳もありません。
重い空気の中、皇女だけが朗らかに微笑みました。
「では決まりね。リリアン、私の屋敷へいらっしゃい。今後のことを話し合いましょう」
皇女はリリアンと護衛を連れて、颯爽とその場を去っていきました。
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