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第1-3章 徳妃付侍女→紅玉宮妃(新版)
「まさか皇子様と結婚するなんて」
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とうとう暁明様が成人の儀を迎える日がやってきた。
さすがに第五皇子ともなるとそれほど盛大ではなく粛々と執り行われた。
参加したのは暁明様本人、皇帝皇后両陛下、主だった文官や武官、母たる徳妃様とその侍女二名、そしてわたしだった。宮廷の外では街をあげて祝われているそうだけれど、儀式そのものは厳かなものだった。
ハッキリ言ってしまおう。それまでわたしは年下の殿下を手のかかる弟のように思っていた。もしくはやんちゃだけど聡明な男の子って感じに。
毎日見ていると成長しても中々変わった感じがしなかったから、なおさらそんな印象のままだったんだ。
けれど、いざ成人の儀を迎えて出会った当時よりはるかに大人になったと見直した。
可愛さは鳴りを潜め、頼もしさを感じたほどだ。そして顔立ち、体付き、背丈も男性らしくなっていたんだとようやく気付いた。
わたしが惹かれたのは彼の外見でも身分でもない。誠実な想いに感化された形だ。
なのにわたしはあの方に見惚れた。格好いい、と呟いた。
一体彼はどれだけわたしの心を抱きしめて離さないつもりなのかしら?
「雪慧、だらしない顔してるわよ」
「……っ。すみません」
あまりに暁明様を見つめていたものだから、何度か文月に注意されてしまった。なお、侍女頭の方は「立派に育って」と涙を流し続ける徳妃様の方ばかりかまっていてわたしに気を回す余裕が無いようだった。
「どうだった?」
「素敵でした」
「うん、そう言ってもらえて僕も嬉しいよ。じゃあ次は雪慧も素敵になる番だね」
「……まさか成人の儀に続いて執り行うとは思っていませんでしたよ」
成人の儀が終わって大人の仲間入りをしたところで、引き続き暁明様とわたしの婚姻の儀が行われることとなった。
「早すぎじゃありませんか?」
「別に。婚約者がいた皇族が大人になってすぐ結婚した例は結構あるそうだよ。他の異性に付け入る隙を与えないためなんじゃないかな?」
「でも暁明様はわたしを逃したくないから急かしたんじゃないですか?」
「そのとおりなんだけれど、雪慧だってそうしてもらって嬉しいくせに」
「ふふっ、違いありませんね」
皇族の婚姻自体は天子より許しをもらい、天にその仲を誓い合えば終了だ。
あと式典をどうするか、については本来なら夫婦両方の一族を集めて盛大に催すのだけれど、わたしの家はこっちから出向いたら祝うそうで参加しなかったので無しになった。
意外にも北伯候の娘であるわたしは暁明様の妻となることを認められた。これは皇太子が後継者として揺るぎないと判断されたためだと後から聞いた。もし第二皇子、第三皇子辺りが望んだ場合は問題がないか議論されただろう、とか何とか。
「……綺麗だよ、雪慧」
「その言葉、そっくりお返しします。わたしの旦那様」
でも式中隙あらばわたしを褒めるのは止めてほしかった。動揺してしまったもの。
「母上、ここまで育てていただいてありがとうございました」
「馬鹿……。これ以上妾を泣かせるつもりか?」
終了後、暁明様は徳妃様に深々とお辞儀をした。徳妃様はどれだけ泣いたのか、目は真っ赤で目元が腫れぼったい。鼻もゆるくなっていたらしく、しょっちゅう侍女頭が目元と鼻元を拭いていたのを覚えている。
「今日からもう後宮には行けないから、今度は僕の紅玉宮に遊びに来てよ」
「ううむ、徳妃である妾すらおいそれと後宮からは出られぬからな。年に何回か程度なら許しも貰えよう」
「多分菫青宮はこれからも母親の元で育った方がいいと思うんだけれど、いい?」
「当たり前じゃ。妾の娘なんじゃからな。兄だろうとそなたが心配するなど十年早い」
成人の儀に参加出来なかった侍女達も貰い泣きしていた。わたしと違って暁明様の幼少期からずっとお世話してきた古参ばかりなのもあると思う。
子供の暁明様を知っているなんて正直うらやましい、と思った辺りわたしはどうしようもない。
「徳妃様、これまでお世話になりました。これからは暁明様に尽くします」
「うむ。紅玉宮は貴様に任せたぞ。頼りなければ尻を引っ叩いても良いぞ」
「ふふっ、そうさせてもらいます」
これも後から聞いたのだけれど、わたしは婚姻の儀の間何度か嬉し涙を流していたんだそうだ。そして徳妃様に最後の挨拶をする際にも。この時、徳妃様の方が泣きたいだろうに気丈にも笑みを見せて下さった。
そうして別れを告げた後、わたし達は暁明様の御殿である紅玉宮にやってきた。
実は荷物は後宮から運び出したものの、区切りとなるこの日までは徳妃様に仕えていた。その関係で紅玉宮にやってきたのは初めてだった。
