婚約者を妹に奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

秋月乃衣

文字の大きさ
40 / 77
本編

勝敗とルール

しおりを挟む
「勝負だユリウス!」
「勝負勝負と相変わらず馬鹿の一つ覚えだなお前は。じゃあ僕が勝ったら一つ言うことを聞いて貰おうか」
「言うこと?」

 朝から元気でやかましいミハエルは、朝食を食べ終わると速攻でユリウスに絡み始めた。
 ミハエルはユリウスの提案に首を傾げる。

「そうだ、僕が勝ったら雪祭りの雪像大会に参加しろ、ミハエル」
「雪像?」
「雪を固めて作る像だ。ちゃんと『ソレイユ第三王子ミハイル作』と分かるようにデカデカと明記してやる。下手くそでマヌケな雪像を作って皆の笑い者になるがいい!」
「何故下手くそ前提なんだ、出場するからにはお前より素晴らしい雪像を作って見せる!」
「出場する気満々って、勝負には負ける前提ですか」
「あれ?」

 イルからのツッコミに、ミハエルは首を捻る。

「まぁいい、兎に角勝負するのだユリウスっ」

 ユリウスは「負けたら絶対に雪像コンテストへ参加してもらう」と念を押し、しつこいミハエルを庭園へと連れ立った。

 勝敗の見届け人も必要とのことで、ティアリーゼとイルも巻き込まれてしまった。

(何故このようなことに……、お二人とも怪我はされませんように)

 イルは楽しそうに見物しているが、ティアリーゼはハラハラと祈りながら二人を見守るしかない。

 イルの出した試合開始の合図と共に、ミハエルはさっそく魔法を詠唱し始めた。ミハエルが手を掲げる。次の瞬間、一瞬屈んだユリウスが何かを掴み、それをミハエルのオデコ目掛けて投げた。石だ。

「いたっ!」

 驚き額を抑えるミハエルに向かってユリウスは駆け出す。ミハイルの腹部にユリウスの拳がめり込んだ。

「まて、ごふっ……!?」

 腹部を抑えるミハエルが苦しげに呻く。

「げほっ……魔法を、ごほっ、使えっ」
「魔法?」
「肉弾戦ではなく魔法を使え、げほごほっ」
「何言ってる、お前戦場だったら死んでたぞ?」
「五月蝿い、私は魔法対決がしたいんだっ」
「先に言えよ」

 呆れ気味な視線を向けてくるユリウスに、ミハエルが反駁する。

「王宮でも魔法使いは魔法使いと、そして騎士は騎士同士で訓練するだろ?魔法使いと騎士は訓練しないんだよっ」
「王宮で暮らしてないんだから知らないよ」
「兎に角、仕切り直してお互い魔法での勝負だっ」

(何故でしょう、ミハイル殿下のおっしゃっていることは正論なのに、何故か駄々っ子に見えてくるのは……)

 ユリウスはユリウスでセコく感じるが、確かに戦場では生き延びそうなタイプだと、ティアリーゼはある意味納得した。

「では気を取り直して……イル、もう一度合図をくれ」

 イルの合図とともに、今度はユリウスが右腕を振り上げ、短く詠唱する。ユリウスの掌から出現した風が刃となって、頭上の枝を切断した。

 落下した枝を掴んだユリウスが、向かってきたミハエルに振り下ろす。繰り返し一方的に暴行を受けるミハエルから悲痛な声が上がる。

「痛いっ痛いっやめろっ!」
「僕の勝ちかっ?」
「武器は狡いだろ!」
「ちゃんと魔法を使ったぞ」
「武器を得るために使っただけじゃないか、反則だっ」
「自分ルールの多い奴だなぁ、やっぱりお前、戦場だと死ぬぞ」

 そんな言い合いの止まらない二人の元へ、静かに近づく足音があった。

「城主自ら庭園を破壊なさるとは……」
「げっ、レイヴン……。いや、コイツがどうしても勝負して欲しいというからだな、それに破壊といってもほんの少し枝を切っただけだろう」
「このだだっ広いミルディンで、試合の場に何故わざわざこの庭園を選ぶのです?戦うのなら、城の外でやって下さい。これ以上庭園を破壊するのは見過ごせません」
「う……分かった、分かったから」

 決して声を荒げず、静かな怒りを含ませるレイヴンに、流石のユリウスも素直に引くしかなかった。

 普段感情に左右されない人が怒ると怖い、ティアリーゼはそう教訓を得た。
 ユリウスはレイヴンの視線を逃れるよう顔を背け、口を尖らせながらミハエルの方を向いた。

「お前のせいで怒られたじゃないか」
「……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
母の連れ子だった私、リリーノは幼い頃は伯爵である継父に可愛がってもらっていた。 継父と母の間に子供が生まれてからは、私への態度は一変し、母が亡くなってからは「生きている価値がない」と言われてきた。 捨てられても生きていけるようにと、家族には内緒で魔道具を売り、お金を貯めていた私だったが、婚約者と出席した第二王子の誕生日パーティーで、王子と公爵令嬢の婚約の解消が発表される。 涙する公爵令嬢を見た男性たちは、自分の婚約者に婚約破棄を宣言し、公爵令嬢に求婚しはじめる。 その男性の中に私の婚約者もいた。ちょ、ちょっと待って! 婚約破棄されると、私家から追い出されちゃうんですけど!? 案の定追い出された私は、新しい地で新しい身分で生活を始めるのだけど、なぜか少し変わった魔道具ばかり作ってしまい――!? 「あなたに言われても心に響きません!」から改題いたしました。 ※コメディです。小説家になろう様では改稿版を公開しています。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」 そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。 代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。 世間は笑った。けれど、私は知っている。 ――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、 ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚! 鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...