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33.新たな時代
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闇が過ぎ去ったエリオット王国は悪夢から覚めたかのように息を吹き返した。血と狂気に染まった玉座から王太子だった男が引きずり降ろされた後、私、フィーナ・セレスティアの本当の戦いが始まった。
「ここからが始まりよ」
ロイエルにそう告げたあの日から、私たちは息つく間もなく動いた。
まずは混乱の極みにあった王都の治安を回復させ、飢えた民には食料を、病の者には薬を配給した。人々の顔に少しずつ安堵の色が戻っていく。破壊されたインフラは皇国の技術支援のもと、急ピッチで修復されていった。
新たな王には我がグリゼルダの息のかかった者を据え、盤石な統治体制を築き上げた。聡明で民を思う心を持つ新しい王の下、エリオット王国は復興への道を着実に歩んでいる。
元皇太子たるアッシュ・エリオットはといえば、グリゼルダ皇国と新王国が共同で開いた公正な法廷の場で裁かれた。
彼は法廷でもなお自らを悲劇の王だと叫び、私や亡きイリスを罵り、最後には意味不明な歌をうたいながら笑い続けたという。
当然のごとく終身刑が言い渡された。二度と日の光を浴びることのない、王都の地下深くにある特別監獄が彼の新たな玉座。これから生涯滅びた国の王として、終わらない幻影の祝宴を独りで続けるのだろう。憐れな道化の末路だった。
そして最大の懸案――『国家護持結界』の管理。
あの巨大な魔術装置は私の発案によって新たな運用方法が確立された。
グリゼルダ皇国から最高位の魔術師たちを招聘し、結界の構造を解析させた結果、外部から安定した魔力を供給し続ければ正常に機能するという結論に至った。
その供給源として私が選んだのは『グランフェルド』だった。
大地から清浄な魔力が尽きることなく湧き出る、世界でも類を見ないかの聖地。そのグランフェルドの潤沢な魔力の一部を利用することにしたのだ。
グランフェルドには魔力転送施設と、供給量を精密に測るための制御塔を建設された。大地から汲み上げられる魔力は自然の摂理を乱すことなく、安全に運用される。
拡張された結界の傘下にはグリゼルダ皇国も入り、二国間にまたがる広大な防衛網の誕生は永きにわたる平和の礎となるはずだ。
すべての体制が整い、ようやく私の心にも平穏が訪れたある晴れた日。
私は王都の墓地を訪れていた。
護衛としてロイエルが少し離れた場所から静かに見守ってくれている。
私の手には小さな白木の箱があった。
中に入っているのは地下で白骨と化していたイリスの遺骨。
セレスティア家の墓地の一角にイリスのための場所を用意した。
記憶がふとよみがえる。
幼い頃、私を「お姉様」と慕ってくれた愛らしい笑顔。
いつしか私を見下すようになった冷たい目。
聖女として祭り上げられた姿。
最後に血文字で遺された怨嗟の叫び。
「……イリス」
骨を納めながら語りかける。
「もう誰かの期待に応える必要も、かつての王家や私のことを気にする必要もないのだから。安らかにお眠りなさい」
墓石に刻む名前に「聖女」の称号は入れさせなかった。
ただ「イリス・セレスティア」と。
立ち上がると、いつの間にか隣に来ていたロイエル殿下が私の肩にそっと自身のコートをかけてくれた。
過去のしがらみも、憎しみも、悲しみも、すべてここに埋めた。
「帰ろう、ロイエル。私たちの国へ」
「ああ。フィーナ」
彼は私の手を優しく取り、墓地を後にした。
過去はこの滅びかけたエリオット王国にある。
そして未来は――――私を信じ、私を必要としてくれる人々がいるグリゼルダ皇国にある。
「ここからが始まりよ」
ロイエルにそう告げたあの日から、私たちは息つく間もなく動いた。
まずは混乱の極みにあった王都の治安を回復させ、飢えた民には食料を、病の者には薬を配給した。人々の顔に少しずつ安堵の色が戻っていく。破壊されたインフラは皇国の技術支援のもと、急ピッチで修復されていった。
新たな王には我がグリゼルダの息のかかった者を据え、盤石な統治体制を築き上げた。聡明で民を思う心を持つ新しい王の下、エリオット王国は復興への道を着実に歩んでいる。
元皇太子たるアッシュ・エリオットはといえば、グリゼルダ皇国と新王国が共同で開いた公正な法廷の場で裁かれた。
彼は法廷でもなお自らを悲劇の王だと叫び、私や亡きイリスを罵り、最後には意味不明な歌をうたいながら笑い続けたという。
当然のごとく終身刑が言い渡された。二度と日の光を浴びることのない、王都の地下深くにある特別監獄が彼の新たな玉座。これから生涯滅びた国の王として、終わらない幻影の祝宴を独りで続けるのだろう。憐れな道化の末路だった。
そして最大の懸案――『国家護持結界』の管理。
あの巨大な魔術装置は私の発案によって新たな運用方法が確立された。
グリゼルダ皇国から最高位の魔術師たちを招聘し、結界の構造を解析させた結果、外部から安定した魔力を供給し続ければ正常に機能するという結論に至った。
その供給源として私が選んだのは『グランフェルド』だった。
大地から清浄な魔力が尽きることなく湧き出る、世界でも類を見ないかの聖地。そのグランフェルドの潤沢な魔力の一部を利用することにしたのだ。
グランフェルドには魔力転送施設と、供給量を精密に測るための制御塔を建設された。大地から汲み上げられる魔力は自然の摂理を乱すことなく、安全に運用される。
拡張された結界の傘下にはグリゼルダ皇国も入り、二国間にまたがる広大な防衛網の誕生は永きにわたる平和の礎となるはずだ。
すべての体制が整い、ようやく私の心にも平穏が訪れたある晴れた日。
私は王都の墓地を訪れていた。
護衛としてロイエルが少し離れた場所から静かに見守ってくれている。
私の手には小さな白木の箱があった。
中に入っているのは地下で白骨と化していたイリスの遺骨。
セレスティア家の墓地の一角にイリスのための場所を用意した。
記憶がふとよみがえる。
幼い頃、私を「お姉様」と慕ってくれた愛らしい笑顔。
いつしか私を見下すようになった冷たい目。
聖女として祭り上げられた姿。
最後に血文字で遺された怨嗟の叫び。
「……イリス」
骨を納めながら語りかける。
「もう誰かの期待に応える必要も、かつての王家や私のことを気にする必要もないのだから。安らかにお眠りなさい」
墓石に刻む名前に「聖女」の称号は入れさせなかった。
ただ「イリス・セレスティア」と。
立ち上がると、いつの間にか隣に来ていたロイエル殿下が私の肩にそっと自身のコートをかけてくれた。
過去のしがらみも、憎しみも、悲しみも、すべてここに埋めた。
「帰ろう、ロイエル。私たちの国へ」
「ああ。フィーナ」
彼は私の手を優しく取り、墓地を後にした。
過去はこの滅びかけたエリオット王国にある。
そして未来は――――私を信じ、私を必要としてくれる人々がいるグリゼルダ皇国にある。
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