「何と言いますか……普通?」
「うわ、出たよ。毒にも薬にもならない感想!」
「いや、わたしって紛いなりにも北伯候家の出身ですし」
「諸侯王の宮殿と一介の皇子にあてがわれた建物を一緒にしちゃあ駄目だって」
暁明様の御殿は徳妃様の部屋がある建物とほぼ同規模の大きさだった。暁明様とお付きの使用人が住み、徳妃様方家族を招くには丁度いいぐらいか。尤も、暁明様に物の収集癖があったら話は全然違っていたでしょうね。
御殿の中は暁明様自らが案内してくれた。
雰囲気は以前招待された後宮での彼の部屋と同じような感じで、あまり無駄に豪華な作りをした品より機能性に優れた調度品の方が多かった。驚いたのがわたしの好みにも近かったことだ。
「私室は僕の部屋の隣にしたから」
「わざわざ別にしなくても暁明様と一緒でも良かったんですよ?」
「……。今すぐ荷物運びさせる」
「自分の部屋は荷物置き場にしてわたし自身は暁明様の部屋に入り浸ればいいでしょう。余計な仕事を増やさないでください」
「うぐっ。まあ、雪慧がそうしてくれるのなら」
わたしにあてがわれた私室は落ち着いたいい感じになっていた。わたしの好みを知っていたからこその出来栄えが嬉しくて、口元を抑えていないと笑みが止まらない。家具から敷物まで後生大事に使うとしよう。
あと服が持ち込んだ数より多くなっていた。どうやら公式の場に姿を見せる際は極力装いを新たにしなければならないらしく、揃える必要があったんだとか。豊かさを見せるためだそうで面倒と思ったけれど、暁明様の名声の為だと思って我慢だ。
暁明様の部屋は意外にも後宮のとほとんど同じだった。聞くと公私を分けたいから仕事に関する道具、本は別室にあるらしい。だから遠慮なくいてくれ、とわたしの夫ははにかんだ。
「風呂はこの御殿にもあるから毎日入れるよ」
「それはまた豪華ですね。一番の贅沢じゃないですか」
「母上が綺麗好きだったからその影響もあるんだと思うよ」
「わたしは濡れた布で拭ければ充分ですけど、折角ですから頻繁に満喫しますか」
そんな感じに一通り案内されたけれど、最後の一箇所だけは意図的に後でとお預けされた。その部屋にやってきたのは夕食を終え、身を綺麗にし、寝間着に着替えてからだった。
「おやすみなさいませ」と恭しく一礼してきた侍女の目線が妙に生暖かった。
まあ、分かってた。最後の部屋の中には寝具が敷かれていた。それの二つが寄り添うように並べられて。
これは単に一夜を明かす以外の意味も込められているに違いない。もう、わたし達はそういう関係になったんだから。
「あー、やっぱりそうでしたか」
「うん。夫婦になったんだし……その、いいよね?」
「……。昨日までだったらこんなお子様が相手なんてまだ早い、とか思ってたんでしょうね」
「それ何気に酷くない?」
「でも今日改めました。暁明様は一人前の殿方です」
「……っ。ありがとう、認めてもらえて嬉しいよ」
二人して寝具に座り、向き合った。緊張して心臓の高鳴りがとてもうるさく感じた。けれどそれは夫となった相手も同じらしく、わたしを食い入るように見つめてきた。
とても情熱的で、余計に落ち着きかなかった。
「良き人生を、共に歩んでいきましょう」
「ああ。これからもよろしくね」
わたし達は恐る恐る目の前にいる愛しの人へと近づき、見つめ合い、触れ合った。
もうわたし達はきっと夢中になっていたんでしょうね。相手を求めすぎて壊してしまわないか慎重だったのに、確かめれば確かめるほど更に欲求が増していった。
「愛しているよ、雪慧」
「わたしもです、暁明様」
その後、わたし達はタガが外れたようにただただ求め合った。
その日が一番幸せを感じた瞬間だったと今でも断言しましょう。
こうしてわたし達は結ばれたのだった。
さすがに第五皇子ともなるとそれほど盛大ではなく粛々と執り行われた。
参加したのは暁明様本人、皇帝皇后両陛下、主だった文官や武官、母たる徳妃様とその侍女二名、そしてわたしだった。宮廷の外では街をあげて祝われているそうだけれど、儀式そのものは厳かなものだった。
ハッキリ言ってしまおう。それまでわたしは年下の殿下を手のかかる弟のように思っていた。もしくはやんちゃだけど聡明な男の子って感じに。
毎日見ていると成長しても中々変わった感じがしなかったから、なおさらそんな印象のままだったんだ。
けれど、いざ成人の儀を迎えて出会った当時よりはるかに大人になったと見直した。
可愛さは鳴りを潜め、頼もしさを感じたほどだ。そして顔立ち、体付き、背丈も男性らしくなっていたんだとようやく気付いた。
わたしが惹かれたのは彼の外見でも身分でもない。誠実な想いに感化された形だ。
なのにわたしはあの方に見惚れた。格好いい、と呟いた。
一体彼はどれだけわたしの心を抱きしめて離さないつもりなのかしら?
