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57.市民からのアイデア
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翌日、私の指示は市全域へと布告された。市庁舎前の広場に巨大な掲示板が設置され、そこにはこう書かれた。
『アトランシア市民の皆様へ。私たちの『アトラ・ワークス』をより良くするためのアイデアを募集します。専門知識は不要です。あなたが思う「もっとこうだったらいいな」を教えてください! 市長 ルティア・ヴェルフェン』
「なんのご冗談か! 魔導工学の専門家が束になっても解けぬ難問を素人に解けるはずが……!」
ダビデが反論するが、私は静かに首を振った。
「だからこそなの。専門知識という『常識』が、かえって皆さんの視野を狭めているのかもしれない。私たちが欲しいのは突拍子もない、魔法を知らないからこそ生まれる自由な発想。この街は市民一人ひとりの手で創られてきたのだから」
翌日から市庁舎には予想を遥かに超える数の投書が届き始めた。
「『鉄に果汁を混ぜてはどうか』、『祈りを込めて叩けば直る』……。どいつもこいつも好き勝手を書きおって。……じゃが、文面からみな本気で良くしたいという思いが伝わってくるのう」
ダビデはぶつくさと文句を漏らしながらも、一枚一枚丁寧に目を通した。ある一枚の紙でふと止まる。
「……『織物工房の老婆』からの提案? 『糸が絡まるのは無理に引っ張るからだ。よりをかければ糸は強く、素直になる。魔力も編み込んでやればいいのではないか』……だと?」
魔導工学の知識と老婆の生活の知恵が激しく火花を散らし、融合していく。
「……『編み込む』……そうか、抑制するのではない、循環させるのか!」
彼は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、黒板に猛烈な勢いで数式を書き殴り始めた。
「樹脂で魔力を『吸収』しようとするから飽和するのじゃ。だが、複数の魔導線を螺旋状に編み込み、魔力を『相殺』しつつ循環させれば……理論上、触媒など不要になる! いや、それどころか出力効率は跳ね上がるぞ!」
その叫びを皮切りに沈滞していた部屋の空気が劇的に変わった。
「運送者からの提案にあった『荷崩れしないロープの結び方』、あれは魔導回路の結節点に応用できそうです! きつく縛るより、遊びを持たせたほうが衝撃を吸収できるなんて!」
「おい、農家が書いた『棚田の原理』を見ろ! 魔力を一気に流すから暴走するんだ。階段状に段差をつけて圧を分散させれば、負荷を減らせるはず!」
専門家たちが陥っていた「常識」という名の迷路。その壁を打ち砕いたのは、毎日の生活を直感と工夫で生き抜く市民たちの、飾り気のない言葉。
「ダビデさん。これがアトランシアの力です」
「一本取られたわい。わしらの頭こそが一番固い錆びついた鉄屑じゃったというわけか!」
そこからの進展はまるで堰を切った激流のようだった。市民のアイデアを核に、技術者たちが理論で補強し、魔術師たちが命を吹き込む。
そして数日後の早朝。朝霧が晴れゆく開発室の中心で、一台の魔導具が静かな唸り声を上げていた。
「完成じゃ……。帝国製の模倣品はもちろん、かつての我々の製品すら過去にする樹脂不用の次世代型魔導具『アトラ・ワークスⅡ』!」
歓声が上がる中、私はこの街に住む人々の知恵と情熱が宿った魔導具に触れた。これが帝国の横暴に対する、アトランシア市民全員で掴み取った勝利の証――――。
「さあ、反撃を始めましょう。アトランシアの底力を世界中に見せつける時よ」
私の宣言に開発室の全員が力強く拳を突き上げた。
『アトランシア市民の皆様へ。私たちの『アトラ・ワークス』をより良くするためのアイデアを募集します。専門知識は不要です。あなたが思う「もっとこうだったらいいな」を教えてください! 市長 ルティア・ヴェルフェン』
「なんのご冗談か! 魔導工学の専門家が束になっても解けぬ難問を素人に解けるはずが……!」
ダビデが反論するが、私は静かに首を振った。
「だからこそなの。専門知識という『常識』が、かえって皆さんの視野を狭めているのかもしれない。私たちが欲しいのは突拍子もない、魔法を知らないからこそ生まれる自由な発想。この街は市民一人ひとりの手で創られてきたのだから」
翌日から市庁舎には予想を遥かに超える数の投書が届き始めた。
「『鉄に果汁を混ぜてはどうか』、『祈りを込めて叩けば直る』……。どいつもこいつも好き勝手を書きおって。……じゃが、文面からみな本気で良くしたいという思いが伝わってくるのう」
ダビデはぶつくさと文句を漏らしながらも、一枚一枚丁寧に目を通した。ある一枚の紙でふと止まる。
「……『織物工房の老婆』からの提案? 『糸が絡まるのは無理に引っ張るからだ。よりをかければ糸は強く、素直になる。魔力も編み込んでやればいいのではないか』……だと?」
魔導工学の知識と老婆の生活の知恵が激しく火花を散らし、融合していく。
「……『編み込む』……そうか、抑制するのではない、循環させるのか!」
彼は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、黒板に猛烈な勢いで数式を書き殴り始めた。
「樹脂で魔力を『吸収』しようとするから飽和するのじゃ。だが、複数の魔導線を螺旋状に編み込み、魔力を『相殺』しつつ循環させれば……理論上、触媒など不要になる! いや、それどころか出力効率は跳ね上がるぞ!」
その叫びを皮切りに沈滞していた部屋の空気が劇的に変わった。
「運送者からの提案にあった『荷崩れしないロープの結び方』、あれは魔導回路の結節点に応用できそうです! きつく縛るより、遊びを持たせたほうが衝撃を吸収できるなんて!」
「おい、農家が書いた『棚田の原理』を見ろ! 魔力を一気に流すから暴走するんだ。階段状に段差をつけて圧を分散させれば、負荷を減らせるはず!」
専門家たちが陥っていた「常識」という名の迷路。その壁を打ち砕いたのは、毎日の生活を直感と工夫で生き抜く市民たちの、飾り気のない言葉。
「ダビデさん。これがアトランシアの力です」
「一本取られたわい。わしらの頭こそが一番固い錆びついた鉄屑じゃったというわけか!」
そこからの進展はまるで堰を切った激流のようだった。市民のアイデアを核に、技術者たちが理論で補強し、魔術師たちが命を吹き込む。
そして数日後の早朝。朝霧が晴れゆく開発室の中心で、一台の魔導具が静かな唸り声を上げていた。
「完成じゃ……。帝国製の模倣品はもちろん、かつての我々の製品すら過去にする樹脂不用の次世代型魔導具『アトラ・ワークスⅡ』!」
歓声が上がる中、私はこの街に住む人々の知恵と情熱が宿った魔導具に触れた。これが帝国の横暴に対する、アトランシア市民全員で掴み取った勝利の証――――。
「さあ、反撃を始めましょう。アトランシアの底力を世界中に見せつける時よ」
私の宣言に開発室の全員が力強く拳を突き上げた。
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