紅玉宮妃(予定)の後宮奮闘記~後宮下女ですがわたしの皇子様を皇帝にします~

福留しゅん

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第2-1章 紅玉宮妃→????(新版)

「新しい生活の始まりです」

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 めでたく……かどうかはさておき、皇子妃になったわたしの生活模様は新たなものとなった。

 何せこれまで下女、侍女として徳妃様を主としていた身だ。掃除や整頓を始めとする仕事をこなし、主の身の回りのお世話をし、そして希望を叶える。そんな仕える立場からそういった女官を雇う立場になってしまったんだもの。

「ちゃんと侍女達に世話させないと駄目だからね」
「どうしてですか? 自分の面倒ぐらい自分で見れるんですけど」
「侍女に仕事を与えることも妃の務めだから」
「ああ、雇用の問題ですか。じゃあ仕方ないですね」

 と、いった次第で起床から就寝まで甲斐甲斐しく世話されることになった。
 自分でやった方が早いのに、と苛立つことになるかと思いきや、実際体験してみると意外に悪くないと気付いてしまった。

「当たり前じゃないか。皇族の仲間入りを果たした雪慧の世話係にどっかの馬の骨を当てるわけにはいかないし」
「しっかり教育されてから配属されてくるわけですか。納得です」

 その辺りの人選は暁明様自らと徳妃様で行ったらしい。わたしの世話係に選ばれた女官は初めて見る人もいれば後宮内で見かけた顔もあった。テキパキと働く方を厳選したんだなあ、と感心するぐらいだった。

 で、一番調子が狂ったのは朝早起きしなくても良くなったことだ。女官の頃は日の出前から起きてたけれど、皇子妃になってからはそんな女官に起こされる側になった。当然少し長く惰眠を貪れるようになったわけだ。

「おはようございます、紅玉宮妃様」
「……おはよう」

 その日もわたしはお付きの侍女に起こされて目が覚めた。
 紅玉宮に来てから少しの間は侍女が起こしに来る頃には覚醒していたのだけれど、仕事を奪わないでくださいと苦情を貰った次第で、まだ外が暗いのを確認すると二度寝するようになったりする。

 それでも生活習慣の変化には慣れるもので、きっと今夜明け前に起きようとしたら欠伸を噛み締めながら眠気との戦わなきゃいけないでしょう。まあそうしなきゃいけなかったら夜早く寝ちゃえばいいだけなのだけれど。

「何だかいつ聞いてもその名称は慣れないわね」
「仕方がありません。皇子妃方はそう呼ぶのが決まりですし」

 あと、わたしの名前が呼ばれることが禁止された。
 代わりに暁明様に準じて宮の名称で呼ばれることになった。
 これ一つ取ってもわたしは変わったんだなあ、と実感してしまう。

 朝起きたわたしは桶の水で顔を洗って寝間着から着替る。ただ身体がなまっては困るので朝食までの間鍛錬に精を出す。程よく疲労と達成感を覚えた辺りで止めて、汗を拭ってから髪を結ってもらい、化粧を施し、最後に装飾品を身に付ける。

「なんかさあ、毎度思うんだけれど、装飾品って無駄じゃないかしら?」
「我慢してください。紅玉宮殿下の為だと思って」
「分かっているのよ。美しく着飾る妃が皇子の名声に繋がるって。けれど別に紅玉宮殿下はこの宮廷内で影響力を伸ばそうとは考えていらっしゃらないし、そこまで拘る必要も無いんじゃないかな、って」
「そういった手抜きを見抜かれて紅玉宮殿下が侮られてもいいならもう止めませんが」
「それも承知してるから。義務は守るけれど不満が拭い去れないってだけ」

 更に変わったのは身だしなみだ。実家ではお洒落とは無縁だったし、後宮でも整っていれば充分だった。皇子妃になると今までおざなりでも良かった見栄えも気にしなきゃいけなくなったのだから大変だった。

 とはいえそれまで無頓着だったのに短期間で流行の最先端を走れるはずもなく。結局はある程度の好みを伝えておき、あとは侍女に丸投げ……もとい、お任せにした。それでわたしが満足するよう仕上げてくれるのだから良い仕事ぶりだ。

「それで、こっちの生活には慣れた?」
「ええ。まさかこっちに異動になるなんて思ってもいませんでしたけど」
「一人でも気心知れた人から世話されたいって徳妃様に相談しただけなんだけれど、来てもらえて嬉しかった」
「ふふ、こちらも抜擢してもらえて嬉しかったです」