「雪慧、だらしない顔してるわよ」
「……っ。すみません」
あまりに暁明様を見つめていたものだから、何度か文月に注意されてしまった。なお、侍女頭の方は「立派に育って」と涙を流し続ける徳妃様の方ばかりかまっていてわたしに気を回す余裕が無いようだった。
「どうだった?」
「素敵でした」
「うん、そう言ってもらえて僕も嬉しいよ。じゃあ次は雪慧も素敵になる番だね」
「……まさか成人の儀に続いて執り行うとは思っていませんでしたよ」
成人の儀が終わって大人の仲間入りをしたところで、引き続き暁明様とわたしの婚姻の儀が行われることとなった。
「早すぎじゃありませんか?」
「別に。婚約者がいた皇族が大人になってすぐ結婚した例は結構あるそうだよ。他の異性に付け入る隙を与えないためなんじゃないかな?」
「でも暁明様はわたしを逃したくないから急かしたんじゃないですか?」
「そのとおりなんだけれど、雪慧だってそうしてもらって嬉しいくせに」
「ふふっ、違いありませんね」
皇族の婚姻自体は天子より許しをもらい、天にその仲を誓い合えば終了だ。
あと式典をどうするか、については本来なら夫婦両方の一族を集めて盛大に催すのだけれど、わたしの家はこっちから出向いたら祝うそうで参加しなかったので無しになった。
意外にも北伯候の娘であるわたしは暁明様の妻となることを認められた。これは皇太子が後継者として揺るぎないと判断されたためだと後から聞いた。もし第二皇子、第三皇子辺りが望んだ場合は問題がないか議論されただろう、とか何とか。
「……綺麗だよ、雪慧」
「その言葉、そっくりお返しします。わたしの旦那様」
でも式中隙あらばわたしを褒めるのは止めてほしかった。動揺してしまったもの。
「母上、ここまで育てていただいてありがとうございました」
「馬鹿……。これ以上妾を泣かせるつもりか?」
終了後、暁明様は徳妃様に深々とお辞儀をした。徳妃様はどれだけ泣いたのか、目は真っ赤で目元が腫れぼったい。鼻もゆるくなっていたらしく、しょっちゅう侍女頭が目元と鼻元を拭いていたのを覚えている。
「今日からもう後宮には行けないから、今度は僕の紅玉宮に遊びに来てよ」
「ううむ、徳妃である妾すらおいそれと後宮からは出られぬからな。年に何回か程度なら許しも貰えよう」
「多分菫青宮はこれからも母親の元で育った方がいいと思うんだけれど、いい?」
「当たり前じゃ。妾の娘なんじゃからな。兄だろうとそなたが心配するなど十年早い」
成人の儀に参加出来なかった侍女達も貰い泣きしていた。わたしと違って暁明様の幼少期からずっとお世話してきた古参ばかりなのもあると思う。
子供の暁明様を知っているなんて正直うらやましい、と思った辺りわたしはどうしようもない。
「徳妃様、これまでお世話になりました。これからは暁明様に尽くします」
「うむ。紅玉宮は貴様に任せたぞ。頼りなければ尻を引っ叩いても良いぞ」
「ふふっ、そうさせてもらいます」
これも後から聞いたのだけれど、わたしは婚姻の儀の間何度か嬉し涙を流していたんだそうだ。そして徳妃様に最後の挨拶をする際にも。この時、徳妃様の方が泣きたいだろうに気丈にも笑みを見せて下さった。
そうして別れを告げた後、わたし達は暁明様の御殿である紅玉宮にやってきた。
実は荷物は後宮から運び出したものの、区切りとなるこの日までは徳妃様に仕えていた。その関係で紅玉宮にやってきたのは初めてだった。
「何と言いますか……普通?」
「うわ、出たよ。毒にも薬にもならない感想!」
「いや、わたしって紛いなりにも北伯候家の出身ですし」
「諸侯王の宮殿と一介の皇子にあてがわれた建物を一緒にしちゃあ駄目だって」
