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終幕の結婚式
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「リリーナ!? 正気なの? あなたを裏切った男と、あなたから全てを奪った女の結婚式に行くなんて!」
「ええ、正気よ。これは挑発だわ。ならば受けて立たないわけにはいかないでしょう? 敢えてその挑発に乗ってあげるの」
無理やり笑って見せる。その微笑みが痛々しいことを自分でも理解していた。
「だってあんなひどい仕打ちをされたのよ! リリーナは何一つ悪くないのに!」
ビアンカはやり場のない憤りからこぶしを握りしめる。
「もし本当に行く気なら、わたしも一緒に付いていくわ。一人でなんて行かせられないもの」
「ビアンカ……」
彼女のまっすぐな友情に思わず胸の奥が熱くなった。けれどこれは――
「ありがとう。ビアンカの言葉にどれだけ救われてきたか……。でも、これはわたし一人の問題。あなたまで巻き込むわけにはいかないわ」
「なに水臭いことを言うの! あなたが苦しんでいるのに黙って見ていられるわけないじゃない! それにもしものことがあったら……」
「大丈夫よ。もうこれ以上、傷つく心なんて残っていないかもしれないし」
無理に明るい声を出した。
「それにこれが本当に最後。この結婚式を見届けることで、シュロトへの想いを……過去を完全に終わらせるの。けじめをつけたい。この目で彼らの『幸せ』を見て、そして……この想いに完全に終止符を打つのよ。もう二度と、彼のことを思い出して苦しむことのないように」
ビアンカはなおも食い下がろうとしたが、固い決意を感じ取ったのか、最終的には納得してくれた。
「……わかったわ、リリーナ。でもお願いだから、何かあったらすぐに知らせて。いつでも駆けつけるから」
「ええ、ありがとう、ビアンカ。あなたがいてくれてすごく心強い」
この招待状はきっとわたしに課せられた最後の試練。シュロトがわたしにした仕打ちの全てを、彼の幸せそうな姿を目に焼き付けて、このかなわぬ恋慕の情を根絶やしにするために――。
---
結婚式当日。ただまっすぐに大聖堂へと向かった。街は祝福ムードに包まれているというのに、心は冷え切っていた。招待状を握りしめ、中へ足を踏み入れた。
普段は静寂に包まれ、人々の祈りを受け止めるこの聖なる場所が今日は別世界のように彩られている。床には緋色のバージンロードがまっすぐに続いており、祭壇の周囲には豪華絢爛な花々が飾られている。奥には巨大な黄金の十字架が掲げられ、その背後に広がる壁一面のステンドグラスには、殉教者たちの苦難と救済の物語が神々しく繊細に描かれている。
堂内はすでに多くの貴族たちで埋め尽くされていた。侯爵家の縁組とあって、国中の名士が一堂に会しているのだろう。わたしが姿を現すと空気がぴんと張りつめ、目に見えぬ、決して好意的とは言えない視線が一斉に集まるのが分かった。
晩餐会の悪夢が鮮明に蘇り、反射的に身が強張った。が――口を引き結び、背筋を伸ばす。わたしは伯爵家令嬢リリーナ・スフレ。どんな視線にも屈するものか。わたしはただ見届けに来ただけなのだから。
席に着くと、周囲のざわめきが一層大きくなった気がした。それはわたしに対するだけではない。囁き交わされる声の端々からは、シュロトとルネアの性急な結婚に対する戸惑いや、あからさまな疑念が渦巻いているのが感じられた。
侯爵家の威光をもってしても、社交界では純粋な祝福というよりもむしろスキャンダラス――。今日のこの華やかな場にもどこか祝儀とは言い切れない、ぎこちなく探るような空気が漂っている。
当のわたしは――もう引き返すつもりはない。深呼吸をし、固く目を閉じる。そして再び目を開けた時、心は不思議なほど静まり返っていた。覚悟を決めた人間の、ある種の諦観にも似た落ち着きだったのかもしれない。
やがてパイプオルガンの荘厳な音色が高い天井へと響き渡った。重々しく緊張感のある旋律。大聖堂の重厚な扉がゆっくりと時間をかけて開かれてゆく。その先に――新郎、シュロトが姿を現した。
