私は物語の蚊帳の外にされました~継母と連れ子が更正済みなんですが~

福留しゅん

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承①

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 愛する人と幸せな満たされた家庭を築きたい。そして侯爵名代として成功したい。これがお父様の目的でした。本当なら継母やジャネットも私をいびる立場に回っていたんでしょうけれど、オルガ婦人の言葉が効いたようですね。

 オルガ婦人による最初の授業はなおも続きます。私とジャネット、そして継母……いえ、ララ母様が真剣に彼女の説明に耳を傾ける光景は、端から見ていたらさぞ奇妙なのでしょうね。いがみ合う筈だった正妻の娘と愛人らがテーブルを一緒にするなんて。

「さて、カミーユさんが次期侯爵であることは決定事項です。なのでカミーユさんが成長してしまったら旦那様が好き勝手出来なくなります。侯爵代理でなくなったあの人は引退を余儀なくされるでしょうね」
「ですが、お父様が何か目論んでいようと意味がありません。私に何かあってもお父様が侯爵の座につけるわけではありませんもの」

 そう、お父様は侯爵家の一門といえどもその継承権は下から数えた方が早いのですよ。お母様の伴侶だったことで繰り上がるわけでもありませんし。そしてそれはお父様の後妻になったララ母様やジャネットとて同じです。

「えー。わたしは別に侯爵になんてなりたくないわ。色々とやることが多そうで面倒だもの」

 ジャネットは鼻と上唇の間に筆記具を挟みながら脚をバタバタと動かします。あまりにはしたないので注意しようと思ったら、先にララ母様に頭をはたかれました。ジャネットは頭を擦りながら机に転がった筆記具を拾います。

「そんな侯爵の座を手中にするには二つの手段が考えられます。一つは国王陛下ないしは有力貴族からの強い推薦があった場合ですね。本家の乗っ取りにもなるので確実に非難されます。それを覆すほどの実績を積めばあるいは、でしょうか」
「それは無理なんじゃない? あの人、野心に能力が釣り合ってないもの。無茶なことをして失敗するのが目に見えているわ」

 あら、お父様とララ母様は愛し合っているからこの屋敷にやってきたと思っていたのに。どうやらララ母様の方は愛こそあれどもっと別の思惑があってお父様に寄り添っているようです。なので現実をきちんと見ていられるのでしょう。

「ええ、旦那様の手腕ではさらなる発展は期待できないでしょう。だからと言って無難に執務出来ないわけではない。その凡庸さに目をつけた他の名門貴族が旦那様を傀儡として影響下にしようと目論んでも不思議ではありませんよ」
「適当な実績をあの人に積み上げさせて、カミーユは侯爵として不適合だと陛下に直訴する、か。現実性が無いわねぇ」
「例えば息子をカミーユさんに婚姻させて外戚として乗り込んでくる、なんていかがかしら?」

 それは、あまり考えたくありません。貴族の娘である以上は恋愛の末の結婚にはあまり期待できないのは理解しています。理解はしていますが納得出来るかはまた別問題でしょう。政略結婚だけが目的で思いが通じない相手には決して寄り添いたくありませんもの。

 私の恐れを感じ取ったのか、ララ母様が私の頭を撫でました。そして「そんな馬鹿な真似はさせないわよ」と力強く頷いてくれて、途端に安心感が湧きます。それはお母様が亡くなって久しく味わっていなかった、慈愛と呼ばれる感情だったのです。

「もう一つ。カミーユさんが侯爵に就任した直後に譲渡させてしまえばいいでしょう。そして継承順位第一位を意のままに操ってしまえばいい」
「譲渡だなんて……いえ、やろうと思えばやれてしまいますね」

 それこそ家族から虐げられる日々を送っていればそのうち精神的に追い詰められ、楽になるためにお父様の言いなりになってしまってもおかしくありません。指名される人が誰であれ私は書面に名を綴ったことでしょう。

「例えば誰によ? 大人しくお父さまの言うことを聞く手頃な人なんている?」
「いるじゃないですか。鏡を持ってきましょうか?」
「は? ……ちょっと待って。もしかして、わたし?」
「もしかしなくてもジャネットが手頃でしょう。ま、貴女を選ぶ理由は愛する女性との間に出来た愛娘に侯爵家を継がせたいって願望もあるのでしょうが」

 オルガ婦人が記していく情報を整理していく度に私がいかに危うい立場にいるのかを実感してしまう。そしてこの状況を打破することが自分一人では決して成し得ないことの無力さが悔しい。

 お母様の愛した家が、こんなにもあっけなく奪われようとしているなんて。

 もっと強く、もっと賢くならないと。
 自分の手で未来を切り開けるぐらいに。

「これらはあくまで私の邪推ですので本気になさらずに。大いに有り得ることだと頭の片隅にとどめておく程度でいいでしょう」
「……分かりました。オルガ先生、これからご指導ご鞭撻のほど、お願いします」
「ええ。ビシバシ鍛えてあげるから、覚悟なさい」
「はいっ」

 こうして私はこれまで考えもしなかった道を歩み始めました。
 それはいままで呑気にも知る必要のなかった悪意を打ち破るための茨の道です。
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