 そして、わたしの身の回りの世話をする侍女として夜鈴が配属された。

 理由はこの時のわたしの説明通りなのだけれど、補足するとしたら淑妃様からのお祝いも兼ねているらしい。淑妃様曰く、皇子妃の境遇は後宮にいる妃達に負けず劣らず魔境なんだとか。

 夜鈴は右も左も分からないわたしにとっては実に心強い味方だった。この配慮には今でも感謝しかない。問題があるとすれば彼女ばかり贔屓して他の侍女から妬まれないよう程々にするよう気をつけなければいけない程度でしょう。

「おはようございます、紅玉宮殿下」
「おはよう、愛しの僕の妃」
「……何だかそう呼ばれるのはむず痒いですね」
「名前で呼び合うのは二人きりの時、でね」

 支度を終えて食堂に顔を出すと、既に暁明様が席についていた。わたしは恭しく一礼してから席に座る。彼は朗らかな笑みを見せてくれた。
 可愛さが鳴りを潜めだし、段々と凛々しさを感じさせるようになってきた。

 そう言えばこの頃から暁明様の声変わりが顕著になってきた気がする。初めてあった頃は女の子とも聞き間違える高さだったのに、野太く低くなりだした。こちらもやはり無邪気さより雄々しさが上回ってきたと感想を抱いた。

 あと、皇子妃になって変わったことと言えば、公の場で互いに名前を呼ばなくなった点が挙げられる。婚姻前は仲睦まじさを知らしめるために呼び合ったのだけれど、婚姻したならもうその必要は無くなるからだ。規律と節度が優先になったわけだ。

 寂しいとは思った。けれどお付きの者すらいない二人きりの時は名前で呼んでくれる。
 わたしの名は彼の、彼の名はわたしだけのもの。そんな特別さが身悶えしたくなるぐらい嬉しく感じるものだ。

「それで、本日のご予定は?」
「いつもと同じさ。何度か文官達と打ち合わせをして、他は事務処理に追われる。成人に成り立ての皇子に任される仕事なんて大した事ないよ」
「そう仰られますな。いずれはわたしの殿下の力量に頼る者達も増えてきましょう」

 成人の儀を果たした暁明様は公務の一端を担うようになった。さすがに政務をある程度任されている皇太子や文武の面で優秀な第二皇子、第三皇子とは比べ物にならないけれど、第一歩と思えばなんてことはない。

「暇は嫌だけれど忙しいのも勘弁なんだよね。程々に生きたいんだ」
「激しく同意します。いつもの事ですが、適度に頑張りましょう」

 暁明様の希望でわたしは朝食を彼と共に取っている。
 これは最愛の相手の調子を確かめる意味合いが強い。慣れない環境で上手くやれているか心配なんだとか。わたしも朝会えないのは悲しいから快諾したんだっけ。

「それで、僕の妃の方は?」
「わたしもいつものとおりですよ。人脈作りに精を出すだけです」
「んー、僕の妃の性に合わないとは思うんだけれど、地道にそういう事やっておかないと後々不利になるからね」
「承知しています。まあわたしの殿下に比べれば楽なものですよ。ただ相手の話を聞いてお茶とお菓子を口に運べばいいだけですから」

 で、わたしの皇子妃としての仕事は、正直言って地味につきる。具体的にはお茶会を催したり招かれたりして、役人や地方豪族の夫人達と仲良くするだけだ。夫人同士で仲良くなれば家の繋がりにも発展し、暁明様の味方が増えるわけだ。

 別に皇位継承争いに挑むつもりはない暁明様でも、宮廷内の派閥争いとは無関係でいられない。やり過ごすにもそれなりに力を持たなければ悪意や害意を退けない。皇子本人もさることながら、妻たる妃の根回しも重要になってくるってわけね。

 面倒くさい、とは思うものの、暁明様のためだと自分に言い聞かせる。

「じゃあ行ってくるよ。愛しい僕の妃」
「行ってらっしゃいませ。愛するわたしの殿下」

 まあ、そんな不満は暁明様の出発を見送る際に交わされる口付けで吹っ飛んでしまうのだけれど。我ながらちょろいものだ。

「さあ、今日も頑張りますか」

 最愛の人からやる気を貰ったところでその日も一日始まった。

 ……いつものように始まった、までは良かった。
 ただ、その日はいつもと違った。

「紅玉宮殿下に新たな妃を、ですか?」

 そんな信じられない言葉を聞いたからだ。
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