「ええ、正気よ。これは挑発だわ。ならば受けて立たないわけにはいかないでしょう? 敢えてその挑発に乗ってあげるの」
無理やり笑って見せる。その微笑みが痛々しいことを自分でも理解していた。
「だってあんなひどい仕打ちをされたのよ! リリーナは何一つ悪くないのに!」
ビアンカはやり場のない憤りからこぶしを握りしめる。
「もし本当に行く気なら、わたしも一緒に付いていくわ。一人でなんて行かせられないもの」
「ビアンカ……」
彼女のまっすぐな友情に思わず胸の奥が熱くなった。けれどこれは――
「ありがとう。ビアンカの言葉にどれだけ救われてきたか……。でも、これはわたし一人の問題。あなたまで巻き込むわけにはいかないわ」
「なに水臭いことを言うの! あなたが苦しんでいるのに黙って見ていられるわけないじゃない! それにもしものことがあったら……」
「大丈夫よ。もうこれ以上、傷つく心なんて残っていないかもしれないし」
無理に明るい声を出した。
「それにこれが本当に最後。この結婚式を見届けることで、シュロトへの想いを……過去を完全に終わらせるの。けじめをつけたい。この目で彼らの『幸せ』を見て、そして……この想いに完全に終止符を打つのよ。もう二度と、彼のことを思い出して苦しむことのないように」
ビアンカはなおも食い下がろうとしたが、固い決意を感じ取ったのか、最終的には納得してくれた。
「……わかったわ、リリーナ。でもお願いだから、何かあったらすぐに知らせて。いつでも駆けつけるから」
「ええ、ありがとう、ビアンカ。あなたがいてくれてすごく心強い」
この招待状はきっとわたしに課せられた最後の試練。シュロトがわたしにした仕打ちの全てを、彼の幸せそうな姿を目に焼き付けて、このかなわぬ恋慕の情を根絶やしにするために――。
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結婚式当日。ただまっすぐに大聖堂へと向かった。街は祝福ムードに包まれているというのに、心は冷え切っていた。招待状を握りしめ、中へ足を踏み入れた。
普段は静寂に包まれ、人々の祈りを受け止めるこの聖なる場所が今日は別世界のように彩られている。床には緋色のバージンロードがまっすぐに続いており、祭壇の周囲には豪華絢爛な花々が飾られている。奥には巨大な黄金の十字架が掲げられ、その背後に広がる壁一面のステンドグラスには、殉教者たちの苦難と救済の物語が神々しく繊細に描かれている。
堂内はすでに多くの貴族たちで埋め尽くされていた。侯爵家の縁組とあって、国中の名士が一堂に会しているのだろう。わたしが姿を現すと空気がぴんと張りつめ、目に見えぬ、決して好意的とは言えない視線が一斉に集まるのが分かった。
晩餐会の悪夢が鮮明に蘇り、反射的に身が強張った。が――口を引き結び、背筋を伸ばす。わたしは伯爵家令嬢リリーナ・スフレ。どんな視線にも屈するものか。わたしはただ見届けに来ただけなのだから。
席に着くと、周囲のざわめきが一層大きくなった気がした。それはわたしに対するだけではない。囁き交わされる声の端々からは、シュロトとルネアの性急な結婚に対する戸惑いや、あからさまな疑念が渦巻いているのが感じられた。
侯爵家の威光をもってしても、社交界では純粋な祝福というよりもむしろスキャンダラス――。今日のこの華やかな場にもどこか祝儀とは言い切れない、ぎこちなく探るような空気が漂っている。
当のわたしは――もう引き返すつもりはない。深呼吸をし、固く目を閉じる。そして再び目を開けた時、心は不思議なほど静まり返っていた。覚悟を決めた人間の、ある種の諦観にも似た落ち着きだったのかもしれない。
やがてパイプオルガンの荘厳な音色が高い天井へと響き渡った。重々しく緊張感のある旋律。大聖堂の重厚な扉がゆっくりと時間をかけて開かれてゆく。その先に――新郎、シュロトが姿を現した。
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