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思い出の秘密基地で
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翌日、重い瞼をこじ開け、なんとか身支度を整えた。家族の前に姿を見せれば、当然のように夜会での出来事を問いただされる。リビングに下りると、父と母が明らかに浮かない顔でわたしを待っていた。
「リリーナ、話がある」
父の声にいつもの落ち着きはなかった。部屋に入ると、父は居心地悪そうにソファから腰を上げる。母もいつもと様子が違う。
「昨夜の……ことだ。耳に入っている。アランとの婚約は解消と……そういうことで間違いないのだな?」
こくりと小さくうなずく。アランの父君である子爵とは父も母も旧知の間柄だ。この突然の破談はわたし以上に二人にとって衝撃であることを察する。
「どうしてだ? あんなにも仲睦まじかったお前たちの間に、何があったというんだ……?」
「……わたしにもよくわからないの。彼は家格の違いを口にしていたけど……正直納得できないわ。……彼の意志は固そうだった」
父は困惑し、母は悲しげに首を振る。
「まさかこんな形で終わるなんて……デラクロウ家との関係も今後微妙になるかもしれないわね。でも今は何よりあなたが気の毒で仕方がないわ」
母はそう言ってわたしを抱きしめようとするけれど、そっと身を引く。今、誰かの温もりに触れたら心が崩れ落ちてしまいそうだった。
「大丈夫よ、お母様。わたしは平気。少し立ち直るのに時間がいるかもしれないけど、伯爵令嬢としての務めは果たす。心配しないで」
精一杯の虚勢だった。父と母はわたしの痩せ我慢を見抜いているのだろう、痛ましげな表情で黙って頷いた。
「そうか……お前がそう言うなら尊重する。何か辛いことがあれば、一人で抱え込まず遠慮なく話すんだぞ。家族はお前の味方だからな」
父を真っ直ぐに見つめ返す。本当は一晩中泣いて過ごしたい気分だけど、家族にこれ以上負担をかけても仕方ない。
わたしは部屋を出て執務室へ向かった。そこには領地の管理報告、慈善事業の成果報告、来週の行事の準備書類などがわたしの心を映すかのように乱雑に積み重なっている。
普段ならこのデスクに向かいながら、アランは今頃何してるのかな、なんて考えたりするのが当たり前の日常だった。もうそんな甘やかな時間さえ、苦い棘のように感じられる。
「いけない、何でもいいから、やることを探さなくちゃ。辛いことを考える隙も与えないくらいに……」
強引に気持ちを切り替えるため、机の上の書類を片っ端から手に取った。けれど、文章は右から左へと滑り落ち、まったく頭に入ってこない。いつもなら淡々と処理できるはずの数字や報告が、今日は難解な暗号のよう。
執務室にこもって数時間。結局、業務ははかどることなく、ぐったりと疲れ切った。
「……何をやってるんだろう、わたし」
思わずぽつりと呟く。時間だけが過ぎていくのに、頭の中は昨夜のことがぐるぐる回って何も手につかない。現実から逃れることも、向き合うこともできずにいた。
「リリーナ、話がある」
父の声にいつもの落ち着きはなかった。部屋に入ると、父は居心地悪そうにソファから腰を上げる。母もいつもと様子が違う。
「昨夜の……ことだ。耳に入っている。アランとの婚約は解消と……そういうことで間違いないのだな?」
こくりと小さくうなずく。アランの父君である子爵とは父も母も旧知の間柄だ。この突然の破談はわたし以上に二人にとって衝撃であることを察する。
「どうしてだ? あんなにも仲睦まじかったお前たちの間に、何があったというんだ……?」
「……わたしにもよくわからないの。彼は家格の違いを口にしていたけど……正直納得できないわ。……彼の意志は固そうだった」
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母はそう言ってわたしを抱きしめようとするけれど、そっと身を引く。今、誰かの温もりに触れたら心が崩れ落ちてしまいそうだった。
「大丈夫よ、お母様。わたしは平気。少し立ち直るのに時間がいるかもしれないけど、伯爵令嬢としての務めは果たす。心配しないで」
精一杯の虚勢だった。父と母はわたしの痩せ我慢を見抜いているのだろう、痛ましげな表情で黙って頷いた。
「そうか……お前がそう言うなら尊重する。何か辛いことがあれば、一人で抱え込まず遠慮なく話すんだぞ。家族はお前の味方だからな」
父を真っ直ぐに見つめ返す。本当は一晩中泣いて過ごしたい気分だけど、家族にこれ以上負担をかけても仕方ない。
わたしは部屋を出て執務室へ向かった。そこには領地の管理報告、慈善事業の成果報告、来週の行事の準備書類などがわたしの心を映すかのように乱雑に積み重なっている。
普段ならこのデスクに向かいながら、アランは今頃何してるのかな、なんて考えたりするのが当たり前の日常だった。もうそんな甘やかな時間さえ、苦い棘のように感じられる。
「いけない、何でもいいから、やることを探さなくちゃ。辛いことを考える隙も与えないくらいに……」
強引に気持ちを切り替えるため、机の上の書類を片っ端から手に取った。けれど、文章は右から左へと滑り落ち、まったく頭に入ってこない。いつもなら淡々と処理できるはずの数字や報告が、今日は難解な暗号のよう。
執務室にこもって数時間。結局、業務ははかどることなく、ぐったりと疲れ切った。
「……何をやってるんだろう、わたし」
思わずぽつりと呟く。時間だけが過ぎていくのに、頭の中は昨夜のことがぐるぐる回って何も手につかない。現実から逃れることも、向き合うこともできずにいた。
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