暁明様の御殿は徳妃様の部屋がある建物とほぼ同規模の大きさだった。暁明様とお付きの使用人が住み、徳妃様方家族を招くには丁度いいぐらいか。尤も、暁明様に物の収集癖があったら話は全然違っていたでしょうね。
御殿の中は暁明様自らが案内してくれた。
雰囲気は以前招待された後宮での彼の部屋と同じような感じで、あまり無駄に豪華な作りをした品より機能性に優れた調度品の方が多かった。驚いたのがわたしの好みにも近かったことだ。
「私室は僕の部屋の隣にしたから」
「わざわざ別にしなくても暁明様と一緒でも良かったんですよ?」
「……。今すぐ荷物運びさせる」
「自分の部屋は荷物置き場にしてわたし自身は暁明様の部屋に入り浸ればいいでしょう。余計な仕事を増やさないでください」
「うぐっ。まあ、雪慧がそうしてくれるのなら」
わたしにあてがわれた私室は落ち着いたいい感じになっていた。わたしの好みを知っていたからこその出来栄えが嬉しくて、口元を抑えていないと笑みが止まらない。家具から敷物まで後生大事に使うとしよう。
あと服が持ち込んだ数より多くなっていた。どうやら公式の場に姿を見せる際は極力装いを新たにしなければならないらしく、揃える必要があったんだとか。豊かさを見せるためだそうで面倒と思ったけれど、暁明様の名声の為だと思って我慢だ。
暁明様の部屋は意外にも後宮のとほとんど同じだった。聞くと公私を分けたいから仕事に関する道具、本は別室にあるらしい。だから遠慮なくいてくれ、とわたしの夫ははにかんだ。
「風呂はこの御殿にもあるから毎日入れるよ」
「それはまた豪華ですね。一番の贅沢じゃないですか」
「母上が綺麗好きだったからその影響もあるんだと思うよ」
「わたしは濡れた布で拭ければ充分ですけど、折角ですから頻繁に満喫しますか」
そんな感じに一通り案内されたけれど、最後の一箇所だけは意図的に後でとお預けされた。その部屋にやってきたのは夕食を終え、身を綺麗にし、寝間着に着替えてからだった。
「おやすみなさいませ」と恭しく一礼してきた侍女の目線が妙に生暖かった。
まあ、分かってた。最後の部屋の中には寝具が敷かれていた。それの二つが寄り添うように並べられて。
これは単に一夜を明かす以外の意味も込められているに違いない。もう、わたし達はそういう関係になったんだから。
「あー、やっぱりそうでしたか」
「うん。夫婦になったんだし……その、いいよね?」
「……。昨日までだったらこんなお子様が相手なんてまだ早い、とか思ってたんでしょうね」
「それ何気に酷くない?」
「でも今日改めました。暁明様は一人前の殿方です」
「……っ。ありがとう、認めてもらえて嬉しいよ」
二人して寝具に座り、向き合った。緊張して心臓の高鳴りがとてもうるさく感じた。けれどそれは夫となった相手も同じらしく、わたしを食い入るように見つめてきた。
とても情熱的で、余計に落ち着きかなかった。
「良き人生を、共に歩んでいきましょう」
「ああ。これからもよろしくね」
わたし達は恐る恐る目の前にいる愛しの人へと近づき、見つめ合い、触れ合った。
もうわたし達はきっと夢中になっていたんでしょうね。相手を求めすぎて壊してしまわないか慎重だったのに、確かめれば確かめるほど更に欲求が増していった。
「愛しているよ、雪慧」
「わたしもです、暁明様」
その後、わたし達はタガが外れたようにただただ求め合った。
その日が一番幸せを感じた瞬間だったと今でも断言しましょう。
こうしてわたし達は結ばれたのだった。
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